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■ ドイル・コナン  シャーロック・ホームズの思い出  新潮文庫

 シャーロック・ホームズ物語の第2短編集。『白銀号事件』、馬を怒らすと怖いぞ。『黄色い顔』、隣に引っ越してきたのは妻の秘密の。。ラストは感動的。『株式仲買店員』、悪党兄弟の絆。『グロリア・スコット号』、カレッジ時代、親友トリヴァの父親の過去に犯した事件。探偵を仕事とする機縁となった。『マスグレーブ家の儀式』、名家の執事、隠された宝物のありかを見つけるが。。『背の曲がった男』、死んだと思っていた男に出会った夫婦の衝撃。『入院患者』、入院患者として身を隠すことにした男。ある医者に投資をして開業させるところまでやるとは。『ギリシャ語通訳』、ホームズの7つ上の兄、マイクロフトが登場。才能はホームズ以上であるが、行動はホームズに劣る。2人で道行く人の人となりを分析しあうのは面白い。『海軍条約文書事件』、ワトスンの友の為、海軍の秘密条約文書をホームズが体をはって取り戻す。『最後の事件』、ホームズの最大の敵、モリアティがついに登場。この男と戦うホームズの覚悟も凄まじい。最後は両者取っ組み合って、滝壺の中へ。。


■ ドイル・コナン  シャーロック・ホームズの冒険  新潮文庫

 シャーロック・ホームズ物語の第1短編集。ワトスンは結婚したので、久々にホームズと会う。ホームズは、この事件に登場するアイリーン・アドラーという女性うまくやられてしまう『ボヘミアの醜聞』。赤髪であることで組合をつくる。それは事件を覆い隠すものでしかなかった『赤髪組合』。花婿、そんなものは存在しなかったのだ『花婿失踪事件』。金塊護送車を襲った者と襲われた者、その後の結末『ボスコム谷の惨劇』。K.K.K(キュー・クラックス・クラン)は種を5つ送り、殺人予告をする『オレンジの種五つ』。変装の名人が乞食に化ける『唇の捩れた男』。鵞鳥の中に宝石を隠す『青いガーネット』。(昔読んでいて正体はわかっていたが、牛乳で飼いならせるの?『まだらの紐』。<愚かな君主や失政だらけ大臣から解放されて、世界的に大きな一大国家の市民となる>と信じるホームズが面白い。金持ちのアメリカ人の娘に逃げられた男は可哀そう『花嫁失踪事件』。家庭教師に雇われた女性は、身代わりだった『椈屋敷』。


■ ドイル・コナン  バスカヴィル家の犬  新潮文庫

 シャーロック・ホームズ物語における最大の長編であり、名作の誉れ高いのがこの『バスカヴィル家の犬』。西部イングランドのバスカヴィル家の当主の死。そしてその家に伝わる、眼が光り、火を吹く怪物犬の伝説。加えてその周辺には沼沢地が広がるという、気味の悪い事件。バスカヴィル家を引き継ぐ新しい当主とともに先ずはワトソンが乗り込み、その近隣の調査することになる。周辺の沼沢地というのがくせもので、野生の馬でさえも引き込まれ、ズブズブと沈んでしまうのを目撃することになり、恐怖感が掻き立てられる。ホームズもなかなか現場に現れず、不安な状況であった。本書の残り1/4くらいでホームズが現れ、事件が整理されていく。新しい当主を狙う者との対決、そして怪物犬の登場シーンは迫力があり、引き込まれる。ホームズがワトソンには秘密に現場に来ていたのをサポートしていたのが、いつものカートライト少年であった。


■ ドイル・コナン  緋色の研究  新潮文庫

 ご存じシャーロック・ホームズの第1の事件。シャーロック・ホームズとワトソンの出会い、そしてベーカー街に一緒に住む経緯が描かれていて面白い。この年でホームズ物を読むと少年物を読んだ時とは違い、ホームズが年下の若者である、というところが感慨深い。解剖学の造詣が深く、化学者としても一流のホームズであるが、ワトソンはホームズについて、<彼は驚くべき物知りであると同時に、一面いちじるしく無知であった。当代の文学哲学政治に関する彼の知識はほとんど皆無らしかった。…彼が地動説や太陽系組織をまったく知っていないのを発見したとき、私の驚きは頂点に達した>。これに対してホームズは、<なんでもかまわずに詰め込んでいると、いまに、なにか一つ新しいことを覚えるごとに、前から知っていたことをなにかしら忘れることになるにちがいない。だから役にもたたぬ知識のために、有用のやつがおし出されないように心掛けることがきわめて大切になってくる>。と言い張る。そしてこの物語であるが、本書の前半の第1部でホームズが殺人犯人を捕まえる。そして第2部がその犯人の長い物語となる。それを読むと、よくやったと犯人を応援したくなる内容であった。


