テーマ別お薦め本
とにかく面白い!


秘曲 笑傲江湖(一)〜(七)  金庸  徳間書店

 堪能しました。久々の痛快大冒険物語だった。令狐冲の元師、「君子剣」の岳不羣は「偽君子」と呼ばれるようになり、腹黒い人間のトップとなった。「正派」でありながら悪人。「邪派」でありながら善人。「正」「邪」の区別はわからなくなった。そして最後で多くの人間(善人も悪人も)が死ぬ。著者の金庸はあとがきで、<政治的人間><隠士>に分けて解説をしている。権力を得ようとする<政治的人間>として岳不羣、任我行、東方不敗…その他ほとんどの人間がそうであり、権力には興味を示さない<自由と個性の解放を求める><隠士>とは令狐冲、任盈盈(最初に琴の名手として登場する)のような人間であるとしている。世の中<隠士>ばかりでも成り立ちそうにないが、非常に魅力的な人間として描かれ、そうなりたいと思わずにはいられない。


ぢん・ぢん・ぢん  花村萬月  祥伝社

 最高に面白かった。愛と暴力。あたらしい倫理をつくろうとするパワーにあふれている。エロ・グロを飲み込んだ人間探究の書である。舞台は新宿。主人公はヒモ道を突き進むイクオ。これほど性を徹底的に描いたものを読んだことはない。SEXと死。存在とはなにか。魂の叫び声が聞こえてきます。救いはないが、暗くもない。


姑獲鳥の夏  京極夏彦  講談社ノベルズ

 <…しかし【式】を知らずに、答えのみを見ると仕組が解らないから不思議に見える。>と京極堂は言う。【式】とは葬式、卒業式、数式の式である。【式を打つ】という言い方をする。京極堂はその【式】を明示し、事件の不思議さを解いていく。今回のテーマは<母>である。思わず泣けてくる。榎木津の超能力の秘密の説明もある。うだうだした天気なんか吹き飛ばす面白さである。


らせん  鈴木光司  角川ホラー文庫

 生命を産みだし、自己増殖する為の強烈な意志。退屈さからの文化的進歩。両性具有の完全な美。個性豊かな登場人物(未成熟な体を持つ高山竜二の念力、恥をエネルギーにしてあがく男の姿をみたいという高野舞)。荒唐無稽であるが非常に満足である。
 久しぶりに本を読んでドキドキ感を味わった。同著者の『リング』を読めば面白さは1.5倍になる。


孤島の鬼  江戸川乱歩  春陽文庫

 小学生の頃、怪人二十面相や少年探偵団をよく読んだ。江戸川乱歩という人は、心から探偵小説が好きで、自分で書くだけでなく、海外の著作の紹介や、新人作家の育成にも力を注いだ。また、若い頃から人間嫌いでもあり、「自己蒐集こそ最も意味がある」とし、刻銘に自分自身の事柄について記録していったという人である。
『孤島の鬼』は独特の怪奇趣味的なところもあるが、異様な体をもった人間の、せいいっぱいのエネルギーがほとばしる。おもわず泣けてくる。


ゲームの達人  シドニィ・シェルダン  アカデミー出版

 アカデミー出版の超訳は読みやすく、テンポがはやい。ではなくてシドニィ・シェルダンだからテンポがはやく、読みやすいのかもしれない。次から次へと非日常的事件がおこり、世界中をかけめぐる。まさに波瀾万丈の人生に浸れる。読後は、普段の生活に戻るのがいやになるかもしれません。


沢蟹まけると意志の力  佐藤哲也  新潮社

 <意志の力は不可能を可能にする力ではない。 手段でもなく、目的でもない。それはひとが、「ある」ための力なのである。> をキーワードにすべての登場人物(蟹も含む)と人間というもののおろかさと悲しみを笑とばす小説。


白昼の死角  高木彬光  角川文庫

 ピカレスクロマン。戦後の混乱期、一高(東大)の学生がつくった金融業「光クラブ」をモデルにした悪党小説。最初のリーダーは才気ばしっていたが、線が細く、自殺においこまれる。その後を継いだ主人公が大悪事をくりひろげていく。15年以上前に映画化された(有楽町の映画館で見た)時に読んだ。その映画のテーマ曲「欲望の街」(ダウンタウンブギウギバンド)もなかなかの名曲だと思う。


われ笑う、ゆえにわれあり  土屋賢二  文芸春秋

 日本の集団の基本原理は義務と強制である「デタラメな日本紹介記事に抗議する」。そのほか「わたしはこうして健康に打ち勝った」「人気教授になる方法」など納得し、笑いのとれるネタ多数有り。姉妹編に『われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う』有り。あわせて読むと面白さは5.82倍になる。著者がお茶の水女子大学教授(哲学専攻)でなければ、屁理屈のうまいただのおっさんか?笑える!


おれに関する噂  筒井康隆  新潮文庫

 筒井ワールド復活。現役バリバリ、常に挑戦しつづけているから面白い。批評家に対しては、文学論を勉強してやりかえし、言葉の規制に対しては自ら断筆して抗議し、自身の文学に関してはさまざまな実験をやり続ける。そして結末はもちろん収束しない。
お薦めは全ての作品。『おれに関する噂』は私にとっての筒井ワールドの入口となった本。


笑い陰陽師  山田風太郎  講談社ノベルズ

 雨。霧。雷。風と悪餓鬼仲間で呼び合った。風太郎のペンネームの由来である。「やりたくないことは、やらない」という独特の横着哲学をもつ山田風太郎の作品はどれも面白い。この本の主人公「果心堂」は甲賀忍者くずれの占い師で、伊賀忍者であった女房と共に、見台をはる。貧しいながらも、精神の余裕があって、そのいたずら心に満ちた解決方法が面白い。「忍法帖の最高傑作」と著者自身も言う。


813 正・続  モーリス・ルブラン  新潮文庫

 <どこにころがっているかも知れねえどんな危険に対しても、立ち向かう覚悟がいるということよー(中略)、先ず第一に欲しいのが、怖れを知らない精神と、不死身の五体というわけだ>(堀口大学訳)怪盗紳士アルセーヌ・ルパンのセリフである。フランス人とは思えない(フランス人の友達はいないが)、まるで日本の任侠映画の世界である。かっこいいではないか。




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