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■ 矢口史靖  ハッピーフライト  メディアファクトリー文庫

 離陸決心速度というものがある。このスピードに達すると絶対に離陸しなければならない。他にこの<決心>という言葉が使われるのが、着陸決心高度。この高さまで降りてきたら着陸せねばならない。GS(グランドスタッフ)とCA(キャビンアテンダント)との業務範囲は飛行機の扉を境とするとか。飛行機にとって重要なのは対地速度でなく、エアスピードであるとか。→エアスピードが遅いと失速してしまう。だから向かい風の方が安全なのだ。しかし、追い風時はより対地スピードを上げるので、早く目的地に到着するし、燃料も少なくてすむ。また要注意時間は<クリティカル11>と呼ばれる離陸、着陸の11分とか。着陸時の降下の角度は3°くらいであるとか。機体が斜めになって着陸する時の前後の車輪の接地のさせ方とか。バードストライクの危険とか。本書は飛行機と空港でのドタバタ劇であるが、こんな話がちりばめられていて面白い。これで飛行機なんて怖くない??著者も飛行機が苦手であったが、取材でいろいろ知ることで楽しくなったと言っている。まさにハッピーフライトだ。あ、それとCA(昔はスチュワーデスと言ったが)は基本的には保安要員であって、機内食とかのサービスはその次だってことだ。


■ 矢崎存美  刑事ぶたぶた  徳間デュアル文庫

 やっぱり、刑事という仕事はぶたぶたの天職であると思う。なんてったって人間じゃないから、怪しまれない。逆に普通に生活しているところが一番怪しい。ぺしゃんこになれば、少々の狭いとこからでも侵入できる。誰かにグイグイと押し込んでもらわなきゃならんが。そして、コワ面の刑事でないので、心を開きやすい。人には言えんことでもヌイグルミにならなんでも言える、かも知れない。そして何よりも不死身なのである。汚れても洗濯して、乾燥機にかければ、新品同様。この『刑事ぶたぶた』、短編集のようで、短編集でない。誘拐事件が本筋であるが、桃子とおかあさんの親子の物語もなかなか良い。


■ 矢崎存美  ぶたぶたの休日  徳間デュアル文庫

 ぶたぶた、本格ミステリに登場!ってのは『女優志願』。刑事役だ。そういや『刑事ぶたぶた』ってのは、まるごと一冊刑事役ってことであろうな。やっと定職を見つけたのかもしれん。ぶたぶたに会う人は、驚きの後は気も許しやすくなるようで、何でもペラペラしゃべってしまう。こりゃ、天職ではないか。厨房の中で料理作っているより、世の為、人の為になる。やはり人間と違うヤツは凄い。ぶたぶたは妖怪なり。


■ 矢崎存美  ぶたぶた  徳間デュアル文庫

 ぶたぶたは本当にぬいぐるみであった。しゃべったり、もの食ったりして(牛乳飲んだりもする)、人間と非常に似ているが、ピンクのぬいぐるみなんである。目が点であるが、見る人の心によって、喜んでいたり、悲しんでいたりしているように見えてしまうのである(モナリザの微笑みのようだ)。バレーボールぐらいの大きさのピンクのぬいぐるみであるので、小さな怪我も、大きな怪我も、針と糸で直るんである(しかも自分で直す)。これからもぬいぐるみであることを忘れず、頑張って欲しいと思うんである。


■ 柳川昌弘  武道的感性の高め方  BABジャパン

 人生を成功させる。その為には理性よりも感性を高めることが必要。武道に必須のものでもある。それが日本文化であり、世界平和にもつながるという。<「価値感の多様化」はかえって自己実現への道を誤る>と諌めている。そして武道的感性を高める各種トレーニング方法を伝授。呼吸を止めている時間を長くする方法。<見の目弱く、観の目強く>する方法。音に意識を集中する方法等。それら感性を高めた上で、人生の目標に近づく。道を志すのであれば、<意としての目的意識>ではなく、<心としての目的意識>を持てという。作り上げたものではなく、既に持っていたものの気づきである、というのが東洋的。手本として宮本武蔵の兵法九箇条を上げている。法華経、そして摩訶止観との関係も解説している。


