今日も一日診療が終わりました。
 時間の感覚というのは、今まで生きてきた時間を基準にして感じるといわれています。
 つまり、6歳の人は、1年間が人生の1/6なので長く感じ、60歳の人は、1年間が人生の1/60なので、短く感じるというのです。
 そういわれると、なるほどと思います。
 それに加えて、充実感とか、仕事、あるいは、勉強の量なども関係しているようです。
 今まで一番1日が短かったと思ったのは、勤務医の時期です。
 おそらく自分にこなせる仕事以上の仕事をしていたからだと思います。ハッと気がつくと次の日の朝、出勤してデンタルチェアーの横に座っていました。その間の記憶が薄いのです。思い出せば思い出せるのですが、相当追い詰められた状態で、緊張しっぱなしで診療していたと思います。
 カルテのケアレスミスが相当ありました。診療していざカルテを書くとき頭が真っ白になるためです。
 今と比べて、ずいぶん患者さんに迷惑をかけていたことだと冷や汗が出る思いです。言い訳になりますが、そのときはそのとき自分ができる精一杯のことをしていたのは間違いがないと思っています。
 開業してからも試行錯誤は続きました。ほかの先生方を見ていると新しい技術を取り入れ、熱心に勉強会を開いて日々研鑽を続けているし、どんどん置いていかれている気がしました。
 今までやってきたことがどうにも違和感があって、勤務医のときにやっていたことをもう一度白紙に戻して考え直そうと思いはじめました。
 大学時代からずっと座位診療をしていましたが、立位診療にして、患者さんは基本的に座ったままで診療を受けてもらうようにするところからはじめました。
 昔、子供のころの歯科医師は、みんな立位で診療していましたが、そのスタイルにはさすがに真似ができなくて、我流の立位状態なので、ちょっと疲れるのですが、精神的にストレスが少なくなりました。
 寝ているより座っているほうが、患者さんが楽なのではないかと思えたからです。
 当然チェアーのスタイルは変わるし、歯科材料店もそれまで勤務医時代からの個人歯科材料店はやめて、たまたま歯科医師会の委員会の理事の先生に紹介していただいた材料店が優秀で、ほとんどすべての材料を迅速に安く仕入れることができました。それだけでもストレスが少なくなりました。
 今思えば、その先生の好意が方向転回の決め手になったのだと思います。
 材料の良し悪しだけでも歯科診療の良し悪しに直結することに改めて気がつきました。そこが改善できなければ先に進めなかったと思います。
 基本中の基本が抜け落ちていたのだとようやく気がつきました。
 開業医として基本中の基本から間違っているのに、それに加えて歯科診療を充実させることは無理だったのです。
 父親、祖父の代から歯科医院を続けている人と、まったくの初めての開業では、スタート時点を間違えるととんでもないことになると痛感しました。
 自分の方法を考えて、何が自分にあっているのか、何ができるのか何ができないのか、それさえもわからなくなっていたのだと思います。
 ボタンの掛け間違いは、すべてボタンをはずさないとうまくいかないが、早く気づけばそれだけ早く修正できるのに、ずるずるとそのままにしておくと、どこかにひずみが出てきて取り返すのにずいぶんと時間と労力がいるのがよくわかりました
 ちょっと遠回りしたような気がしますが、それがなかったらもっと悲惨なとんでもない迷路に入り込んだのではないかと思いました。
 そう考えると、ちょっとしたアドバイスなり、出会いが分岐点になることが何度かありました。その分岐点をころころところがって、何とか、垂水区の片隅で歯科診療をして、地域医療に貢献させていただいております。
 引っ越そうと思ってから約5年かかりました。
 相当きつい反対もありましたが、それ以上に応援してくれる人達の暖かい手助けがあってここまで来ました。
 これからどうなることかわかりませんが、自分の思い描く歯科診療を信じて実現したいと思います。