〓 | 読んでいて辛くなる。知能が低く、養護学校に通っていたチャーリイが脳の手術を受けることになった。手術は成功し、知能は高まり、多言語を習得し、医学の論文も読み、書くことができた。そして手術をした教授たちよりも凄い存在になった。同時に手術を受けたねずみのアルジャーノンも知能が上がっていったが、ピークを過ぎると逆に知能低下が始まり、異常行動をとり始め、やがて死んでしまう。その様子を見たチャーリイは自分もそうなることがわかっていた。やがて、以前出来ていたことが出来なくなっていく。自分が書いた論文の意味がわからない。覚えたことがわからなくなり、以前の幼児のような知能に戻っていくのだ。自分は元の養護学校に戻るので、あの、ねずみのアルジャーノンの墓に花束を、と願うのであった。知能が低下いていく過程は読んでいて辛くなるが、愛した女性と本当に一体になれたことは幸せであったと思う。それにしても、ねずみと人間を同時に実験を行うというのは、どうなんかなとは思う。 |
〓 | 「死に至る病」とは絶望のことである。ほとんどの人間が絶望に陥っている。絶望を認識していないのも絶望なのである。そこから救われるのは信仰のみである。理性的にこの世の真理をわかったところで、なんになる。おのれにとっての真実こそが大事。永遠の自己を得るには絶望を経由しての信仰、キリスト教の信仰である、と著者は言う。あとに続く実存哲学への道をひらいた著作であるらしい。ヘーゲルが世界を理性的に体系化してみせたことに対する反発であるという。哲学というものは「生きがい」とは別物であろうが、おのれの存在の意義は解明してくれない。信仰というものは、その意義を感じさせてくれるものかもしれない。信仰に値するもの(なんて考えがいかんと著者に言われそうであるが)がキリスト教しかないかどうかはわからんが。ウィトゲンシュタインはキェルケゴールのことを、「深遠すぎてわからない」と言った。 |
〓 | 樹木希林も亡くなってから凄い人やったんやなあ、と思う。本のタイトル通り、あるがままを受け入れる。物に執着しない、俯瞰して見る、統計を信じない、若くなりたいなんて思わない。楽しむのではなく、面白がる。キレイなんて一過性。そして「人は死ぬ」と実感できれば、しっかり生きられる等。時々読んで心を補正したいと思わせる本。心のゼロトレ。 |
〓 | 木々高太郎は江戸川乱歩につぐ探偵小説家として注目された。最初は医者を目指してたようで、生理学の博士号を取り、あのパブロフの日本人としての最後の弟子でもあったらしい。探偵小説のデビュー作が、表題作の『網膜脈視症』。精神科医の大心池が探偵役となる。フロイト理論などが出てくるあたり時代を感じさせるが、精神分析もそんなに無理もなく、読みやすい。網膜脈視症とは、自分の視細胞の血管が見えてしまう症状のようだ。普通の人は、いつも同じところにあるので、習慣的に分からなくなって、邪魔にならないらしい。同じく、大心池先生の活躍し、精神分析を行う『就眠儀式』、そして偽の癲癇を見破る『妄想の原理』。自分の妻に薬のテストを行うが、殺してしまい、その後死体を愛することしかできなくなった天才医学者を描いた『ねむり妻』。小児病の条件消失の危なさを示した『胆嚢』の5篇からなる。どれも論理的で読みやすい。けっこうアカデミックでもあり、面白かった。現代のさまざまな事件についても、精神分析の観点から大心池先生に解説をお願いしたものだ。 |
〓 | 人類は非常に未熟な状態で生まれることにより、本能がこわされる。文化とはその代用品。人類の松葉杖である文化とは共同幻想であり、私的幻想と共同幻想の乖離により、いろんな精神障害がおこる。また人間の欲望は満たされることがなく、その過去を抱えることにより、過去から未来へという「時間」というものを人間は発明した。 |
〓 | 先日NHKのドラマ10でやってましたね。主演の河合優実よかったですね。ダウン症の弟役・吉田葵、母役の坂井真紀、祖母役の美保純もよかった。やはり原作から面白い。心筋梗塞で亡くなった父、大病をして車椅子生活になった母、ダウン症の弟、認知症が進む祖母。そんな環境の中、ネットで家族のことを書いて評判になり、本をだし、ドラマにもなった。何しろ文章が面白い。自ら<100文字で済むところを、2000文字で書く>作家としている。読む人を、ただでは帰さへんで、って感じ。ドラマでは河合優実のキャラとばっちり合っていた。<愛したのが家族だった>というのは、家族だから愛するもの、というのではなく、愛する対象として、家族を選択した。という感じ。 |
〓 | おもろい。これぞエンタメ、サバイバルゲーム。最初からテンション高く、あきない。最後の盛り上がりは『黒い家』に似てなくもないが、この本の方がSFっぽく、不条理感はある。究極の「美味しんぼ」と言うか、貴志祐介、「くいだおれ」の巻。先日買った、マルロ・モーガンの『ミュータント・メッセージ』も舞台が同じオーストラリアで、アボリジニ族が出てくる。単なる偶然とは思えん。(偶然か) |
〓 | いやいや、最後は盛り上がりました。おもろい。表紙から想像すると宗教的、幽霊的な話かと思ったが、めちゃめちゃ社会派であった。保険金をせしめる為の殺人。著者も生命保険会社に勤務経験があるだけに、内情などもわかって面白い。頭に血が上っている客に応対する時には冷たいオレンジジュースを出すとか、机の上に凶器になるような重たい灰皿などは置かないとか。また業界用語で、モラルリスク(道徳的危険)と言うのは、人間の性格や精神に起因する危険のことで、これが頭に付くと犯罪がらみの意味となる等。また京都、大阪舞台になっているので、出てくる地名にも親しみがわく。南海本線のすぐ近くに長年住みながら、日本最古の私鉄であるとは知らなかった。…香水の匂いのきつい女には注意しよう。<生命保険とは統計的思考を父に相互扶助の思想を母として生まれた、人生のリスクを減殺するためのシステムである>、なるほど。第4回日本ホラー小説大賞受賞作。著者は1959年、大阪生まれ。 |