■ ドイル・コナン  四つの署名  新潮文庫

 ご存じシャーロック・ホームズの第2の事件。テレビ映画でやっていて、異形の登場人物が強烈な印象に残ったので原作を読んでみた。この異形な人物(トンガという名)は、身長の低い種族の人間で、人食い人種であった。身軽で吹き矢を得意とする。ワトソン曰く、<その顔を見ただけで、見るものをぞっとさすほど気味が悪かった。私はあんな残忍な、野獣性をもった人間は見たことはない。小さな眼をぎょろりと気味わるく光らせ、厚い唇をむいて歯を見せ、半ば動物的な激怒を浮かべて、私たちにいがみかかるのだった>。タイトルの『四つの署名』は、後半にじっくりと犯人(トンガを相棒とした木の義足の男)から語られる。ちなみに、助手のワトソンはこの物語でモースタン嬢と結婚(第1回目の)をすることになった。


■ トゥーサン・ジャン=フィリップ  浴室  集英社文庫

 <危険を冒さなきゃだめなんだ、この抽象的な暮らしの平静さを危険に晒して、その代わりに。そこまで言って言葉に詰まってしまった。>。抽象的な暮らしとはおそれいるが、言葉に詰まるのもわかる。これと言ってやりたいことがないのである。当然やるべきことなんてのもない。しかし、ふとこのままでいいのかと振り返ることはする。そのままでええんや。なんにもするな。<翌日、ぼくは浴室を出た。>。そら浴室をただ出たからってやりたいことなければ(やるべきことでは断じてない)、一緒や。最終的には浴室に戻る。その間、何をしたかと言えば、ホテルに泊まって一日中ダーツをしたり、急に腹立て、恋人の額にダーツを当てて、あたふたしたり、入院してそこの先生にテニスに誘われて行くが、テニスもせんと人間観察したり(これがまたおもろい)である。まさにこんな大人にはなってほしくないNo.1かもしれん。しかし、読んでいておもろいのである。


■ 遠野遥  破局  河出文庫

 麻衣子という彼女のいる大学生が、新入生の灯に思いを寄せるが振られる。という恋愛小説であるが、なんか違和感がある小説。<突然、他人のために祈りたくなった>あと、<しかし、祈った後で気づいたが、私は神を信じていない。私の願いなど、誰も聞いてはくれないだろう>とか、<公務員を志す自分が、そのような卑劣な行為に及ぶべきではなかった>や、<私は麻衣子の彼氏だ。麻衣子の嫌がることはできない>とか、<私は灯に飲み物を買ってやれなかったことを、ひどく残念に思った>。悲しくて涙が出て、実はずっと前から悲しかったのかと思ったが、これまでに人生を振り返り、悲しくなる原因は実はないと思い至り、悲しくなくなる等、状況を分析して行動を決める、のはそうだがなんかAIロボットのようだ。もっと迷ったりしてもいいと思う。周りもりもみんなそうだと、少し違うと離れてしまう。そういう悲しみがただよう小説。2020年、芥川賞受賞作。


■ 戸梶圭太  ドクター・ハンナ  徳間書店

 外科医・石月畔奈、人を切って興奮する。サドかと思いきや、舐めさせるのもお好きなようである。内科医一族を敵に回し、孤軍奮闘。最後は手術ロボットで遠隔操作。さっさと切ってしまいたい外科医と、じっくり薬漬けでこねくり回したい内科医の確執、まあ実際あるやろな。


■ 戸梶圭太  なぎら☆ツイスター  角川書店

 タイトルの☆印がなかなかカワイイじゃありませんか。東京の高学歴でハイセンス?で将棋好きのヤクザ・桜井が田舎の町・那木良にのりこむ。那木良のヤクザ・室田組の若頭で、お調子者のハチャメチャな性格の迅は桜井にあこがれ、そのハイセンスさを盗もうとする。例によって出だしはごく普通だが、徐々におかしな具合になってくる。今回の一番おかしなヤツは、パソコン内の奇妙な生き物・シャンバラヤンに心を奪われた、うどん屋の息子・チューやんである。父親と揃って反復横飛びをする姿は不気味だ。ハイール・シャンバラヤン!


