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■ 保坂直紀  地球規模の気象学  ブルーバックス

 地球は太陽からの短波放射で地表に吸収され、長波放射で地表から放出される。長波放射のエネルギーを吸収する水蒸気、二酸化炭素が温室効果ガスと呼ばれる。気圧の差によって高気圧側から低気圧側へ空気が動く。気圧傾度力とコリオリの力(地球の自転によってはたらく力)がつりあって流れる風を地衡風という。風は等圧線に沿って流れる。中緯度で西から東へ吹く偏西風は地衡風であり、地球をぐるっと1周回っている。低緯度で東から西へ吹く風は貿易風と呼ばれる。偏西風は東西に並ぶ渦の列であるロスビー波によって蛇行する。チベット高原や、エルニーニョやラニーニョの海温の変化が、日本の気候に影響を及ぼす。気象はカオスではあるが、それぞれのメカニズムが働いていることは考えていかなくてはならい。眞鍋淑カさんが2021年にノーベル賞を受賞したのも本書で知った。


■ 星新一  安全のカード  新潮文庫

 星新一、14冊目。16篇収録。あとがきが興味深い。<昭和32年(1957年)にSF同人誌「宇宙塵」に「セキストラ」という短編を書いた。それが当時、江戸川乱歩さんの編集していた、推理小説専門誌「宝石」に転載された。それをきっかけに作家になった…>。2作目で「ボッコちゃん」が書け、星新一のショートショートの原型となった。<つづいて「おーい、でてこい」が書け、30年ちかくかかって千編が出来た。あの瞬間に、私の頭のなかで、ある回路が成立したのではないだろうか>。そして亜流はなかなか出てこなく、まねすることは難しいという。太宰治なども例にあげ、<個性とはきわめて根が深い>という。発想について、やっかいさがわかるという『できそこない博物館』は次に読んでみたい。本書のなかでは『過去の人生』が面白い。過去の人生を売り、波乱万丈なものとなり、悪夢を見るようになる。過去の人生は平凡なものに限る、と気づく話。


■ 星新一  宇宙のあいさつ  新潮文庫

 星新一、13冊目。著者にとっては5冊目の短編集。36篇収録。未来の地球人と宇宙人。地球よりもすぐれた文明をもつ星もある。『宇宙の男たち』、長年宇宙で活躍した老人と青年が乗ったロケット。老人は最後に地球に戻りたくなった。しかし、途中で隕石にぶつかり、ロケットが故障してしまう。死を覚悟した2人は、決して慌てることはなかった。氷と闇の世界で死んだいった仲間たちを想い、地球に向かって、家族への別れの言葉を積んだ通信ロケットを飛ばすが、静かに冬眠剤を飲み、お互いに「さようなら」と言った。けっして慌てずに死を迎えるところが、妙にリアルでしみじみした。『治療』、劣等感という感染病がひろがった。それは、<平和な世の中が続いたせいだった>。マール氏の考えた治療方法は、<幸福検定クラブ>。完全な標準人間を作り、患者と対面させるという方法だった。半数の人間は標準人間より勝っていると安心して治るというもの。その結末やいかに?。


■ 星新一  未来いそっぷ  新潮文庫

 星新一、12冊目。イソップ物語を星新一流にアレンジした短編他。特に印象に残ったのが『不在の日』。作者が不在の中、登場人物が勝手に動きだすという不思議な話。登場人物はほったらかしにされ、どのように動いたらいいのか、作者の考えそうなことを考えたり、わけのわからない人物が登場して、物語の展開に悩んだりしているところが面白い。現実の生活も実はどこかの作者によって踊らされているだけかもしれないという結論も不気味さがあっていい。『ある夜の物語』、サンタクロースが登場し、なんでも願いをかなえてやると言われるが、よくよく考えて、「もっと困っている人のところに行ってください」と辞退する連鎖が続く話。心が洗われる。


■ 星新一  進化した猿たち The Best  新潮文庫

 本書は星新一が収集したアメリカのヒトコマ漫画を17のパターンに分け、それぞれに星新一なりの解説をしているという珍しい本。星新新一のエッセイというべきか。精神分析医がよく登場するのも、アメリカと日本違いで面白い。あとがきで星新一が言っているが、<笑いと想像力の関係だが、かつて私は、想像力があるから笑うのかと思っていた。しかし、最近に至って、笑いが先で想像力はそのあとから出てくるもののように思えてきた。…要するに普通ならざることへの直観能力が笑いである。論理の飛躍になるかもしれないが、笑いは、普通とはなにかを知る経路でもある>。なるほどと思う。これでアメリカの普通がわかるかな。


