四方山話 その2

A委員「国家の根幹を成すものといえば、いくつか考えられます。『福祉』『教育』『医療』等々。」

B委員「商売上、前回は『医療』について突っ込んだお話でしたね。」

A委員「今回も商売上『教育』の分野で、学校歯科について。」

B「厚生労働省との付き合いも大きいですが、学校歯科校医に任命されている先生は文部科学省との付き合いも大きいといえますね。」

A委員「学校歯科校医でなくても、歯の破折で来院した時や、医療券を持ってこられた児童には文部科学省が担当ということですから。」

B委員「そうですね。」

A委員「学校歯科校医の仕事といえば春と秋の学校歯科健康診断(注@)、歯科講話がまず思い浮かびますね。」

B委員「週休2日制や、ゆとり教育などで学校行事が立て込んで時間的に検診、講話が充分に出来なくなって来ました。しかも、経費節減という世の中の流れから言って秋の歯科検診を廃止する動きもありますし。」

A委員「私自身、10年以上小学校の歯科校医をやらせていただいていますが、教育の現場を見ていると文部科学省は現場を解かっていないなあと痛感する時があります。検診が単に年1回になるということはそれだけ生徒の口腔内の健康が確実に低下するというのに」

B委員「厚生労働省が医療現場を知らないのと同様ですね。」

A委員「教育現場での言い訳として『文部科学省、教育委員会の通達ですから』と責任転嫁します。」

B委員「現場第一主義としては腹立たしい限りですね。」

A委員「小学校で歯科検診を行って治療勧告書を保護者に出します。その時、神戸市ではCO、GOの取り扱いを見てみますと管理の主体は養護の先生や担任の先生であって、学校(注2)における指導に重点が置かれています。それで、歯科医師の出る幕が無いか少ない様に感じられるのです。」
B委員「『児童生徒の健康診断マニュアル』では、学校歯科医による臨時の健康診断や個別的な健康相談を行うといった事後処置が明記されているというのに。」
A委員「そうなのですよ、治療勧告書の例でも、『かかりつけの歯科医の指導や継続的な管理をしてもらうことをお勧めします。』と明記されています。」
B委員「神戸市の様式では記入が複雑な上(注2)、ほとんど確定診断に近いようなレベルまで記入しなければならないように思うのですが。」

A委員「歯科検診がスクリーニング検査ということが成り立っていません。」

B委員「歯科検診以外の他の検診を後ろで見ていたら、学校医の眼科検査の楽なこと楽なこと」(注4)

A委員「実際問題CO.GOは家庭で注意するように勧告する程度のアプローチしかしてないのでは。
 CO,GOの生徒ほど歯科医師の監視下で経過観察すべきだと思うのですが。」

B委員「GOは、ブラッシング指導で充分でしょう。問題はCOですね。どのような段階で充填処置をするのか、判断がつきにくく、学校歯科医とかかりつけの歯科医師と意見の相違も出てくるでしょうし、まだ歯科医同士でも処置が異なるでしょう。基準を統一するには(注5)研修、マニュアルの作成その他が必要でその予算もどうするのかと、学校歯科医師会の役員の先生に指摘されました。」
A先生「養護の先生に聞いても、CO,GOに関しては歯磨きの奨励程度しか出来ないとの事です。虫歯予防週間に企業の衛生士さんや、衛生士学校の学生さんにブラッシング指導してもらっているから充分だと考えているようです。」
B委員「GO,COは、学校歯科医が担当する場合のみ、つまり学校内での事後処置として保健室等で明らかに蝕活動傾向が高い生徒を抽出してブラッシング指導を行う範囲ならば何の問題も無いのでは?」
A委員「一歩踏み込んで、かかりつけの歯科医院に管理を任すのも、文部科学省としては容認しているようなので、他の地方公共団体の足並みはどうなっているのかが気になります。CO,GOは家庭の責任と言うのは神戸市のみの方針でしょうか?」

B委員「養護の先生や、校長先生、教頭先生と相談してはいかがですか?」

A委員「それが、相談をしているのですが、なかなかうまくいきません。私は10年以上同じ小学校で歯科校医をしています。しかし、学校の先生は転任してしまいます。養護の先生は4人目、校長先生も4人目です。その度に教育方針を聞くのですが、これがまちまち」

B委員「マニュアルがあるのでは?」

A委員「マニュアルはあっても、やる気のある教師と、ない教師で解釈が違うし、担当する教師や養護教諭の指導力で児童の口腔環境は大きく変わりますね。以前、先ほどの、『保健室等でのブラッシング指導を行ってもよいか?』とお願いするとあっさり『出来ません』と断られました。」