■ 戸梶圭太  湾岸リベンジャー  祥伝社

 愉快、愉快。一気に読んでしまった。走り屋の無謀な運転によって引き起こされた事故で妻を失った元レーサーが走り屋となって復讐を誓う。復讐も自分で思い立った訳ではなく、これまた同じ事故で孫を殺された怪しげな老人の依頼によるもの。これだけだとけっこうハードボイルドっぽいが、戸梶圭太にかかるとそうはいかん。後半は笑いとエロとグロのみだれうち。けっこう楽しめた。本文中に出てくる車の解説写真、映画のポスターやCDジャケットの写真、走り屋が集まる大黒PAの風景写真などのっている。臨場感があり、なかなかいいと思う。小説の中の手紙も誰が書いたんか知らんが、写真でのせてあった。これは笑える。


■ 戸梶圭太  溺れる魚  新潮文庫

 いや不思議な終わり方ですね。スピード感があり、それは小説の終わりでゆるむことはなく、そのまま突き抜けたような感じがする。ま、一応ある目的は果たせたって感じではあるが。導入部から一風変わった始まり方で、人の入り乱れ方は凄い。そしてそれぞれの人間の個性が強烈で、誰が主役なのかもはっきりしない。大手複合企業の専務、公安警察官、女装趣味の警部補、前衛芸術家、ヤクザ、そして元活動家等々。話も、複数の人物の視点から描かれながら進むので、同じ場面を3度くらい読まされたりする。人物の立つ位置の違いなどにより、非常に立体感のある小説になっている。現在映画のCMがガンガン流れているが、そっちも観てみたい。


■ 戸梶圭太  赤い雨  幻冬舎文庫

 <…でもこの国の、普通のごく平凡な人たちがどれだけ理不尽な社会に対する怒りや憎しみを長年溜め込んできたかた考えると…爆発が国そのものを吹き飛ばしてしまってもおかしくはないと俺は思うね>。赤い雨が降る時、人々の心の奥のそのマグマは爆発した。この小説の始まりは、泣き寝入りすると思っていたヤツが、意外にも強気にうって出て、非常に小気味いい感じである。しかし、そのうち団体で個人を攻撃するようになり、内容もエスカレートする。その辺りのおぞましさはこの小説のならではのもの。同著者の『レイミ』をそうであったが、非常におぞましくはあるが、激しく、スピード感があって面白い。


■ 戸梶圭太  レイミー聖女降臨ー  ノン・ノベル

 5人の若い男女がそれぞれ託されたものは、人体のパーツであった。そして、ある日それぞれが人体の各パーツを持ちより、再生させようとする。その人物は、それぞれが、本当に心を許すことができたと信じた「先生」(レイミ)と呼ばれる美女であった。しかし、5人は仲良く協力しょうという状態ではなかった。異国での「真実の子」と呼ばれる事件、そして、白天使に黒天使になにやら新種の生物??最後は、なんじゃこりゃ〜っ、って感じ。もうめちゃくちゃだ。


■ トニーたけざき  岸和田博士の科学的愛情(9)

 続いて第9巻。アホですねえ。こんなの声を大にしてお薦めできません。隠れてコソコソ読むのがおもしろい。第62話「日本防衛国軍のひみつ」もナカナカ。ミス・メロン、色っぽい。岸和田博士、渋い。このアホパワーは、なんとなく谷岡ヤスジ。


■ トニーたけざき  岸和田博士の科学的愛情(8)

 NHKの『漫画夜話』?とかいう番組で取り上げられていた。はちゃめちゃコミックで、いかにバカなことに真剣に取り組んでいるか、などという話題で盛り上がっていた。その話しぶりが、みんなえらく楽しそう〜、だったので早速本屋にGO!である。何とかジュンク堂で8、9巻をゲットした。で、この第8巻。期待通りおもろい。ほとんど笑いネタ。のっけの第48話『妖花ラ・マンゴンドラ〜愛人みだれ腰の巻〜』、いいですねえ。なんせ花は顔、根っこは女体のストレンジ・フラワー。これがけっこう好きもので。。。第50話『スーパーメット・ラブラブ大作戦の巻』の終わり方も素敵だ。久々におもろい漫画を読んだな〜って感じ。


