−鍼灸治療の種類− |
■治療の種類
「鍼灸とは」の項では、鍼灸按摩の施術や効果の違いについてある意味教科書的に書きましたが、ここでは治療のアプローチの違いについて触れます。 まず最初に東洋医学は古臭いようなイメージがありますが実は今現在行われている治療もその都度新しくなっています。 なぜなら、患者さんの体質、体調に合わせて治療を行うのが東洋医学の神髄である以上、患者さん側の事情も昔のままであるはずもなく、経験医術である東洋医学の理論も治療も変化せざるを得ないからです。 日本においては明治時代以降の西洋医学偏重の政策の影響もあり、鍼灸は今でも「東洋医術」として一般でも捉えられていますが実は現在は西洋医学的なアプローチの方が圧倒的に多いと言わざるを得ません。 謂わば西洋医学的な観点で東洋医術の道具と概念を使用しているという訳です。 純東洋医学的に治療をしている治療家も数多くいますから、あくまで世の中の流れ的にということですが、実際我々の免許を取得するための国家試験の内容も6割〜7割が西洋医学の分野の問題で厚生労働省の管理下にある以上これも必然と言えるでしょう。 そういった事情から日本では医療機関と我々は一線を画し本来の知識と技量を発揮する場は少なくなっています。 因みにその辺は本場である中国の方が「中西合体政策」により円滑に医療現場で調和されています。 T.西洋医学的治療 ・物理療法としての治療 鍼灸の西洋医学的アプローチとして最も一般的なのは物理療法の一方法としての施術でしょう。 電気治療や医療マッサージと同じく鍼灸を用いて身体に物理的に刺激を与えることで代謝促進や反射の誘発を起こし組織を活性化したり、単に鎮痛効果を期待しての痛みの管理に用いたりする訳ですが、これにしても鍼灸刺激でしか成し得ないもあり有用性は大きいです・・・が、本来の東洋医学の観点からは少々はずれたアプローチでも言えます。 しかし、患者さん側の知識や常識が今や西洋医学基準である以上、これが最も患者さんに理解されやすく「分かりやすい」治療であることも確かで余程の信頼関係を築かなければ理解不能な治療を受けてもらい、尚かつ効果を発揮することはなかなかに難しいだけに、病院などと違いシステムに縛られない開業鍼灸師ですら、こちらのアプローチの方が今はポピュラーだというのは東洋医学の神髄を理解している(体現できているとは言えない;)者としては少々残念ではありますが・・・。 ただ、物理的刺激として鍼灸を使うだけに患者さんにも非常に理解されやすく、温熱や電気刺激等併用することで、患者さんにも「治療されている」というある種の満足感も与えられ信用を得られやすいという大きなメリットも否定できません。 U.東洋医学的治療 西洋医学的なアプローチとは違いあくまで東洋医学的な観点を貫き、本来の鍼灸治療を行う考え方です。 鍼灸師としては本来こちらが本道と言えるのですが基本概念が本職でもなかなかに難解で患者さんに理解され難いのが問題です。 しかし、根底にある考え方はあくまで自然で謂わば生き物が生きていく上で「当たり前」な事ばかりなのですが、当然それを実践するには治療だけではなく日々の生活まで掘り下げて考えなければならず治療といっても普段の養生も含めたトータルケアになるのでなかなかに難しい。 この辺は理論的には至極簡単だけど実際が難しいダイエットなんかと似てなくもありません。 殆どの患者さん的には治療とは「何かもしてもらう」ことであり自分が努力することを避ける傾向にあるのは今も昔も変わらないですから; それらの観覧辛苦を乗り越え分かりやすい物理療法よりも、こっちのコンセプトのみで施術することが出来るのは残念ながら一部の東洋医学に理解のある個人開業医を除き、ほぼ開業鍼灸師に限定されます。 更に当然患者さん自身の理解を得ることが大前提ですが、最近TVCMでも言われている「未病を治す」という東洋医学の究極目標は生活も含めたトータルケアあってのことなのです。 一言で言えば病気になったら治すのではなく「病気にならない生活をコーディネートする」ことこそが東洋医学の最大目標な訳です。 ・古法派(脈診流) 今でもなお東洋医学の原典である「黄帝内経」にある治療概念に立ち返ろうという一派。 しかし、古い治療に回帰するのではなくあくまで診断や治療における基準を原典に求めようということで治療自体が時代遅れというわけではありません。 中でも脈診流(所謂経絡治療)は難行六十九難を元にした・・・と、専門的なことはここではあえて割愛して、現代風に言うなら、主訴への対症療法ではなくあくまで患者の体質や体調を脈状や腹診等を用いトータルで観察し、それらを腕脚の要穴への接触鍼を主とする弱刺激治療のみで改善することで身体全体を整え改善しようという治療法です。 究極は患部に全く触れずに治療が完結できるだけに正に夢のような治療とも言えるでしょう。 ただ、患者さんの理解も含めて実践が非常に難しいのが玉に瑕ですが・・・。 ・中医学派 中医学=中国の昔ながらの医学と思っている人がたまにいますが、中国起源とはいえ実は結構歴史は新しく最近普及してきた治療概念です。 前述の脈診流は私も一時期勉強していたのでそれなりに知っていますし少しは実践出来ますがこちらは殆どやったことがないのであらましだけ^^; 本来東洋医学とはある疾患に対してその症状よりも患者さん毎の気血の虚実を察して治療に当たるものですが、中医学はそれに対して症状そのものからある程度の当たりを付け病型と治療穴をパターン化したものです。 日本のように西洋医学的に鍼灸を使うのではなく鍼灸治療に西洋医学の考え方をある程度取り入れたとでも言いましょうか、よって診断から治療への流れは非常にシンプルです。 物理療法の項でも書いた治療が「分かりやすい」という一点においては脈診流より優れています。 これは治療する側にも言えることなので今後主流になる可能性も秘めています。 だからといって効き目が素晴らしいかは別問題ですが・・・私の師匠などは勉強すればする程、それを実践で検証すればするほど古典の正しさが分かると言っていますが。 因みに最近大学などで東洋医学や経穴(ツボ)の講義をする際は中医学が元になっていることが多いらしいです。 まあ、基本になっている考え方は同じなのですが。 (補足) T.道具の違い ・中国鍼 時々日本の鍼治療院で「中国鍼を使用しています」とか見かけますが、実はこれはおかしくて日本で「中国鍼」と呼ばれている長鍼や大鍼も当然鍼が日本に伝わった時に治療に用いる全ての鍼(古代九鍼。あらゆる治療に必要な七つ道具みたいなもの)と同じく伝わっています。 では、何故それを日本ではあまり使わないか? 答えは簡単、この項で何回か書いている治療を患者さんの体質に合わせるという考え方がそれを許さなかったからです。 もちろん、全てがそうとは言いませんが中国でポピュラーに使われていた鍼の種類が多くの日本人のは合わなかった訳です。 総じて言えることですが日本人はその気候のせいか刺激に対して敏感で非常に繊細です。 よって、九鍼の刺入鍼の中で最も細く柔らかく刺激もソフトな鍼を今も用いている訳です。 逆に言えば、身体が強刺激を好む人には中国鍼の方が合うことになりますので、その辺りもあくまで患者さんによりけりですが。 ・日本鍼? ですので、中国鍼に対する日本鍼なるものはありません。 日本の鍼治療で主に使われている鍼も本来は九鍼の中の一つ「毫鍼」と呼ばれる物で、これだって当然中国から伝わってきたのですから「中国鍼」ですw 強いて日本オリジナルを言うなら鍼治療の刺入の際に最初に使う筒「鍼管」は、江戸時代中期の高名な鍼師、杉山和一が考案したものです。 細く柔らかい鍼の方が太く硬い鍼よりも刺入が難しいために考えられた謂わば補助具なのですが今では日本におけるほぼ全ての鍼師が毫鍼使用時にはこの鍼管を使っています。 その土地土地、時代によって新しい治療法が生まれ、又、その土地時代に合わなくなった古い治療法が廃れていって治療概念や治療法が新陳代謝するのも東洋医学の良いところでしょう。 |
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