〓 | ピカソは「私は恋愛の情にかられて仕事をする」と言った。ここには彼が何を為したかではなく、何者であったかが示されている。フェルナンド・オリヴィエからオルガ・コクローヴァ、マリー・テレーズ、フランソワーズ・ジロー、ジャクリーヌ・ロックらと生活をともにし、彼女らに対しの自分が何者であったかを描きつづけた。その膨大な量、及びその激しさに圧倒させられる。おだやかなピカソ、若い牡牛(ミノタウロス)になったピカソ、老醜をさらすピカソを見ることができる。図版も多く、今まで見たこともない作品も多かった。『S・V・P』『赤い肘掛け椅子の大きな裸婦』『馬に突きかかる牡牛』を見よ。反吐が出るほど激しく、えげつない。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズの10冊目。初の長編で読み応えがあってよかった。マイセン国の王子ユリヤが、護衛の女性・多華子とともに四宮大学を訪れる。ユリヤ王子は、七瀬舞衣に結婚を申し込み、沖野にマイセン国での王立科学研究所を任せたいと申し出た。並行して進むのが、沖野の東理大時代の仲間・袖崎が四宮大学の学生・入江を砂漠緑化計画という怪しげなことに巻き込んでいるという事件。実際は大麻に代わる新しい薬物の合成であった。王子の護衛・多華子は七瀬への対抗意識を抑えきれない。また沖野の七瀬への思いが見え隠れして面白い。長編の方が人物描写も深まっていいと思う。多幸感を覚えるなどの作用がある向神経薬の<テトラヒドロカンナビノール>は実際に存在するようだが、<イワケビラゴケ>は実在するのかな? |
〓 | Mr.キュリーシリーズの9冊目。若者を救うつもりで混入した、アルコールの代謝を阻害するというシアナミド(第一話)。地盤の軟弱さ、そして産業廃棄物を自室にためんだ為の地盤沈下が体調不良の原因であった(第二話)。麻薬常習犯をあぶりだすための、麻薬検査の回避薬という嘘(第三話)。スニーカーへの防水スプレーによって肺の炎症が起きていた(第四話)。解熱鎮痛剤の服用による喘息症状。明晰夢を見る為に認知症の薬を盗む(第五話)。おせっかいを自認する七瀬舞衣と徐々に七瀬を頼り始めた沖野春彦の関係も面白くなってきている。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズ8冊目。今回特に印象が残ったのは、第4話の『化学探偵と心の枷』。四宮大学の庶務課の七瀬舞衣に恋愛相談に来た女子大生。同じ大学の彼が忙し過ぎて会う時間がとれない、というもの。その彼は、土日の休みもなく実験をやりつづけているが、思うような成果が上がらなく、体調も悪くなり、精神的に追い詰められていたことがわかった。こころの病に侵された学生。その病の原因の1つが、実は、新しく導入した設備から発生する低周波であった。他の人には聞き取れない低周波が聞き取れ、それによってストレスを感じ、体調不良に至ることはままあるようだ。その他意図せず覚醒剤をつくってしまった学生の話。未成熟なライチにヒポグリシンという毒性の物質が含まれていること。ナトリウムは、他の原子と結合すると安定しているが、単独の状態では水と激しく反応するので危険であること。街路樹に使われるキョウチクトウには、心臓に対する強い毒性がること等。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズ7冊目。時は1999年、Mr,キュリーこと沖野春彦も理学部3年生で、家庭教師のアルバイトをしている。相手は中学3年生の信希。信希は好きな女の子の為に、炎色反応を利用して、<環水平アーク>に似せた水平でまっすぐな虹をつくってみせた。<赤はリチウム、橙はカルシウム、黄色はナトリウム、緑はバリウム、水色は銅、青はリン、紫はカリウム>。時は過ぎて2003年、Mr.キュリーも博士課程に進む頃、信希は大学に合格し、沖野に報告に行く。北海道に行った女の子からの手紙の謎を沖野に解いてもらうことになる。その他、赤チンは水銀が含まれているので、最近はあまれ使われない。不安定で<水や空気と接触した瞬間に激しく燃え上がってしまう>カリウム。黄色いナトリウムランプ。緑色のラン藻。色の吸収には共役二重結合が重要になる等。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズの6冊目で初めての長編。読んだ充実感は長編の方があるかな。今回の主人公はアメリカからの留学生エリー。16歳で大学に入学した天才。神から才能を与えられし<ギフデッド>と呼ばれる。彼女が挑むのが<全合成>。全合成とはなんじゃ?Mr.キュリー曰く<自然界で作られる物質のことを、『天然物』と呼ぶ。全合成というのは、それを人の手で一から合成することだ。…『入手可能な試薬から目的物に至るまでの合成ルートを確立する』という研究だ>ってことです。エリーを受け入れ担当は当然七瀬舞衣。エリーが研究するに至った経緯である、二見雄介との話。天才と天才でない化学者としての在り方などが語られて面白かった。 |
〓 | シリーズ5冊目。『化学探偵と無上の甘味』、ニトログリセリンは甘い、というのは置いといて、ミラクルフルーツ登場。なんと次に食べたものを甘く感じさせるというから驚きだ。『化学探偵と痩躯の代償』、タバコはビタミンCを破壊する。『化学探偵と襲い来る者』、PCRという手法を使えば、DNAを何万倍にも増やせる。『化学探偵と未来への対話』は若者に対するエールだ。『化学探偵と冷暗の密室』、七瀬舞衣最大の危機。 |
