比叡平風物詩       No.003

出会いの楽しみ
2009.9.25  田畑 三郎

 長年住み慣れた京都からこの地に移り住んで10年が経った。自然に親しむことが念願であった私にとっては、おおむね満足の出来る時間を過ごしてきたと思う。わけてもそれまで知らなかった小鳥や草花との出会いは、大げさにいえば生きる喜びを倍加させるものであった。そういう出会いは無数にあるが、ここでは私が出会った小鳥のごく一部を紹介しておこう。

 西大津から歩き出してゴルフ場の取付道路に入ると、岩の多い谷川が並行して流れている。水車谷を過ぎてしばらく遡上したところで、真っ黒いカワガラスが水面すれすれに飛んでいるのを見つけた。滅多にお目にかからない鳥なので胸がわくわくする。こういうチャンスは大勢でがやがや歩いていては絶対にやってこない。このあたりは川の位置がかなり深いので、静かに歩いていると岩の上に止まってから水浴びをする様子も見られた。このカワガラスという名前を知っているのは、以前京都府美山町で頭巾山に登った時に見ているからだ。それ以来10年ぶりのことである。

 
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(カワガラス)

 山道を歩いていて、比較的よく見かけるのがカケスである。杉林などの小高い梢でバタバタッと音がして、ギャッギャッと気持ちの悪い声で鳴いて飛んでいく。その時かならずちらっと姿を見せてくれる。鳩ぐらいの大きさで全体に黒く、胴のあたりだけ白くなっている。これが鮮やかでよく目立つのだ。私などが若い時よく歌った春日八郎の「別れの一本杉」に、

   「あの子と別れた悲しさに/山のカケスも鳴いていた」

というくだりがある。私はここへ来るまでカケスなる鳥を見たことがなかったので、恋人との悲しい別れに伴奏するぐらいだからよほど品のいい鳴き声だと信じていた。だからこの声を聞いて「作詞家は何かと間違えてる」と直感した。

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(カケス)

 最近になってアカショウビンを見つけたといっても、信じてくれる人はないだろうなあ。渡り鳥で奄美大島が主な生息地と聞いているが、全国的にみられる鳥である。一人で比叡平を出発してゴルフ場に向かっていた。昼近い時間帯で車も通らない。洞窟のあるところまで来たとき、谷のほうからばたばたと飛んできて、すぐ近くの灌木に止まった鳥がいた。3メートルほどの近さでよく見える。全体が朱色で嘴が長い。縦に長く、カラスより一回り小さいほどの大きな鳥である。ちょうど鴨川で水面を見つめているゴイサギのような風情である。しかし私と目が合ったため、さっと飛んで行ってしまった。この間、正に数秒という短い時間の出来事だった。あとで図鑑を調べて、これは間違いなくアカショウビンだと確認したのである。「キロロ・・・」と鳴くらしいが、この時はもちろん慌てていたから鳴き声もなくすぐに消え失せた。この時の興奮はしばらく消えることがなかった。

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(アカショウビン)

 もうひとつ忘れられないのが、比叡山で見つけたオオルリである。万歩会の例会で北白川仕伏町から歩き、一本杉を目指した時だった。弁財天の鳥居を過ぎて新しい林道が開けた地点に到着した。北側の谷に杉林が広がっている。林道がかなり高い所にあるので、杉の木のてっぺんがかなり近くに見えている。その杉の梢の先端で鳴いていたのである。鳥の専門家がいなければ気がつかないことだった。双眼鏡ではっきり捕えることが出来た。こればかりは何人も代わる代わる見ているので確かな話である。その鳴き声もさることながら、濃い紺色のすばらしかったこと、まさに「生きていてよかった」といっても過言ではないだろう。

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(オオルリ)

 毎年決まって5月25日頃に鳴きはじめるのがホトトギスである。杜鵑、時鳥、子規、不如帰、沓手鳥、蜀魂など多数の呼び名を持つ。「鳴いて血を吐くホトトギス」といわれるように、一途な思いを表すたとえに使われる。たしかに「てっぺんかけたか」と聞こえる鳴き声は激しいものがある。2丁目を下ってバスロータリーから南あたりでよく鳴いているが、なかなか姿が見えない。朝早く自宅からすぐ近くに聞こえることもあるが、すぐ飛んで行ってしまうのか、続けては聴かれない。

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(ホトトギス)


写真はすべて,京都野鳥の会のホームページから借用しました。

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