■ 柳川昌弘  見えない空手の使い方  BABジャパン

 空手の型や約束組み手を中心に、その1つ1つの動きが<正中心><居つかぬ足捌き><浮き身と沈身>を使うことを解説している。これを武道空手の「理」の三要素としている。<浮き身>とは、移動する時の一種の無重力状態。<沈身>とは重力を利用した動き出しと決めだ。この両者をミックスして移動し、極める。そして<居つかぬ足捌き>によって、あやつり人形状態となり、いつでも技が出せるようになる。初動の際、重力を利用する為の膝の力の抜きなんかは、目で見てわかるものではない。ある種のフィーリングを掴むことが重要になる。このフィーリングこそが「理」である、と柳川先生は言っている。言われてみて気になる<突き技や打ち技などを極めるときに、「ブルッ」と瞬間的な動きが伴い、見た目で手が止まった位置よりも実際には拳一つ分程度、先まで動いているようなことである>「フォロースルー」については、今後解説するという。楽しみだ。


■ 柳川昌弘  武道家のこたえ  BABジャパン

 わが師・柳川昌弘が、武道家にインタビューし、自らの武道感と照らし合わせたもの。合気道の開祖・植芝盛平の高弟・斉藤守弘と実子・植芝吉祥丸の比較は興味深い。前者は「攻撃が基本」と言い、後者は個々の技術ではなく、心の持ち方に重点を置く。柳川先生は、「小の兵法」と「大の兵法」の違いであると解説している。また、柳川先生の師、和道流の開祖・大塚博紀との関係、合気道の藤平光一氏との出会いによる武道家への触発なども初めて知った。面白いのは、武道の達人・名人と呼ばれる人にアンケートをとった回答だ。高尚なものから、ただの自慢話、武道に対する意識の違いが良く出ている。こうして比較することにより、柳川先生の武道感が良く分かる。「心・技・体」については、<無謀・臆病>ではなく<大胆・細心>であること。「理」については、先ずはフィーリングを掴むことが重要であるとしている。


■ 柳川昌弘  一撃必倒への道  福昌堂

 著者は一撃必倒への練習方法を3段階に分けて説明する。その1、鋭く正確な一本の攻撃技を磨くこと。その2、相手の攻撃に対し、第一段階で養成した技でカウンターをとることに専念する(先の先のタイミングで)こと。その3、先の先のカウンター攻撃をねらう自らの姿を仮想して、それに対し懸の先の攻撃を成功させるための研究工夫をすること。ポイントとなるのが、自然体をとりもどすこと。この自然体の状態というのは、<「理性から感性、そして理性…」への必要に応じて心のスイッチを切り換える技術>であると言う。理性だけではただの人。<感性の有する認識力の広さ(大局観)と正確な情報の質及び量は理性による想像をはるかに越えている>と著者は言う。うまくいかないのを、決して精神面での不足と考えてはならないのだ。


■ 柳川昌弘  武道空手の理  福昌堂

 居つかぬ足の重要性について。<床(地面)に足が着いているようでもあり、着いていない(一旦体重を地面に乗せることをしない)という状態を「すり足」と呼んでいます。足が地に着いているようで、実は着いていないということは「いついかなるとき」でも着地ができるということであり、それが武道空手の足捌きとして最も重要なことなのです。この状態を足が「居ついてない」と呼んでおります。>。まるで、腰から足が吊下がっている様な状態である。そこからほぼ水平に落下し、そのエネルギーを目標物に対して自らの手足で伝えるのがプロの突き、蹴りである。相手にエネルギーを充分伝える為に、当たる瞬間には、手足は曲がらずに伸びていく。のである。


■ 柳川昌弘  あなたにもオーラが見える  KKベストセラーズ

 オーラは、人間の生命力の表現であり、そのオーラを高めることにより、真の健康体が得られる。本書はオーラを高めるための心の持ち方、食べ物(マイナスエネルギーを保有するもの)、トレーニング方法ついての解説書。


■ 柳川昌弘  空手の理  福昌堂

 和道流空手術を基本とし、先先、交差法、体捌きに天王山を加えたものが柳川空手である。独自のトレーニング法をあみだし、特に受動筋力の大切さを説いた。また研究範囲は空手だけにとどまらず、多方面にわたる。本当は初著「空手道研究」を推したいが、非売品なのでこの「空手の理」と「続空手の理」をお薦めします。わが師匠であります。


■ 柳広司  ラスト・ワルツ  角川文庫

 日本のスパイ養成機関、通称「D機関」。『ジョーカー・ゲーム』から始まる、シリーズ4作目。イギリスの情報機関、軍事情報部・第5課の「MI5」、そして映画「007シリーズ」にも出てきた(?多分)、ソ連の秘密諜報機関、「スメルシュ」も登場する。D機関自体は表立って出てこない。いろんな事件が起こり、裏で暗躍していたのが、実は「D機関」であったという結末。姿を見せない分、不気味な印象を与える。『ジョーカー・ゲーム』シリーズも本書で最後かな?