〓 | Mr.キュリーシリーズ、4冊目。今までの登場人物もいっぱい出てきて、だんだん厚みを感じられるようになってきた。トリック等にはいつも化学ネタがある。今回面白かったのは、MOFと呼ばれる金属有機構造体だ。<金属と有機構造体が相互作用して作られる、ネットワーク構造を持つ物質>だそうで、この物質の凄いのが、<枠の中に、水や金属、気体なんかを取り込んだり、逆に放出したりできる>ということだ。Yahoo!で調べてみたが本当にある。その他、塩化カルシウムは凝固点を下げるので、雪をとかすために使われたりするそうだ。 |
〓 | このシリーズの1、2、より化学の専門ネタはそんなに多くなく、人物や物語が幅を効かせてきた感じがした。今回は、ドーピングの話、ゴムアレルギーの話、犬を救うための抗がん剤の話、見えない毒の話等。登場人物も大活躍?七瀬舞依はスタンガンでやられるし、沖野と同じ研究室であり、ライバルでもあった氷上も登場する。 |
〓 | Mr.キュリー、その2。今回はテルミット反応。過酸化水素水で色白になれる?青酸カリはアーモンドのような香ばしいにおいはせず、実は無臭である。生分解性プラスチックのPBS、それを石油からではなく糖類の発酵から作り出そうというバイオプラスチックの研究。光る工芸品のウランガラス製品等々。化学の豆知識満載で面白い。もちろん、庶務課の七瀬舞衣と沖野春彦准教授のコンビも活躍する。 |
〓 | 軽いタッチのミステリ。なんか『ビブリア古書堂の事件手帖』と雰囲気は似てる。主人公は大学の化学の准教授、沖野晴彦。そして大学庶務課の新人職員、七瀬舞衣。周辺で起きる事件を化学で解決する。全5話。それぞれ、元素周期表、ホメオパシー、レメディ、粉末ABC消火器、ニトロセルロース、HIV、クロロホルム、指紋スタンプのことが、ちょっとわかる。 |
〓 | ある朝起きると、女に変わっていた。そして5年後にタイムスリップしてた。しかも、ベッドには若い男が寝ていた。なんとなく宮部みゆきの『レベル7』を彷彿とさせるが、人格だけでなく、肉体までしっかり女になっていたのだ。いままで男であった主人公が女になって、体をもてあます描写が面白い。けっこう複雑な人間関係がでてくっるが、一気に読んでしまった。作者は年齢、性別不詳の覆面作家であるらしい。 |
〓 | ワードワークを強いる会社に勤めている主人公の青山は、かなり疲れていた。電車に飛び込みそうになったところを「ヤマモト」と名乗る男に救われる。同級生だというが思い出せない。何故か気にかけてくれて、頻繁につきあうようになる。そして彼の一言で、会社を辞める決心をする。本当に大切にしたいものは何か、を気づかせてくれたのが「ヤマモト」だ。自分が幸せにならない仕事を辞めることは、いいことだ。というのが今の日本にもっと浸透してもいいかもしれない。 |
〓 | 『バンカーなんか怖くない』の前編である。読む順番が逆になった。ユウ・ナカガワは漢字で書けば、奈加川友であった。祖父の経営するドライビングレンジで球拾いを手伝う。拾う代わりにサンドウェッジで打ち返してたのでうまくなった。賞金稼ぎで試合に出場。初めての試合で、タイガー・ウッズの写真を見ながらアプローチをするところは微笑ましい。弟のケンとの意気もぴったりだ。その他、ユウの周りの人間たちも明るく、いい人たちばかりだ。ソーセージのような「スパム」のサンドイッチも食べみたい。読み応えはそんなにないが、明るい、ライトな小説ってことで、まあいいっか。。(追記)あ、そうそう、最後の決め技、パットが転がり過ぎないようにバックスピンをかけたのはイカスぜ。サンドウェッジパットのなせる技。 |
〓 | アイアン3本で勝負する16歳のゴルファー、ユウ・ナカガワのお話。3本のアイアンは、5番、7番、サンドウェッジだ。ティーショットはいつも5番で200ヤード飛ばす。2打目は7番で、アプローチがサンドウェッジだ。そしてパットもサンドウェッジの刃で行う。ある試合でサンドウェッジの刃がかけてしまった。その切れるようなサンドを求めて製作者を探す。舞台がハワイであることで、釣りやらサーフィンやらの話が挟まれる。話の設定は面白く、スイスイ読めるが、話がお決まりで軽すぎる。アメリカ映画の『ベストキッド』てな感じだ。ハワイが舞台なんでまあいいか。著者がファンクラブを作って、イベント好きそうなのも、まあいいっか。 |
〓 | 「不思議な…」とあるが、実は不思議でもなんでもない。あんな奴いるいる集だ。上司編と部下編に分かれる。調子のいいやつ、勘違いしているやつがやはりどこにでもいる。<コンピューターを仕事と選んだ以上、あれもこれもいじくってみて、時に壊したりなんかしながら、それを楽しむことです。…そうしたことをおもしろがって、どこまで好奇心を維持できるか、それがある意味では技術者としての賞味期限ともいえるのです>。これは技術者だけに当てはまるものではない。つまらん、と思ったら何かを変えてみよう。それがすべての基本だ。 |
〓 | 主人公は、ヨーロッパの不良少年風、ショートカットでお尻の小さい、文学部の女子大生。男から見て、こんな女の子がいたらなあ、と思う。そして、探偵役は、四十少し前の色白でやさしい眉の落語家、春桜亭円紫。細かい心くばりのできる、粋な男である。殺人事件が起こる訳ではない。日常のふと通り過ぎてしまいそうな「何故」に、江戸落語好きの主人公が質問し、円紫師匠がやさしく答える。推理小説でもない、ミステリーでもない、師弟の純愛(プラトニック・ラブ)小説である。ところで、主人公の名前は? |
