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江戸川乱歩と言えば、御存じ『怪人二十面相』、『少年探偵団』などの少年物の他、『人間椅子』、『屋根裏の散歩者』などの大人向けの本を書いた作家であり、日本での探偵小説界(?)の草分けであり、そして何よりも国内外の探偵小説の読み手でもあったのだ。 世界の探偵小説の歴史はエドガー・アラン・ポーの処女作『モルグ街の殺人事件』から始まる。以後100年に渡って書かれた世界の探偵小説を乱歩は読み、整理し、分類し、そして評論した。 「探偵小説の限界」の中で乱歩は言う。 <一般に文学を職業とするということが、もともと無理な話なのである> 要は、アイデアがつきてしまうということ。確かに大変やと思う。プロともなれば、書きたいものだけ書いて、はい、おしまい。と言う訳にはいかん。読者、あるいは編集者は次々書けというし、納期は守らなあかんし。第一、数をこなさんと、自分自身が食っていけない。これは、どんな凄い作家でも大概そうやと乱歩さんはおっしゃる。 エドガー・アラン・ポーにしてから、探偵小説と呼べるものは3〜5冊しか書いていない(もっともこの数冊の中に後年出てくる探偵小説の原型がほとんどあると絶賛している)。ドイルは最初の短編集『ホームズの冒険』以降は<落ちているのは周知の事実>なんて言っている。チェスタートン、ヴァンダイン、フィルポッツなども後年、落ちてきていると言う。クイーンとカーはまだ持久力のあったほうで、 <フランスのルブランの最優秀作『813』『奇巌城』などはごく初期の作に属し、後年はガタ落ちになっている>なんて、感じである。そこで乱歩はこう言う。 <純探偵小説は、特殊の才能のある普通小説の作家が生涯に2、3度或いは5、6度書いて見るというのが、最も無理のない行き方なのかもしれない> そのように考えていた乱歩であったが、アガサ・クリスティは唯一の例外で あると言う。 <クリスティだけは、その逆を行って、晩年ほど力の入った優れた作品を書いていたのである。…これに気づいた時、私は驚嘆を禁じ得なかった。この老婦人は実に驚くべき作家である> そしてクリスティの小説がおもしろいのは <既にあるトリックの巧みな組合せ、その組合せについての独創的技巧> <気の利いたメロドラマとトリックの組合せ> であるとしている。 まさに脱帽、と言う訳である。 この他、探偵のタイプ別、謎のタイプ別に分けてみたり、クイーンの選ぶベ ストテンと乱歩の選ぶベストテンを比較したりしている。 乱歩までの世界の探偵小説の歴史もわかるし、その中での名作と呼ばれているものや、乱歩の一押しの物は読んでみたくなる。乱歩自身も探偵小説を読むのが大好きであるのがよくわかり、読んでいても楽しい。 みなさんもどうですか。乱歩に探偵小説の世界を案内してもらっては。 おすすめ度:★★★★★ |
(1999.11.18)