I S I Z E  への 43

白夜を旅する人々
三浦哲郎

発行:新潮文庫


 物語は三男・羊吉の誕生から始まる。時は昭和初期。場所は東北地方。生まれたのは呉服屋<山勢>の6人目の子供であった。しかし、6人のうちの2人、長女るいと三女ゆうは先天性色素異常(アルビノ)として生まれていた。

 長男:清吾(一家の跡取りというべき人物だが、体は弱い)
 長女:るい(アルビノの症状は重い。琴の師匠でもある)
 次男:章次(東京に進学をする)
 次女:れん(成績優秀で、一家を切り回す才能もある)
 三女:ゆう(アルビノである。まだ幼い)
 三男:羊吉(生まれたばかりだが、けっこう剽軽者。メエ吉と呼ばれる)

 アルビノの人は皮膚が白く、髪の毛も白い。二次障害として弱視を伴うこともある。家族にとって「白い」と言葉は禁句となる。そして多くの人の髪の色と同じように、黒く染めることも習慣となる。長女るいが母親に髪を染めてもらっている間、三女のゆうはじっと待っている。
 守る側と守られる側、どちらにも精神的負担がかかる。この小説では、アルビノでない三女のれんの自殺、そして長男の清吾の失踪となる。
 れんは大好きだった海に身を投げる。清吾は静養に行った温泉で出会った女性と恋仲になるが、その女性の死とともに失踪する。最後には、アルビノの症状が重かった長女のゆうが睡眠薬で自殺する。
 彼等の自殺、失踪も運命に負けたという感じではない。個人の苦しみから逃れる為のものでもない。それぞれが、きびしい選択をした、と言える。もちろん残された者たちのその後の人生のきびしさも予感させて物語は終わる。
 兄弟の物語という感じで、両親の出番は意外に少ない。1人1人が兄弟のことを考え、生きている。個人の幸せを求めるといった者はいない。そして自ら覚悟を決めた選択をするのだ。その中には、自分が犠牲になるといった恩着せがましさはない。
 東北地方の方言による田舎の素朴さ、そして美しい雪の情景の裏にある寒さときびしさがひしひしと伝わってくる。

 生きるとは、戦うことでもある。
ということを強く感じさせてくれる。

 ある種の覚悟をもった人の生き様は美しい。
とも思う。

おすすめ度:★★★★★

(2001.3.6)



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