にんげんって、すてきだなあと思える絵本を
ノーベル平和賞を、17歳の少女マララさんが受賞されたニュースは、久々の喜びでした。日本国民の9条保持は、落選しました。悔しかったけれど、当たり前でしょう。集団的自衛権の行使を目論む政治家を頂く国民は、危なかしくってね。それでも、頂点にいる人が、どんな顔して賞を貰うのか、見てみたかったのですが。恥かしくって、貰いに行けないかもね。 彼女の受賞は、世界的に見てまだまだ地位向上が難しい女性のために、中でも、「女の子」が教育や就職などの権利が、公平に与えられていない現状にある中で、大きな一歩であることは疑いのないことでした。彼女は、言いました。「一本の鉛筆と一人の先生、一冊の本があれば、世界は変えられる」と。なんとシンプルで、なんと熱意にあふれた、真理を突く言葉かと、体が震えました。絵本を紹介する思いも同じです。人間や社会に対する真剣な向き合い、生き方を育みたいと思います。そして、子どもたちの生き方を支える、一冊の本を見つけさせてあげたいと思うのです。ちょっと大げさで、気恥かしい思いもしますが。 今回は、今江祥智さん訳の絵本を紹介します。翻訳ものの絵本は、我が家では『ちいさなうさこちゃん』が最初でしたが、その後、『おばけのバーパパパ』に移り、たくさんの絵本を揃えていきました。今回は、下の5歳の孫のお気に入りを二冊紹介します。今江さんの優しさに溢れた絵本です。翻訳した人は、原作を超える素晴らしい絵本を生み出されるのですね。読めば読むほど、そう思います。 |
ほんま、ぼちぼちいきたいです、ね
![]() |
『ぼちぼちいこか』―――マイクセラー・作 ロバート・グロスマン・絵 いまえよしとも・訳 偕成社 何となくイライラとした気分の時、この絵本を読んでみるのです。大人にとってもずいぶんと癒される絵本ですよ。思わず笑ってしまいます。表紙のカバくんがすてき。 絵本の繰り返しの面白さが、十二分に味わえる絵本です。「ぼちぼち」はゆっくりという意味。「いこか」は「行こうか」という意味。「まあ、ゆっくり、いきていきましょか」ということですかね。このカバくんは、何になろうかと一生懸命考えてるんですよ。まず、消防士になりたいと思うカバくんです。でも、梯子に登ったら折れてしまって、「なれへんかったわ」です。この関西弁がなんとも味があるのです。「なれなかった」というより、カバくんの気持ちをやわらかく表現していますよね。原作では、「NO」という表現。「だめ」ということですよ。関西弁のよさを、あらためて感じます。 次の船乗りも、重すぎて船が沈んでしまい、「どうもこうも、あらへん」と。パイロットも、重すぎて飛ばず、花のようなバレリーナも床に穴があき、「はなしにもならへんわ」と。ピアニストになるには、力が強すぎ、カウボーイは、これも重すぎ。サーカスの綱渡りも、飛び込み選手も、バスの運転手も、宇宙飛行士も、バンドのチューバ吹きも、手品師も、いろいろ試してはみたのですが、「もう、どないしたらええのんやろ」とカバくん。ええこと思いつくまで、ハンモックで一休みのカバくんです。「ほんま、ぼちぼち行きなはれ!」と、声をかけたくなります。 タイトルも、原作では「WHAT CAN A HIPPOPOTAMUS BE?」です。「カバは、何ができるか」ということ。それを今江さんは、「ぼちぼち いこか」と訳されました。今江さんの創作絵本と言ってもいいぐらい、いいですねえ。 我が家の5歳の孫は、全文暗記。「ほんまにあかんかったわ」という気持ちをこめて、面白く読んでくれます。ピアニ消 |
子どもたちのために、お金を使ってくれる政治、すてきだなあ
![]() |