〓 | 『悪夢のエレベーター』の続編。前作はちょっと洒落た感じがあったが、この続編はぶっ飛びだ。エレベーターを出て爆発した。三郎、カオル、マッキーそれぞれが動く、動く。周りの人間関係も膨らむ、膨らむ。前作の味とは全然違う。続編の域を超えている。ちょっとズルイなと思ったのが、突然登場してくるジェニファーだ。実はマッキーは、もう一人現場に連れてきていた、なんてアリか?この強引さはビックリした。その後、けっこう活躍しているんで、重要人物だ。ご紹介遅れまして、なんて初めてだ。マッキーに語らせる<酔っている人間ほど嘘をつく>は、名言集に入れておこう。 |
〓 | おもろい。設定がエレベーター限定にしているのも新しい。ありそうでなかった。中で繰り返されるアホな会話。だけど単なるアホ話ではなかった。一応筋が通ったというか、裏があるということが途中からわかる。何やら『スパイ大作戦』のようだ。と言ってもトム・クルーズの映画ではなく、昔テレビでやってたアレだ。このまま終わるかな、と思わせといてのラストの捻りがまたいい。自殺を救おうとする説得で、<きっと、今夜よりも辛いことが、君を待っている>とは、なかなかのもんや。 |
〓 | カント、デカルト、ニーチェ、キルケゴール、パスカル、ヘーゲル、ソクラテスの7人の哲学者について、彼等の生活ぶりなどからその人となり及び思想を語る。外交的で陽気なカントはほとんど毎日、友人や知人を昼食に招いた。単純明瞭なものこそ真理であるとしたデカルトは、病気や苦痛を克服するには、病気や苦痛そのものから気をそらすことであると考えていた。9歳の頃から作曲をしていた音楽家ニーチェは、実は生の弁護人であった。憂鬱な男、キルケゴールは婚約していながら、何故結婚しなかったのか。奇蹟を体験したパスカルは、理性の最後の一歩は、理性を超えたものが無限にあることを認めることにあると考えた。ゲーテとも親交を深めていたヘーゲルは身長157cmで風采は上がらなかったが、結婚をし、家計簿をつけ、そして健康であった。死を前にして、私より楽しい、善い生涯を送った人間があるとは認めないとソクラテスは豪語した。7人とも生き生きと紹介されていて、非常に面白い本であった。 |
〓 | 「朝ドラ」とは言うまでもないが、毎朝やっているNHKの「連続テレビ小説」のことである。『ほんまもん』にハマり、最近では『純と愛』を観て、そのまま『あまちゃん』に突入して大ハマり。その後は現在放映中の「わろてんか」までずっと観ている。この本は2010年代の朝ドラを中心に語っているので、そのほとんどは面白く読めた。『まれ』が<人生なめ過ぎな主人公>と紹介されているのには笑った。『まれ』のオーディションで土屋太鳳に敗れた清水富美加(まれのライバル役で登場)のエピソードは興味深い。特別枠で紹介されている『てるてる家族』(石原さとみ主演)はBSの再放送で観て面白かったが、当時はあまり視聴率はよくなかったようで。あの『おしん』はいつか観てみたい。誰か『ほんまもん』を語ってくれる人はおらんかな?DVDも出てないし。。 |
〓 | 主人公はオンニョニという。色白で端麗な顔立ちの愛くるしい少女である。何事にも興味深々で李鐘海のところで医術を学ぶ。石合戦で負傷した宦官の韓乃温の怪我の手当てをしたのが縁で、妾になれというのを断り、その代わりに宮廷社会に入る。王の食事をつくる厨房で働くも、学問の才も見い出され、若くして宮女たちに学問を教える役割もする。若き才能に各部署から引き手あまたの状態となる。宦官の韓乃温にしつこく付きまとわれながらも健気に生きるオンニョニ改めチャングムに胸キュンとなる。 |
〓 | 松岡正剛の365冊の1冊。金日成までの朝鮮半島の歴史を描く。特に興味深かったのが、現在の金日成(金正恩の祖父)以前の朝鮮であった。高句麗、百済、新羅の三国時代から統一新羅時代、高麗時代、李氏朝鮮時代、そして植民地としての朝鮮を経て、今日の朝鮮となる。植民地としての朝鮮とは、日本が朝鮮を植民地としていたことだ。そして、ロシア、中国が絡んだ結果、日清戦争、日露戦争となった。視点を変えれば、朝鮮は常に外圧を受けてきた。ソ連、中国、日本、そしてアメリカからの。日本は秀吉時代に失敗しているが、その後朝鮮に開港を強制し、日清戦争の後、朝鮮を植民地とした。そして金日成による抗日パルチザン活動、そして第二次世界対戦での日本の敗戦により、朝鮮は独立化に進んだが、アメリカ、ソ連が朝鮮の統一を許さなかった。朝鮮戦争は現在は休戦状態となっている。著者もいうように本当の統一は、外圧によるものではなく、自らの意思で成し遂げなければならないのであろう。文化面からみれば、グーテンベルグよりも早く印刷技術があったことや、東洋最初の天文台をつくったことなど、驚くことが多い。 |
〓 | 北朝鮮労働党の工作員、日本名「蜂谷真由美」。あのKAL858便の爆破犯人、金賢姫の全告白の上巻である。金勝一(「蜂谷真一」)とともに計画を実行したが、逃走できずに正体がばれ、用意していた毒を飲むが、死ねなかった。そして全てを告白する。面白い。彼女は頭が良く頑張り屋で、学級委員長タイプだ。また金勝一との大旅行(平壌→モスクワ→ブタペスト→ウィーン→ベオグラード→バグダッド→アブダビ→バーレーン)の際にも素直で、細やかな心の動きがある。(大韓航空KE858便はバグダット→アブダビ間であり、ここで爆薬をしかけ、アブダビで乗り換える)。バーレーンで正体がばれ、ソウルに連れてこられ、韓国と北朝鮮との違い(自由でリッチである)に驚く。そしてだんだん自分の犯した罪に気づいていく。美人で聡明であるが故に工作員に選ばれた金賢姫。爆破犯であるが同情してしまう。しかし、頑張り屋が変な使命感をいだくと恐い。下巻は、彼女の生い立ちと工作員としてのどう教育されたのかというもの。非常に楽しみである。 |
