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秘曲 笑傲江湖(第1〜7巻)
金庸

監修:岡崎由美  訳者:小島瑞紀  発行:徳間書店


東方不敗。この名は一生忘れないだろう。
〜何故、金庸の『秘曲 笑傲江湖』はこんなに面白いのか〜

【その1】物語の展開が速く、あきない。
 1巻〜7巻の長編であるが、読むにつれ面白さが増してくる。まるでシドニィ・シェルダンの小説を読んでいるようである。しいて言うならば、第1巻目が少々説明的になるので、一番面白くない。第2巻目からは、登場人物が生き生きと動きだす。

【その2】主人公の令狐冲(れいこちゅう)が魅力的である。
 期待通り?品行方正ではない。酒好きで、人の言うことをきかんひねくれ者である。女の子をからかうのが好き。自分に正直であり、権力は握ろうとしない。「正教」の華山派の一番弟子であったが、師の岳不羣から破門される。「正教」と対立する「魔教」の怪しい連中からは慕われ、剣を究めようとする意志強く、最後には武林で1、2を争う腕となる。

【その3】主人公以外も個性豊かであり、その個性は主人公をも凌ぐ。
東方不敗(とうほうふはい):最大の敵。闇の一大組織「魔教(日月新教)」の現教主で当代随一の凄腕。実際の出番は非常に少ないのだが、それまでの噂などで「東方不敗」の名前は何回もでてくる。ついに登場した時は、期待以上の個性派であった。武林での実力はNo.1であろうが、払った代価は大きい。この人物は一生忘れないだろう。
任我行(じんがこう):魔教の前教主。東方不敗によって地下牢に閉じ込められる。その復讐に燃え、主人公の令狐冲とともに「打倒!東方不敗」を目標とする。娘の任盈盈は、琴の名手であり、武芸にも秀でた(めちゃめちゃ強い)美人で、令狐冲とは恋仲となる。
桃谷六仙(とうこくろくせん):天真爛漫な6兄弟。すぐに兄弟喧嘩はするわ、ちょっとのことでおだてにのるわで、ヤツらに襲われ瀕死の状態となる令狐冲も、そのくだらない会話におもわず笑いそうになる。しかしコイツらの武術はすさまじい。相手をひょいと持ち上げ、体を4つ裂きにしてしまうのだ。笑ってるうちに殺されそうで、不気味だ。最初は敵だが、いつのまにか味方になっている。

【その4】それぞれのネーミングがいい。
東方不敗:不敗。つまり負けたことがないって訳である。
独孤求敗(どっこきゅうはい):あまりにも強いので負けてみたい、なんてうそぶくヤツ。
任我行:我が道を行く。人の言うことは聴かん頑固者。

【その5】名は体を表わすって感じの「2つ名」が面白い。

■平一指(へいいつし):「殺人名医」と呼ばれる。一人治したら一人殺してバランスをとる?というむちゃくちゃな理屈を持つ。
■計無施(けいむし):「無計可施」(なすすべなし)と呼ばれ、知謀にすぐれている。
■田伯光(でんはくこう):女好きの悪党で、「万里独行」と呼ばれる。主人公の令狐冲とは兄弟の契りを交すようになる。気ままなヤツ。
■岳不羣(がくふぐん):主人公の令狐冲の師であり、「君子剣」と呼ばれるが、腹黒さが目立つと「偽君子」と呼ばれるようになる。

 痛快大冒険物語と呼ぶにふさわしいものであった。権力争いに興じる者たち、そんなこと無視して、気ままに生きる者たち。登場人物も多く、いろんな技の持ち主が出てくる。そしてその中で、一番強いのは誰か?など興味深く読めた。訳者の岡崎さんも第1巻の解説で語るように個性的な女性陣も見逃せない。
 香港映画『スウォーズマン』は、原作とはちょっと違い、東方不敗の謀反と任我行との争いに焦点が絞られる。任盈盈、そして令狐冲らしき人物も登場する。ご愛敬で、日本の忍者なんかも登場する。「SWORDS-MAN」とは「剣術家」という意味。

 さあ、あなたも中華武侠小説の世界を覗いてみませんか? 文句なく面白い!

●●●金庸について●●●
1924年生まれ。香港の武侠小説の大家で、1955年に発表した『書剣恩仇録』がデビュー作。

おすすめ度:★★★★★

(1999.11.1)



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