■ 柳広司  トーキョー・プリズン  角川文庫

 主人公はニュージーランド人のエドワード・フェアフィールド。探偵である。舞台は巣鴨にあった拘置所。第二次世界大戦後、そこに戦犯として拘留されているのが、骨と皮のようなキジマという男。罪状は捕虜収容所所長時代の捕虜虐待。観察力に優れ、頭脳明晰な脱走名人。しかし、記憶喪失。そのキジマとエドワードが拘置所内で起きた殺人事件を解明しようとする。そこにキジマの友人のふとっちょとその妹が絡む。殺人事件は、戦争中に起こった暗い過去に端を発するものであった。戦争が終わっても、多くの人間が、その暗い過去を引きずりながら生きているのは辛いものだ、と思った。


■ 柳広司  パラダイス・ロスト  角川文庫

 ジョーカー・ゲームシリーズ、第3弾。魔王と呼ばれる男、D機関の設立者、結城中佐の正体を暴こうとするものが登場する『追跡』。興味津々で読み進むが、やはりそうであったか!のパターン。やられた。ドイツのUボートの恐ろしさがよくわかる『暗号名ケルベロス』には可憐なスパイが登場する。その他、D機関のメンバーの凄さがわかる『誤算』、D機関のメンバーが暗躍する『失楽園』が収録されている。


■ 柳広司  ダブル・ジョーカー  角川文庫

 第一話『ダブル・ジョーカー』。2つのスパイ機関の対決。D機関に対抗するのが、風機関。まったく異なるのがその教えだ。D機関の教えはスパイとして目立つことはしてはならず、人を殺すな、自分は死ぬなと説く。これに対して風機関は、躊躇せずに殺せ、潔く死ねだ。しかしながら、D機関とその二番煎じである風機関との勝敗は明らかであった。その他『蠅の王』、『仏印作戦』、『柩』、『ブラックバード』、『眠る男』等、結城中佐の教え子達が活躍する。


■ 柳広司  ジョーカー・ゲーム  角川文庫

 陸軍中野学校をモチーフにした小説。そのスパイ養成学校を<D機関>という。なんかワンピースの「D」を思いだす。それとも「イニシャルD」か。まあそれはともかく、<D機関>を設立した結城中佐が個性豊かな曲者である。彼の教えは<何ものにもとらわれないこと>。軍人の常識、世間の常識にとらわれず、自分で見聞き、体験したことだけを信じて生きる。その学校のメンバーたちは誰もが、自分に自信をもち、自分だけを信用する。そんな彼らが活躍する小説。5つの短編からなる。


■ 柳原慧  パーフェクト・プラン  宝島社文庫

 第2回『このミス』大賞受賞作だそうだ。なかなか面白かった。痛快で、ラスト向かってどんどん盛り上がって爆発!プラスαの不気味な締めもいい。驚いたのが、著者が女性だということ。読み進めて行く途中で、あとがきをチラと見るまでは、男だと思っていた。パソコンに詳しい人間や、歌舞伎町のちょっとやくざな男たちを描いくのが意外であった。主人公の一人が代理母というのは納得であるが。クリスティーとはまた違った、豪快なエンタメミステリーだ。


■ 山川健一  僕らがポルシェを愛する理由  東京書籍

 著者の語るポルシェの素晴しさもいいが、やはりポルシェの歴史が面白い。ポルシェをつくった人は、オーストリア生まれのフェルディナンド・ポルシェである。ベンツの初代技術部長であり、フォルクス・ワーゲンのVWビートルを設計したのは彼だ。このVWビートルは、ヒトラーによる小型国民車構想にポルシェ博士がのったものである。1950年から1960年前半に生産されたポルシェ356。そしてその後継というべきポルシェ911。ほとんど外観が変わっていないのに古くささを感じさせないデザインは素敵だ。ポルシェと言えばあの形とすぐイメージできる。いいものを長く使う。日本のメーカーもそうならんもんか?


