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<容姿に恵まれ、博識で、弁舌さわやか、筆が立ち、大胆で、精力的で抜け目なく、人に好かるる頑張り屋。カサノヴァに呈された十指に余る肩書きのなかで【色事師】ほど彼の面目躍如たるものはない。>まさにスーパーマン。「こういう男になりたい」と誰しも思うであろう。本書はジル・ペローによって編集された『カサノヴァ回想録』のダイジェスト版(文庫本で2冊にまとめられている)。 ■第1巻(色事師の巻) 時は18世紀、場所はヴェネツィア。第1巻でのクライマックスはムラーノでの遊興。そこでの登場人物は、カサノヴァと修道院に入れられた15才のC・C(女)、修道女M・M(女)とM・Mの愛人(男)。この4人の関係が凄い。お互いの相手を抱きたいが為に、自分の相手が抱かれるのを容認する。修道女同士のC・CとM・Mも互いに愛し合い、表面上4人がそれぞれ好感を持つ関係をくずさない。しかし、覗き有り、3P有りの世界。そこでの【自尊心を満たす為に、嫉妬心を抑え込む】手紙のやりとりは凄まじい。まさに、知力、体力、精神力のパワーに溢れる。 ■第2巻(脱獄の巻) 第2巻は、ピオンビの牢獄からの脱出から始まる。国事犯審問官の命令によって投獄されたということであるが理由ははっきりしない。<自分にはまるで察しのつかない理由によって、一生ここに監禁されることになったのかもしれないと考えた>カサノヴァは<生命を賭けて脱獄する>ことを決意する。<ところが、実際にはわたしには確信などまるでなかったのだ。しかし、(脱獄仲間に対して)確信ありげに振る舞わなければならなかった。そうでないなら、すべてを放棄するほかなかった>カサノヴァはあらゆる知恵を絞り、ついに脱獄に成功する。 そして彼は振り返り、こう言う。<わたしが経験という偉大な書物を読んで学んだのは、大きな企てを行うにはそれを検討したりすることなく、ひたすらそれを実行すべきであり、人間の企てすべてに対して運命がもつ支配力に逆らってはならないということだった>。 その後カサノヴァは、42時間ノンストップのトランプ勝負をし侮辱されたと思う相手と決闘し、すべてにおいて勝利を収めてきた。攻撃につぐ攻撃の人であり、女性に対しても<女の心をつかもうとする男の熱心な心遣いや思いやりに抵抗しとおせる女などいないことをわたしは知っていたからである。その男があえて大きな犠牲を払おうとしているときはなおさらである>と豪語していたカサノヴァであったが、性悪娼婦ニーナとの出会いから投獄のはめになり、凋落の一途をたどる。 最後にはドゥクスの居城の図書係になり、道徳、言語学、政治学、数学、文学、神学などあらゆる分野の問題に論及するも成功しない。そして、未来に死しかないと感じたカサノヴァは、もう一度過去を生きることを考える。<自分が手にいれた快楽を思い起こしながら、それを胸の中でくり返し、もう一度味あうのだ>と決意し、『カサノヴァ回想録』を書くことになる。 1725年にヴェネツィア生まれ、そして1798年に死んだ。ナポレオンが活躍する少し前である。 おすすめ度:★★★★★ |
(1999.9.15)