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『パルプ・ノワール、究極の1冊登場!』
とは、帯の言葉だ。 主人公の保安官、ニック・コリー。コイツが相当タチが悪い。騙しは言うに及ばず、殺人なんてのもあたりまえのヤツなんである。 殺人よりもタチの悪さを感じるのが人の噂を利用する、というヤツだ。保安官は選挙によって選ばれるので、対立候補にいかに勝つか、ということになる。ニックのやり方は実に巧妙だ。 <「そんなこと考えてませんよ」おれは言った。「サムの評判に泥を塗るなんてこと、おれにはできません。それほど完璧に評判のいい人物ですよ」「よかろう。それがわかってるなら、いい」「そうですとも」おれは言った。「サムほどの善人はいませんよ。だからわからないんです。どこからあんな噂が立ったのか」> おいおい、何を言いだすんやー、って感じ。この後の結果は火を見るよりも明らかだ。すぐに、噂が広まり、当然どんどんエスカレートしていき、とんでもなく悪いことをしたヤツにさせられてしまう。ニックのお得意の手口だ。絶妙のタイミングで言うので、読んでる分には笑えるのだが。。。 そして最初に書いたように、人を殺すのも躊躇しない。しかし、ニックの考えによれば決して悪いことはしていないのである。つねにあるべきようにしており、それは神様のおぼしめしだ。保安官でいるのも、みんながそれを望んでいるからだ、という訳だ。小説自体がこのニックの語りで進められるので、主人公になりきって本書を読むかぎり、しごく、もっともな事をしてような錯覚に陥る。 その辺りが、著者のうまいところであると思う。外から見ていれば、相当悪いヤツであることは間違いないが、本人にしてみれば、その時は悪いことと思ってやっている訳ではない。一応の理屈(相当イカレた理屈であるが)があるのだ。悪には悪の理屈がある。そしてそれは、誰にとってもそう遠いものではないのだ。 1906年生まれの著者、ジム・トンプソンは、かなり伝説的な人らしく、あのキューブリック、キング等が敬愛する人物であるそうだ。映画化されているのも多く、スティーブ・マックイーンが主演した『ゲッタウェイ』もその中の1つである。本書も映画化されているらしい。その他には『内なる殺人者』などの代表作もある。 おすすめ度:★★★★ |
(2000.9.3)