〓 | 第5章に柳川先生が紹介されている。あやつり人形のように歩き、体当たりのような突きを放つ。正に柳川流だ。この本の編集者が和道会に取材の依頼をし、その電話をとったのが、なんと事務局長をしていた柳川先生であった。そして<その技ならば、私も得意としているので、取材に応じることができる>と答えたという。いいですねえ。その他、柳川先生も注目していた肥田春充の強健術。肥田春充の基本姿勢である、腹を突き出し立っている写真は、今だにちょっと違和感がある。ポイントは、”腰腹同量の力”だ。『スーパーボディを読む』の著者、伊藤昇の胴体力。ヒクソン・グレイシーとヨガ。太極拳と櫨(本当は木へんが無い)山初男が紹介されている。末端の手足の力ではなく、胴体力ということで言えば、あのヒョードルの強さは胴体力そのものだと思う。 |
〓 | この本は2004年春にBSで放送されたものを再構成したらしい。インタビューアーが糸井重里というのも面白いと思った。2003年はイチローメジャーリーグで212本の安打を放ち。翌年の2004年には262本を放ち、メジャーの年間安打記録を塗り替えた。そんな頃。イチローは小学校に野球部がなかったので、自分で練習した。<毎日、投げて打って、ノックを受けて、夜バッティングセンター行って>。で、漫画の『キャプテン』みたいな練習をしたそうだ(『キャプテン』が気になる)。そして宿題をちゃんとやる。いやなことをやると野球をやりたくなる。やりたいと思って練習をやると、<いろんなことが、こう、うまくまわってくるんですよ>という。そして意外というか、へえと思ったのが、イチローがお金について語るところ。<ぼくは、ものすごく小さい家で育っているんですよね。それが、ぼくのすごいコンプレックスだったんですよ>。そうだったのか、と思った。 |
〓 | ボクシング・カンガルー(マチルダ)の冒険。そしてそれを取り巻く人間達。芸能エージェントのビミー、元の飼い主のビリー・ベイカー、カンガルーのマチルダとタイトルを賭けて戦うことになるリー・ドカティ。その他、スポーツライター、ボクシング・マネージャー、マフィアの大物など怪しげな人物が出てくる。史上初のカンガルーの世界ミドル級チャンピオンを誕生させようとする人々、そしてそれをなんとか阻止しようとする者たち。もう設定自体でおもろいし、読んでまたおもろい。なんも知らん(知ってるのか?)マチルダもかわいいが、人間どもも心やさしき人々(マフィアの大物でさえも)である。痛快エンターテイメントじゃ。。。。それにしてもこのポール・ギャリコ。あの『ポセイドン・アドベンチャー』の作者だったとは驚きだ。(これは同著者の『幽霊が多すぎる』の解説を立ち読みして、わかった。) |
〓 | 堪能しました。期待通りって感じで。内容はさほど複雑ではなく、関口君のどっちつかずのダラダラが長い。しかしこれがいい味でています。名探偵の榎木津礼次郎についてはもっとハチャメチャにやって欲しかった。京極堂は最後の最後に登場し、いつもの名セリフ、「この世には不思議なことなど何もないのです」から始まり、事件を解きほぐしていく。見事です。ちょっと回りくどいが。今回のテーマは、「死」と「存在」。ところで、中禅寺秋彦(京極堂)の妹、敦子ってのはどうしているんでしょうかね。 |
〓 | ああ、くだらん。実にくだらん。最近の小説のパロディ集。『四十七人の力士』『パラサイト・デブ』『すべてがデブになる』『土俵(リング)・でぶせん』『脂鬼』『理油(意味不明)』『ウロボロスの基礎代謝』。で、すべてにデブと言うか、力士が出てくる。こんなにくだらんのも久し振りだ。しかし、まあこれらの原作者と著者の仲の良さ。って感じですね。まあ原作の方がちょっと気になる。いやこれは原作を読まそうとする宣伝ではないか。。。それにのって『すべてがFになる』を買ってしまった。『理由』は文庫本になってからにしよう。本書の内容は何度も言うが、くだらんので、お薦めできません。タイトルも(仮)のままやし?私は嫌いじゃないですけど。角のRはなかなかいい。 |
〓 | 恋物語だが、実に素直でない人物ばかりがでてくる。屁理屈の、意地っ張りの、偽善の、偽悪の、美しいが同時にズルイ心のぶつかり合いにより、結果は当然のように裏目、裏目へとでる。誰の為か?何の為か?そして、益々意地をはり、素直な心を見失う。しかし、決してあきらめない。足掻き、もがく。このあきらめ切れない一触即発のエネルギーが、いつ爆発するかを期待してグイグイ読める(京極堂シリーズのような長いウンチクはないし)。しっかし、人の意見を聞かないヤツらばかりだ。自分の素直な気持ちなんて、そうそうわかるもんではないけど。 |
〓 | <…催眠術など所詮意識下にしか語りかけられない。だがね、言葉と云うのは意識の上にも下にも届くんだ。軽はずみに催眠術なんか使う奴はー二流だよ。>ようやく始末してやった。読み応え充分で満足。今までの集大成のような作品。京極堂の過去も暴かれて、おもろかった。テーマは家族。家族とは、生活集団のこと。それ以上でも以下でもないと思う。途中で出てくる京極堂の妖怪の定義【怪異の解体と再構築】も非常に興味深かった。なんかひと区切りついたような気もするが、次回作『陰摩羅鬼の瑕』はどうなるんかな? |
〓 | いや〜、これは続きをすぐに読みたくなりますわ。関口〜、しっかりせんかい、今回はちょっとヒドイぞ。しかもあの人があんな姿にされるとは…。見たくなかった。京極堂の妹、中禅寺敦子も殴られるわ、蹴られるわって、これは関口君にじゃないけれど。本末転倒、騙す方が騙される、監視しているつもりが監視されている。とりあえず、宴の支度は整ったそうである(ようわからんが)。それが証拠に次巻の本(『宴の始末』)の帯にそう書いてある。まあとりあえず、そうしとこか。さあ、次行こ、次。 |