■ 星新一  妄想銀行  新潮文庫

 星新一、10冊目。表題作『妄想銀行』は人間の妄想を売り買いするというもの。けっこう需要がありそうだ。その他、32個のショートショート集。中でも特に印象の強いのが、『味ラジオ』だ。普通の水もコーヒーの味がしたり、オレンジジュースの味がしたりするのだ。食べ物でもそうだ。何の味もないパンのようなものを食べても肉の味がしたり、サラダの味がしたりする。それらはテレビやラジオのように放送されるのだ。歯に埋め込まれたチップにより受信すれば、その感覚が得られるというもの。それはSFの世界であるが、近々そんなことはできそうに思える。『鍵』は拾った鍵から、逆に錠前を作るという発想が面白い。


■ 星新一  どこかの事件  新潮文庫

 ココイチでカレーができるのを待っている時、堀江整形外科で順番を待っている時などに最適なのが、星新一。もちろん、名鉄、新幹線、御堂筋線、南海本線の電車の中でもOK。ってことで新潮文庫の星新一、9冊目。まだまだあって楽しいな。主人公は大概ぱっとしない奴らだ。その奴らが奇妙な事件に巻き込まれる。詳しい話は伏せておくが(というか忘れてしまったが)、日常から一時の逃避ができる、いい薬になります。


■ 星新一  妖精配給会社  新潮文庫

  星新一8冊目。『終末の日』。きょうが世の終りだったら、どうような行動をとるのであろうか。将来をうらなうことはなく、今やるべきことをやる。迷子の子供をさがす、それが大人のつとめであるから。犬は猫を追いかける。それは犬の役目だから?そして今まで楽しんできたことをそのままやり続ける。そういう時が迫ってきたら、やっぱり、そうなるだろうな、と思う。『妖精配給会社』。妖精の本当の目的は、人類褒め殺し計画?


■ 星新一  ご依頼の件  新潮文庫

  星新一7冊目。これはショートショート。コイツもずっと鞄に入れていて、やっと読み終わった。主にココイチのお持ち帰りカレーを待っている間によく読んだ。本の端もボロボロだ。どれも面白かったが、長い時間をかけたので最初の方の話はもう忘れてしまった。印象に残っているのは『ここちよい相手』。究極のサービス業かもしれん。とりあえず次の星新一を入手しとこ。


■ 星新一  気まぐれ指数  新潮文庫

 ショートショートと思い、ずっとカバンに入れ、ちょこちょこ読んでいたら、何やら同じ名前の奴らが出てきたので、おかしいなと思っていたら長編だった。ちょこちょこでは話を忘れてしまうので読み進まない。仕事の帰りに飯屋に入って読む習慣もなくなったので1年半以上もカバンに入れっぱなし。本もボロボロになってきた。ある日飯屋で待つ間に、ふと取り出して最初から読み直した。ここで勢いに乗り、一気に読んだ。脱出だ。新聞小説の連載だったそうで、唯一の長編かもしれん。長編でも”味”は、ショートショートと同じだ。登場人物が多く、話も少々複雑になる。本業がびっくり箱製作というアイデアマンで才気走った黒田一郎、化粧品のセールスレディの副島須美子、神主の牧野邦高、金持ちのお嬢様といっても40過ぎの松平佐枝子。佐枝子の仏像を黒田と副島が盗み、仏像の身代金を要求するのだが、本物と思ったら偽物で、得をするかなと思ったら損をする。思惑と違うことが次々と起こり、全員が振り回される。とことん行くと結果けっこういい方にいくので、人生も捨てたもんではないな、って感じだ。


■ 星新一  マイ国家  新潮文庫

 マイ国家とは何か。それは自分自身の自分の為だけの国家である。<やっかいな人種問題などなく、一民族、一指導者、一国家だ。…いかなる力を以ってしても、わが国を二つに分割できない。構内の分裂もなく、国民の分裂もなく、国民の心は政府の心であり、政府の行動は国民の要求だ>。しかしそれは一人だけの国家。この家に営業マンが迷い込んだ。出て来た彼は病院に送られる。そこで何があったのか。表題作の『マイ国家』は不気味だ。言い訳の天才『いいわけ幸兵衛』も面白い。


