第20回兵庫県歯科医学大会

 雑用に追われ、あまり勉強会とか、講演とかに行くことが少ないのですが、歯科医師会の主催する講演はできるだけ行きたいとは思っています。

 というのも、大体日曜日に行われるし、一般開業医が出席しやすいからです。

 行けば、何かしらためになることが聞けます。

 6月22日の歯科医学大会では、長年の疑問のいくつかにある程度の解答がえられて良かったです。

 思うままに列挙してみますと、

 @顎関節症は、self-limiting diseaseであって、ほとんど6−7割程度の人は適切なアドバイスと処置によって治癒する。
 A1ヶ月程度は十分一般開業医で治療できる。それ以上なら手に負えない。
 B個人個人の病因をできない。
  しかし、病因ではなく症状に基づいて治療、つまり対症療法等を駆使すればよい。
  予防的治療法はほとんど皆無。  LOw−Tech, High-Prudence
 C診察から適切な治療法

 とは言うものの、Mandibular Manual Manipulationは、痛いらしいので、専門医に麻酔の注射してからやったほうがよさそうだし、次の段階のスプリント療法はできそうだが、(実際何人か行ったが、)講演では5番目ぐらいの優先順位らしい。

 
以上は、前記の長年の疑問のひとつです。

 ところが、歯科医に対しては有益な情報なのですが言いたいことはこれではないのです。
 

 
 [言いたいこと、その一]

 ちょっと横道にそれますが、この特別講演の講師は今回に限らず、肩書きが長い

「大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座(歯科補綴学第一教室)教授 矢谷博文先生

ほとんど肩書きのない身なのでちょっとうらやましい気もしながら講演を聴いていると、これは信頼できる先生だと思いはじめました。

 そのひとつに、自らの失敗を真摯に受け止め、分析し、糧としてより一層の研究を行っていることです。

 なかなかできることではありません。

 ♯2で書きましたが、自分のしてきたことが間違いだと気がつくのに多大な時間と、無駄な労力がかかり苦労したことが思い出されてました。

 この先生や、顎関節症に対するアメリカの歯科医師の学会の今までの治療方法の間違いを自分たち自身で明確にすることは、患者さんにとっても、歯科医療にとっても大きな意味があると思いました。


 [言いたいこと、その二]
 
「不適切な噛みあわせが、いろいろな不定愁訴を解決する。」といった主張でいろいろな一般出版物がありますが、それらを一刀両断で否定してくれたということです。

 それも理論的に。

 以前に、怪しげなな講師の講演を聞きましたが、実際私「はこうやってこのように患者さんを治療した」と言い切って、しかも堂々とテレビ出演までして、啓蒙?活動をしていますが、このような先生方は、「歯科医に適切な治療を求めなさい」といっているわけではなく、「自分の診療所に来なさいといっているだけ」と断言していました。

 ちょっとすっきりした気持ちです。

 というのも、顎関節症の特徴として、精神的な要因が絡んでくるのでそこをついて詐欺まがいなことが起こるのです。

 ♯12で書いたように、ほっといても治る病気あるいはチョトしたアドバイスがあたかも効果があったように思わせる方法で信者にするとか、患者さんを信用させるとかできるのです。

 うそも方便ということで、実際の治療効果を重要視することは必要ですが、やりすぎてしまうととんでもないことになります。

 矢谷先生によれば、

臨床的成功に対する誤解として、   参考資料

A.自然消退   自然に症状が治っていく
B.プラシーボ効果   効果がない薬でも、効果があると思って飲めば効果が出てくる事がある
C.ホーソン効果  患者さんが先生に気を使って、生活習慣を変えて、治ってきたように振舞う
D.選択バイアス  治療して効果ありそうな患者さんを無意識のうちに選ぶ
E.脱落バイアス  治療して効果がなさそうな患者さんを無意識に排除して、来院しなくする。

があって、見かけの治療効果=真の治療効果+(A.+B.+C.)となっているので、

 真の治療効果がなくても、♯12の「苦しいときの経過観察」で時間を稼ぎ、A.B.Cをあえて悪用することがあるわけです。

 医師と患者の信頼関係の構築という範囲では非常に有用なのですが、さじ加減を誤るとおかしなことになると思います。

 これも医師の裁量権といえばそれまでなのでしょうが。
 

 [言いたいことその3]

 皮肉なことに、前回の歯科医学大会の一般講演で、まさにC.そのものの発表がありました。

 だいたい特別講演が終われば帰途に着くのですが、毎回、2人か3人同級生が一般講演で発表しているので聞いてみようという気が起こり最後のほうまで残っていると、なんでも、歯科材料の金銀パラジウム合金を舌の上に載せると、体が傾くといった実験?をビデオにとって発表していました。

 被験者は、その診療所のスタッフらしいのですが。

 まあ、♯6みたいに胡散臭いことを言って患者さんを煙に巻いているので、えらそうなことはいえませんが。