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■ 東野圭吾  ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人  光文社

 表紙の絵とタイトル、そして帯にある「コロナ時代に、とんでもないヒーローがあらわれた」に魅かれて購入した。コロナ時代をどう書いていくのか、興味津々であった。本書で描かれているのは、移動の制限のあること、店が潰れたり、プロジェクトが中止となって損をする者が出てくるという風に、現在の社会を反映していた。物語は、主人公の神尾真世の父・英一が殺されたことから始まる。元教師の父は教え子達に慕われていた。同窓会をやろうと父・英一が誘われていた中での出来事であった。疑われるのは、教え子たち。そして、元マジシャンの叔父・神尾武史が登場し、探偵役として大活躍する。この叔父がぶっ飛んでいて、振り回される真世とのやりとりが楽しい。『化学探偵Mr.キュリー』の七瀬舞衣と沖野春彦のようでもある。物語のテーマとなっているのが、創作し続ける者の苦労。アイデアを出し続けるのも大変やな、と思う。


■ 東野圭吾  探偵倶楽部  祥伝社文庫

 日本人離れした彫りの深い顔立ちとスタイルを持ち、全身黒尽くめの服を身にまとった男女2人組の探偵。それが探偵倶楽部の探偵だ。倶楽部制であり、基本的に金持ち相手だ。全部で5話。郡山のキオスクで買って、会津若松へ向かう磐越西線の車中で読んだ第1話『偽装の夜』が印象的だ。全て実は。。。という一ひねりがあって、さすが東野圭吾って感じはあるが、黒尽くめの探偵2人が完璧過ぎるかな。


■ 東野圭吾  あの頃ぼくらはアホでした  集英社文庫

 著者の東野圭吾とは同じ年に同じ大阪で生まれ、おまけに一浪して予備校も同じだ。あたりまえだが、話が合う。受験した大学も同じのがある。あのTV番組「ウルトラQ」の話(やっぱケムール人の走りは凄い)があったり、怪獣映画の話があったり(『サンダ対ガイラ』は観たぞ)、給食の脱脂粉乳の話があったりで、なつかしいさ一杯だ。しかし、巻末の特別対談を読んでいたら<僕は'58年だけど、2月生まれなので…>とあるではないか。なんや学年ではイッコ上なんや。なつかしさが途端に半分になった。


■ 東野圭吾  毒笑小説  集英社文庫

 毒笑の割には、毒(悪意)がもっとあったらなあと思う。この辺りは筒井康隆に侵された私が悪いのか。それともあんたが悪いのか。まあ趣味の問題かも知れんけど、きれいにまとめるより、もっと発散して終わるとかいうのがほしい。ネタ的には、『エンジェル』、『ホームアローンじいさん』、『手作りマダム』、『殺意取扱説明書』、『マニュアル警察』などが好きである。『つぐない』は「笑い」ではなく、完全に「泣き」。笑いの同志(?)京極夏彦との対談付。


■ 東野圭吾  名探偵の掟  講談社ノベルズ

 おもろい。名探偵天下一大五郎と大河原番三警部がおおくりするお笑い推理小説。いままでの推理小説にありがちなパターンをちゃかしながら話が進む。最初はいやいやながら名探偵をやっていた天下一だが、回を追うにつれ、調子にのって名探偵ぶりが板についてくる。慣れとは恐ろしいもんやな。最後にちゃんとおちをつけるあたり、東野圭吾、さすが大阪生まれ。しかもわたしと同い年。吉本見て育ったんやな、たぶん。


■ 東山彰良  逃亡作法  宝島社文庫

 <逃げないことが、最良の逃げ道>。主人公ツバメが最後の土壇場で人生のルールとした言葉だ。ツバメは中国人。近未来の刑務所の中から話は始まる。悪ではあるが、ツバメは気持ちのいいやつだ。クールとポップが共存しているところがいい。作者はエルモア・レナードの文体が好きだという事だが、なるほどなと思わせる。どちらも「大人の小悪党」をうまく書く。この小というところがミソだ。本当に悪くて嫌なやつではないのだ。逆にこういうヤツになりたい、と思わせる。知恵と体力を兼ね備え、クールとユーモアで人に接する。これが大悪党ともなると、体力とユーモアがなくなり、本当に嫌なやつ、てなことになる。読んでいて視点がころころ変わるのはわざとかもしれんが、少々読みにくい。しかし、最後の土壇場&ラストは面白かった。