■ 星新一  ようこそ地球さん  新潮文庫

 42編のショートショート。心温まるのは『愛の鍵』。短くて単純な話やけど、ええ話や。ショートショートにしてはちと長いのが、『処刑』。そして『殉教』。どちらも「人は何故生きているのか?」、あるいは「生きていけるのか?」という示唆に飛んだ深い話である。


■ 星新一  ボッコちゃん  新潮文庫

 星新一の自薦短編集なので、著者の思い入れの強い作品が掲載されている。どれもが濃厚で面白いが、特になんでも金で済ます時代を描いた『マネー・エイジ』は笑えるし、『ゆきとどいた生活』の人間を無視した全自動の生活や、光がなくても見ることができる進化した?子供が登場する『闇の眼』にはゾッとした。筒井康隆の解説も読み応え満点。


■ 星新一  悪魔のいる天国  新潮文庫

 天国には悪魔がいる。星新一のショート・ショートにも悪魔がいる。涙は不要。いいこともあれば悪いこともある。ぐずぐず悩んでいないことが登場人物すべてに共通する。いい意味であきらめが良い。だから疲れた心にも、スッと入り込んでくるのだ。


■ 星新一  これからの出来事  新潮文庫

 『いつ、どこで買ったかも忘れていた星新一。とりあえず鞄に入れて時々読んでいった。オモシロイ。「源ちゃんラーメン」や、「CoCo壱」で、注文して出てくるまでのひと時に丁度いい長さの短編。人生を達観したようなピリリと効く内容。ドロドロ、ギラギラした心を洗い流してくれる。『会議のパターン』が特によかった。


■ 星野源  そして生活はつづく  文春文庫

 今や大人気の星野源。昨年の紅白でも『恋ダンス』を披露していた。俳優としても『逃げ恥』や『真田丸』に出演するなど引っ張りだこだ。音楽家、俳優、文筆家の肩書を持つ。初めてのエッセイ集がこの『そして生活はつづく』だ。これは笑える。一人遊びが好きな星野源の、恥ずかしい、あんな話やこんな話をぶっちゃけ読める。死ぬまでず〜っと続く、バカで地味でつまらない生活を努力と根性で面白くする。この心意気が大事やな。


■ ホーキング・スティーヴン  ホーキング、未来を語る  アーティストハウス

 『ホーキング、宇宙を語る』の続編。一般相対性理論からブレーン新世界まで詳しく語られている。CGによる図解も多く、ホーキング自身もできるだけわかりやすく語ろうとしていることがわかる。話題もタイムマシンや脳とコンピューター、そして人類の未来など興味をひくものが多い。異なる歴史を持つ宇宙や11次元などは当然のように語られている。それでいて人間原理の考え方も忘れてはいない。語りえないものを語るのは、哲学や文学だけではない。科学もまだまだ面白い、と思った。


■ ホーズ・ジェームズ  腐ったアルミニウム  DHC

 表紙の写真と帯の文の誘惑に負けて買ったが、こういう本を本当におもしろく読めるのは、かなりの現代イギリス通なんであろう。読みにくい。主人公の語り(地の文)が退廃的、自虐的ウィット(これらがブリティッシュジョーク?)に満ちていて、こんな成熟した?ユーモアは慣れんとわからんやろな。それがもうちょっと少なかったら、もっとおもしろく読めたと思う。それと訳者のあとがきに、<本書は大ベストセラーになった『A White Merc With Fins』に続くジェーム・ホーズの第二作目の日本語訳である>とあるが、なんでその大ベストセラーを先に訳せへんのかな。それの方がおもろいんとちゃうんか。と思う今日この頃であります。


■ 細野真宏  経済のニュースが面白いほどわかる本-日本経済編-  中経出版

 わかりやすく、飽きずに読めた。わかっているようで、いざ人に説明するとなると困るような言葉が、対話形式で丁寧に説明されている。対話の相手はクマだ。コアラとパンダも出てくる。予備知識もほとんどいらない、と思う。<カリスマ(この言葉ももう古いか)受験講師が書いた日本一やさしい経済の本>、らしい。数学の『…が面白いほどよくわかる』シリーズで大評判であったそうな。それだけのことはある。しかし、書く方も根気がいるやろなあ。何度も同じ言葉を出し、くどいぐらい説明してある。本文イラスト(手書きでなんとも味わいがある)、デザイン、編集までやっているし、なんと著者までやっているではないか。。。世界経済編も是非読みたい。


