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■ 三浦綾子  続・氷点(上)(下)  角川文庫

 『氷点』の続編。陽子は自殺をはかったが、一命をとりとめた。そしてその後北大に通うようになる。ルリ子を殺した左石の娘であると思われていた陽子であったが、実はそうではなかった。この辺りから話はややこしくなる。左石の娘は別にいた。しかも身近に。北大に通う陽子と兄の徹。そして陽子に思いをよせる北原。その友人の順子。陽子の本当の母親、本当の兄弟との出会い。夏枝と村井の関係。啓造に思いをよせていた松崎由香子との出会い等、人間関係は複雑。人間が関係していくとは、いいことばかりではない。悪いことの方が多いのかもしれない。犯した罪は許して欲しいと思う。しかし誰に許してもらうのであろうか。懺悔をすれば許されるもんでもないだろう。やはり背負って生きるしかないんであろうな。背負って生きるというとなんか重苦しいが、それが生きる力にもなる。どうしても生きなけりゃならない訳ではないが、せっかくだから命を燃焼させたいと思う。本書に出てくる言葉、<一生を終えてのちに残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである>というのは教訓にしよう。


■ 三浦綾子  氷点(上)(下)  角川文庫

 辻口病院を経営する辻口啓造とその美人妻・夏枝。その間に2人の子供、徹とルリ子がいた。ちょっと退屈な夏枝は、医師・村井に心が惹かれる。2人の密会中にルリ子が殺された。ルリ子を殺した男は直に自殺。その妻も生まれたての子供を残して死んでいた。夫啓造は、「なんじの敵を愛せ」と「不貞の妻に重荷を負わす」ということで、殺人犯人の子供を引き取ることにする。陽子と名付けられた。犯人の子供であることは、啓造と友人の医師だけの秘密であった。夏枝は陽子を非常にかわいがり、すくすくと育った。後、夏枝は真相を知ることになり、陽子に対して冷淡になる。最後で陽子も真相を知ることになる。ところが。。。というのがあらすじ。陽子は殺人犯人の娘であることで、生きていく力を失う。自分の中に罪人の血は流れている、ということを悲観したものだ。そんなこと陽子自身が気にせんでもええのに、と思うが、母(夏枝)に冷たくされても頑張ってきたのは、「自分は悪くない」というが生きる拠り所であったからなのだ。自身の「原罪」に気づいた陽子。ってことで『続・氷点』に続くらしい。


■ 三浦研  定年後もタイガー・ウッズのように飛ばす!  亜紀書房

 ゴルフの素人による、「システムゴルフ」。多くのレッスン書は主観で書いているものが多いと言う。できるだけ主観を排除する!ってことで手本にしたのが、『理科系の作文技術』であったそうな。素人の書いた本でも正しくて、効果的であるなら国際的となると考えたり、外国人が発音してもい違和感のないペンネームにしたり、自分で出版社に売り込みに行くなど意気込みは凄い。まあこんな本を出した日にゃ、周囲の見る目が変わり、どんなスコアで回るのかと注目されるのは間違いない。この本の著者も大変なプレッシャーだったという。週刊誌に連載され、読者アンケートでも、<有益な記事>ランキングで1位になった。○○打法なんて言わないようにしたんであろうが、一応名前はあって、パターの時の「P動作」と、スウィングの時の「S動作」だ。さてどうだろうか。


■ 三浦哲郎  白夜を旅する人々  新潮文庫

 昭和初期の東北地方の呉服屋。そこの6人の息子と娘。長男清吉、長女るい、次男章次、次女れん、三女ゆう、三男羊吉。その中の長女るいと三女ゆうはアルビノであった。物語は三男羊吉が生まれるところから始まる。羊吉が誕生した時、白い子でないかどうか、みなの心が揺れる。そして成長するにつれ、かばう者、かばわれる者の心の負担が大きくなる。才気溢れた次女れんは海に身をなげ自殺、まとめ役であったが心身の弱い長男清吉は失踪、そして長女るいも睡眠薬を多量に飲んで自殺する。東北地方の雪景色と寒さの相乗効果で、ズンとこたえる話だ。自殺が悪いとも思えない。それぞれが自らきびしい選択をしたのだ。そこには涙もない。暗さもなく、心にしみる長編であった。


■ 三浦瑠麗  日本に絶望している人のための政治入門  文春新書

   ちっとは政治のこともわかっとかんとなあ。この人も『ニッポンのジレンマ』で出ている若き国際政治学者だ。この本は現在の世界状況を知るのに丁度いい。全体の状況を見て、うまく事を進める人のことを「プロ」と表現しているのは面白い。もっとも政治のプロだけでは突破力はないかもしれんが。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖U  メディアワークス文庫