■ 樋口有介  ぼくと、ぼくらの夏  文春文庫

 主人公の春一は高校生。親父は刑事。父子の2人暮らしである。春一の彼女の麻子はヤクザの娘。同級生の度重なる死。自殺か、他殺か。春一と麻子は探偵となり、調査する。犯人探しとしてもよくできているし、会話もなかなかいい。特に春一と親父の何とも言えないやりとりがいい。美人の教師を親父の嫁にと企むのであるが。。。うん、人生いろいろだ。本書もおもしろかったが、イデース・ハンソンの解説がまたいい。


■ 樋口有介  夏の口紅  角川文庫

 恋愛経験もあり、年上の女性ともつきあい、生きる意味などない、なんて言うマセた大学生であった主人公の礼司。昆虫学者で、世間体を気にしなかった親父の死がきっかけで、キリコに出会う。このキリコ、学校へも行かず、服装、髪形にも無頓着であり、誰とも口をきこうとしない。変なヤツと思うが、よく見ると非常にかわいい。キリコ(季里子)のほうも徐々に心をひらいていく。そして礼司は、季里子に<初恋>をしたと自覚する。世間ずれしていない季里子がいい。ダイヤモンドの原石見つけたという、古典的なパターンであるが、なかなかよかった。


■ 百田尚樹  海賊とよばれた男(上)(下)  講談社

  出光興産の創業者・出光佐三の半生を描いたもの。本書での名前は国岡鐡造となっているが、政府要人等は実名で登場する。彼は人を大切にした経営方針を貫いた。タイムカードなし、定年なし、馘首なし。そして自分が正しいと思ったことをやり遂げる時には、決して群れない。当然敵も多くなるし、石油業界や政府も敵に回した。しかしながら彼の考えは、世の流れを十分読んだものであった。だからこそ戦ったし、また彼を応援する人物も現れたのだと思う。但しやり方が海賊なんである。出光興産の成り立ちと日本の石油の歴史がわかる。


■ 百田尚樹  永遠の0  講談社文庫

 0とはゼロ戦のこと。ライターの姉と就職活動中の弟が、おばあちゃんの最初の夫、宮部久蔵という人物のことを調査するこになった。彼は特攻で死んだという。当時のことを知る人物に会い、軍隊では命を惜しむ臆病者であったと、いう話から始まり、実は超一流のパイロットであり、人間愛に満ちた人物であったことが徐々に明らかにされる。彼らが話すゼロ戦のこと、特攻隊のことについては興味深く読めた。宙返りして相手の背後に付くことを得意としていたゼロ戦は当時は世界一の運動性能と言われていた。また爆撃機は通常は単独では飛ばず、護衛の戦闘機とチームを組んでいたこと、特攻隊は志願の形をとっていたが、その裏には人知れぬ葛藤があったこと、また敵兵からも勇敢で技量に優れた戦闘機乗りはリスパクトされていたことなど、国と国の戦いの先端に存在した人間の様子がよくわかる。物語は命を誰よりも大切にしてきた宮部久蔵が、どういう状況で死んだのかが解明される所でクライマックスをむかえる。戦争のことを知る為の本としては、本書と田原総一郎の『誰もが書かなかった日本の戦争』が双璧。