〓 | 京極堂シリーズを面白く読むコツは、順番に読むことである。『姑獲鳥の夏』、『魍魎の匣』、『狂骨の夢』、『鉄鼠の檻』に次に『絡新婦の理』を読むといっそう楽しめる。前作に出てきた脇役たちがバンバン出てくるし、前の事件がどうのこうのって話がでてくるからである。ズルイっちゅうか、前作も読んでるぞという読者を優遇する。ファンにとってはそんな細かいところが、またうれしいのであるが。おもわず、今回までの人物の関係図を書きたくなってくるではないか。事実、年代別に事件と人物の関係をWeb上に表わしている方もおられる。で、今回は「父系社会 vs 母系社会」がテーマ。当然その発祥から遡る(このウンチクがまた長い)。田嶋陽子ばりの発言も読める。京極堂の登場シーンはかっこ良すぎ。対するは、美人の母に、美人の姉妹。 |
〓 | 今回の京極堂の相手は天敵とも言うべき禅であった。禅宗には臨済宗、曹洞宗、黄檗宗の3宗派ある。ちょっとした禅の歴史はこの本でおおまかにわかる(それくらい横道にそれる)。禅問答では、まともに答えてはいけない(らしい)。つまり、言葉で云えず、文字で書けぬことであるそうな(なんじゃそりゃ)。ようするに、なんかわからんものを伝えなあかんという非常に難しいものや。禅とまったく離れたところにいる京極堂には最初から勝ち目はなかった。京極堂が暴いたのは、そういうわけのわからんものに隠されたわけのわかるものの正体である。それは坊主であるからといって特別ではない、人間の本性である。今回は長かった。 |
〓 | 拝み屋、中禅寺秋彦、好調である。しかし、この京極堂さん、なかなかでてけーへんかった。前ふりが長いんとちゃうかあ?超探偵の榎木津礼二郎は、早めに登場してたけど。フロイト、ユングなどもからめ(また簡単にうまいこと説明しよる)、今回は宗教と精神分析がテーマとなっている。登場人物の個性もはっきりしてきて、あいかわらず、おもろい。榎木津はここでは、あまり切れ味はなく、ネジのはずれ具合が目についた。夢をさます男、憑きものを落とす拝み屋、式を示す男、そしてはったりやの京極堂、さらに頑張ってほしい。 |
〓 | <…しかし【式】を知らずに、答えのみを見ると仕組が解らないから不思議に見える。>と京極堂は言う。【式】とは葬式、卒業式、数式の式である。【式を打つ】という言い方をする。京極堂はその【式】を明示し、事件の不思議さを解いていく。今回のテーマは<母>である。思わず泣けてくる。榎木津の超能力の秘密の説明もある。うだうだした天気なんか吹き飛ばす面白さである。 |
〓 | う〜ん、やっと読み了えた。読み応え十分。余韻に浸っています。非常に満足です。面白い。小説の中で、京極堂はこう言う<殺人は九分九厘衝動的な、あるいは発作的なものだ。>京極堂はまたこうも言った<動機は後から聴かれて考えるものなんだ。その時点で犯罪者は傍観者と同じ立場になってしまっている。自分がまず日常に帰るために、如何に自分で自分を納得させ得る理由を見い出すか、必死で考えるんだ。それが動機だ。> 京極夏彦。1963年北海道生まれ。なかなかすごい男である。 |
〓 | 女子プロレスを題材にした小説もめずらしい。主人公は火渡抄子。あの鹿取しのぶを彷彿とさせる、ストロングスタイルのかっこいいヤツだ。それに同じプロレスラーであるが、あまり才能のない近田がからむ(自分のことを自分と言う)。話はこの近田を通して語られる。火渡抄子が外人レスラーの失踪事件の究明に乗り出したりして、なかなかハードボイルドしている。こういう人間は、男でも女でもカッコイイのだ。著者はあとがきで言う、<女にも荒ぶる魂がある>、と。なるほど。 |
〓 | スティーヴン・キングの長編第3弾。これも『キャリー』同様20年以上もほったらかしにしていた本。やっと読めた。いわくつきホテル、オーバールック(景観荘)の管理人としてきたジャックと妻のウェンディ、そして息子のダニー。雪に閉じ込められたホテルで、ジャックはホテルの怨霊にのみこまれてしまう。<輝き>という特殊能力を持つ息子のダニーにはいろんなことが見えてしまう。同じ<輝き>を持つコックのディック・ハローランに助けを求める。ハローランはそれを感じ、助けに行くとろこでこの物語はグッと盛り上がる。最後のジャックと妻ウェンディ、そしてハローランとの血みどろの戦いは凄まじい。読み応えがあって面白かった。ジャック・ニコルソンが主演のキューブリックの映画も観てみよう。 |
〓 | スティーヴン・キングの処女長編。以前少し読みかけたまま、何年もベットの枕元に立てかけたままになっていた本。何年前に買ったのかも忘れた。何かオドロオドロしい内容かなと、読む気が失せたのかもしれない。最初の1/4を読んだらあとはだんだん面白くなってきた。キャリーのすなおにかわいい一面も見える。キャリーの潜在的念動能力(TK)は凄まじく、町全体を炎につつんだが、本当に悲しい話であった。事件前後の様子がドキュメンタリータッチで描かれているので、本当にあった話のような気さえしてくる。次は、これもいつ買ったかわからない『シャイニング』にいくか、キングの書いた順で『呪われた町』にいくか。 |
〓 | 韋小宝は、なんだかんだでこの小説の主要な女全てを妻とした。うらやましい限りだ。通吃島でまったり過ごしていたが、最後の大仕事、ロシアとの戦いのリーダーに抜擢される。領土争いの交渉では、また彼らしいハッタリで大成功となる。それとともにこの最後の八巻では、主だった人物達があっけなく死んでいく。さびしい限りだ。清の皇帝・康煕帝とはガキの頃から仲がいい。しかし、その清を滅ぼそうとする天地会のメンバーでもある。両方の義を果たすべく、二股をかけ続けるが、結局両方から責められたりもする。最後に彼がとった態度は、まあそうかな、って感じだ。常に追い詰められ、冷や汗タラタラ必死で凌ぎ、最後に大逆転。サイコロ博打好きの韋小宝は、逆転ドタバタヒーローだ。いいねえぇ。 |