   このシリーズは『ビブリア古書堂の事件手帖1〜7』の後、栞子と大輔との娘・扉子が登場する『ビブリア古書堂の事件手帖 〜扉子と不思議の客人たち〜』ときて、今回『ビブリア古書堂の事件手帖U』となった。本のネタとしては、横溝正史の唯一の家庭小説『雪割草』。そして同著者の『獄門島』。『雪割草』は新聞小説として掲載され、当時は本にはならなかったようである。現在角川文庫にあったので、是非読んでみたいと思った。それと横溝正史は、江戸川乱歩よりも早く、ジュブナイル小説を書いているのをこの本で知ることができた。これも読んでみたくなったので、早速『金色の魔術師』を買ってきた。今回の『…事件手帖U』では、栞子にそっくりな娘の扉子の成長を見ることが出来る。このシリーズもまだまだ続きそうなんでいい感じ。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖〜扉子と不思議な客人たち〜  メディアワークス文庫

   いったん終了したこのシリーズ、本書はその後、2018年のビブリア古書堂を描いたという。栞子と大輔の間にも子供が出来、その名を扉子という。栞子さんが娘の扉子に本の話を聞かせるという形式で、これまでの事件の中では語られなかった話も出てくる。題材は、北原白秋+与田準一編『からたちの花 北原白秋童謡集』、佐々木丸美『雪の断章』、内田百閨w王様の背中』。そしてちょっと変わったタイトルの『俺と母さんの思い出の本』というのは、珍しいゲーム関係の本となる。ゲームの本も古書として価値のあるものがあるようだ。扉子も本好きの元気な子で、大輔も今までと違い、なんか落ち着いた雰囲気で登場する。別で書きたかった話がまだあるようなんで、そのままこのシリーズを続けたら、と思うが。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖7  メディアワークス文庫

   この7巻目で、本篇のお話は終了となる。最後は盛り上がって面白かった。シェイクスピアのファースト・フォリオを巡って、振り市(オークションのようなもの)が開催される。世界の稀覯本なので、その金額もぐっと跳ね上がり、緊張感が漲る。そこでの栞子さんと母親の智恵子の対決も見ものだが、五浦大輔の栞子さんへのフォローが光っていた。今まではちょっと蚊帳の外感が強かったが、今回は覚悟を見せた大輔であった。このシリーズも段々と盛り上がりを見せ、うまくフィナーレを迎えたと思う。今後は番外編とか、スピンオフドラマで読めそうなんで、それも楽しみだ。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖6  メディアワークス文庫

   ビブリア古書堂の事件手帖も第6巻まできた。前巻までの事件が重なり、栞子さんと大輔の関係も深まり、お互いの家族の秘密も徐々に明かされなど、内容も深みがでてきた。栞子さんに怪我をさせた例の田中敏夫と五浦大輔の挌闘まである。題材は太宰治一色。今まで登場した『晩年』、『走れメロス』に加え、『駆込み訴へ』、別のペンネームで発表した探偵小説『断崖の錯覚』等。このシリーズも次か、その次辺りで終りになるそうです。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖5  メディアワークス文庫

  ビブリア古書堂シリーズ、5冊目。篠川栞子さんと五浦大輔との仲が急接近する。そして栞子と母・智恵子、せどり屋の志田との関係が徐々に明らかになっていく。また栞子に怪我をさせた田中敏夫も絡んでくる。本ネタは、リチャード・ブローディガン『愛のゆくえ』、古書の専門誌『彷書月刊』、寺山修司『われに五月を』、手塚治虫の漫画家としての転機ともなった『ブラック・ジャック』等。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖4  メディアワークス文庫

  シリーズ第4弾。今回は全て江戸川乱歩だ。『孤島の鬼』、『少年探偵団』、『押絵と旅する男』。『孤島の鬼』はもちょっと本の中味も語って欲しかった。筒井康隆も『みだれ撃ち涜書ノート』の中で大絶賛している本である。『少年探偵団』のBDバッチ、いいなあ。いっぺん見てみたい。自分も江戸川乱歩に夢中になったのは、知り合いに借りたポプラ社の怪人二十面相シリーズだ。それから同じポプラ社のホームズ、ルパンシリーズへ続く。まあお決まりのコースかな。『押絵と旅する男』、大人になってから読んだ。これは春陽堂の文庫版。今回は、栞子さんのお母さんもけっこう活躍する。不仲なのは変わりないが。ポプラ社の本で今もうちあるのが、『宇宙怪人』、『鉄人Q』、『二十面相の呪い』、『魔術師』の4冊。背表紙が蜘蛛マークなのは『宇宙怪人』だけだった。あとは西洋兜マーク(2013.11.3)。よくよく確認してみるとちょっと違っていた。ポプラ社の江戸川乱歩は7冊、家にあった。背表紙の蜘蛛マークは『青銅の魔人』と『宇宙怪人』。西洋兜マークなのは『鉄人Q』と『二十面相の呪い』と『魔術師』。あと「名探偵シリーズ」として『呪いの指紋』と『大暗室』。この2冊の背表紙は小林少年っぽい(2013.12.17)。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖3  メディアワークス文庫

 ビブリア古書堂シリーズ第3弾。今回は『王様の耳はロバの耳』、ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』、エドゥアルド・ウスペンスキー『チェブラーシュカとなかまたち』、宮澤賢治『春と修羅』に纏わる事件が起こる。宮澤賢治も生きている間は売れなかったんだなあ。『たんぽぽ娘』はちょっと読んでみたくなった。栞子さんの両親との関係も徐々に明らかになっていく。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖2  メディアワークス文庫

