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『あらしのよるに』のメイとガブの幼い時のお話です
『あらしのよるに』(木村裕一・作 あべ弘士・絵)から、『まんげつのよるに』までの七冊の絵本は、狼と山羊が親友になっていく、ちょっと不思議な絵本でした。だって、一方はオオカミでしょ。ヤギは、一番の御馳走のはず。その二匹が友だちになるなんて、考えられないですよ。国語の授業で、教材化しましたが、子どもたちの声はそこに集中しました。嵐の夜で、お互いが見えなくて、いろんな話をしていく中で友だちになったんだとわかるのですが。小さい頃の話をしたり、雷が怖くて身を寄せ合ったりして仲良くなり、明日逢おうと約束するのです。その明日ですか゛、お互いを知ってしまって、友だちのメイを食べられないガブの葛藤と、食べられそうになった友だちに被さってガブから守るメイの気持ち。わかったんですからね、オオカミとヤギだって。なのに、怖くないのメイ。なぜ食べないのガブ。 でも、なぜこんなにガブは、ヤギなのにメイと仲良くなりたいのか。 メイは怖いはずのオオカミのガブを、どうして友だちと認めることができるのか。 この疑問に答えるのが、紹介する二冊の絵本です。そのわけは、二人の育ちの中にありました。 |
![]() 木村裕一・作 あべ弘士・絵 講談社 |
『ひとりぼっちのガブ』ーーーほんとうに信じられる友だち。戦わなくてもいい友だちが欲しくて。 ガブのお父さんは、強いオオカミでした。お父さんの好きなガブは、いつもお父さんの真似をして。でも、そのお父さんが死んでしまったのです。獲物の見つけ方や近づき方や捕まえ方を教えてくれた父さん。その父さんが群れを守るために死んで、ガブは呆然と。母さんは優しかったのに、厳しく鍛えるようになった。お母さんの気持ちも知らずに、ガブは言うことをきかない子になったのです。 オオカミの世界は序列があり、強いものが上に立つのです。友立ちのグルリと闘わなければならなくなったカブは、情けないグルリに同情したとたん、グルリに逆転されて負けたのでした。一番下っ端になってしまったガブは、順番をつけるのが嫌いだったから、一人でほっつき歩くようになって。大人たちも、お母さんさえ相手にしなくなったさびしいガブ。 一人で夜を過ごし、朝、シカの群れを見つけたのです。大人たちに早く知らせようとあわてて、崖から落ちたガブは、くじいた足を引きずりながら、群れに辿り着いたのですが、大人たちは、だれも話を聞いてくれない。そこでグルリに言ってもらったのですが・・・・・。褒められたのはガブではなく、グルリでした。グルリは、ガブのことを言わなかったのです。友達だと思っていたのに、だれも信じられなくって、一人になったのです。でも、お母さんは、それを知っていました。お母さんと二人、月を見るガブでした。 そんなさびしいガブだから、メイと友だちになりたかったのですね。メイは、ガブを馬鹿にしなかったし、自分とよく似ていると分かってくれましたからね。戦わなくっていい、序列とは関係ない、そんな友だちを、どの子も求めていますよ。 |
![]() 木村裕一・作 あべ弘士・絵 講談社 |
『メイはなんにもこわくない』ーーーメイといると、みんな楽しくなるんだよ メイはのんき者で、いつも元気。川に落ちる!と思いきや、流れてきた丸太の上を、とことこ渡って行く。大きな石が落ちてきても、ひょいと飛び上がって怪我ひとつしないのです。そして、笑っている。小さい頃にお母さんを亡くしたメイを、みんなは可哀そうと言い、メイはわざと元気にふるまうのです。誰とでも友だちになるメイ。 でも、メイの願いは、ドキドキすることに出会いたいということでした。毎日同じことの繰り返しはつまらないメイでした。オオカミの怖さも知らないので、大人たちはメイの小さな冒険にハラハラ。メイは、木登りもできると自慢します。小さなミイを連れて、木を探して森の中で道に迷い、でも、なんとかなると思うんです。野イチゴを見つけて、茨の中に入ったのですが、ヤギのひずめは固くてへっちゃら。でも、食べようとついてきたオオカミは、棘がささってあきらめました。しばらく行くと、さらに大きなオオカミに飛びかかろうとされます。でも、ミイがほら穴を見つけ、二匹は中にもぐってしまったので、オオカミは諦めるしかなかった。暗くなってきて、ミイがオオカミが怖いと泣き出したのですが、メイはオオカミなんて怖くないと言うのです。怖いのは雷さんぐらいだって。 ところがオオカミたちに見つかって、でも谷川の一本橋を、ミイを背にのせてゆうゆうと渡るメイです。ついてきたオオカミの大群は、一本橋を渡りきれなくて、谷川に落ちてしまったのです。朝になって、帰りついたメイたちは、大人たちに言ったのですよ。オオカミがでたら、もっと面白かったって。そんなのんきなメイを、みんなは大好きなのです。 |
「メイちゃんなら、オオカミとだって仲良くできそう」と、みんなに言われていたとおり、オオカミのガブと親友になるんですから、びっくりです。みんなは、メイといるのが大好きです。オオカミのガブも、気持ちが落ち着くんですね、メイといると。そんなメイと出会えて、さびしかったガブも幸せです。この七冊の絵本の中で、二人がどんな風に友だち関係を深めていくか、それぞれの生い立ちを知ると、いっそう感じるところが多かったです。それにしても、争わないでいい友だち、上下を気にしない友だち、お互いを深く知りあう友だち、いいですねえ。
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