−何故脚が痙るのか?− |
ランナーの間で時々議論になるネタですが、「何故脚が痙るのか?」を解説したいと思います。 身も蓋もないのですが一言で言っちゃえば生理現象です。 体質や持って生まれたものでは決してありません。 まず痙る(筋痙攣が起こる)原因としては大きく分けて2種類。 一つは疲労(筋組織内の乳酸等)の蓄積によるもの、二つ目は血流障害によるもの。 前者の場合、そもそも筋肉をいうのは使用すれば(収縮させれば)乳酸を主とする代謝産物が作られます。 それが一定以上筋肉に蓄積されれば痙攣(所謂痙り)が生じるわけですが、これは使用レベルや頻度が低ければ少なく、高ければ多く貯まるものですからランナーとしてのレベルの高低に関係なく起こりえます。 では何故長時間運動できるのか? 筋肉を使えば必ず乳酸が生成されそれが一定以上沈着すれば痙攣が起こると言いましたが、その乳酸は静脈から取り込まれることで常に筋肉から排出されていきます。(肝臓に運ばれ分解再構成、再利用される) そうやって徐々に疲労を回復しているわけですが運動(筋肉の収縮弛緩)によりこの排出機構を加速させることが出来ます。 これを「筋ポンプ作用」と言います。 つまり、「運動」というのは(等尺性運動を除いて)乳酸が筋肉に貯まるのと排出するのを同時に行っているわけです。 これを、効率よく行えば理屈上はかなりの長時間運動し続けられます。 (LSDとかウルトラマラソンは正にこのサイクルに乗せるから可能) 逆に言えばこのサイクルが赤字(産生が排出を上回る)状態なら何れ必ず痙攣は起こってしまいます。 運動レベルが高ければ高いほどこれは加速しますので速さを追求すればするほど痙攣と隣り合わせと言うことになります。 こう言うと脚が痙るのは最早必然で防ぎようが無いような気がしますよね? では何故、それらを踏まえても個人差が出たり、また同じ人でも起こったり起こらなかったりするのか? それは多くの場合前述した乳酸の産生と排出のバランスが状況によって変化するからに他なりません。 練習不足の人は問題外としても普段練習を積んでいる人でも普段以上の負荷がかかり想定したサイクルが崩壊すれば簡単にそのバランスは崩れてしまいます。 例えば練習時より大会の方が気合いが入りペースが上がってしまったり、コースのアップダウンが激しかったり、風が強かったり、はたまた体調管理に失敗して体重が増加したり・・・。 市民(ビギナー)ランナーの典型としては、 いい感じで走っていて痙る気配が全くなかったのに、後半バテてペースがガタ落ち、若しくは歩きが入るようになった途端、急に脚が痙ったことはありませんか? これは運動レベルが下がったことで排出効率が悪くなったことによるものです。 運動レベルの高い競技者やエリートランナーにしても、逆に速さ故に乳酸沈着の速度も早い(理由は後述)分、止まった時のバランスの崩壊はより大きくなり改善が尚不可能になります。(箱根駅伝で棄権が起こるのは正にこれ) ですので、全てのランナーに起こり得る上、尚かつ体調管理やトレーニングで十分対応可能でありながら「レベルが低さ」や「練習不足」の一言では片付けられない問題なのです。 さて、産生と排出のバランスだというのは前述しましたが・・・。 それを避けるためには、脚が痙らないようにするにはどうすれば良いのか? 基本は筋内の乳酸沈着を痙攣するレベルに至らないようにすることですが、マラソンは基本走り続けながらそれを管理するかに尽きます。 つまり筋力的になるべく「無理」をしないようにするということです。 その「無理」がなるべく起こらないように練習を積むわけですが・・・。 LSDなどは速度度外視で良いですからそれが管理しやすいですし、逆に速度を追求する競技者さんは例え筋肉内の乳酸沈着が進んでもゴールまで保てばいいという考え方ですから「無理」を承知でペースアップするわけで走りの目的によりおのずとアプローチは違ってきますが。(その辺は後述) 更に疲労蓄積のし易さの問題もあります。 上で筋肉に疲労物質が貯まる状況が変化することにより痙るか痙らないかに差が出ると書きました。 しかし、それ以外にも筋肉の「質」の違いによっても大きな差が出ます。 これは結構有名な話ですが筋肉というのは筋繊維が束になって出来ていますがその筋繊維には、収縮速度が速く、その代わりに疲れやすい(疲労物質排出量が多い)白筋繊維、逆に収縮速度は遅いけど疲れにくい(疲労物質排出が少ない)赤筋繊維の2種があります。 車に例えると白筋繊維はパワーとトルクはあるけど燃費が悪いエンジン、赤筋繊維は逆にトルクは弱いけど燃費の良いエンジンみたいなイメージです。 これら繊維の混合比率により白筋、赤筋、その中間と特質が別れる訳ですが、これらはあくまでバランスの話ですので完全な両立はあり得ません。 (そんなことが可能ならウサイン=ボルトが今頃マラソンの世界記録更新してるw) それと意外と知らない人が多いですが筋肉を構成する筋繊維というのはどれだけ鍛えても量は増えません。 鍛えて強くなる場合も痛めた後、機能回復する場合もあくまで肥大するのであって量が増えるわけではありません。(例えばある筋肉が部分断裂を起こして機能低下した場合リハビリで元の筋力に戻すことは十分可能だけどこれは生き残った分が肥大して補う) 当然長距離ランナー的には赤筋繊維主体になるわけですがあまりにも特化するとスピードが出なくなります。 しかし逆にスピードトレーニングをやり過ぎて白筋繊維の率を増やし過ぎると持久力が落ちると同時に疲労が貯まりやすくなってしまいます。 ですので如何に自分の目的に合った都合の良い比率に鍛えるかが重要です。 この辺競技者は速さを追求するが故に使い方にしても筋肉の質にしても、かなりシビアに調整するため、より疲労が蓄積しやすくちょっとした状況の変化や計算のズレでトップランナーといえども止まってしまうわけです。 (先日見事にマラソン女子五輪代表を勝ち取った福士選手が初フル時急激に止まったのは記憶に新しいですね) 我々市民ランナーでもこれは例外ではありません。 走るに当たって「速さ」と「長距離適正」は筋肉の質として相反するものだと前述しましたが、それは「速さ」を追求すればする程、適応距離が短くなるということですから。 逆を言えば「速さ」を追求しなければ誰でも適応距離延長は可能です。 私が常々言っている「練習さえすればウルトラマラソンは誰でもできます^^」はこのことからきているわけです。(速さは落ちるけど;) ただし、ペースを「楽」に落としたとしても距離が伸びれば伸びるほど疲労の蓄積を加速させる要因がもう一つあります。 それは「体重」です。 ただ単に太っていることをダメだと言っているのではありません。 ここで重要なのはあくまで「重さ」ですから。 単純に運動の法則です。 ある重さの物体を一定の速度で動かす場合必要な力は、重さが増えれば増えるほど増します。 当たり前ですが、同じペースで走る場合体重50sのランナーよりも60qのランナーの方がより多くの力を必要とします。 そして、その力を得るための筋肉を付けると更に重くなり・・・。 自動車やの性能で「パワーウェイトレシオ」なんて概念(ある物体を動かす場合同じ力なら軽い方が加速度が大きく、重い方が小さいって奴)がありますがの人間が走る場合でも同じようなことが言えます。 つまり、軽い方がそれを動かす筋肉も少なくて済むと言うことです。 一応にエリートランナーがスリムで軽くなっていくのは正にこれですね。 回りくどく言いましたが、無駄に筋肉量が多いと距離が長くなった場合その性能を生かせないばかりかむしろ負荷となって痙る原因になるということです。 ダイエット目的で走りだした人などは単純に練習しつつ体重を絞れば解決する問題ですが、他のスポーツの経験者さん等、実は筋肉の質が長距離に適していない場合などは単純に練習を積むだけで無く筋肉の質を変えていかなければいけないため盲点になりがちな例です。 逆に、どんな人でも少しでも体重を軽くすることで負荷を減らし痙りにくく出来るため大会前に無理の無い範囲での減量をすることは短期間で出来る大きな手立てでしょう。 さて、ここまで最初に書いた2つの原因の内、前者の原因、如何に「疲労」の蓄積を防ぐかを書いてきましたが・・・尚納得がいかない方も多くおられることでしょう。 そこで、ここからは残る2つの原因の内の後者、「血流障害」によるものについて書きます。 これで、一番分かりやすいのは、走ってのもではないですがウォーミングアップ不足でプールに入った時に起こる「アレ」です。 アップをしっかりしていると筋肉の産熱による体温上昇で防げるのですが、それを怠ると血管が急激な温度低下により収縮し結果、血流障害を起こし筋肉が痙攣を起こします。 でも、走り始めならともかく何故これが走っている最中、しかもフル後半に起こり得るのか? これは、痙攣の原因の前者に+後者がプラスされるからです。 マラソン等長時間運動は基本、常にある程度筋肉に乳酸を抱えたまま運動しています。 それを運動(筋ポンプ作用)により排出しながらバランスを取りつつ継続していることは既に書きましたが、このバランスをどっちらけにしてくれるのが後者の原因、血流障害です。 距離に対して練習不足のランナーにありがちなのは、寒い時期の大会(マラソンは大概そうですが)後半バテてペースがガタ落ち、若しくは歩きが入るようになり体温が下がった途端、急に脚が痙ったことはありませんか? 