本校では、「総合的な学習の時間」の中にコンピュータ・リテラシーの時間が位置づけられて、2年目となる。インターネットの活用、WEBページの作成、DTPソフトやグラフィックソフトによる簡単な作品製作などを通して、子どもたちはコンピュータに慣れ親しみ、抵抗感なく学習活動に活用できるようになってきた。また、自分のアイデアを具現化する道具の一つとして、積極的に活用しようとする意欲も高まっている。このような成果を踏まえ、図画工作科における、具体的な作品製作の道具としてコンピュータを活用させようと、本題材を設定した。
児童は、これまでにペイント系のグラフィックソフト(いわゆる「お絵かき」ソフト)を使い、平面的な描画や写真の加工などは経験している。そこで今回は、3Dモデリングソフトを活用し、自分が考えたキャラクターを、立体物としてコンピュータ上につくり出すことにした。また、そのキャラクターが活躍する場面をイメージし、絵本の中の一場面を描くように3次元的に空間をレイアウトするようにした。さらに,出来上がった画像をプリントアウトし、その場面に合った物語を文章で書き入れて、作品として仕上げることにした。
本題材で使用するソフトウェアは、「PROJECT TEAM DoGA」が学校教育用に製作・無償配布している「DOGA-E1」という3DCGシステムである。本ソフトは、現在開発途中のものではあるが、簡単な操作で3D造形が楽しめ、しかも大変クオリティの高い描画結果を得られる、優れたツールである。
DOGA-E1の特徴
・あらかじめ用意されたパーツをプラモデルのように組み合わせていくことで、簡単に3Dモデリングができる。
・必要な操作は、マウスのクリックとドラッグだけで(ほぼ)すべてできる。
・写真のようにリアルな描画結果を得られ、仕上がりに満足感がある。(絵の苦手な児童でも意欲的に取り組める。)
・教育目的であれば、無償で使用できる。
※プログラムの配布場所→ http://www.doga.co.jp/ptdoga/
本題材における造形活動は、あくまでもコンピュータ上でのシミュレーションである。しかし、児童の自由な発想が、瞬時に具体的な結果として表現される手軽さと楽しさは、アイデアを練り上げ、よりよいものをつくり出そうとする意欲を大いに喚起させるものであろう。発想すること自体を楽しむという経験が、実際の造形活動をより豊かなものにしていくであろうと考える。
・自分らしい発想で、独自のキャラクターを創造することができる。
・3D造形ソフトウェアの操作を覚え、表現したいことに活用できる。
・みんなの作品を鑑賞し、よさを見つけ合うことができる。
コンピュータ(DOS/V互換機 Pentium400MHz以上 Windows95以上 メモリ128MB推奨)
3Dソフト「DOGA-E1」
(1)ソフトの操作を覚える | ・・・・・1時間 |
(2)キャラクターをつくる | ・・・・・2時間 |
(3)レイアウトし、印刷する | ・・・・・1時間 |
(4)物語を考え、書き込む | ・・・・・1時間 |
(5)展示及び鑑賞 | ・・・・・1時間 |
・自分らしい発想で、独自のキャラクターを創造することができる。
・キャラクターの活躍する場面を想像し、物語に合ったレイアウトができる。
・ソフトウェアの操作を習得し、工夫して活用することができる。
・作品のよさを味わうことができる。
児童の表現活動 | 活動への教師の支援 | 評価規準 |
(1)ソフトの操作を覚える ・DOGA-E1の基本操作を覚え、練習する。 |
・操作手順を理解しやすくするために、段階ごとのサンプルを用意し、実際に操作をしながら説明する。 ・操作につまずいている児童を支援するため、机間観察をする。 |
・ソフトウェアに関心を持ち、操作を覚えようとする。 (関心・意欲・態度) (創造的な技能) |
(2)キャラクターをつくる ・コンピュータ上で、アイデアを練りながら、独自のキャラクターをつくりあげる。 |
・独創的な造形物となるように、機械的なパーツを生物的な部品として使ってみるなど、発想の転換をするように助言する。 ・一度仕上げたものでも、色やパーツを組み換えて幾つものヴァリエーションをつくるよう促すことで、アイデアを練り上げていけるようにする。 |
・工夫して、造形的におもしろいキャラクターを創造する。 (創造的な技能) (発想や構想の能力) |
(3)レイアウトし,印刷する ・キャラクターが活躍する場面を想像し、背景を組み合わせてレイアウトする。 ・データを保存し、印刷する。 |
・キャラクターの名前、性格などを考えながら物語をふくらませていくよう助言することで、絵本の一場面を描くようにレイアウトできるようにする。 ・保存や印刷の操作ミスがないように、詳細に説明する。 |
・キャラクターのデザインや物語にふさわしい背景を選び、バランスよく配置する。 (発想や構想の能力) (創造的な技能) |
(4)物語を考え、書き込む ・プリントアウトした画像に、その場面を表す物語を書き入れる。 |
・画像とのバランスがとれるように、文字の大きさや分量について助言する。 |
・画像にふさわしい文章を考えて、バランスよく書き込むことができる。 (発想や構想の能力) (創造的な技能) |
(5)展示及び鑑賞 ・自他の作品を鑑賞し、工夫している点や面白さを感じとる。 |
・学年全員の作品を中央廊下に並べて展示することで、一覧してそれぞれのよさを見つけられるようにする。 | ・自他の作品のよい点や気になる点を具体的に表現できる。 (鑑賞の能力) |
「うわー、スゴーっ!何これっ!」提示したサンプルを見た子どもたちの驚きの声。日常、ゲームやテレビで見慣れている3Dコンピュータグラフィックであるが、それが自分にもつくることができるものであるという発想は、児童たちにはなかったようだ。興味津々で作業に取り掛かり、慣れない操作につまずきながらも、とにかくどんどん何かが出来上がっていくこと自体が楽しくてしょうがないという感じの子どもたち。自分の発想を広げながら、造形シミュレーションを大いに楽しんだ学習活動となったと思う。
指導上の課題としては、まず、用意されたパーツの概念を転換させることが難しいということである。パーツは、飛行機の機体、ぬいぐるみの頭、カブトムシの角、など、具体的に分類されているが、そのままでは、カブトムシのパーツとして用意されたものをただくっつけてカブトムシをつくる、といったことになりかねない。カブトムシの角を、腕として使ってみるなど、誰もやろうとしないことをやってみる、誰も見たことのないものをつくリ出す、という意識をしっかりと持たせなければ、面白い造形活動にはならないと感じた。
また、用意されているパーツには、メカニックなもの(ロボット、戦闘機、兵器など)が多い。子どもたち(特に男の子)にとっては大好きなジャンルではあるが、今回のように「自分らしいキャラクターをつくる」という課題であっても、どうしてもそういうパーツのみに興味を奪われ、一様によく似た戦闘機やロボットをつくってしまいがちであった。兵器のパーツ自体、教育現場にはなじまないものであるという意見もあるだろう。子どもたちへの適切な助言が必要である。なお、本ソフトウェアはまだ開発中であり、そのあたりのことも考慮した改良が進められているとのことなので、期待したい。
今回は、物語の一場面のみを描くという課題であったが、一連のストーリーを描画して一冊の絵本やスライドショー、あるいはアニメーションをつくったり、あるいはそれぞれのキャラクターを集めて、共同で長編物語をつくったりするのも面白いだろう。また、コンピュータ上のキャラクターを、実際の立体物として再現してみるなど、様々に発展させていくことができそうである。