竹いかだ下りで死にかける
チェンマイでのお話です。この時,私はチェンマイ空港で知り合った京大生のO君とビルマのタチレク〜ゴールデントライアングルにかけて行動を共にしていました。そしてチェンマイに再び戻ってきたのです。O君が 「明日はどうしますか?」 と言ってきたので 「そうやね,日帰りのトレッキングでも行きましょか」 と云う事になり,ターペー門近くのツアー代理店で日帰りトレッキングを申し込みました。日帰りにしては結構な内容でして,朝にチェンマイを出発,滝の見物,象に乗る,少数民族の村々を訪ねる,竹いかだ下り,昼飯付き,全行程ガイド付きでお一人様700Bポッキリ。これは楽しみです。 翌朝の8時に我々の宿まで迎えに来ると言っていたので,我々は準備バンタンで待っていました。ところがいつまで経っても迎えが来ません。ようやく8時30分頃に1台のタイカブ(ホンダドリーム100)がプルプルとやって来ました。 「悪い悪い,遅れちゃって…」 と,タイ人特有の笑顔で誤魔化しています。(以下,彼を遅刻ガイドと称す)あの明らかな誤魔化し笑顔を見ると,今までイライラしていた心がふぅ〜っと萎えてしまいました。そしてタイカブに3人乗りで代理店の事務所まで向かいました。 車(おんぼろソンテウ)でチェンマイを出発し,どんどん山奥へ進んで行きます。途中,しょぼい滝を見物。これが本当にしょぼい。遅刻ガイドが 「どうだすごい滝だろ!」 私 「…」 「日本に滝は有るか?」 「あるよ。高さが100メートルくらい..」 「……」 あぁ我ながら悪い事をしてしまった。次に少数民族の村を見学。次は象に乗ってジャングルを巡るのですが,いやぁ,これが実に楽しい。癖になりそう…ムフフ。そして昼飯。普通の食堂(といっても日本のそれではなくてタイの田舎の食堂ね)でカオパット(焼き飯)を喰う。ここで他のトレッキングツアーのイスラエル人7名様御一行と合流。やたらとうるさい連中だ。食事中は静かにしないとお母さんに叱られますよ。飯を喰い終わった時,雨が降ってきました。 ![]() タイランド大瀑布 この後,問題の竹いかだ下りとなります。車にはさっき食堂でカオパットを作っていたオヤジが乗り込んできました。雨は強くなったり弱くなったりを繰り返し,やむ気配はなさそうです。竹いかだ乗り場に到着。でも何処にもいかだが見当たりません。遅刻ガイドの兄ちゃんと食堂オヤジがいかだ用の竹を自転車のゴムチューブでエッセエッセと組み立てているではありませんか。なんとなく不安。そうこうしているうちにいかだの完成。ガイドが 「濡れるのでズボンは脱いでいった方がよいです」 というので,貴重品とズボンを車に預け,私はポロシャツにトランクスといったマヌケスタイルでいかだに乗り込みました。O君はちゃっかりと水着を履いてきているではありませんか。さすが京大生!君は人生の勝者だ。先ほど食堂で合流したイスラエル人御一行と一緒に出発です。我々のいかだの船頭は何とあの遅刻ガイド&あの食堂オヤジです。「おぃおぃ大丈夫か!」といった顔色を察知したのか 「もう10年以上やってるからノープロブレムだ」 …ますます不安。 この時期のタイは雨季です。いかだに乗り込んで判ったのですが,川の水量が尋常ではありません。ゴゥゴゥと出血大サービスの激流です。保津川下りならば500%以上の確率で「本日の船下りは中止です」といった案内が出ることでしょう。しばらく進むとどうやら川の途中に急流の岩場があるらしく,さすがに危険と判断したのか「あなた達は一旦ここで降りて歩いて先で待っていてくれ」と言われ,先で待つことにしました。竹いかだは船頭の見事な竹竿さばきで急流をすり抜けて行きます。(一同拍手パチパチ)我々の乗っていた竹いかだも遅刻ガイドの竿さばきでやってきました。おっとっと…おっ,おぃおぃ…ガッシャーンと竹いかだはクラッシュ,遅刻ガイドが激流に流されました。他の船頭もタイ人では滅多に見られないような真顔になっていました。幸いにも流されたガイドは岩場にしがみ付いて無事でした。(再び一同拍手パチパチ) しかし,あの竹いかだにそのまま乗っていたら命が危かったかもしれません。が,まだここで話は終わりません。さて,安全な場所から竹いかだ下りの再開です。先ほどのクラッシュで我々の竹いかだはかなりダメージを受けました。残念ながらピットイン作業するようなところはここにはありません。竹いかだは真ん中あたりがグシャと折れ曲がり,急な流れがあると座って乗っている我々の胸元あたりまで水が掛かります。もはやいかだ下りの体をなしていません。 なんだか先ほどよりも川の水量が増してきました。どうやら終点までは行かずに途中でいかだ下りを中止するようです。まぁその方が安全ですね。先に進んでいた竹いかだが川岸に止まっているのが見えてきました。遅刻ガイドは「あそこで降りますね」と,言ったか言わないか,その時,いかだの後方でコントロールしていた食堂オヤジの手から大切な竹竿が流れに取られて紛失してしまったのです。急流でコントロールを失った我々の竹いかだはドンブラコッコドンブラコッコと流されて行きました。遅刻ガイドは引きつった笑顔で 「泳げますか?」 ばかもの〜 「こんな急流で泳いだことなんてないわい!」 と心の中で思いつつ,私も引きつった笑顔で 「たぶんね…」 と答えました。 遅刻ガイドの 「GO!」 の掛け声で我々は竹いかだから一斉に激流に飛び込みました。何とか川岸まで泳ぎ着いたのですが,流れが急で岸にあがることができません。体が鯉のぼり状態です。おまけにトランクスが流されそうになるので,それも阻止せねばなりません。先に到着していた船頭さんがこんな窮状の私を見つけ,大急ぎで走り寄り力強く腕を差し出してくれました。私はその腕に掴まりやっとこさ岸にあがることができました。私が礼を言うと 「マイペンライ」 とはにかみながら,湿ったタバコを1本差し出し,火を付けてくれました。 |