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<さあ、皆さん どうぞこちらへ!いろんなタバコが取り揃えてあります。どれからなりとおためしください> で始まる『一千一秒物語』は、70編からなるショート・ショート。 例えばこんなお話。 ある夜、映画を見に行った帰りにカフェーに寄った。隅のほうを見ると、ビールを飲んでいるお月様を発見した。こんなとこでさぼっている、と注意するとお月様は怒りだしてビールビンをなげてきた。しまいにお月様は短刀を出すわで、大喧嘩。しかし、お月様は途中で逃げだす。その後警官が来て、取り調べを受けている時に、お月様はフラフラと夜空にのぼっていった。警官のピストルを借りて撃つと、お月様はまっさかさまに落ちてきた。で、みんなでよろこんだ。(『お月様とけんかした話』のあらすじ) このお話から、我々はお月様について次のことがわかった。 1、お月様はけっこう短気である 2、お月様は短刀を隠しもっている 3、短気であるがゆえにあきらめも早い(熱しやすく、冷めやすい) こんなお話があと69編もある。 で、いろんなことが判明する。主なものを挙げると 1、星は死ぬと地上に落ちる (『星をひろった話』より) 2、お月様は実はブリキでできている(ニッケルメッキが施されている) (『ある夜倉庫のかげで聞いた話』より) 3、星を口に入れると、冷たくてカルシュームみたいな味がする (『星を食べた話』より) まだまだある。実を言うと、お月様はピストルも隠し持っていることも後々わかる。(『A HOLD UP』より)。これは覚えておいたほうが良いであろう。怪しいのはお月様だけではない。星も、ガス燈も怪しいのだ。一話だけシャーロック・ホームズ氏も登場する。 <ではグットナイト!お寝みなさい 今晩のあなたの夢はきっといつもとは違うでしょう> 表題作の『一千一秒物語』の他、『黄漠奇聞』、『チョコレット』、『天体嗜好症』、『星を売る店』、『弥勒』、『彼等』、『美のはかなさ』、『A感覚とV感覚』が収められている。 ●●●稲垣足穂について●●● 1900年生まれ。関西学院普通部卒業後、飛行家を志すも近視のため断念。 その後作家活動をする。『一千一秒物語』の他、『ライト兄弟に始まる』、 『少年愛の美学』など著書多数。 おすすめ度:★★★★★ |
(1999.10.3)