■ 戸部田誠  タモリ学  文庫ぎんが堂

  過去にとらわれず、未来を憂いず、現在を精一杯楽しく生きるのがタモリ。目標を持たず、反省もしない。夢があるから絶望がある。<「『自分がいかにくだらない人間か』ということを思い知ることで、スーッと楽になる。…そして楽になると同時に、打たれ強くにもなるんですよ」>。番組も無理やり盛り上げようとはしない。流れに身を任せる。<場のリズムをつかんだときは、おもしろいし、うれしいい、自由ね。自分が完全になっちゃたんじゃないかと思うくらい、すごいいい気持になりますね>。「ネクラ」と「ネアカ」については、<根が明るいやつは、なぜいいのかと言うと、なんかグワーッとあった時に、正面から対決しない。必ずサイドステップを踏んで、いったん受け流したりする。暗いやつというのは、真正面から、四角のものは四角に見るので、力尽きちゃったり、あるいは悲観しちゃったりする」「でもサイドステップを肝心な時に一歩出せれば、四角のものもちがう面が見えてくるんじゃないか。そういう時に、いったん受け流したりして危機を乗り越えたりなんかする力強さが出るし、そういう男だと、絶対に人間関係もうまくいく」>と言う。巻末には、60ページにも及ぶ「大タモリ年表」付く。


■ 苫米地英人  正義という名の洗脳  大和書房

  面白いけど、危ないなあ。社会の利権の構造を暴露しまくりなので、そこで安住している人には嫌われるやろうなあ、と思った。例えばオリンピックのIOCやサッカーワールドカップのFIFA。また国際通貨基金(IMF)や国際決済銀行(BIS)。これらは世界を統一するという思想がある。それが正義で、但し、自分たちの都合のいいように、というオマケつき。日本相撲協会、NHK、そして電通。赤十字が民間団体であることも始めて知った。絶対的な「正義」というものはなく、あると思われているものは洗脳されているからであると言う。そしてその裏には利権が。ということだ。学校内でも、制服やランドセルの利権。生徒が教室の掃除をするのも労働力がタダなので、という訳だ。騙されないように、抽象思考を身につけろと言う。そのトレーニングとして、本を読むときは<本の内容に対して、頭の中で反論する>ことを薦めている。<正義とは法のもとの平等>である。但し法を守ればいいというのではなく、その法の精神を学べという。お薦めのモンテスキュー『法の精神』も読んでみよう。


■ 苫米地英人+DaiGo  DaiGoメンタリズムvsDr.苫米地”脱洗脳”  ヒカルランド

 なかなか刺激的な本であった。DaiGoが問いかけ、苫米地英人がそれに答えると言う形で進む。例えば、超能力について。人間同士が通信し合えるのは当然で、人類全部合わせて人間というのが彼の定義。霊界について。<そもそも「この世が霊界である」。「霊界は存在するけど、この世はありません」が正解で、霊界しかない>。占いについて。占い師はうそつき。カウンセラーは正直なので未来のことは言わない。宗教について。新しい宗教は墓場利権争いが厳しいので、なかなか入り込めない等等。独自の物理空間ではない、<情報場>(こそが霊)、<抽象度>(を下げるとエネルギーが出る)という概念も面白い。DVD付。


■ 外山滋比古  思考の整理学  ちくま文庫

 今さらながら、と思いつつ読んでみたが、なかなか刺激的であった。他人に引っ張られて動くグライダー型よりも自力で動ける飛行機型の勧め。知識は寝かしておくと純化される。自分が前に出るよりも化学反応が起こる触媒となれ。知識も不要なものは処分し、忘れること。知的活動の3つの種類。既知のことを再認する。未知のことを理解する。まったく新しいことに挑戦する。そして拡散と収斂等。忘れずにおこう。


