比叡平風物詩       No.002

秋・俳句二題
2009.9.17  籠 正二

   大屋根に柿泥棒の猿の群れ      2003年11月作品

 柿は秋の季語。最近は姿を消したが、何年か前は比叡平に猿が沢山いた。猿は比叡山では神様扱いである。それを知ったのは坂本にある明智光秀の菩提寺西教寺であった。
 寺のあちこちに「猿がお堂に入るので戸を閉めてください」との注意書きが貼ってある。寺の屋根を見上げると鬼瓦ならぬ猿瓦が乗っかっているのである。延暦寺の僧兵が寺に侵入したとき猿が寺を守ったと言う伝説が残っていて、寺ではあるが猿は神様扱いである。神様扱いの猿が比叡平に来れば神様ではない。朝起きてみるとご近所が何か騒がしい。窓を開けると何と隣家の屋根の上で猿が騒いでいるのである。
 何処から盗んで来たのか分らないが全ての猿の手には柿や野菜があった。思わず「柿泥棒」と口から迸り出た。そして俳句が出来てしまった。


   近江富士隠す大きな稲架の馬

 稲架(はざ)は秋の季語。稲を横木に垂らして干しているのが稲架である。干すことでビタミンDが加わり米の旨味が高められる。馬のような形の場合「稲架の馬」ということもある。また、襖に見える場合「稲架襖」という言葉もある。この句の場合、馬にするか襖にするか迷ったが、馬の躍動感を選んだ。近江の力強さは襖よりも馬の方が良いと考えた。大きな稲架の馬が私の目の前に立塞がって三上山、俗称近江富士が見えないのである。近江富士山麓の古代は日本の唯一の銅鐸産地であった。稲作も盛んであった。現代の近江は減反政策、農業後継者不足で農業衰退が著しい。穀倉地帯近江でこの様な景観を楽しむことが出来るのは我々の世代で終わりだろう。大切にしたい稲作景観である。



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