 ビブリア古書堂の事件手帖の第2弾。坂口三千代の『クラクラ日記』で始まり、『クラクラ日記』で終わる。私もこの本は古本屋で買った。『時計仕掛けのオレンジ』はタイトルが面白く、何度か読んでみようと思ったが読んだ記憶が無い。福田定一は実はあの人だったとは驚いた。しかも推理小説まで書いていたとは。足塚不二雄ってのはなるほど、あの人か。なるほどね、って感じ。本や作家に纏わる逸話が面白い。店主・栞子さんの秘密も徐々に明らかになってくる。著者のあとがきに<物語はようやく本編というところです>とあった。続きがあるぞ。楽しみだな。


■ 三上延  ビブリア古書堂の事件手帖  メディアワークス文庫

 ちょっと面白い本を見つけた。舞台は北鎌倉の古本屋。店長は怪我で入院中の篠川栞子という美女。そして本とは縁のなかったプー太郎の五浦大輔がからむ。本と言ってもその対象は古本であり、そこには持ち主の人生がつまっている。第一話は漱石全集。第二話は、小山清の『落穂拾い・聖アンデルセン』。第三話は、ウィノグラートフ・グジミンの『論理学』。第四話は、太宰治の『晩年』の初版本。これらの本にまつわる事件を解決をしていく。解決するのはもちろん栞子だ。その糸口は新潮文庫のスピン(読みかけのページに挟む紐)。著者のサイン。蔵書印。刑務所での私本の許可証等。本の知識と本好きな人の気持ちで鮮やかに解決する。主人公の大輔は、アシスタント役だ。せどり屋の志田という男も登場。せどり屋とは、<古書店で安く売られている本を買って、高く転売する人たち>のこと。


■ 三島由紀夫  金閣寺  新潮文庫

 金閣寺の放火という実際の事件を元にしたお話。実際の放火犯人が舞鶴出身であり、吃音であったこと、母親の期待が過度であったことなどそのまま主人公の設定にしている。本書の中で主人公に最も影響を与えたのが、足の悪い柏木という男だ。彼は言う。<俺は君に知らせたかったんだ。この世界を変貌させるものは認識だけだと。…この生を耐えるために、人間は認識の武器を持ったのだと云おう>。それに対して主人公は<世界を変貌させるのは行為なんだ>という。実に若者らしいやりとりだ。対照的なのが、その後に主人公が出会う桑井海禅和尚だ。主人公の真面目な質問に人生を達観したような言葉を返す。実に大人だ。この小説の中で唯一救われた気分になる。


■ 水野南北  食は運命を左右する  たまいらぼ

 <この本は「腹八分に病なし」という健康法の基本中の基本を、手をかえ品をかえ、さまざまな角度から、徹底的に、しつこいくらいくりかえしている。そのしつこさはただならぬ気魂が感じられる。>(訳者あとがきより)食事が運命を左右すると説いた『相法極意修身録』。


■ 水木しげる  悪魔くん 角川文庫

  悪魔くんとは、太平洋電気の社長の息子・一郎のことだ。一郎は親も持て余すほどの大天才であった。悪魔を呼び出す術にふけっていた一郎の家庭教師に抜擢された佐藤は、あやうく<ヤモリビト>になりそうになるが、元の男前の佐藤ではなく、頭に1本角のあるおっさん(あのテレビに出てきたメフィストの外観)になってしまった。やっとのことで悪魔がでてくるのであるが、これがまた悪魔らしかぬケチでガメツイやつだった。そしてやっぱり笛の音には弱いらしい(テレビでは悪魔くんが笛を吹くとメフィストの角から煙が吹きだしていたが…)。しかし本当の敵は、世界を自分のものにしようとした石油業者の仮面を被ったサタンであった。悪魔くんとサタンの対決やいかに。悪魔くんは、実は部下思い(蛙男とヤモリビト)で、世界平和を願ういいやつなんである。<エロイム・エッサイム、我はもとめ、訴えたり。地上に天国のきたらんことを…>


■ 水木しげる  猫楠(南方熊楠の生涯)  角川ソフィア文庫

 あの南方熊楠、こんなに愉快で痛快な男だったとは。和歌山に生まれ、東京大学予備門に入学するが、中途退学し、渡米したのち、ロンドンへ行く。大英博物館に勤め、「ネイチャー」誌へ寄稿する。そこで孫文と出会い親交を結ぶ。その後和歌山にもどり、陰花植物の調査を始める。粘菌学の世界的権威。性格は破天荒。日常はほとんど裸で過ごす。酒飲みで、ケンカっぱやく、猫語、幽霊語がわかる、らしい。そして粘菌を通して生命の神秘を追求しようとした。噂を聞きつけて、昭和天皇がその粘菌を見にきたり、研究所ができたりとその生涯にはいいこともあったが、また不幸なこともあった。弟との絶縁、そして息子熊弥の発狂である。最後はその息子の名前を呼びながら死んでいった。田辺の怪人、南方熊楠は骨太で、情に厚い、リテレート(民間学者、文士)であった。「猫楠」とは飼っていた猫の名前。この猫が熊楠の生涯を案内してくれる。


