I S I Z E  への 43

ガリヴァ旅行記
ジョナサン・スウィフト

発行:新潮文庫


<この書は人を喜ばせるために書いたのではない、怒らせるために書いたので す。…私は人間と呼ばれている動物を心から憎みます。なにも特定の個人個人 をではありませんが>

とスウィフトは言ったという。
 この本は本当に悲しく、本当に救いのないお話なのであります。

 『ガリヴァ旅行記』と言えば、多くの人たちが子供の頃に読んだことがあるという本でしょう。しかし、それは小人の国に行ったり、大人の国に行くところまでではなかったでしょうか?(あんまり覚えてませんが)。まあそれでも冒険物としては十分面白いものではありますが、この本の真の面白さはそんなもんではありまへん。冒険物の愉快・痛快さを超えた、人間批判の書でもあるのです。いや、人間絶望の書とも言えるかもしれません。

全体は4篇に分かれております。
・第1篇が『リリパット(小人国)渡航記』
・第2篇が『ブロブディンナグ(大人国)渡航記』
・第3篇が『ラピュタ、バルニバービ、グラブダブドリッブ、ラグナグおよび日本渡航記』
・第4篇が『フウイヌム国渡航記』
 第1篇、第2篇はもう言わずもがなで、これも改めて読んでみるとけっこう面白いんですが、新鮮な驚きは、第3篇、第4篇でありました。

 第3篇のラピュタは、天空の国と言えば、はは〜んと思い当たるものが。。そう『天空の国ラピュタ』ってアニメでありましたな。そしてそこの住人といえば<頭はみんな左右いずれかへ傾いでいる。目は片方は内側へ、そして、いま一方はまさに真上を向いているのだ>てな状態で、<始終なにか深い思索に熱中しいて、なにか外からそれぞれの器官に刺激を与えてでもやらなければ、物も言えなければ、他人の話に耳を傾けることもできないらしい>。その思索があまりにも高遠なので<日常の行動においては。この国の人間くらいぶざまで下手で、不器用な人間を見たことがない>。こういう人、確かに居てます。そしてザブタイトルにもあるように、なんと日本にも来てたんですねえ。江戸と長崎に。なにやら踏絵をやらされそうになってました。

 まあ、ここまでは冒険談ってことで済ませられるんですが、問題は第4篇のフウイヌム国。フウイヌというのは馬のこと。ここは馬の国だったんです。しかも非常に理性的な馬たち(と言うのか?)がこの国を治めている。そして人間によく似た獣、ヤフーが飼われている。ヤフーは言葉も持たず、野蛮なケダモノだ。主人公はそこでいつものように、その国のエライサン(もちろん馬)とそれぞれの国(イギリスvs馬の国)について話をする。話をしていくうちに、彼等理性的な馬の社会に比べて、人間社会の薄汚ないことに嫌悪感を抱いていくようになる。この辺りの会話は非常におもしろい。本当に大事なものは何かを考えさせられる。…結局はわれわれ人間もこの馬の国のケダモノであるヤフーとなんら変わることはない、いや、もっとひどい、と思うようになる。

 この人間に対する絶望感はひどく、妻子の待つイギリス本国に戻っても治ることはなかった。それでも最初は、あの馬の国のようにしようと努力するのである。しかし、<…それも今では、そんな夢のような計画はいっさい考えなくなりました>ということで本書は結ばれる。

 あの夏目漱石は<本書について、人類にとってこれほど不愉快な本はない>てなことを言っています。本書を書いたスウィフトは、けっこう当時の社会に対して、恨み辛みがあったようだ。しかし、本書の第4篇あたりは、非常に読み応えがあり、人間やっていくのなら是非とも読んでおきたいものである。全人類必読の書!と言っても良い。

<タマニハじょなさん・すいふとデモ読むがいい。モット世間ガヨク見エルヨウニナルカラ>(ジム・トンプソン『ゲッタウェイ』より)

おすすめ度:★★★★★

(2000.9.24)



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