■ 堀井憲一郎  『巨人の星』に必要なことはすべて人生から学んだ。あ。逆だ。  双葉社

 題、長いっちゅうねん。星飛雄馬は昭和25年生まれであった。すると今年で、生きていれば、48歳になる。老けたなあ。そういえばオレも『巨人の星』で育ったのだ。坂本竜馬の「前のめりに死にたい」とか、「鉢の木」の話とか、「闇鍋」の話とか。なつかしい、全部覚えている。おお、そうそうという感じ。著者もオレと同世代(著者が1コ上)なので、その時、どうしたこうしたは非常に親しみがわく。関西出身であり、ひとりでノリ、ツッコミをするのがやたら多いが、許しておこう。まあこの辺の年代が1番刷り込まれやすい時期に『巨人の星』を見たということで、それ以外の人が読んでどうかは疑問やけどね。


■ 堀江謙一  太平洋ひとりぼっち  角川文庫

 冒険の前の準備もまた楽しい。太平洋を横断した堀江謙一さんが、マーメイド号に積んでいった物のリストを見るだけでも面白い。書籍『白昼の死角』高木彬光…これは面白い。食糧カンづめ「牛肉の大和煮」…これはうまい。その他「ウクレレ」ろくに弾けない。…同じく弾けない。


■ 堀江貴文  本音で生きる  SB新書

 <時間を無駄にしないために、大事なこと。それは「極限まで忙しくしろ」ということだ>。ぐだぐだと考える、というよりは言い訳を考えるている暇があったら、すぐにやれということだ。金がない、時間がない、というのも全て言い訳だと断じる。やりたいことをすぐにやれ、人の言うことは気にするな、ということだ。そして好きなことをやる為に大事なことは、<Give,Give,Give>であるという。


■ 堀江貴文  ホリエモンが目覚めた”頭を使う”ゴルフ  財界展望新社

 堀江貴文とゴルフというのも、なんともミスマッチな組み合わせと思ったが、最近は時間があるらしく、ゴルフを始めてから500ラウンドもしたらしい。頭を使うゴルフを目指すという堀江貴文ならゴルフをどう語るのかは、興味がある。伊藤正治というプロにマンツーマンで教えてもらったそうで、そのレッスン内容が書かれている。本書でも語られているが、基本が身を持ってわかっていなければレッスン書の中味を理解できない。自分の思い込みに気付き基本に帰る、という作業が必要だ。堀江氏は伊藤プロによって、アドレスで右を向いていることに気付かされた。やっぱ他人に見てもらうことも重要だ。バンカーショットで距離が短い時は頭を低く、距離が長い時は頭を上げる。フィニッシュから戻してフェースの向きをチェックする等は使えそうだ。にしても財界展望新社というのが凄い。


■ 堀江貴文  100億稼ぐ仕事術  SB文庫

 メールを一日5000通読んでいる男、それがホリエモンだ。彼が仕事で使用しているツールで、特徴的なのが、このメールだ。届いたメールを送信別に分けることはもちろん、自分が日々こなす業務もメールを使う。自分にメールを送るのだ。そしてこなしたらドンドン削除していく。それで一日を終える。シンプルに考える。仕事を明確にし、細かく分けてこなす、そしてコスト交渉は徹底的に。コスト削減のテクニックは常に進化している。これらが彼から学べるところだ。


■ 堀川一晃  脳科学を活用して 平凡から非凡へ  PHP研究所

  自分というものもけっこう思い込みでできていて、その逆手をとってやろうということ。先ずは自分の<白紙化>。そしてプラスの自己イメージをつくる。キーワードは<尊敬できる自分>


■ 誉田哲也  武士道ジェネレーション  文藝春秋

 磯山香織と甲本早苗の武士道シリーズ第4弾。時は流れて二人は大学生となり、磯山は教職課程もなかなかとれず、桐谷道場の師範代となり、甲本は桐谷道場で教える沢谷と結婚した。しかし、磯山の武士道ぶりは凄みを帯びてくる。それが沢谷との「シカケ」と「オサメ」の特訓だ。この辺りをしっかり押さえているのは流石だ。桐谷道場にはアメリカ人、ジェフも来るし、跡継ぎは誰かなどという問題も出てくる。あの黒岩玲那もちょくちょく登場するぞ。そして最後は磯山らしからぬことが起こり、驚かされた。