〓 | ロシアから戻った韋小宝は、故郷、揚州の麗春院で母と再会する。そして呉三桂の謀反に加担するモンゴルのガルダン、チベットのサンチェを言いくるめて義兄弟となる。順調に行くと思えた時、<神拳無敵>と異名をとる帰辛樹が妻子とともに登場。こいつがとんでもなく強い。皇帝を狙う帰辛樹。満州人である皇帝と漢人の復興を願う天地会との狭間に立つ韋小宝。彼は、満州人だ、漢人だに拘りはないだけにどっちつかずで、更に窮地に追い込まれる。しかし、そんな時でも、友達で師父である皇帝・康煕帝を助け、師父で天地会の総蛇主の陳近南を助ける。行方不明の小間使い・双児も助けにゃならんし、韋小宝、必死の綱渡りが続く。 |
〓 | 雲南の平成王と言われる呉三桂は、モンゴル、チベット、さらにはロシアと手を組み皇帝の座を狙う。それに加担するのは、洪教主率いる神龍教だ。雲南から逃げ出すように戻ってきた韋小宝は、呉三桂の魂胆を康煕帝に話し、結局、神龍教の討伐に行く羽目になるが、可愛い小間使い・双児に助けられる。双児は常に陰から韋小宝を見守る。健気だ。そして双児とともに『四十二章経』に隠された秘密の場所・鹿鼎山へ。そこで出会うのがロシアの皇帝の姉ソフィアだ。こいつも結構あばずれだ。ソフィアに連れられモスクワへ。そしてソフィアが幽閉されそうになるのを救うのが韋小宝だ。後半になりまた大きく広がった。これからどういう結末にもっていくのか、楽しみだ。 |
〓 | 韋小宝はとんでもなく嫌なやつだ。美少女・阿珂を我が物にする為に、阿珂が恋心をいだく鄭克ソウへ執拗な嫌がらせを行う。そこまでせんでも、って感じだが、この鄭さんも鼻につく奴なのでまあええか。前回から登場した超絶の武芸を身に付けた白尼の名は九難という。元明朝崇禎帝の長女であるが、強いのなんのって、この物語中、今んところナンバー1だ。あの問題児、皇帝の妹・健寧公主も雲南平西王・呉三桂の息子の元へ嫁がされる羽目になる。『四十二章経』の秘密も韋小宝の手の中だ。阿珂の母親も登場する。 |
〓 | のっけからとんでもないキャラが登場する。康熙帝の妹、健寧公主だ。相手にした韋小宝を、殴るわ蹴るわで半殺しにしても笑っている。反対に痛めつけてもうれしがっている。SかMかわからんやつだ。そして超絶の武芸を身に付けた白尼。この世のものとはおもわれないくらいの緑衣の美少女、阿珂。そして何よりも驚いたのが皇太后の秘密だ。『四十二章経』を狙う奴らもまた増えた。 |
〓 | 韋小宝は、皇后との対決では殺し損ねたが、ガキ皇帝(康煕帝)の父が生きて五台山にいることを知る。康煕帝は、皇太后の企みを知り、韋小宝を五台山へ使わす。その道中で双児というかわいらしい女の子を小間使いとして連れて行くことになった。この双児というのが素直でかわいいだけでなく、とんでもない武芸の使い手なのだ。韋小宝は何度も命を助けられる。すでに出家した皇帝の父・行痴に会った帰りに、洪教主率いる秘密教団・神龍教の連中に捕まるが、これまた急展開で神龍教の幹部に取り立てられる。彼らが狙っている『四十二章経』全八部うち、五部を韋小宝はすでに持っているのだ。今回の登場のキャラでは、<デブ行者>が面白い。 |
〓 | 天地会の総舵主・陳近南と会い、ガキの分際で、天地会青木堂の香主となった史上最低のヒーロー・韋小宝。今回は雲南の沐王府、沐剣声の妹で郡主(親王の娘)と呼ばれる娘・沐剣屏(もくけんぺい)。そして方怡(ほうい)。この二人の娘を匿う羽目になる。純粋無垢な・沐剣屏、そしてしっかり者の方怡、そしてガキでやくざな韋小宝とのやりとりが実に面白い。その他、皇太后が一癖あるやつで、武芸を習得しており、韋小宝も危機一髪の事態になる。その後、皇太后の事を「クソばばあ」と呼ぶ。一体何を目指しているのかもさっぱりわからんが、この主人公のゴロツキさはなかなかのもんじゃ。 |
〓 | 金庸はこれで3作目。最初に読んだのがあの『秘曲 笑傲江湖』。これは面白かった。今回は今までとは違った主人公だ。揚州の妓女の息子で、イカサマ博打が得意で、口が悪く、要領のいいお調子物だ。帯の文句も「史上最低のヒーロー登場!」ときたもんだ。大人の遊びの中で育ったので、講談、芝居の知識は抜群だ。しかし、英雄・豪傑に憧れる気持ちは強く、知り合った茅十八とともに北京へ旅立つ。なんだかんだで清朝第4代皇帝・康煕帝とも知り合う。またその清朝に反対し、明を復活させようとする秘密結社・天地会とも関係を持つ羽目になる。この史上最低のヒーロー、必死の活躍が面白い。さあ次はどうなる。 |
〓 | 1955年に発表された金庸の処女作。訳は御存じ?岡崎由美。時は18世紀。愛新覚羅弘暦(乾隆帝)が、清朝の第六代皇帝であった頃のお話。中国全土を支配した清(満州人)は明(漢民族)を滅ぼしたんであるが、漢民族の中には復興を願う者たちがおり、秘密結社【紅花会】なるものができた。その2代目当主(総舵主)が陳家洛であり、本書の主人公である。【紅花会】には、総舵主を除き14名の主要メンバーがおり、彼らがまたそれぞれ凄腕で、いろんな得意技を持つ。人呼んで【追魂奪命剣】やら【千手如来】、【奔雷手】、【武諸葛】、…。【九命錦豹子】なんてほとんど意味不明。この辺りは中国武侠小説の面白いところで、陳家洛の師匠は【天池怪侠】と呼ばれている。なんだか強そうで好きだ。ちなみに悪役の張召重は【火手判官】ってわけだ。こいつの最後はかなり悲惨。そこに美少女姉妹のホチントン【翠羽黄衫】とカスリー【香香公主】がからむ。陳家洛と乾隆帝の戦い、そして出生の秘密。さらにはホチントン、カスリー姉妹との愛の物語。悩み多き主人公であったが、大いに楽しめた。第4巻のみに出てくる頓知の達人、アファンティも忘れちゃいかん。 |