B委員「理由は?」

A委員「予算もないし、学校行事が立て込んで時間的余裕が無いし、要らんことをして事故でも起こったら責任が教師に降りかかってくるし、全員でなく齲蝕傾向が大きい生徒だけではPTAが怒り出すかもしれないというのです。」

B委員「どうしてですか?」

A委員「差別だって。学校が差別を助長してもいいのかと、怒鳴り込まれるというのです。学校は学校で対応が大変です。ちょっと話がずれますが、例えばBSE(いわゆる狂牛病)や、O157の食中毒の時、『学校給食は100%大丈夫なのか。』『それで異常が出たら学校が責任を取るのか。』『自分だけ弁当持参でいいか。』とか、只でさえ忙しいのにPTAの対応で大忙しの状態になることもしばしばです。PTA一人一人に懇切丁寧に説明して理解してもらうのに一苦労だといいます」

B委員「だから、すべてに消極的になるという訳ですか。うーん。本当ですか?」

A委員「私自身も、学校教育者、文部科学省、教育委員会は特殊な世界なので仕方ないと諦めてしまいました。」

B委員「それはそれで、言い訳以外何物でもないのでは。」

A委員「そうですね、総合学習というのがカリキュラムとして残っているのなら歯科医師としても積極的にアプローチしていくべきでしょう。気を取り直してアプローチし続けようかな。」

B委員「これからは、スポーツ医学としての学校教育でのマウスガードの普及ということも重要になってきませんか?」

A委員「フッ化物塗布や、洗口も大事ですが、フッ化物に対する誤解も大きいようですし突破口があるとしたらマウスガードかも。」

B委員「歯科医師会としても学校教育への進出は戦略的に考えなくてはいけない時代になっていませんか?」

A委員「実際女子ラクロスなどはマウスガードを装着していなければ試合出場できない規定があるし、アメリカや欧米では学生がフィジカルな運動の場合普通に装着していますし。歯科医師会、神戸市学校歯科医師会が一丸となって対応しないと実現が難しいかも。学校歯科医の狭い経験しかありませんが個人の力では限界があると思い始めています。」

B委員「そう考えると、前途多難ですね。」

A委員「歯科診療というのは、訪問歯科診療というのも有りますが、どうしても引籠りがちになってしまいます。患者さんに診療所に来て頂くのが一番治療処置しやすいですから。神戸福祉フェア、神戸まつりで神戸市歯科医師会も歯科啓蒙活動していますし、地方区でも、いい歯まつりを開催しています。効率の悪い、地道な努力ですが、3歳児健診、1歳半児健診、母親教室、40歳歯科検診、どれをとっても開業医にとって負担になる事業です。しかし、診療所を出て活動することは行政に対しても、市民に対しても歯科医師の貢献をアピールできます。」

B委員「生活の基盤として自院の経済状態が一番重要ですが、それだけでは孤立してしまうことになりますね。」

A委員「神戸市学校歯科医師会の先生方だけでなく、歯科医師会全体の一致団結した活動に期待しましょう。」

 

 学校歯科医会からのコメント。

(注@)

学校歯科健康診断は、3種類あり定期健康診断、就学時健康診断、臨時健康診断があります。

「臨時健康診断は必要があるとき行うものとする。」という記述が学校保健法第6条にあり、本来は定期的に行われるものではありません。

 神戸市に於いては、過去、巡回診療が行われたそうですが、その目的を達したということで終了に伴い秋期健康保健診断を全幼稚園・小学校・中学校で定期的に行っている数少ない都市です。

(注2)

 学校という所は特殊な場所です。

 学校は教育が第一に考えられている機関であるということへの理解が必要です。

 通常であれば臨時健康診断を決定するのは学校園の長である校園長です。学校医・学校歯科医はその助言をする立場にあると考えます。

(注3)

 神戸市の様式は記入が複雑との事ですがどこと比べて複雑なのでしょうか。当会の様式も国の様式をベースにしており、省令に「各設置者において適切に定めることとなるが、健康診断書に於いては全国的にある程度の統一性が保たれ・・・」とあり、他市町村と大きく変わるものとではありません。A先生の言われる複雑ではない様式をお教えいただければ参考にしたいと思います。

(注4)

 「学校医の眼科健診や内科検診の楽なこと楽なこと」私にはコメントできません。眼科や内科検診をやったことがありませんから。医科に移られることをお勧めいたします。

(注5)

 基準は統一されていますしマニュアルにも記載されています。また研修会を開いてもなかなか参加が得られないのが現状ではありますが・・・。先生は研修会に参加されているのでご存知でしょうが。

 全校に健康診断の事後措置のCDを配布させていただきました。活用されているものと思っているのですが。