■ 誉田哲也  武士道エイティーン  文藝春秋

 武士道シリーズ、第3弾。シックスティーンから始まり、セブンティーンときて、今回がエイティーン。甲本早苗、磯山香織も高校3年生となった。ライバル校となった2人は最後のインターハイで対決する。磯山香織の最大のライバル黒岩伶那、後輩の田原美緒ももちろん登場。その他、甲本早苗の姉でモデルの西荻緑子の事、後輩・田原美緒の事、磯山の通う桐谷道場の歴史、福岡南高校の吉野先生のエピソード等が詳細に語られ、最終まとめに入った感じだ。いやいや、まとめて欲しくない、これからも続けて欲しいと思う。武士道を貫く生き様を見せ続けて欲しい。ということで『武士道ナインティーン』に期待。それにしても剣道の試合の様子というか、攻防の様子を描くのがうまいと思う。『ジウ』での戦いの場面も凄いなと思ったが、今回も感心した。


■ 誉田哲也  ジウV  中公文庫

 新世界秩序をつくろうとするミヤジ。そしてジウ。その中に伊崎基子が入った。警察の中でも心あるものは、伊崎を救おうとする。東弘樹&門倉美咲も同様だ。ジウとの一騎打ちに敗れた伊崎は、ミヤジの仲間になったと思われたが、なかなかどうしてそんな奴で終わる伊崎ではなかった。新世界秩序なんてのも関係なし、己の思うがままを貫いた。痛快だ。おトボケ爆発の門倉美咲も体をはって伊崎を守った。さてジウは?彼も実は可哀想な奴であった。伊崎とジウの第2の格闘は、これまた素晴らしい。相手の出方を読みきってのものだ。相手を過大評価しない、冷静な分析があった。こういうところも誉田哲也、やるなぁと思った。ラストで門倉が、かつてジウに誘拐された子供に会い、ジウのことを語る場面も泣かせる。著者自身も言う、極上の娯楽作品だ。いいねえ。


■ 誉田哲也  ジウU  中公文庫

 『ジウU』でようやくジウが登場。そしてジウのパトロンの「ミヤジ」と名乗る男。覚醒剤でのし上り、社会を牛耳ろうとしていた。その彼の強烈な半生とジウとの出会い。薬でも、金でも、暴力でも征服できないジウに興味を持ちパトロンとなった。<「…お前は、自由だな」>ってことで、「ジウ」は「ジウ」となった。何と言っても一番の見所は、伊崎基子とジウの直接対決だ。伊崎が初めて「負ける」と思った瞬間がおとずれる。(自由な?)新しい世界秩序をつくろうとするジウ。それを面白がり後押しする「ミヤジ」。彼らは人を殺すことを厭わない伊崎基子を仲間に引き込もうとする。そして無感覚・無感動の不気味な奴らに立ち向かう門倉美咲と東弘樹であった。


■ 誉田哲也  ジウT  中公文庫

 主人公の2人は、『武士道…』シリーズと同じような設定。男勝りの伊崎基子とほんわか系の門倉美咲だ。このパターンが成功したんで、武士道シリーズにも使ったんかな、と思わせる。警視庁特殊犯捜査係に属する2人。伊崎は正に女ランボーだ。体を鍛えるのとバイクが趣味で、突撃で犯人をやっつけるのを得意とする。門倉は心やさしく、犯人の心を開かせ、説得するのを得意とする。で、物語の内容はけっこうハードだ。説得得意の門倉も現場では、体に張って活躍する。主犯のジウと呼ばれる人物は、表立っては登場しない。親に捨てられ、1人で生きてきたことが共犯者によって語られるのみである。ジウの心を開かせるのか、あるいは組み伏せるのかが、今後のポイント。文章はあいかわらず面白く、ハード内容とともにユーモアにも溢れている。門倉が上司とともに捜査途中で入るファミレスでもメニューを迷ったりするのは、あるあるだし、伊崎のシャワー室での格闘は、読み所だ。


■ 誉田哲也  月光  徳間文庫

 この人はいい小説を書くなあ、と思った。哀しく、切ない、壮絶な学園小説だ。『武士道…』シリーズ、『ストロベリーナイト』、『疾風ガール』等、女性が主人公の話が多く、それぞれのキャラクターがいい。真面目な人物が多いが、ただ頑張るだけでなく、悩んだり、息を抜いたり、そしてユーモアも忘れない。その辺りが共感を呼ぶのではないか。今回の主役は高校生の姉と妹。その姉が死ぬ。事件は姉と音楽教師、そしてチンピラ男子学生が絡む。妹はその事件の真相を知る為に、同じ高校に入学する。そして真実を知れば知るほど、苦い思いをしていく。知らずにいた方がよかったのか。知ることにより、心の傷は深くなっていく。個々の描写もいい。姉・涼子の壊れていく様子、その後死の直前、張り詰めていたものが途切れた様子、ゾクゾクした。


