日曜日に、テレビ見ていると、脳についての番組がやっていました。片腕が亡くなったヒトがないはずの腕が痛いという症状が出ることがあります。
 かつては切断面に問題があるのではと思われていて切断面を掻爬したりしていましたが、脳神経専門のラマチャンドラー博士は、脳が仮想の腕を作り出していて在りもしない腕の痛みを感じ取っているのだと証明しました。
 証明の方法は鏡で仕切った箱を作り、健全な腕を鏡に映し切断された腕があたかも再生したようなと、脳に錯覚させるのです。そうすることによって切断された腕は健全だと脳を騙すわけです。
 腕の切断というトラウマを取り除くわけです。栗本慎一郎氏が半身麻痺で片腕の機能が失われたとき同様の装置でリハビリして機能回復した例も取り上げられていました。
 その番組を見ていたときはそんなものかと思っていただけでしたが、診療中に同様のことが有ることに気がつきました。
 総義歯を新調して噛みあわせを調節していて次回来院してもらったとき、粘膜に傷が出ます。傷がある部分を削合して痛くないように義歯を調節します。
 褥創性潰瘍といって、粘膜の下の組織まで露出しているものは義歯を削合すればすぐに痛みが消えます。傷に当たらなくなるので当然です。
 ところが、擦過傷程度の傷がある場合「これくらいならちょっと削るぐらいですぐよくなるなあ。」と思い調節しても一向に改善しない場合があります。
 「噛めなくて地獄です。」とか、強い口調で「全然噛めないんです。」とか訴えてきます。これはいかんと思い削ったり付け加えたりするのですが痛みが消えません。
 そこで、思い切って完全に当たらなくしてしまって噛んでもらったところ、なんと痛みを感じるのです。
 完全に隙間が出来ているのに噛んだら痛いのです。
 特徴としては、噛むのと痛み出すのがすこし時間差があるように思います。
 噛むと傷口に義歯が当たって痛みを感じるという記憶が出来上がっていて、実際は傷に当たっていなくても脳が痛みを感じているのです。昔は嘘を言っているのかと疑っていましたが、数回調節していけば慣れて来るのか大抵は痛まなくなりますから、そのまま忘れていましたが、嘘を言っているわけではなかったのです。
 実際少しですが治りかけの傷があって、なんかの加減で刺激があるのだと思っていましたが、まさか脳が以前の記憶で痛みを感じていたとは思いませんでした。
 義歯は義手、義足、義眼と医療レベルとしては同じなわけです。
 見たところ健全に見えても痛みが引かない人で、なんとなく日にち薬ですよとごまかして痛まなくなる人がいますが、もしかしたら脳が過去の記憶を残していて暫く痛んでいたのかもしれません。