■ 山口果林  安部公房とわたし  講談社

 ノーベル賞をとりそうな作家だった安部公房。1993年、68歳で亡くなったのが惜しい。前衛的な作風で、はまった作家の一人。その安部公房に師事し、愛人として死ぬまで彼につきそった。本妻や娘との確執などもある中で、愛人関係を続けた。山口果林と言えば、NHKの連続テレビ小説で『繭子ひとり』のヒロインであった。タイトルだけ覚えている。「果林」というユニークな名前をつけたのも安部公房だ。安部公房の死後、その関係がなかったことのように扱われたことに憤りを感じた。そして20年後の2013年、66歳の時、本書を出版した。<透明人間にされた自分の人生を再確認できれば…>として。


■ 山口椿  ナージャとミエーレ  祥伝社文庫

 画家であり、チェリストであり、作家でもある山口椿の小説。西洋を舞台にした短編形式のエロ小説。快楽に対する抵抗はなく、あまりに堂々としているので、エロと言うよりは、ポルノという言葉のほうがピッタリとくる。全体に淡さとグロテスクさが入り交じった表現で、匂いを感じる小説だ。


■ 山口瞳  新入社員諸君!  角川書店

 昭和47年3月に刊行された角川文庫版の再録による新装版。山口瞳と言えば、その昔、サントリーのCMのトリス君をつくった人。やったかな?まあけっこう古いのであるが、なかなか面白い。当時38歳の著者が、新入社員に送る『新入社員に関する十二章』の中のその2、学者になるな 芸術家になるな。その6、重役は馬鹿ではないし敵でもない。などは覚えておきたい。その他、『社内で麻雀はするな』、『社内結婚はするな』など。『ボーナス談義』の中の、<ボーナスは賞与であってはならないと思う。賞めて与えるものではなく、あくまでも特別配当金であらねばならぬ。利益の分配でなくてはいけない>は、まったくその通りだと思う。元祖マジメ人間、山口瞳のいたってまじめなサラリーマン論。色あせてはいないと思う。


■ 山田詠美  快楽の動詞  文春文庫

 日本語では「いく」であるが、英語では「come」だそうだ。で、英語で「あなたのところに行く」ことを、「I am coming to you」と言うらしい。英語では向かいあい、日本語ではベクトルを合わせて、同じ方向を向くということになる。対決と同調の違い。短編集で、この『快楽の動詞』の他に、『駄洒落の功罪』というのもある。著者は、同じダジャレを言う時も、本人が「本当に受けている訳ではない。くだらん」と思いつつ言う、トホホ状態については好意的であるようだ。ま、もう一歩進めて?、いかにくだらんことを言うか、と言うのが私の好みではあるが。もちろん、どこかで聞いたことのあるお決まりの文句ではなく、完全オリジナル版という条件付きで。


■ 山田太一  岸辺のアルバム  光文社文庫

 山田太一と言えば『ふぞろいの林檎たち』、そして『男たちの旅路』。どちらも夢中でTVを観た。本書もドラマで有名になったもので、『岸辺のアルバム』なんて穏やかなタイトルと、洪水で家が流されていくシーンがミスマッチで、どんな話なのかと思った。仕事一筋で、会社の倒産を阻止しようと頑張る田島謙作。浮気をする妻・規子。外人にレイプされる女子大生・律子。高校3年で受験を控えた息子・繁。この中で大活躍するのが、この繁だ。母親の浮気の現場を追いかけ、姉を裏切った外人をぶちのめしに行き、父親の怪しげな仕事を見に行く。一人気を吐くが、家族でぶつかり合わないのが気に食わない。しかし、解説にもあったが、それぞれの言い分が十分描かれ、それが山田節なんだなと思った。面白くて、一気に読んでしまった。


■ 山田日登志  ムダとり  幻冬舎

 大量生産用に考えられたベルトコンベアーにさまざまな機械化。これらがムダになる。売れない物をつくるムダ。それらを保管するスペースのムダ。著者の考える製造現場のムダは、停滞のムダ。運搬のムダ。動作のムダ。これらを解消させるキーワードは作業者同士の間隔を詰める「間締め」。これが「活人」となり、「活スペース」となる。機械まかせではなく、やはり人間中心でなけりゃならん。線路は続くよ、どこまでも。しかし、ムダを徹底的に取って製造する物自体がムダであればお笑いだ。