■ 誉田哲也  疾風ガール  光文社文庫

 『白い巨塔』、財前教授の最後の言葉(遺書)を思い出す。「才能のある者の責務」という言い方。本書に出てくるのは、才能に溢れるロッカー、柏木夏美だ。彼女のパフォーマンスに誰もが舌を巻くが、同じ土俵で戦おうとしたものは、破れ、傷ついていく。その後彼らは、協力をしてくれたり、姿を消したりする。また足を引っ張る奴もいるだろう(この物語には出てこないが)。しかし、才能あるものは、傷ついた者たちに引っ張られていてはいけない。どんどん乗り越えて、天辺を目指していかなければならない。それは才能のある者の責務であると言える。その葛藤をうまく描いていると思う。いける奴はガンガンいけよ。


■ 誉田哲也  ストロベリーナイト  光文社文庫

 『武士道シックスティーン』を見て、『ストロベリーナイト』の作者や、と言った人がいた。『武士道…』で面白いと思った誉田哲也が、その前にブレイクしたのが『ストロベリーナイト』か。ってことで読んでみた。非常に面白かった。主人公の警部補・姫川玲子は過去に傷を持ち、それを振り払うように生きている。ガンテツこと勝俣健作は、同じ警部補で、凄く嫌な奴として登場する。そして個性豊かな姫川の上司に部下。犯人だけではない。それぞれが何かを背負って生きている。上を見て生きてきた者、下を見て生きてきた者。また左右ばかりを気にして生きている者。いずれもどうしょうもないことに心が乱れる。警部補という地位でツッパリ、ラストで身も心も疲れ果てた姫川にガンテツは言う。<上だの下だの右だの左だの、余計なとこばっかり見てっから、肝心なものが見えなくなっちまうんだよ。…いいか。人間なんてのはな、真っ直ぐ前だけ向いて生きてきゃいいんだよ>と。この単純な答え。単純ではあるが、心に響いた。周囲のプレッシャーを感じたらこのことを思い出そう。


■ 誉田哲也  武士道セブンティーン  文藝春秋

 『武士道シックスティーン』の続編。益々面白くなってきた。武士道魂の磯山香織と正反対の性格であるが互いに引き付けあうライバルく甲本(西荻)早苗。甲本早苗は訳あって福岡南高校に編入。そこで出会うのが黒岩伶那。この黒岩こそが全中決勝で磯山を負かしたやつだった。試合に勝つことを第一とし、徹底したスポーツ剣道を行う黒岩伶那と福岡南高校。東松高校で磯山とともに行ってきた剣道との違いに悩む甲本早苗。スポーツと武士道の対決だ。より強烈なライバル出現。なよなよ剣道の甲本も黙っちゃいない。<だから…勝つの。私が>。ググっとくるぜ。前作からさらに盛り上がる。<武士の仕事は、戦いを収めることばい>。真剣な中にユーモアあり。このシリーズおもろいぞ。第3弾『武士道エイティーン』乞うご期待。ンメェェァァァーッ!


■ 誉田哲也  武士道シックスティーン  文藝春秋

 中学生で剣道に打ち込む磯山香織。その打ち込みようは半端ではない。中学生で全国2位になっているが、勝ち負けに異常にこだわり、町内の大会で同じ中学生に負けると、そいつを追って同じ高校に入学する。学校の休み時間は、宮本武蔵の五輪書を片手に鉄アレイで鍛錬するというつわもの。そのライバルが西荻早苗。日本舞踊から剣道に転じた変わり者。この西荻こそが、かつて磯山を負かした相手なのだ。正反対の性格、剛の磯山に対し、柔の西荻。ピリピリした一途なプチ剣豪の磯山がかわいい。その磯山が勝つことだけの剣道に悩んで、勝ち負けだけでない西荻の剣道に近づいていくのだが、高校生にしちゃ早熟。丸くなるのがちと早いぞ。2人の友情もいいが、磯山の剣豪ぶったキャラがよかったのに、と思った。




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