■ 道尾秀介  向日葵の咲かない夏  新潮文庫

 タイトルのイメージからもっとほんわりした小説かと思ったら、まあとんでもない小説だった。荒唐無稽ではあるが、そうもあると思わせる。主人公ミチオは小学4年生というのに、その名探偵ぶりは凄い。そして妹ミカも3歳だというのになんとしっかりしたことか。この妹には、再度驚かされる。夏休み前の終業式の日、ミチオは友達のS君が首吊り自殺した現場を目撃したところから物語りは始まる。ちょっと変なミチオの母親、ミチオとミカの相談相手、近所の製麺工場のトコお婆さん。担任の岩村先生。古瀬という爺さん。人は物語なくしては生きて生けない。そしてやはり人は本当に生まれ変わるのかもしれない。暑さを忘れさせてくれる強烈な1冊であった。


■ 光野桃  着ること、生きること  新潮文庫

 こういう本を読むとオシャレがしたくなる。それは、男であっても同じことだ。もちろん、多少の金もかかる。で、一番むずかしいのが、自分に似合ってるかどうかということだと思う。自分ではなかなかわからない。1つの方法は、見立ててもらうことであるが、見立てる人の能力の問題もある。また、見た目に素晴しくとも、その人の生活態度に合わない場合もある。この本でも、自分のライフスタイルが、着るものにも反映されているかどうか、で美しいか否かを言っているようだ。多くの例が本書にも書かれている。色、形、組み合わせ、場所。そして、その人の生活態度。かっこいい!と思ったら、何故かっこいいのかを分析してみよう。そんな気にさせる1冊である。


■ 湊かなえ  贖罪  双葉文庫

 湊かなえ、第3弾。内容はやはりドロドロだ。仲の良い小学生4人と東京から引っ越してきたエミリという小学生。そのエミリちゃんが殺された。エミリちゃんの母親とその時一緒に遊んでいた4人の小学生の闘いが始まる。4人はエミリの母親から責められ、その事件を忘れられずにその後の人生を過ごし、4人とも人を殺してしまう。その経緯を4人が語ることで物語である。そして最後にエミリの母親が語る。その語りを読ませるのだが、それぞれが濃いので5つの小説を読んだ感がある。


■ 湊かなえ  告白  双葉文庫

 湊かなえ、第2弾。これも面白かった。自分の娘を教え子に殺される、というハードな内容。森口悠子は生徒たちの前で、その一部始終を語る。そして法にゆだねるのを止め、ある制裁を犯人の2人の生徒に与えた。少年AとB。この物語で、彼らもまたその一部始終を語る。違う立場で何度も同じ場面が展開される。彼らも何者でもない、ただ2人ともお母さんが大好きで、お母さんに褒めてもらいたい子供であった。ラストもぞっとするが、暗さを感じないのは何故かな。


■ 湊かなえ  少女  双葉文庫

 名鉄の名古屋駅で、湊かなえの本を探していたら、見つけたのがこの『少女』という本。タイトルにちょっとひいたが、他になかったので読んでみた。これがなかなか面白かった。主人公の2人の女子高生、由紀と敦子。人の死ぬ瞬間を見たいと願ったり、また2人の女子高生が自殺したりするが、物語は暗くなく(ポップさが怖いか)、由紀と敦子の友情物語もあり、面白く読めた。<ー世界は広い。遠くまで逃げれば、なんとかなるでしょ>、そして由紀が敦子の為に書いた小説<ヨルの綱渡り>、はなかなかいい。ただ人間関係が濃密で、2回読んでやっと理解した。


■ 箕輪厚介  死ぬこと以外かすり傷  マガジンハウス

 西野亮廣が『新世界』の中で、<嘘をつかない人>に挙げていたのが、堀江貴文、落合陽一、そして箕輪厚介だ。箕輪厚介ってどんな人かと気になっていたところ、名古屋のエスカのツタヤ書店で目に飛び込んできた。で即買い。気になることはすぐにやってみるという、行動力抜群の幻冬舎の編集者であった。堀江貴文の『多動力』をプロデュースしたのも彼だ。圧倒的なスピードで、失敗したら次に行く。彼は「自然消滅」といって引きずらない。そして圧倒的な量をこなす。このスピードと量であれば、何とかなると思わせる。もちろん自分のやりたいことだけだ。西野同様、オンラインサロンで仲間を集める。集まる仲間は本当にやりたいので、金を払って仕事をやるのだ。オンラインサロンで収益を上げているが、編集者という一番勉強になる仕事(本人いわく)をベースにしているのがいいところだと思う。