■ 山田風太郎  いまわの際に言うべき一大事なし。  角川春樹事務所

 山田風太郎は現在パーキンソン病(師匠筋にあたる江戸川乱歩と同じ病気)で、書くことも、二階の書斎に上がることもできないそうである。で、これはインタビュー集である。風太郎先生もとぼけたもので、のっけから「話すことはないなあ」なんて調子である。聞き手は必死で話しを持っていく。何回か日を分けてインタビューしたものであるが、何回も同じ話しをしている。聞き手も「誰某が死にましたが…」なんて話題が多い。そして意外な事に風太郎は現代作家はあまり読んでいない。最近は<やりたいことをやるほど元気ないから、せめて、やりたくないことはやらない>そうである。書くことができないとは、ちとさみしい。『いまわの際に言うべき一大事なし。』とは近松門左衛門の最後の言葉らしい。


■ 山田風太郎  コレデオシマイ  角川春樹事務所

 「僕は人生論なんて話せないよ。だいたい、僕は横着で、やりたくないことはやらないできただけだもの」である。横着ものバンザイ!「コレデオシマイ」は勝海舟の最後の言葉。


■ 山田風太郎  怪談部屋  出版芸術社

 怪談は、理におちてはこわくない。あとで合理的解決というものをくっつけては面白くない。あたらしい人類「脳人」が出現する『二十世紀ノア』、白蛇のごとき妖艶な「弥々」の『蝋人』、『陰茎人』、『うんこ殺人』など。


■ 山田風太郎  棺の中の悦楽  講談社

 <あと残された三年間に、じぶんに悦楽をあたえてくれる可能性のあるものは、たしかに女以外にはなかった。棺につつまれたような三年間ーそれは棺の中の悦楽にちがいなかった。>


■ 山田風太郎  笑い陰陽師  講談社ノベルズ

 この本の主人公「果心堂」は甲賀忍者くずれの占い師で、伊賀忍者であった女房と共に、見台をはる。貧しいながらも、精神の余裕があって、そのいたずら心に満ちた解決方法が面白い。「忍法帖の最高傑作」と著者自身も言う。


■ 山田風太郎  誰にもできる殺人  廣済堂文庫

 <アパートの名は「人間荘」といった。だれが、こんなー平凡すぎて、あまりに意味ふかい名をつけたのか。>第六の間借人までの記録。短編の形を採った長編。


■ 山田風太郎  跫音  角川ホラー文庫

 二重体の女『双頭の人』『黒檜姉妹』。死刑執行十三時間前の『女死刑囚』。自分の女房を料理してふるまう『最後の晩餐』など。山田風太郎初期短編集。


■ 山田正紀  神狩り  早川書房

 〈語りえぬことについては、沈黙しなくてはいけない〉とはヴィトゲンシュタイン『論理哲学論』の最後のことば。<《神》さえその上にいなければ、人間はもっと善良にももっと幸福にもなれるんだ、と考えたいの>。《神》を真っ向から敵にまわし、著者は語りえぬものを語ろうとした。ハードボイルドタッチで面白いが、壮大すぎて終わりはちょっと?か。論理レベルを上げるとは?松岡正剛の365冊。


■ 山田真哉  さおだけ屋はなぜ潰れないのか?  光文社新書

 会計とは、氷山の一角を見るのではなく、木を見て森を見るのだ。監査なんかは、ほとんどそうするそうだ。数字の羅列のイメージが強いが、実は物事を的確にとらえようとしているのが会計だ。一面だけの数字ではなく、あらゆる方面から数字を出す。うわべの数字だけでなく、隠れた数字も見るのだ。目標達成!だけではダメなのである。そこに機会損失(チャンスロス)をしていなかったかも見るのだ。簡単に分かり易くと言うよりも、興味深く解説しているのがいい。面白く読める経済の本 bPである(今んとこ)。