■ 豊田行二  野望銀行  青樹社

 長編情報小説『野望銀行』とあるが、改題前の『ラブ・オンライン』のほうがあっている。二流私大出の銀行員が、女子行員とのスキンシップを武器に出世街道を行く。男は「まめさ」と「体力」だというような小説。面白い。近くのローソンで売ってます。


■ P.F.ドラッカー  マネジメント  ダイヤモンド社

 <成果は組織の外部にしかありえない>。一番印象に残った言葉だ。この言葉は<マネジメントの領域は組織の内部にあるなどということが前提とされてきたために、組織の内部における努力に焦点を合わせるようになってしまった。組織の内部に存在するものは努力だけである。内部で発生するものはコストだけである>という文章に続く。マネジメントも起業家精神を持たなければならない。<変化ではなく沈滞に対して抵抗する組織をつくることこそ、マネジメントにとって最大の課題である>。そして企業は何の為にあるのか。それは<顧客を創造することである>。営利追求ではいけない。またドラッカーは人間主体であることを強く語る。そこがいいところだ。人間は弱いものであることを前提とするが、<組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある>ということだ。


■ P.F.ドラッカー  経営者の条件  ダイヤモンド社

 エキサイティングであった。現代の古典とも言うべき本。古典ってけっこうエキサイティングなのだ。そして誰もがエグゼクティブなのだ。だから知識労働者だと思う人は、本書を読むといい。成果を上げる為には、どうしたらいいか。例をいろいろ挙げながら、解説する。重要なことを決定するのは組織の長だけではない。それぞれの役割を持ったものは、エグゼクティブたるべきなのだ。人の強みを生かせ。1つのことに集中せよ。やりたい事ではなく、やるべき事をせよ。新しいことを強力に進める唯一の方法は、古いものの計画的な廃棄である。まあ、こう書いてみると当然のことばかりだが、読んでいて面白いのが古典たる所以だ。


■ 鳥居みゆき  夜にはずっと深い夜を  幻冬舎

 異彩を放つお笑い芸人と言えば、鳥居みゆきだ。何を言い出すか、ワクワクする人物だ。その鳥居みゆきの初めての著書。ぶっ飛び感は健在だ。タイトルもユニークだし、文章のセンスもあると思う。破滅的であるが、読めば心の浄化作用はある。暗さの中にもアッケラカンとしたところがあって、歌手の中島みゆきを思い出す。あれれ、「みゆき」繋がりだ。<あなたの無邪気さを破壊>(←帯の言葉)されてください。但し、赤い地に黒い字のページは読み辛い。なるべく明るくして、なんなら眼鏡もかけて読みましょう。


■ トルストイ  アンナ・カレーニナ 下巻  新潮文庫

 へへへ、読んだ、読んだ。満足、満足。愛に生きたアンナ。そしてトルストイの分身と言われている(解説による)、非常に真面目なリョーヴィン。その妻で、本当にかわいらしいキチイ。上巻で気になり、中巻で登場しなかったワーレンカもこの下巻では再登場する。しかし、この無私で献身的な人物は、下巻では思ったほどの活躍はなかった。欲を言えば、もう少し活躍してほしかったが、トルストイも男やし、その役割(形而上学的考えと形而下的?考えの融和)は第2の主人公(いや、第1と言うべきか?とりあえずアンナを第1とした場合)のリョーヴィンが引き受けたって感じもする。リョーヴィンは、非常に哲学的思考をするが、頭でっかちの考えにならないのが良い。地に足がついてるって感じ。理想的な人物であるな。


■ トルストイ  アンナ・カレーニナ 中巻  新潮文庫

 ストーリー自体はなんてことなとないが、1つ1つその時の気持ちを表わす態度やら言葉やらが、さもありなん、て感じだ。リョービンとキチイは誤解が解けて結婚するのであるが、その互いに好きあっている時の様子なんぞは、読んでるほうが照れ臭くなるぐらいだ。2人だけにしかわからない、頭文字だけの会話なんかがそうだ。おい、おい、何しとんねん、と思わずツッコミをいれたくなる。アンナは世間体を気にする夫、カレーニンの元を去り、ボロンスキーと旅にでる。ボロンスキーとの間にも子供ができるが、カレーニンとの子のことも忘れられず、会いにいったりする。そして、いつのまにやらボロンスキーとの関係も怪しくなっていく。ところで、上巻で気になったワーレンカが、中巻では出てこない。どこ行ったんや?