■ 宮井善一  なぜだれもがゼクシオを買うのか  パーゴルフ新書

 ゼクシオというのはゴルフ用品のブランド名で、「XXIO」と書く。このゴルフ用品は、SRI(住友・ラバー・インダストリーの略)スポーツというところから出ており、元々のブランドであった「ダンロップ」と海外ブランド「キャロウェイ」の日本での販売をやっていた。その後「キャロウェイ」が自社で日本の販売をすることになり、その売り上げをカバーする為立ち上げたブランドであるということだ。他社との違いを明確にしたのが、打球音だ。現在5代目のクラブを開発して人気を維持し、ゼクシオブランドは確立した。SRIスポーツは「SRIXON」という別ブランドでもゴルフ用品を出しており、両ブランドともクラブだけでなく、ボール、ウェア、バックまで出している。得意のボールはさらに3つのブランドがあって種類が多すぎ。クラブ作りは真面目にやっていそうだが、その他はブランド頼りのおまけ感が強く、ダサ!と思う。


■ 三宅泰雄  空気の発見  角川文庫

 空気の重さを測り、水の約1/400であることを知ったのは、ガリレオ・ガリレイであった。その後、弟子のトリチェリ―が発展させた。そしてパスカルが続く。そしてボイルが圧力と体積の関係を実験で確かめた。ボイルはまた、<元素という考えを、はじめて、私たちがいまもちいているような意味にまでみちびいた>。燃える元素(フロギストン)があると考えたシュタールの説は間違っていた。ブラックは、空気の中に二酸化炭素があることを発見した。その時、二酸化炭素は<固まる空気>呼ばれた。次にラザフォードが窒素を発見し、<毒のある空気>と名付けられた。酸素を発見したのはプリーストリで、<フロギストンのない空気>と呼んだ。シェーレも同時期に酸素を発見し、<火の空気>と名付けた。ラヴォアジェは、<はじめて、はっきりとした定量的な研究方法をみちびき><化学の父>と呼ばれた。人嫌いのキャバンディッシュは、空気の割合が、酸素21%、窒素79%であることを発見した。多くの化学者の名前が登場する。ゲーリュサック、ドールトン、アヴォガドロ等。<どんな方法によっても、ほかの元素と化合しない>Ar(アルゴン)は、ギリシャ語で、<なまけもの>という意味だそうだ。<オゾンによって、適当によわめられた太陽の紫外線は、私たちの健康のためには、なくてはならないもの>。その他、有機物、無機物の話など、覚えておきたいことがてんこ盛りだ。


■ 宮崎哲也  身捨つるほどの祖国ありや  文芸春秋

 1998年に出版されて本。積読だったが、ようやく読んだ。面白かった。宮崎哲也は見かけによらず骨っぽい男だ。中学時代はほとんど学校へも行かず、読書と社会勉強に明け暮れ、家庭内でもエネルギーを爆発させていたという。自分勝手なことをしてきた反動からか、個人主義には批判的だ。保守派と言われるほど、社会的・規律的であることを重視している。個人を尊重するあまり、個人の主義、感情、好き嫌いを最優先しているのは確かにおかしい。周囲の感情や、関係性をもっと重視せよ。そういう共同体での働きが様々な場面で不足している、というスタンスだ。そして人権問題、宮崎勤や酒鬼薔薇らの殺人事件、死刑、安楽死、中絶、クローン人間などについて論じる。自ら「育ちのいい世代」と宮崎哲也は言う。ほぼ同世代なので頑張って欲しい。社会問題をハードに語ることのできる貴重な存在なのだ。


■ 宮崎学  オウム解体(宮崎学vs上祐史浩)  雷韻出版

 キツネ目の宮崎学がオウムについて総括しようした。相手は、広島刑務所から出所したあの上祐史浩だ。オウムについて、上祐史浩自身について、麻原彰晃について、その弟子について、教義について、オウム事件の背景について、オウム新法について、そして、アレフの今後について、宮崎学が上祐史浩にインタビューしながら、オウムというものはなんだったのかをまとめていく。オウム事件の根本には、麻原への「依存」=「無責任」というがありそうだ。宮崎学のツッコミも鋭く、ある面、オウムに期待したとこもあったが、さんざん裏切られたそうである。今後のアレフについて宮崎学は、「非暴力」「不服従」で、と提案しているが、現在の上祐史浩は、組織の維持と拡大にはあまり興味はなさそうである。<徐々に消えていってもいい>、と言っている。心もかなり内側に向いているようだ。


■ 宮沢章夫  牛への道  新潮社

 ある世界では、常識になっていることも、その世界に属さない人から見れば、奇妙なことが多い。また、普段見慣れているものでも、冷静に考えると、おかしいものがある。宮沢章夫の視点から見たおかしなこと、驚くべきことが沢山詰まっている。ツボにはまるとキク〜っという感じ。個人的に好きなのは、『なくともやはり払いたまえ』、『おそるべし修理の人』、『カーディガンを着る悪党はいない』など。『犬を見る人生』『スポーツは名前である』というのは、なかなか奥深いものがある。著者の名前を見て、けっこう年寄りかなと思った(宮沢喜一の顔が思い浮かんだ)が、そうでもなかった。1956年静岡生まれ。(高石市立図書館)