■ 山本小鉄  人間爆弾発言  ケイブンシャ

 アントニオ猪木らとともに新日本プロレスを設立し、タッグでは、星野勘太郎とともにヤマハ・ブラザースとして活躍した山本小鉄。引退してからは、新日本プロレスの鬼コーチとして若手を鍛えていった。練習があまりに厳しいので、いまや組長と呼ばれる藤原喜明なども、<それはもう。いつか殺してやろうと思ってましたからね>と言う。笑ったのが、猪木についての前田日明の発言。<いつも後出しジャンケンなんですよ。「猪木さん、僕はグーですから、パー出したら勝ちますよ」「本当にグー出すんだろうな」「間違いないですよグー出しますよ」って言っても、それでも後出しですからね>。う〜ん、流石猪木。その他カール・ゴッチとヒクソン・グレーシーがもし対決したらなど、格闘技好きにはたまらん内容が多い。プロレスラーは、強いのがあたりまえという山本小鉄。プロレスを愛しているのがよくわかる。


■ 山本周五郎  小説 日本婦道記  新潮文庫

 <自分にあるたけのものを良人や子供たちにつぎこむよろこび、良人や子供のなかで自分がつぎこんだものが生きていくのを見るよろこび、このよろこびさえわがものになるなら、私は幾たびでも女に生まれてきたいと思う。>『桃の井戸』より。歌を詠む事を志し、結婚をせず、一生歌の道に生きようとする私に長崎のおばあさまはこう言う。<…独り身をとおそうという気持ちが根になって、些細なこともすぐ肩肱を張る癖がついているからです。それでは格調の正しい歌は詠めても、人の心をうつ美しい歌は…>。そして、私は子供のある男性と結婚する。継母まま子についても、長崎のおばあさまは、武家に生まれた男子はみなおくにのために奉公するものであり、その時まで預かっているもの。預かっている子に親身も他人もない。とおっしゃる。おくにのために辺りは現代にそぐわないが、この長崎のおばあさま的精神がちりばめられた短編が11話。一途で、健気で、強く、喜びも悲しみも知る女性。うらやましくもある。


■ 山本みなみ・監修 神宮寺一・漫画  学習漫画 歴史を変えた人物伝 北条義時  講談社

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を観るまでは、鎌倉時代に北条義時がこれほど活躍しているとは知らなかった。立ち寄ったホロホロ堂書店で北条義時のコーナーがあって、これと集英社の漫画があり、迷ったがこちらにした。大河ドラマのこれまでの復習と予習になる。ドラマでは、畠山が討たれところで、今後義時と政子の2頭政治が始まる。頼家の子、善哉(のち公暁)が実朝を斬ったことや、後鳥羽上皇との戦い(承久の乱)をどう三谷幸喜がどう表現するのか楽しみだ。鎌倉時代も天災や疫病があり、異常気象<6月に降雪、11月に桜の開花>、台風、冷夏、地震などでおこる飢饉、そして頼家、実朝は天然痘で苦しんだという。


■ 飲茶  史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち  河出文庫

 先に読んだ『史上最強の哲学入門』は、西洋哲学の歴史とその解説であったが、本書は東洋哲学。ヤージュニャヴァルキヤ、釈迦、龍樹という流れのインド哲学、孔子、墨子、孟子、荀子、韓非子、老子、荘子という流れの中国哲学。親鸞、栄西、道元という流れの日本哲学。その歴史と解説となる。本書も1つの物語と読めて非常に面白い。<最強の哲学入門>というのも嘘ではない。西洋哲学は、一段一段積み上げていって真理に到達しようしているのに対して、東洋哲学は最初から真理を語っている。その大きな違いが面白い。日本で育ったせいか、東洋哲学の方に親近感が湧く。その時代の生きた哲学者の息吹が感じられ。これだけ面白く読ませる哲学書はないのではないか。<飲茶>という、ふざけたペンネームと思っていたが、その意味を知って、なるほどと思った。


■ 飲茶  史上最強の哲学入門  河出文庫

 西洋哲学史をバトル風に仕上げた本。先の哲学者のマウントをとろうと後の哲学者が襲いかかる。このように語ることで、哲学がどのように発展してきたのかがよくわかる。難しげな哲学用語はほとんど使わず、何故そう考えるかというところを書いてくれているので、面白く読めた。著者の熱い思いが伝わってくる。<第一ラウンド真理の『真理』>、<第二ラウンド 国家の真理>、<第三ラウンド 神様の『真理』>、<第四ラウンド 国家の真理>という4部構成からなり、31名の哲学者が登場する。なかでもアウグスティヌスとルソーは、同タイトルの『告白』のなかで、自らの性的禁欲を抑えることができない、というようなことを言うことができる、人間味溢れる素敵なやつだと思った。




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