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著者は「あとがき」で次のよう言う。 <現代の日本において、身体運動界のスーパースターが社会に与える影響は計り知れないものがある。それは、現実に日本社会を動かす役を担っている政治家のパワーをはるかに凌ぐものであるといってよい。 …彼らが行っている「走る」「滑る」「泳ぐ」といった運動が、何故にこれほどまでに人々に感動を与えるパワーを持ちうるのか。それは彼らのパフォーマンスは人間の本質=「極意」により発現されたものであるから、というただの一点に依る>。 著者の高岡英夫は、独自の運動理論「ディレクト・システム(DS)」をもって、スポーツ界のスーパースターと呼ばれる人たちの個性を語る。このディレクト・システムというのは、著者の言葉によれば、「身体意識の構造と機能総体」。まあ、回転運動する時に言う「軸がある」とかいうやつだ。 この軸と呼ばれるものは、センターとも呼ばれ、武道では「正中心」と呼ばれている。本書においても、最も重要なものとされている。高岡氏によれば、このセンターの他にベスト、側軸、ジンブレイド、心田流、パーム、開側芯、スライサー、リバース、上丹田、中丹田、下丹田、流舟、舟などがある。なじみのあるのは、丹田ぐらい。あとは著者の造語かどうかはわからない。 著者が解説する運動選手は、高橋尚子、小出義雄、田村亮子、木村政彦、マリオン・ジョーンズ、中田英寿、三浦知良、ロナウド、長島茂雄、貴ノ花、大鵬、双葉山、マイヤ・プリセツカヤ、シルヴィ・ギエム、草刈民代、ベーブ・ルース、マーク・マグワイア、マーク・スピッツ、古橋広之進、岩崎恭子、清水宏保、舟木和喜、ヘルマン・マイヤー等。 これらの選手のDS図(身体意識の線を書いたもの)と呼ばれるものを書いている訳だが、これらはどうして書けるのかはわからない。写真を見てかくのか、あるいはビデオかなんか見て書くのか???謎だ。 ともかく、最初に解説をした高橋尚子の絵は凄い。センターに太い軸はバシッと通っており、中丹田が発達しており、人々の応援のエネルギーを吸収するらしい。面白いのは、長島茂雄で、凄く熱性の気が入っているのだが、中丹田がなく、本当に人を泣かせるとか、本当に人を大切にする優しさとかは出てこないそうである。そして、長島を見て育った人は、その影響をもろに受け、中丹田のない人間になるという。いや、もっと言うと、今の日本の社会全体が、人間を本当に大事にする、というように発展してきていないのは、長島茂雄のおかげのような言いようだ。そこまで言うか?と感じだが、長島茂雄が日本の社会与えた影響は、かなり大きなものであったことは間違いなく、こうした良くない面もあるのだというのは非常に興味深い。 そして、本書で取り上げられた運動選手の中で最高のディレクト・システムの持ち主は、陸上のマリオン・ジョーンズだ。この人のは、もうスポーツ選手の域を超えて、マザー・テレサの次元であると言う。こういう人に同化していくといいそうである。 <やはり、人間の目指す方向はDSで明かだよ。優れたセンターが通り、上中下の三丹田が揃うということですよ> というのが、著者の結論とも言える。 身体意識を変えることによって、人格が変わる。気ということで説明されているいろいろな書物も多いが、著者は身体意識ということで示した。確かに長島茂雄の同化すれば、おっちょこちょいな人間になりそうだし、高橋尚子に同化すりゃ、みんな、ありがとう!って感じがする。しかし、マリオン・ジョーンズに同化するのは、ちょっと難しそうだ。日本語でしゃべってくれりゃ、ちっとは同化できるかもしれんが。 おすすめ度:★★★★ |
(2001.4.1)