I S I Z E  への 43

テニスボーイの憂鬱
村上龍

発行:幻冬社文庫


 ってことで、『テニスボーイの憂鬱』を読んでみた。
前回の福田和也『作家の値うち』の中で彼は本書のことを、<豊かさの中で呆然自失する日本人の「憂鬱」を鋭く描いた、一世一代の傑作>と言った。そして点数が91点。彼の分類で言えば、世界文学の水準で読み得る作品、ということになる。う〜ん、そんなに凄いものやったのか、コレハ。

 会社のナンパな先輩が、この本を紹介してるのを以前に見て以来、イメージはあまり良くなかった。表紙の絵もなんだか軽薄そうやったし。福田和也と趣味はあうかどうかはわからんが、そんなに言うなら読んでみたろか、という気分になった。読んでみるとこれはこれでなかなかおもろい。主人公も嫌なヤツではない。俗っぽいがテニスを真剣にやっているところなんかは好感が持てる。アーサー・アッシュの教則本というのが、今となっては少々古いけど。

 主人公は成金の息子で焼肉屋を経営する。別に焼肉屋でなくてもよかったが、金を使う為にやったものだ。車はベンツ450SLC。これもかつて、軽薄な女がこういう車でなくっちゃー、と小耳にはさんだからだ。妻もいれば子もいる。そして美人の愛人がいる。趣味はテニスである。こんな奴らになんの悩みがあるんじゃーっ、って感じであるが、やっぱりそれなりに悩みはあるのである。「憂鬱」というやつだ。

 その「憂鬱」からの脱却というか、彼等の結論として、
<いつもキラキラしていろ、他人をわかろうとしたり、何かをして上げようとしたり他人からわかって貰おうとしたり何かをしてもらおうとしたりするな、自分がキラキラと輝いている時が何よりも大切なのだ、それさえわかっていれば美しい女とおいしいビールは向こうからやってくる>
ということになる。福田和也流に言えば新しい倫理を示したことになるのか。

 俗世間を相手にした場合、この考え方は悪いとは思わない。キラキラなんてのも俗世間の中で通用することだ。単なる処世術としては認める。しかし、なんか表面的で中途半端な気もする。この考えでいくと、そこまで開き直らんとやっていけん世間というものを相手にするのは疲れるので、やっぱり癒されたい、なんてのがでてくるのではないか。

おすすめ度:★★★

(2000.5.23)



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