I S I Z E  への 43

一千一秒物語
稲垣足穂

発行:新潮文庫


 <さあ、皆さん どうぞこちらへ!いろんなタバコが取り揃えてあります。どれからなりとおためしください>

 で始まる『一千一秒物語』は、70編からなるショート・ショート。
例えばこんなお話。

 ある夜、映画を見に行った帰りにカフェーに寄った。隅のほうを見ると、ビールを飲んでいるお月様を発見した。こんなとこでさぼっている、と注意するとお月様は怒りだしてビールビンをなげてきた。しまいにお月様は短刀を出すわで、大喧嘩。しかし、お月様は途中で逃げだす。その後警官が来て、取り調べを受けている時に、お月様はフラフラと夜空にのぼっていった。警官のピストルを借りて撃つと、お月様はまっさかさまに落ちてきた。で、みんなでよろこんだ。(『お月様とけんかした話』のあらすじ)

 このお話から、我々はお月様について次のことがわかった。
1、お月様はけっこう短気である
2、お月様は短刀を隠しもっている
3、短気であるがゆえにあきらめも早い(熱しやすく、冷めやすい)

 こんなお話があと69編もある。
で、いろんなことが判明する。主なものを挙げると

1、星は死ぬと地上に落ちる
 (『星をひろった話』より)
2、お月様は実はブリキでできている(ニッケルメッキが施されている)
 (『ある夜倉庫のかげで聞いた話』より)
3、星を口に入れると、冷たくてカルシュームみたいな味がする
 (『星を食べた話』より)

 まだまだある。実を言うと、お月様はピストルも隠し持っていることも後々わかる。(『A HOLD UP』より)。これは覚えておいたほうが良いであろう。怪しいのはお月様だけではない。星も、ガス燈も怪しいのだ。一話だけシャーロック・ホームズ氏も登場する。

<ではグットナイト!お寝みなさい 今晩のあなたの夢はきっといつもとは違うでしょう>

 表題作の『一千一秒物語』の他、『黄漠奇聞』、『チョコレット』、『天体嗜好症』、『星を売る店』、『弥勒』、『彼等』、『美のはかなさ』、『A感覚とV感覚』が収められている。

●●●稲垣足穂について●●●

1900年生まれ。関西学院普通部卒業後、飛行家を志すも近視のため断念。
その後作家活動をする。『一千一秒物語』の他、『ライト兄弟に始まる』、
『少年愛の美学』など著書多数。

おすすめ度:★★★★★

(1999.10.3)



トップページへ戻る ISIZEへの43册へ戻る