■ 宮沢賢治  銀河鉄道の夜  角川文庫

 ジョバンニが友人カムパネルラとともに鉄道に乗って銀河を旅する。鳥を捕る男。追いかけてくるインデアン。煌びやかな情景とともに、不思議な出来事がおきる。また鉄道の中で出会った幼い子供たちは、天国へと旅立つ為に乗車していた。子供たちはサザンクロスで降車し、十字架のもとに行った。子供たちと話した蠍の火の話。ジョバンニは言った。<僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。…けれどもほんとうのさいわいは一体なんだろう>。病気の母親のために牛乳をとりに行く途中で草むらで寝てしまったジョバンニの夢の旅。表題作他7篇の短編集。それぞれが星に因んだ物語。


■ 宮台真司+近田春夫  聖と俗 対話による宮台真司クロニクル  KKベストセラーズ

 宮台真司の半生を、近田春夫がインタビュー形式で聞き出した本。近田春夫っていうのが久しぶり。宮台真司の母親は、<女の身になり切れる男に育って欲しかった><わざわざ紛争校(麻布)に入れた>という個性的な人物であった。フィールドワークなんかで女子学生と仲良くなる方法については、東大博士課程の時、早稲田大学教授の丹下隆一教授に感染し、<同じ世界に入る>ことを覚えたことでうまくいくようになったという。しかし、後年これが行き過ぎることにもなる。麻布中高の空手部時代、恋愛経験、ナンパ師を経て、45歳で結婚にいたるまでの性愛エピソードは非常に興味深い。そして、かけがえのない伴侶を得、子供をもつことで変わったと言う。最近の宮台真司は、結局は「愛ですね」ということを語っている理由が本書でわかる。また、<「聖」は力が湧きだす時空、「俗」を力が使われて減る時空>と定義している。


■ 宮台真司  日本の難点  幻冬舎新書

 数年前の本であるが、意外とまともな本であると思った。著者の本の中では一番スッと入ってきた。見た目は過激そうだが、なかなか真っ当な意見であるとおもう。著者も言うように1人で社会全体を語っているのがいい。今までの<終わりなき日常を生きろ>も成程だが、それよりもずっと先に進める感じがした。<本当にスゴイ奴に利己的な輩はいない>は名言だと思う。


■ 宮台真司/速水由紀子  サイファ覚醒せよ!  筑摩書房

 「社会」ではなく、「世界」との関係を持つところのもの。それがサイファだ。家族、職場、その他趣味の団体、これらの帰属から離れたところのものがあるかないか。これらへの帰属がかなわなくなっても、まだ持ちこたえられるようになるには、この第4の帰属がキーになると言う。単なる習慣の宗教ではない。というとどんなもんかと思いきや。けっこうどんなもんでもいいようである。「端的なもの」と表現しているが、最後には自分自身が「サイファ」になるのだ。と言う。で、「覚醒せよ!」となる。宮台氏は「まったり生きる」ことから「サイファであることへの覚醒」へと進む。まるっきりのアウトサイダーではなく、内、外の両方にそっと足を置いておくのだ。それがコツか。


■ 宮台真司  透明な存在の不透明な悪意  春秋社

 酒鬼薔薇聖斗事件の分析の書。「社会の成熟による“立派な大人”観念の喪失」、「社会の学校化」、「ニュータウンの環境浄化」などにより、子供の「未来への希望」、「居場所(ダークサイド)」がなくなった。このことにより、逸脱行為の「生起確率」が高くなった。対策として、著者は「自己決定能力を養成するプログラムの導入」、「専業主婦廃止論」などを提唱する。


■ 宮台真司  終わりなき日常を生きろ  筑摩書房

 【輝かしい未来】という幻想がくずれた今、べったりとした日常をどう生きていくか?この《キツイ》状態からの脱出は宗教?恋愛?その他の方法は?その【終わらなき日常】に適応し【まったり】生きているブルセラ世代を、フィールドワークを通じて調べあげることにより、脱出口の方向を示す。副題は『オウム完全克服マニュアル』。


■ 宮台真司  世紀末の作法  ダヴィンチ編集部

 あいかわらずするどいツッコミの社会学者である。ながいキーワードの目白押し。【未来の豊かさのために今を犠牲にする道具的志向】、【今ここを楽しもうとする消費的志向】、【価値伝達より「メカニズム改革」!】、【規制主義より「動機背景の操縦」!】、【「まったり」と生きる】、など。著者は1959年生まれ。


■ 宮部みゆき  鳩笛草 燔祭/朽ちてゆくまで  光文社文庫

 超能力を持つ女性の物語3篇。『鳩笛草』、主人公の本田貴子は、人の心を読むことができる。それを利用すべく警察官になった。その能力が薄れていくが、同僚の大木に救われる。『燔祭』、主人公の青木淳子は火を発生させる能力を持つ。バイロキネシスと言うらしい。後の長編『クロスフィア』にも登場する。それが宮部みゆきの初映画化作品となった。人を焼き殺せるというインパクトが映画化しやすかったのか?『朽ちてゆくまで』、主人公の麻生智子は予知能力を持つ。幼い彼女の予測を両親(交通事故で死亡)はビデオに記録していた。『鳩笛草』と『朽ちてゆくまで』の主人公は普通の人間として生きているが、『燔祭』の青木淳子は相当やばいヤツだ。


