![]() 春の風が優しく暖かなその日、桜子は、 家主の春姫と、ももちゃん、みかんちゃんと 一緒にお花見に来ていました。 「ももお姉ちゃん、桜子お姉ちゃん、春姫、見てみて〜。 とても綺麗な桜ね。」とちょうど嬉しそうにみかんちゃんが 言った時、優しい風がさ〜っと吹き抜けていき同時に桜の花びらも 辺り一面に舞い散りました。 「わぁ〜。綺麗。桜吹雪ってこういう事を言うのね〜。」 「みかん、初めて見たよ〜。綺麗だね〜。おねえちゃま達。」 「春姫、連れてきてくださってありがとうございます。」 「うふふふ〜。いいの、いいの〜。今日は思い切って楽しもうね。」 「はい。」 わいわいがやがや楽しげに桜を見ながら、4人は歩きました。 桜子達の周りにいる花見見物客も、楽しそうに桜を愛でています。 ![]() 一体どの位歩いたでしょう。 最初の内は歓喜の声をあげていたみかんちゃんでしたが、 とうとう辛抱できなくなって、駄々をこね始めました。 「ねェねぇ。春姫。もうお腹がすいちゃったよ〜。 早くいい場所を取って、桜を見ながらお弁当を食べようよ。」 「まぁ。みかんちゃんたら。もうお腹が減ったの?まだ11時よ。」 「だって〜。いつもよりい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っぱい 歩いたんだもん。ね〜。いいでしょう?それに、おねえちゃま達だって きっとそう思ってるよ。ね。おねえちゃま達。」 ![]() 話をいきなりふられたももちゃんと桜子は、笑いながら 「ええ。そうね。」と言いました。 「くすくすくす。じゃあ、ちょっと早いけれど、ここでお弁当にしましょうか。」 そう言うと春姫は、キョロキョロ辺りを見回しました。 「あの樹の下にする?」 春姫が指差した先には、大きな立派な桜の樹がありました。 その樹は、どっしりと地面に根を生やして 枝も左右均等に大きく広がっていて、 一面に桜の花を咲かせている樹でした。 その樹を見た瞬間、桜子は、 「わぁ〜。とても登りやすそうな樹ね。」 と思わず言ってしまいました。 「まぁ。桜子ちゃんたら。」 3人は顔を見合わせて、くすくす笑いました。 「あ!私ったら・・・。」 すぐに桜子は、白い肌をうっすら桜色に染めて、 恥ずかしそうに両手で顔を隠してしまいました。 「うふ。女の子だって樹に登りたいって思う時もあるわ。 笑っちゃってごめんなさいね。」 「春姫も、登りたいって思う時・・・ありましたの?」 「ふふふふふ。ないしょ。」 「あ!ずるいですわ〜。」 桜子は可愛い小さな両手で、 春姫の背中をぽかぽか叩こうとしましたが、 一歩早く春姫は逃げてしまいました。 「もう、春姫も、桜子ちゃんも何追いかけっこしてるの〜? 早くお弁当にしようよ〜。」とみかんちゃんが大きな声でいいました。 春姫と桜子ちゃんが追いかけっこしている間に、 待ちきれなかったももちゃんとみかんちゃんは、 さっさとござを出して荷物を降ろしてしまっていたのでした。 「ごめん、ごめん〜。今行くよ〜。」 はぁ〜〜〜い。今、行きますわ〜。」 2人仲良く返事をしながら、 ももちゃんとみかんちゃんのいる所へ駆けて行きました。 色とりどりの美味しいお弁当を食べ、 そして、桜の花を見ながら4人の会話は進みます。 「ももおねえちゃん、桜子おねえちゃん。春姫。 お弁当を食べ終わったら、あっちに行ってみようよ〜。 みかん、枝垂桜が見たい〜。」 「そうね。私も見たいわ。ね、行ってもいいでしょう? 春姫。」 「えぇ。いいわよ〜。でも、私はここにいるわ〜。 3人で行ってらっしゃい。」 「え?どうして〜?(○`ε´○)ぶーっ 春姫も、一緒じゃなきゃ嫌だ〜。」 可愛いほっぺたを思いっきり膨らまして、 みかんちゃんは、文句を言いました。 「う〜ん。もうお腹が一杯。 お腹が一杯になったら、動きたくなくなっちゃった。 後から行くから3人で先に行ってきてね。」 