〓 | 堪能しました。久々の痛快大冒険物語だった。令狐冲の元師、「君子剣」の岳不羣は「偽君子」と呼ばれるようになり、腹黒い人間のトップとなった。「正派」でありながら悪人。「邪派」でありながら善人。「正」「邪」の区別はわからなくなった。そして最後で多くの人間(善人も悪人も)が死ぬ。著者の金庸はあとがきで、<政治的人間>と<隠士>に分けて解説をしている。権力を得ようとする<政治的人間>として岳不羣、任我行、東方不敗…その他ほとんどの人間がそうであり、権力には興味を示さない<自由と個性の解放を求める><隠士>とは令狐冲、任盈盈(最初に琴の名手として登場する)のような人間であるとしている。世の中<隠士>ばかりでも成り立ちそうにないが、非常に魅力的な人間として描かれ、そうなりたいと思わずにはいられない。 |
〓 | ついに出た!当代随一の凄腕、東方不敗。いやあ、待った甲斐がありました。やはりコイツは凄い。1対1の実力では文句なくNo.1。そしてその個性もこの物語の中で、1、2位を争う。任我行との魔教教主を賭けての戦いは興奮しました。 方や、「正教」と呼ばれる5つの派の統一とその総師めぐっての争い。そこでぐっとクローズ・アップされるのが令狐冲の元師、岳不羣であった。あの「君子」と呼ばれた人間が、「偽君子」と呼ばれるようになった。なんと巻頭の人物紹介文にも、<表裏のある人物>などと書かれているではないか(第5巻目からそうなっている)。そして物語は林家に伝わる「辟邪剣法」の秘密(第1巻目の紹介で書いた)なども明かにされ、物語はまさに起床転結の「転」状態。さあ次で最後だ。 |
〓 | 令狐冲は任盈盈を助ける為に小林寺に向かう。そこで正教と邪教(魔教)の3対3の対決をすることになった。令狐冲は魔教側の代表として、我が師であった岳不羣と対決するハメに。剣の実力ではすでに師を超えていた。任我行は令狐冲に娘・盈盈の婿として、自分の後継者としてラブコールをおくる。しかし、令狐冲はその再三の誘いを断わり、なんとあの尼の武術集団である恒山派の総師になってしまった。方や任我行はついに宿命のライバルであり、魔教・現教主の東方不敗を成敗する為に総本山に乗り込む。そしてひねくれ者同士、最大の友となった令狐冲も任我行と行動を供にする。…ここで、令狐冲と3人の娘の関係を整理すると。【任盈盈】魔教・前教主、任我行の娘で抜群の武芸を持つ。尊敬するとともに畏怖の念もいだく。【岳霊珊】華山派の師の娘。幼馴染みであり、最も心安らぐが、林太之と相思相愛で、嫉妬にかられる。【儀林】尼の武術集団に属する。武芸はつたないがその献身的な態度に心動かされる。この娘たちとはどうなるのか。そして、次巻では待ちに待った?東方不敗が登場する。クライマックスへ突入だ。 |
〓 | 前巻で、闇の一大組織「魔教」の前教主の娘、任盈盈にほれられた令狐冲であったが、今回はその父親、すなわち「魔教」、またの名を「日月神教」の前教主、「吸星大法」を必殺技とする任我行と対面することになるのだ。その任我行は、魔教の現教主・東方不敗によって地下牢に閉じ込められていたのであった。任我行は腹心、向問天(令狐冲の友となった)の計略で脱出することに成功する。令狐冲はと言えば、「吸星大法」も会得したが、<一生のうちで今ほど武芸が立つ時期はなかったが、今ほどの淋しさを味わうこともなかった>という状態となった。魔教の人間と友になるも心は未だ破門された華山派から離れられなく、任我行と仲間になる誘いも断わる。そして、逆にあの儀林(これまた令狐冲に想いを寄せる)のいる尼さんの組織、恒山派を現教主・東方不敗率いる魔教の手から救い、行動を供にするようになる。どこの派閥の人間であれ、友となれる令狐冲はイカス。 |
〓 | 岳霊珊にふられて生きる楽しみを失い、お笑い6兄弟(桃谷六仙)から治療を受けたらますます悪くなるわでボロボロの令狐冲であるが、謎の男、風先生から教わった「独孤九剣」で武芸の方は抜群となる。逆にいつ死んでもいいというひらきなおりと武芸の凄さで多くの友を得ることにもなる。しかもひとクセあるヤツばかり。一人治したら一人殺すという「殺人名医」の平一指。「無計可施」(なすすべなし)と呼ばれる知謀にすぐれた計無施。極めつけは琴がうまく、無敵の武芸を誇る美女の任盈盈。この女が令狐冲に想いを寄せる。しかしその正体は、闇の一大組織「魔教」の前教主の娘なのだ。この才媛、任盈盈は、令狐冲への想いを隠そうとしてめちゃくちゃ横暴なふるまいを行うのだ。こういうヤツらとつきあうから「君子剣」と呼ばれる師から破門にされ、たった1人、我が道を行く、令狐冲であった。。。つづく。 |
〓 | 林平之が華山派の弟子となり、令狐冲とは兄弟弟子になった。令狐冲は、華山派の一番弟子で皆からは「大兄」と呼ばれている。はじめて弟弟子を持ち、「師姐」と呼ばれることになった岳霊珊はうれしくて、何かと気にかける。若い林太平と岳霊珊がいい仲になっていくことに嫉妬する令狐冲…。よくある話しで。それよりもなによりも今回一番強烈なキャラクターは、天真爛漫な6兄弟の桃谷六仙。すぐに兄弟喧嘩はするわ、ちょっとのことでおだてにのるわで、ヤツらに襲われ瀕死の状態となる令狐冲も、そのくだらない会話におもわず笑いそうになる。しかしコイツらの武術はすさまじい。相手をひょいと持ち上げ、体を4つ裂きにしてしまうのだ。笑ってるうちに殺されそうで、不気味だ。 |
〓 | 古龍の次は、金庸だ。ってことで待望の『秘曲 笑傲江湖』を読み始める。家伝の「辟邪剣法」を有し、用人棒稼業(運送警備業者)を営む林家が襲われた。両親はさらわれ、仲間は皆殺し。武芸はつたないが正義感の強い息子、林平之が復讐に燃える。相手は武術界(江湖)のヤツらである。この江湖の世界、様々な流派に分かれ、凌ぎを削っている。その中でも令狐冲という酒好きの青年がなかなか魅力的。そして彼を慕う、娘たち。妹のような、岳霊珊。そして尼僧である儀琳。それぞれが武芸者であり、かわいい。…個人的な好み。登場人物も多い。とりあえず、第一巻としては人物紹介って感じかな。そのうちブルース・リーでも出てきそうである。 |