〓 | ディスクワールドの世界では、光だってゆっくり進む。何故なら、その世界の空間には魔法が満ちているからである。本書はディスクワールドシリーズの1冊。死神の日常生活がわかる。すっとぼけた死神がなかなかイカス。この異色のファンタジィ、本書の他に『魔道士エステカリナ』、『三人の魔女』、『ピラミッド』、『異端審問』などが邦訳されている。 |
〓 | 突然名前を失った男。名前は名刺となって動き回る。不当に裁判をかけられた男はいやおうなく世界の果てをめざしていく。世界の果てとはどこか。丸い地球では果てとはすなはち、出発点である。主人公は出発点である、部屋の壁を凝視する。そして……。悪い夢をみている感覚が続くが、けっして不快ではない。 |
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硬質で、キラキラ輝き、いっさいの有機的ドロドロ感がない。そう、お月さんだって、ブリキ製で、ニッケルメッキなのである。これぞショートショートの結晶世界である。星は空から落ちて死んでしまい、地に飛び降りてきたお月さんには追いかけられる。なつかしく、怖い、夢の世界である。これを読むと何故か、レナウンの昔のCM【イエイエガール】を思い出す。 表題作の『一千一秒物語』の他、『黄漠奇聞』、『チョコレット』、『天体嗜好症』、『星を売る店』、『弥勒』、『彼等』、『美のはかなさ』、『A感覚とV感覚』が収められている。 |
〓 | 宇宙誕生と生命誕生に立ち会った老人のお話。その時の様子を克明に解説してくれる。時間も空間もなかった時、皆がただ一点にいたことをなつかしそうに話す。<もちろん、だれもかれも、みんなそこにいたとも…>宇宙大の大風呂敷におもわず納得させられてしまう。 |
〓 | ヘルシンンキでの「国際言語学会」に出席しようと飛行機に乗り込んだ言語学者のブダイ。着いた所はとんでもない国?であった。とにかく人が多く、その群集に流れにのみこまれたまま到着したホテルで、まったく言葉が通じないことが判る。なんとかして言葉のわかる人と連絡をとりたい。そして一刻も早くここを脱出したい。物語の始まりである。いろんな標識や、レストランのメニュー、お札などを見て、書いてある文字の意味を探り出そうとする辺りは、さすが言語学者って感じである。しかし、預けたパスポートも返してもらえず、やがて持ち金はなくなり、ホテルも追い出され、日雇人夫にまじって働いたり、最後には乞食のような姿になってしまう。。。まさに不条理の世界。この状況をいかに切り抜けるか、まるごと一冊、その戦いが続く。その中で心暖まるのが、ホテルのエレベーターガールの女性、エペペとの交流。このエペペという名前も実際には、エペペなのかどうかはわからない。しゃべっている言葉が「エペペ」というように聞こえるのだ。コミュニケーション不可能な世界、正気を保つのでさえ大変だ。(2000.11.29) |
〓 | 漫画短編集。暗く、辛い話が多い。そこの住人にとっては日常生活であるが、他所者は排除される世界である。見てはいけないものを見てしまって、ちょっとツライという感じにさせられる。しかし、その世界になんとなく懐かしさがあるのだ。表題作『ねじ式』は、著者自身が夢に見たものをそのまま描いたというもの。寝てる時に心臓が圧迫されていたのかもしれん。悪い夢である。『初茸がり』、『長八の宿』はちょっとホッとする。(1999.1.2) |
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結晶世界 J・G・バラード 創元推理文庫
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森が水晶に覆われ、結晶化していくというお話。木が草が家が、そして停止した人が結晶化していく。そこは、非常に美しい虹色のキラキラした世界であるが、無機的な世界であり、死の世界である。医者である主人公も癩患者の肉体組織に似ていると考える。世界の癌細胞であるかもしれない結晶世界。永遠の生命ではない。美しい死の世界である。それでも、自らその森へと進んで行く人がいる。(1999.4.17)
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存在から存在学へ 松岡正剛 工作舎〓
前衛雑誌『遊』の創刊者松岡正剛のプラネタリーブックスの第1巻。<存在はつねに重力である><存在とはスピンの回転数の代名詞にすぎない><ぼけた縁こそ存在だ>など。
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ドグラ・マグラ 夢野久作 現代教養文庫〓
江戸川乱歩をして<狂人自身が書いた狂気の世界>と言わしめた作品。作者自身は<十年考え、あとの十年で書き直し書き直し抜いてできたものです。五回読んだら五回共に読後の気持ちが変わることを請け合います>と述べる。脳髄は物を考える処に非らず。