■ トルストイ  アンナ・カレーニナ 上巻  新潮文庫

 いや、思ったよりも結構恋愛物であるな、これは。上巻まででは、とくに大きな盛り上がりはない。まあ人物紹介って感じでもある。世間体を第一とする旦那にあいそがついたアンナとちょっとすれたヴロンスキーの恋物語。今んとこ気になるのは、やっぱりキチイが心酔しているワーレンカかな。あんまり自分の感情を表に出さないが、このままで済みそうにはない。


■ トンプソン・ジム  グリフターズ  扶桑社ミステリー

 著者のジム・トンプソンは、スタンレー・キューブリック監督の映画『突撃』、『現金に体を張れ』の脚本家で、サム・ペキンパー監督の『ゲッタウェイ』の原作者・脚本家である。映画にしたいようなクライムミステリーというところ。本書『グリフターズ(詐欺師たち)』も製作マーティン・スコセッシ、監督スティーブン・フリアーズ、脚本ドナルド・E・ウェストレイクで映画化されている。本書の主人公はロイ・ディロン、そして14歳年上の母親リリィ・ディロン、バツイチで年上の愛人モイラ・ラングトリ。3人とも詐欺師だ。年の近い母親リリィと愛人モイラは、見た目が似ている。それがこの物語のキーになっている。ぎりぎりで生きている詐欺師たちの孤独さがハードに描かれている。


■ トンプソン・ジム  残酷な夜  扶桑社

 なんと言っても、ラストがショッキング。こんな小説が好きだとはなかなか他人には言いにくい。だんだん小さくなっていった殺し屋、カール・ビゲロウ。最後に残ったものはなんなんだろうか?安心して読ませてくれない作家、ジム・トンプソン。『内なる殺人者』も復刻されているので、楽しみ。


■ トンプソン・ジム  ゲッタウェイ  角川文庫

 銀行強盗名人、ドク・マッコイと妻のキャロル。2人の逃避行(ゲッタウェイ)が始まる。逃亡者は隠れるところも凄い。池の中にある斜めになった人ひとりがやっと入ることができる洞窟。ここに妻キャロルとともに(もちろん別の穴)隠れたり、糞の山に出入り口をつけたところにも隠れたりする。こんなところに隠れなければならないなんて、と妻のキャロルは愚痴るが。またドク・マッコイは人殺しの名人でもある。タイミングが実に良い。躊躇せずにスパッと殺す。<タマニハじょなさん・すいふとデモ読むがいい。モット世間ガヨク見エルヨウニナルカラ>は、文庫本P.81に出てくる。最後に到達するエル・レイの国は不気味だ。


■ トンプソン・ジム  ポップ1280  扶桑社

 面白い。主人公は、人口1280のポッツ郡の保安官のニック・コリー。<夜も眠れない。ほとんど一睡もできないと言っていいだろう。…それで、おれは考えに考えた。とことん考えた。そして、とうとう結論を出した。おれの結論は、おれにはどうしていいか皆目見当がつかない、というものだった>なんて聞くと、けっこうお人好しの駄目男かと思いきや、めちゃめちゃ悪いヤツであった。狂ってる。。。保安官の選挙に勝つために対立候補の悪い噂を流す。これがまた巧妙で、直接ズバリとは言わない。「私は彼の悪い噂は信じちゃいない!」なんてことを突然言いだし、周りの人々がどんどん尾ヒレをつけて、雪だるま式に大きくなるのを待つのだ。殺人なんてなんとも思わんヤツで、真犯人は自分ではないように仕向けていく。そんなことをしても、自分が悪いなんて、コレっぽちも思っちゃいない。主人公の保安官の語りで話が進み、彼の奇妙な論理にのせられ、不思議にそんなに悪いことをしてるような気がしない。気付いたら、とんでもないことをしている。著者は、キューブリック、キングが敬愛するというパルプ・ノアールの伝説的人物で、一時はすべて絶版になっていたらしい。映画化されている作品も多く、あのマックイーン主演の『ゲッタウェイ』もそうだし、最近では『グリフターズ』がある。本書『ポップ1280』そのジム・トンプソンの代表作であるそうな。これを読んだあとは、スウィフトの『ガリヴァ旅行記』を読みたくなる。あと『内なる殺人者』も読んでみたい。




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