■ 宮部みゆき  ソロモンの偽証5,6 (第V部 法廷)  新潮文庫

 『ソロモンの偽証』は全6冊で、この5冊目と6冊目が第V部の『法廷』となる。中学3年生の夏休み、ついに裁判が始まる。中学生の行う裁判に周りの大人たちも、証人、傍聴人として参加する。最初はとまどっていたが、ゆるいながらも真摯な裁判に協力的になっていく。検事・藤野涼子と弁護人・神原和彦の対決はお見事。判事、廷吏、陪審員たちも頑張った。大出が犯人かどうかの問題を超えて、中学生たちが言いたいことを十分言えた裁判であった。特に「未必の故意か自己防衛か」という弁護人の助手・野田健一の発言には感心した。そして告発文を書いた三宅樹里の叫びも。結末も感動的で納得のいくものであった。彼らも大人たちだけでの結果だけでは決して得られることのない満足感を得たに違いない。第6巻の最後に掲載されている『負の方程式』は、この裁判から20年後の話で、弁護士となった藤野涼子の姿を見ることができる。


■ 宮部みゆき  ソロモンの偽証3,4 (第U部 決意)  新潮文庫

 『ソロモンの偽証』は全6冊で、この3冊目と4冊目が第U部の『決意』となる。柏木卓也が自殺であったのか、それとも告発状にあったように大出たち3人組によるものであったのか、真実を突き止めようと藤野涼子学校内の裁判の準備を始める。協力してくれそうな人物からは断られたり、逆に意外な人物かから協力を得られたり、人集めに苦労する。ここで登場するのが、他校の生徒である神原和彦である。藤野涼子は検察側、神原和彦が弁護側に立ち、いいライバル関係ができる。大出も被告人になることを承諾。中学生たちによる聞き込み調査が始まる。周囲の反対を押し切り、藤野の父親の刑事、マスコミの茂木、辞任した津崎・森内、弁護士たちを逆に巻き込み、協力要請をしていく。そしてついに裁判が始まることになる。しかしまあ、中学生なのにしっかりし過ぎやな。


■ 宮部みゆき  ソロモンの偽証1,2 (第T部 事件)  新潮文庫

 『ソロモンの偽証』は全6冊で、この1冊目と2冊目が第T部の『事件』となる。クリスマスの日、城東第三中学校で、生徒の柏木卓也の死体を同じクラスの野田健一が発見した。いったんは自殺であるとされたが、同じ中学校のワル3人組(大出、井口、橋口)の仕業であるとの告発状が送られてきた。送ったのは生徒の三宅樹里。その友達と思われていた浅井松子が亡くなり、3人組のうち2人(井口、橋口)が仲違いし、井口が教室の窓から落ちた。さらには3人組の頭・大出の家が全焼した。学校長・津崎、担任の森内は辞任した。学校の対応、マスコミの対応に翻弄されるなか、クラス委員長の藤野涼子が立ち上がる。というまでが第T部。藤野涼子が、両親や、マスコミ、教師の制止を振り切り、この事件の真相を究明しようとするところがイカス。女優の藤野涼子がこの役を演じ、そのまま芸名としている。


■ 宮部みゆき  理由  新潮文庫

 文庫本になったら読むぞと決めていたが、文庫本になって早や11年半。やっと手に取った。『火車』、『レベル7』、『返事はいらない』、『淋しい狩人』を読んだのが16年前。『スナーク狩り』を読んだのは15年前。この頃はけっこう読んでいた。いやーひさしぶりの宮部みゆき。いいですね。本人はNHK特集的にやろうとしていたみたい。殺人事件が起きて、犯人はもちろん、その事件の周辺にいた人たちの事件への関わり方や、どういう家族と暮らしてきたなどの背景が詳しく語られる。かれらも事件にかかわったのは一部でそれまでの、それぞれのドラマがあるのだ。物語はインタビュー等、事件を振り返る形で進められる。殺人事件が物語なのでなく、それに関わった多くの人間の物語だ。1999年の直木賞受賞作。


■ 宮部みゆき  スナーク狩り  光文社文庫

 美人がショットガンを手にして、元恋人の結婚式にのりこむ。今回のは(宮部みゆきを久し振りに読んだ)スピード感あります。実際に東京から金沢までのレース展開になる。しかもベンツからカローラに乗り換えるハメになったりする。途中のドライブインでの展開もなかなかいい。ふっと安心させるが、そうは問屋がおろしません。スナークとはなんやろなと思いながら読んだが、ルイス・キャロルからきていたとは。 しかも本書の扉のところにもちゃんと引用してあったではないか。見たような気もしたが、すっかり忘れていた。最後は得意(?)のしみじみ振り返りのお手紙バージョン。