■ 平野啓一郎  日蝕  文芸春秋

 15世紀、パリ大学で神学を学ぶ主人公は『ヘルメス選集』を手にいれる為に、リヨンそして、フィレンツェへ向かう。そして、途中で立ち寄った村で終生忘れられぬ異常な体験をする。錬金術師ピエェルとの出会いと魔女狩りの名で処せられる両性具有者の焚刑。この焚刑の場面は凄い。死の直前、あるものを誕生させる(もちろん1人で)までの悶絶とエネルギーの爆発は、醜悪で同時にエロチックである。また真理探究者としてピエェルが忘れられず、自ら錬金術を試み、ある種の心の充実感を得るというのも良くわかる。第120回芥川賞受賞作。


■ ヒル・ナポレオン  成功哲学  きこ書房

 「きこ書房」って初めて聞いたが、なんかかわいらしい名前。『キャノンの仕事術』で酒巻さんが、ビジネス書を読むのなら翻訳物がいいってことで、本屋のその辺りを見て、古典的なコレを読んでみようと思った。普段はタイトルだけを見てスッと通り過ぎる本なんであるが。読んでみるとなかなかいい。使えるな、と思った。積極的な心の持ち方について、いろんな例を挙げてしつこく語る。特に「熱意」と「代償」はキーワードだ。本書でいう成功の定義とは<成功とは、他人の権利を尊重し、社会主義に反することなく、自ら価値ありと認めた目標【願望】を、黄金律に従って一つひとつ実現していく過程である>ということだ。それによって、「富と心の平安」を得ることが出来るという訳だ。


■ 弘兼憲史  これだけ違う!日本人と驚きの中国人  新講社ワイド新書

 著者は「中国人」と「日本人」を、「チャーハン」と「おにぎり」に譬えている。つまり中国人はバラバラで個人主義。日本人は団結して行動する。個人主義のいいところ、自分を優先させ、自分に関係のないことには関りをもたないこと。関係ないことは「没有(メイヨウ:「ない」という意味)」ですます。ドライだ。中国人気質のキーワードは、「個人主義」「義理人情」「面子」ということだそうだ。肩書きよりも個人としてのつきあい重視だ。著者の今後の生き方としては、この中国人の個人主義的なところ学びたいようである。社会の為にあくせく働きてきた中年以降の人には、いいかも。


■ ひろさちや  空海入門  中公文庫

 〈日本に最初に密教を紹介したのは、最澄であるが、最初の密教人間は空海である〉と著者は言う。自身も空海になりきり、著したところが面白い。一歩一歩登って行くのではなく、いきなり頂上から始めた男(空海)はやはり天才である。


■ ひろゆき  叩かれるから今まで黙っていた「世の中の真実」  三笠書房

 最近 YouTube をよく見ていて、ひろゆきの動画は面白い。切れ味が鋭い。で新刊書のコーナーにひろゆきの本書があったので読んでみた。<「忖度抜き」「タブーなし」>の発言が心地よい。まず、彼の語る日本の現状にはあらためてなるほどと思った。それは、<日本は「安い国」>であること。「世界競争ランキング」で2020年は34位であること。<海外諸国に比べて日本人の働き方そのものは非効率>だということ。<一人ひとりが自分で働き方を選べるほうがいい><学歴という目安がないと、そもそもの信用が得られにくい>。最近の若者はスマホは使っているが、<多くの大学生がパソコンを使いこなせていない><「苦労信仰」が日本人に根付いている>等、なんとなく気づいているようなことをはっきり語っているのがいい。現在フランスに住んでいるので、よけいに日本のことを客観視できるのかもしれない。


■ ひろゆき+ホリエモン+勝間和代  そこまで言うか!  青志社

 〈あの「2ちゃんねる」の開設者、ひろゆき。そして堀江貴文。そしてあの勝間和代の3名による座談会。これを「鼎談」と言うらしい。政治の話からプライベートの話まで巾広く語られる。生き生きと気さくにしゃべっていて、なんか同窓会って感じだ。でも実は勝間和代が一番上で、ホリエモンがその4つ下。ひろゆきがそのまた4つ下だ。それぞれの幸福感の違いなどがよく見えて面白かった。勝間和代のかなりのオタクっぷりがよくわかったし、ホリエモンは一番落ち着きがなかったし、ひろゆきはけっこう冷静で繊細であった。




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