照れくさそうに、手足を思いっきり伸ばしながら、 春姫は答えました。 「(○`ε´○)ぶーっ。つまんな〜い。絶対後から来てね。 ごちそうさま〜。みかん、もうお腹が一杯。 ももおねえちゃま、桜子おねえちゃま、行こうよ〜。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「桜子おねえちゃま?」 「桜子さんどうしたの??」 返事をしようとしない桜子に3人の目は集中しました。 それもそのはず、桜子は自分の頭の上に広がっている 立派な桜の樹に見とれていたからです。 「桜子おねえちゃま!」 はやく枝垂桜を見たくて仕方がないみかんちゃんが、 とうとうしびれを切らして、大きな声で桜子を呼びました。 「え?なぁに?何か言った?」 きょとんとして桜子は返事を返しました。 「もう。みかんのお話聞いてなかったの? あっちの枝垂桜を見に行こうって、お話していたの。 ね、早く行こうよ〜。」 と桜子の腕を引っ張りながらみかんちゃんは言いましたが、 桜子は動こうとしませんでした。 「ごめんなさい。私、もう少しだけこの桜の樹を見ていたいの。 後から絶対に行くから、もう少しだけこの桜の樹を見せて。」 「もう。春姫も、桜子ちゃんも、つまらな〜い。 絶対だよ。すぐに後から来てね。」「えぇ。すぐに行きますわ。」 「はいはい。すぐに行くからね〜。 ももちゃん、みかんちゃんをよろしくね。」 「えぇ。大丈夫よ。春姫」 2人は立ち上がって手をつなぎました。 みかんちゃんは一刻も早く枝垂桜が見たかったらしく、 ももちゃんの腕をぐいぐい引っ張って、枝垂桜が植わっている 方向へ引っ張って歩いていきました。 ![]() 残された2人は笑顔で2人見送りながら、 春姫が、口を開きました。 「そんなにこの桜の樹が気に入ったの?」 「え?ええ。この桜、とても不思議な気がするの・・・。」 「不思議な気?」 「えぇ。何か懐かしいような、心が切なくなるような、 何か大切な事を思い出させてくれるような・・・そんな感じ。」 「そう・・・。じゃあ、登ってみる?」 「え?で、でも・・・。」 桜子は戸惑いました。 いくら登りやすそうな樹でも、 ドレスを着て登れるとはとても思っていなかったからです。 「くす。大丈夫よ。ほら、この枝なら私の身長でも届くわ。 ここからなら、誰にも見られないし、少しくらい登ったって、 平気よ。登ってみる?」 たっぷり1分は悩んだ桜子でしたが、やがて決心しました。 「えぇ。ありがとう。 春姫。 私、少しだけ登ってみますわ。」 「じゃあ、気をつけてね。降りてくるまで、私は下で待っているから。 あまり高い所まで登っちゃダメよ。」 「はい。解りましたわ。」 ![]() 春姫さんは、桜子を手のひらに乗せて、 自分の背丈より高い枝の上に桜子をそっと乗せました。 「いってらっしゃい。気をつけてね。」 「いってきま〜す。」 春姫にお礼を言うと、 桜子は桜の上の枝を目指して登っていきました。 もっと高い所に登れば、この切ない気持ちの原因が解ると思ったのです。 ![]() ところが桜の樹を登れば登るほど、心の切なさは募るばかり。 どこまで登っても、桜の樹の天辺にはつかず、周りは桜の花、花、花。 どうしてこんなに切なく懐かしい気持ちになるのか、 何も思い出せず、不安は募っていくばかり。 とうとう怖くなって降りようとしても、一面桜の花、花、花。 いっこうに地面につく気配もありません。 とうとう桜子は、泣き出してしまいました。 「シクシクシク・・・。 やっぱり登るんじゃなかったわ。 お断りすればよかったわ。一体どうしたらいいの?」 桜子の問いに答えてくれる者はいず、 風がサラサラ流れる音ばかりが聞こえてきます。 ついに我慢しきれなくなって、大声で泣きそうになったその時です。 どこからともなく、風に乗って歌声が聞こえてきました。 「迷子の迷子の子猫ちゃん。貴女のお家はどこですか?」 つづく・・・ |