■ 宮部みゆき  淋しい狩人  新潮文庫

 「蔵書五万冊」と書かれた看板は、稔が書いた誇大広告である。古本屋、田辺書店の親爺イワさんと、その孫稔がすべてに登場する、連作集。そこには「古書」と呼ばれるようなものは置いていない。読んで価値ある娯楽本ばかりである。おじいちゃん子であった宮部みゆき(『怪』第弐号の京極夏彦との対談のなかで「私は、死んだおじいちゃんがいつでもどこでも見ててくれると思っていたりするのね」と言っている)ならではのものだろう。殺人事件などおこるが、読後感は「ほっ」である。最後の『淋しい狩人』の<我々はみな孤独な狩人なのだ。 …それだから、我々は人を恋う。それだから、血の温もりを求めて止まぬ>、いいですねえ。


■ 宮部みゆき  返事はいらない  新潮文庫

 宮部みゆきの短編集を初めて読む。短編のほうがやっぱりアイデアは出しやすいのかなと思う。軽くながせるものもあるし、コミカルに終わるものもある。長編はほんわかではしんどいし、コミカルだけでも飽きる。『聞こえていますか』とか『私はついてない』などは短編でしか出すことができないであろうほのぼの、コミカルタッチの宮部みゆきだ。新しい面を見た。


■ 宮部みゆき  レベル7  新潮文庫

 ふたつの物語が同時進行していく前に、最初のふりかけがあり、それがズーッと気になって読み進めた。最後にきっちりまとめあげる。職人技です。面白いです。最後の決めの言葉にはおもわずニヤリとした。解説の中で著者が<長編のアイデアはオーソドックスである>と言っているが、まさにミステリーの王道を行くって感じかな?また<あたらしいアイデアは短編の方にある>なんて言われると、読まずにはいられない


■ 宮部みゆき  火車  新潮文庫

 悲しく、重い話である。カード社会の犠牲者というべき主人公は、仮面を被り逃亡を続ける。第三者の眼から話が進められるので、主人公の心のうちをいろいろな想像が渦巻き、ドラマチックである。<破産という手続きが、何よリもまず第一に債務者の救済を目的としている……夜逃げの前に、死ぬ前に、人を殺す前に、破産という手続きがあることを思い出しなさい>とは作中の弁護士の言葉。


■ 宮本輝  草原の椅子(上)(下)  幻冬舎文庫

 番組名は忘れたが、宮本輝が最近TVに出ていた。もっとナヨットした感じかなと思っていたが、意外に泥臭い感じがよかった。彼の小説には突飛な人間は出てこないが、味のある人間がそこにいる。『草原の椅子』の主人公はカメラメーカーに勤め、開発から営業へと仕事をしてきた男、遠間憲太郎。年齢は50歳。妻とは離婚し、娘と生活をともにする。仕事で出会った叩き上げのカメラ屋・富樫との友情を深めつつ、焼き物屋の女主人にはプラトニックラブだ。娘の男関係を心配し、母親から虐待を受けた他人の子供を引き取る。そしてフンザへの旅。人生50年過ぎた後もやるこたぁいっぱいある。この本は人間愛に溢れている。


■ 宮本輝  青が散る  文春文庫

 大阪の郊外にできた新設大学へ椎名燎平が入学した。そこで出会った友人金子。彼に強引に誘われるまま、テニス部をつくることになる。何もない大学。テニスコートももちろんなかった。たった2人でのコート作りから、部員集め。集まったメンバーはど素人か、いわくつきのテニス経験者。猛練習が始まった。著者も大学時代テニス部であったらしく、テニスの描写はかなり詳しい。王道のテニスをするか、覇道のテニスをするか。テニスに真正面に取り組む姿は心地よく、勝負のアヤなどもなるほどと思わせる。しかし単なるテニス小説ではない。彼等をとりまく女子学生との恋愛、他の大学の応援団員との友情など、いろいろな物語が展開する。それぞれの青春があり、そして卒業していく。失恋あり、友の死ありで、どちらかというとうまくいかないことのほうが多い。それぞれが苦い経験であった。見事に散っていったとも言える。甘くて苦い、ゾクゾクとする青春小説であった。その後の彼等はどうなっていくんであろうか。その続きが読みたい、とも思うが、それがないのがまたいいのかもしれない。


■ 三好徹  頭脳のゴルフ  祥伝社ノンブック

 再読。以前にあの中部銀次郎との対談集『ゴルフの大事』を読んだ。三好徹の職業は作家であり、これらゴルフ関係の本や、エンタメ系、はたまたノンフィクションでは『チェ・ゲバラ伝』なんてのもある。作家としても結構巾広くやっている。本書の面白いのは、海外のゴルフスクールでインストラクターに食い下がって説明を求めるところだ。しっかり理屈を覚えようとする意気込みが感じられた。左手首の返しのインパクトまでを「プロネイション」とインパクト以降を「スピネイション」と呼ぶのを本書で知った。またパターを垂直に垂らしてグリーンの傾斜を読む方法を「プランク・ボッビング」と言うのも知った。但し傾斜に対して直角に立つか、あるいは両目を傾斜に平行にしなければならないので、けっこう難しそうだ。時々グリーンから目を離して水平っぽいところを見ることにしとこ。これも効果ありますぜ。




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