〓 | 松岡正剛の365冊の中の1冊。これはとんでもない本だ。船に乗って座礁し、アフリカの原住民に捕まった乗客たち。身代金を要求する原住民の王タルー。身代金が届くまでの間、乗客やタルーの家族たちで、いろいろな芸を披露することになるのだが、これが凄い、というかありえないようなことばかり。銃撃で、半熟卵の白身だけ取り除き、薄皮につつまれた黄身だけを残す奴。ミミズを調教して、チターという楽器を弾かせる奴。1人で4つの歌を同時に歌う者(口を1/4づつ開く)。自動絵画装置をつくる者。花火で写真のような映像を作る者。その他、現地の動物や植物の習性を活かしたり、自分の心臓を止めてみたりと、命がけの芸ばかりだ。後半は、王国の歴史や、それらの芸を習得するまでのいきさつが語られる。この奇想天外な物語、再読したがまだ消化不良気味だ。 |
〓 | このタイトルの本を読むのも小学生の時以来。今やルパンと言えば、ルパン3世ってことになるのか。そのお祖父さん、ルパン1世、アルセーヌ・ルパンである。もちろん、作者のルブランよりも有名だ。このシリーズ最高傑作と言われる『奇巌城』では、ライバルはなんと現役高校生のボートルレ。この少年はただものではない。物語はほとんどこの少年を中心に進められる。ルパンとボートルレ、この2人が世界を左右するようなフランス歴代の王家の財宝をめぐり、古くはシーザー、マリー・アントワネットをも巻き込んだ「エギュイク(針)・クールズ(穴)」の謎に立ち向かう。あのガニマール警部、そしてシャーロック・ホームズも出てくる。本書でのホームズはカッコ悪い。事件の解決にのりだした早々、なんとルパン一味に誘拐されてしまう。最後はホームズとの一騎討ちになるが、悲しい結末となる。何はともあれ、愛した女性の為につくすルパンはかっこいい。訳者は江口清。 |
〓 | <どこにころがっているかも知れねえどんな危険に対しても、立ち向かう覚悟がいるということよー(中略)、先ず第一に欲しいのが、怖れを知らない精神と、不死身の五体というわけだ。(堀口大学訳)>怪盗紳士アルセーヌ・ルパンのセリフである。フランス人とは思えない(フランス人の友達はいないが)、まるで日本の任侠映画の世界である。かっこいいではないか。 |
〓 | この有名なタイトルの著者もガストン・ルルーだったのだ。オペラ座の歌姫、クリスチーヌ・ダーエと彼女の幼馴染で恋人のラウル・ド・シャニイ子爵。そこに「OのF」ことオペラ座の怪人、エリックが絡む。エリックもクリスチーヌに思いを寄せるが、醜く生まれ、仮面をつけなければ人前に出られない。巨大なオペラ座、そしてその奈落がもう1つの舞台となる。美しい声を持ち、腹話術の名人であり、首を絞めて仕留める<パンジャブの輪差>の名人、そして引田天功のようなトリック名人でもあるエリックはまさにオペラ座の奈落に住む怪物であった。最後はクリスチーヌを監禁し、オペラ座全体を爆発させるほどの大量の爆薬を仕掛ける。謎のペルシア人ダロガとシャニイ子爵がその径人に挑む。オペラ座を舞台としたミステリー&冒険活劇であり、悲しくも恐ろしい物語であった。劇団四季の「オペラ座の怪人」も観てみるかな。 |
〓 | で、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』だ。確かに面白い。どんどん読み進められる。設定のややこしさもそれほどでもなく、事件は単純明快だ。そして主人公の新聞記者で探偵役のルールタビーユが魅力的だ。<ことさら目をひくのがその頭の形で、ビリヤードとかルーレットの玉のように丸っこいのだ。そんな頭の形をした少年がまだ新米記者としてあちこちうろうろしていたので、roule-tabille「転がせ、お前の、玉」というあだ名ついたわけだ>。彼が事件の全豹を明らかにするのだが、常に心がけているのが<論理の輪>の中に入るかどうかだ。見かけの証拠にとらわれず、論理的に説明がつくかどうかを重視する。最後の法廷の場面も盛り上がる。<裁判長を相手に、まるで友達と待ち合わせの時間を決めるように(犯人の名前を言う)時間の約束をしているのも面白く>、法廷全体が<なにやら愉快な気分になっていた>のである。ライバル?というべきラルサンもいい。密室殺人の古典とされており、それもあり?って感じがしなくもないが、論理は破綻していない。とにかく面白く最後まで読める。読む価値ありだ。 |