雨や雪が降っている状況で後半走っているにもかかわらず急に脚が痙ったことはありませんか? これらは運動による産熱が環境による体温低下に追いつかなくなって起こる血管収縮により血流障害を起こすことで疲労物質の排出が急激に低下して起こるものです。 (逆に運動レベルの高い速いランナーが真冬でもランパンランシャツで走れるのは筋肉の運動による産熱が体温を上昇させるから) これは練習や経験不足で後半止まりがちなビギナーランナーが陥りやすいパターンです。 その場合、月並みですが前半突っ込まずイーブンペースで最後まで保たせるのが最善ですが、もしも歩くような急激にペースダウンや止まってしまうなら、それを想定して防寒を考慮したウェアで臨むと言うのも手です。 あと、それなりに練習を積んでいるランナーでも急激な天候変化で皮膚温が下がりそうな時は余裕があればむしろペースを上げて体温上昇させて対処することも可能でしょう。 レースマネジメントにもよりますが、雨で皮膚温が下がってくれるためむしろ走りやすい場合もありますから。 これらは体温低下による例ですが、逆に高温による体温上昇が原因になることもあります。 それは、「脱水」によるものです。 暑い時期の大会に参加中、疲れているわけでも脚にキテいるわけでもないのに突然脚が痙ったことはありませんか? 通常マラソンは暑い時期はシーズンオフですが一部大会やウルトラマラソン、トレイルランは夏開催の大会が多いですが当然汗によって失われる水、イオンの補給は重要です。 熱中症対策として昨今マラソン以外でも言われますが、それ以前の脱水症状も脚が痙る原因として問題だからです。 脱水状態だと当然血液中の水分は血管外に放出され続けます。 結果、血液粘度が上がり末端部ほど血流障害を起こしやすくなり当然末端に近い脹ら脛などが痙攣しやすくなります。 これは運動レベルが高いほど起こしやすいため寒い時期の低体温によるものとは逆に十分に練習を積んでいるランナーや競技者でも陥りやすい痙攣ですので注意が必要です。 これは水分、塩分を充分に取ることとペースを下げて体温を意図的に下げることである程度は対処可能ですが・・・真夏の場合は熱中症の危険性もあるため痙攣を起こした時点でリタイヤも考慮すべきでしょう。 更に細かい例を挙げると寒い時期の大会に思わぬ高気温に見舞われた場合これらが複合して当てはまる場合もあります。 スタート時低温で対策したウェアを着込んで走り出したのに途中から気温が上がったりすると、時期的にエイドが不十分で脱水を起こしたりといった場合もあります。 後者の場合は体温調整と十分な水分、塩分補給が肝要です。 (これらも逆になるとロスを招く為やはりエリートランナー程危険と言えますが・・・いかに競技者がシビアな環境で戦っているのかがわかりますね;) まぁ、我々市民ランナーは健康リスクをなるべく低くして余裕を持って大会に臨めますから、これらを踏まえて十分な練習を積み、対策をした上で安全に楽しく走れれば良いのです。 歩いてしまったり止まったりしたら例え完走出来ても悔しいですし納得いかないですしね。 総括。 当然普段から練習を積んで最低限必要な筋力、距離適正をつけるのが大前提(初めて受ける負荷には誰だって対応出来ないので)ですが、想定した距離を走れるようになった後は、「疲労」のマネジメントが大切です。 「無理」と「楽」のバランスを取り「無理」が過ぎて破綻しないようにする。 ランナーとしてレベルアップすれば以前は「無理」だったペースが「楽」に走れるようになるわけですからペース配分により幅が持たせられますので速く走るための練習も勿論有効でしょう。 より「楽」な状態で走り続けられる身体を作り、状況の変化に応じてしっかりマネジメントする。 更に長期的には自分が目標にしている条件に見合った筋肉の質に改善していくことを目指す。 それらが出来ていればそうそう痙ることはないでしょう。 練習を積んでいるのに、それでも痙攣が頻発している人の多くはやはり「攻めている(無理をしている)から」だと思います。 タイムを狙っていれば尚のことですが、走ってて楽な状態ならより攻めたくなるのが人情ですし、自覚は無くても楽しい時というのは集中しているということでは、疲労感を感じにくくなるというのも一因でしょう。 ランナーズハイなどは典型で精神状態によっては疲労感は強くなったり弱くなったりしますから。 感覚に頼らず客観的なマネジメントが大事です。 その上で自己の目標に見合った走りが常に出来るようになれば尚良しです^^ 因みに私自身常にそれが出来ているわけではありませんが、(攻めれば10qの大会でもラストで痙るし;)今まで出た大会で自分なりに一番疲労のマネジメントが上手くいったのは100qの大会でしたが、100q10時間の間一度も痙攣は起こりませんでしたよ〜 (まぁウルトラは管理しやすいんですけどね) |