『すてきな 三人ぐみ』―――トミー・アンゲラー・作 いまえ よしとも・訳 偕成社 表紙を見て、怖い三人組なのに、すてきだって?と思いますよね。黒い長帽子に、黒いマント、赤いまさかりが。帽子の下からのぞく目玉もギョロっとして、怖ーいおじさんたちですよ。「こわーい泥棒のお出かけだ」と書いてあります。持っている道具のひとつは、「ラッパ銃」えっ?こんな銃あるの?二つ目は、「こしょうふきつけ」三つ目は、「赤い大まさかり」です。三人は、これをもって、山を降り、獲物さがしです。馬車に出会うと、まず馬に胡椒を吹き付け、大まさかりで車輪を割り、さてラッパ銃で「手をあげろ」です。初めっから銃で脅すのでなく、いのちを奪わない工夫ですね。 そうして、どっさりため込んだ宝物です。ある夜、馬車の中には、女の子が一人。獲物は何もなかったし、女の子もおじさんたちの家に行きたいと言うもんだから、連れて隠れ家へ。ぐっすり眠った女の子、ティファニーちゃんは、三人ぐみの宝物を見つけて言いました。「これ、どうするの?」三人ぐみは、考えたこともなかったので、相談しました。どうするつもりもなかったようです。なんとなく泥棒するなんて、変ですよね。 そこで、考えたことは、なんと、まあ驚いた。さびしく、悲しく、つらく暮らしている「孤児」を引き取ったのですよ。ティファニーちゃんも、さびしい子だったので、きっと助言したのでしょう。捨て子や孤児をたくさん引き取った三人ぐみは、みんなで暮らすためのお城を買いました。子どもたちは、赤い帽子に、赤いマントをきて、みんなお城に引っ越しました。黒い服の三人ぐみと、赤い服の子どもたち。対象的できれいでした。国中に噂は広まり、子どもたちはすくすく育ち、結婚して子供が生まれ、お城の周りに家をつくりました。村の人たちは、だれもが赤マントなんだって。小さな村は、どんどん大きくなり、三人ぐみを忘れないために、三つの塔を建てたそうです。 はじめは、睨んでいるようだった三人の目が、優しく感じられて終わる絵本でした。すてきな三人ぐみです。関西弁ではないけれど、今江さんの訳は、シンプルで優しいです。 |
このお話のラスト、どう思いますか?
![]() |
『四角いクラゲの子』―――今江祥智・文 石井聖岳・絵 文研出版 ちょっと寒くなったこの頃。海の中のお話はどうかなあと思いつつ、最後のページのクラゲのユラが笑っている顔が可愛くて紹介します。月夜の海で63番目に生まれたクラゲの子ユラ。この子だけ頭が四角なのです。頭が丸くないユラを、クラゲのきょうだいたちは仲間外れにします。ユラを馬鹿にしている、くらげきょうだいの顔が面白いですよ。でも、ユラは悲しそう。ちょっと「スイミー」や「まっくろネリノ」に似たお話ですね。 ユラはショックで、黙って出ていきました。ひとりで、さびしいね。イカに、仲間かと訊くと、「いいえ、三角よ」って。タコに訊くと、「そんな白いタコはいないよ」って。ナマコも、「足が長すぎるよ」って。クラゲぼうやのユラは悲しくて、なんとか丸くなろうと、頭を岩にぶつけたりしましたが、だめでした。三日月さんに訊きました。「どうして丸くならないの」って。お月さまは答えません。何度も訊きましたが。他のクラゲたちは笑っています。ある夜、満月がでました。お月さまが笑ったようです。ユラも、うれしくなって、ぐっすり眠りました。真っ白な花が、ポカリポカリと浮かんでいる夢です。 目が覚めると、何とユラは丸いお月さまのようなクラゲになっていました。そして、みんなの仲間入り!よかったね、ユラ。お月さまに願うところなんて、切ないですが、四角のままでもいいんじゃないのと思ったり。でも、みんなと一緒になりたい気持ちもわかるし。まるで、アンデルセンの「醜いアヒルの子」のような、つらいお話でした。 でも、私的には、スイミーやネリノのように、黒いままで活躍するラストがいいのですが―――。子どもたちと、いろいろ話し合える絵本だと思います。 |
次回にむけて
絵本で、自分の理想とするモデルを見つけることができれば、ちょっといい気分になれますね。その中から、何を大切に思って生きていくのか、生き方のいろんな柱が、自然と体の中に蓄えられると信じています。 さて、次回ですが、11月は労働の収穫の時、イモ掘り遠足や稲の収穫、仕事の姿に出会えるいい季節です。勤労感謝の日もありますし、仕事に関して絵本を見つけてみようかと思っています。 |