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ゼウスガーデン衰亡史
小林恭二

発行:角川春樹事務所(ハルキ文庫)


 似たようなタイトルの本で『ローマ帝国衰亡史』(ギボン著)というのがあるが、全然関係ない。読んだことないので実のところはわかりませんが、筒井康隆がそう言っている。著者も読んだことないそうである。ちなみにその理由はギボンの歴史観が古いということらしい。まあそんなことはさておいて、この本は面白い。

 全ての欲望を満たし、美と快楽を追求した、一大遊戯場、『ゼウスガーデン』の前身『下高井戸オリンピック遊戯場』がオープンしたのは、1984年9月1日のことであった。創業者は一卵生双生児の藤島宙一と宙二だ。創業当時は28歳であった。(あたりまえだか、2人とも)

【オール木製のジェットコースター】が、いつ壊れるかもしれないというスリルが味わえる、ということで大当りした。これに気をよくした2人はついにあの、記録的な人気を博した【鮫入りプール】を作った。これら怪しげなアトラクションが日本だけでなく、世界中に評判となる。

 ところが、創業者の宙一、宙二は突然引退してしまうのである。当然その後の権力争奪戦とともに、より刺激のあるアトラクションのオープンへとエスカレートしていくのである。2089年に滅亡するまでのハチャメチャな物語が本書の大部分で、さまざまな人物(どこかで聞いたことのあるような名前ばかり)が登場し、快楽を追求したさまざまなアトラクションがでてくる。

 こんな感じなので、それらアトラクションを考える芸術家が優遇される。中でも真原合歓矢の考えた【中華園】というのがなかなかよさそうだ。【中華園】に入園するものは、全身マッサージを受け、ゆるやかな服を着て、音楽を聞きながら点心をとる。そのあと極上の中国茶を飲み、ホログラムで桃源境を見た後酒を飲み、遊ぶ。夜は幽霊を見て?夜の祭が始まる。その後は宴会だ。(何を食い、どんなステージがあるかなどこと細かに書かれている)。そして最後がメインと言えるもので、大騒ぎの後の【非愁】。参加した人々はバラバラになって園を出ていくのである。孤独を伴侶として。このギャップがいいのだそうだ。この他様々なアトラクションが興味深い。植物でできた遊園地なんてのもある。生(SEX)と死も重要なテーマだ。

   これらと平行して、権力争いをする者、哲学者、歴史学者などが登場する。これら100年以上の出来事はまさに喜劇である。人間の愚かさがよくわかる。実際の歴史も似たようなものかもしれない。

 最後に『ゼウスガーデンの秋』という短編がある。これは前述の【中華園】を考えた真原合歓矢が学生たちに「芸術とは何か」ということを教える。これはけっこうマジで、なかなか興味深く読んだ。薬物OK、人体改造OKのオリンピックは。。。

おすすめ度:★★★★★


(1999.12.6)



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