剱岳(2998)

日本海から剣岳日帰り(H15.9.15)
日本海から剱岳日帰り2回目(H16.9.18)


 


日本海から剱岳日帰り1回目
【登山日】H15.9.15
【コース】滑川の日本海(3:30)→(自転車)→馬場島(6:00〜6:20)→早月小屋(10:00〜10:10)→
     山頂(12:35〜12:55)→早月小屋(14:17〜14:23)→馬場島(16:26〜16:43)→(自転車)
     →日本海(17:40)

 金沢にその世界では有名なアマチュア山スキーヤーがいて、僕はその人のホームページを毎日見ているのだが、その人が山スキーのトレーニングを兼ねて、海抜0mの日本海から自転車を使って早月尾根から剱岳を日帰りするという山行をやった。その標高差はなんと3000m。それをたったの12時間半でやってのけていた。その人はハードな山行が持ち味で、スーパーマンのような体力を持っているのだが、今回の山行にも驚かされた。

 それよりも、海抜0mの日本海から自分の力だけで標高2998mの憧れの剱岳まで登って下りてくるという行為自体に非常に興味を引かれた。しかし、すごいなーと関心しながらも、なぜか自分にもできそうな気がした。理由は自転車で距離にして29km、標高760mまで登ること自体、もともと自転車乗りの僕には不可能なことではないし、早月尾根も健脚なら日帰り可能と聞いていたからだ。何より、「海抜0mから自力で3000mを登って下りてくる」という行為そのものが、非常にエキサイティングで魅力的に感じられた。その日以来1週間、剱の日帰り登山のことが頭から離れなかった。そしてその週末、僕も挑戦してみることにした。

 ランドナーを輪行(自転車をばらして袋に詰めて列車などに乗せること)して、大阪駅の11番ホームからサンダーバードに乗り込んだ。軽い気持ちで出かけてしまったが、車窓の風景を眺めながら冷静に考えたらとても大変なことのように思えてきた。確かに自転車で標高差760mまで登ることと、日帰りで早月尾根を登ることはできるだろう。しかし、それを同じ日に立て続けに行うことができるのだろうか?しかも特にトレーニングしているわけでもないのに。また、日帰りでは標高差1600m程度の経験しかないのだ。
 
 早月尾根だけで標高差2240mもあるから登り400m/時間、下り600m/時間のハイペースで考えても休憩入れると登りで7時間程度、下りは4時間程度かかる筈で、それだけで11時間。さらに自転車は登り2時間半、下り1時間程度かかり、準備等を含めると、トータルで計算上15時間はかかることになる。つまり、3時半に出発しても18時半に到着ということだ。それもうまくいっての話しだから、ホントに大丈夫かなと不安になった。まあ無理そうなら早月小屋で引き返そうと思い直し、気持ちを切り替えた。

 富山で乗り換えて滑川で下車。自転車を組み立てて、ビジネスホテルにチェックイン。そして回転寿司屋へ直行。やはり北陸の回転寿司はうまい。たらふく食べてビールも飲んで明日に向けて鋭気を養った。22:30ごろベッドに潜ったが、なかなか寝付けない。もともと夜が遅い生活が続いていたし、さらに期待と不安が入り混じり、興奮状態となっていたからだ。特に不安が大きかった。はたして山頂までたどり着けるのか?下りで膝を痛めないだろうか?明日は仕事だが終電(19:00)に間に合うだろうか?などと考えていると1時頃になっていた。ようやく浅い眠りに就き、予定通り3時に起床した。

 3時20分、ホテルをチェックアウトする。余分な荷物はフロントで預かってもらった。いったん、海まで戻って夜の日本海を眺める。「必ず戻ってくるからな」と心に誓って3:30に出発。天気予報では快晴の筈だったが、雨が降り始め、さっそく新品になったカッパ(ストームクルーザー)を着る羽目になった。やがて雨は止んだが、昔地理で習った通り、夜は山から海へ向かって風が吹くため、向かい風の登りとなる。だんだん街灯が減っていき、やがて明かりひとつない道になった。さらに2回も通行止めに遭い、迂回路はいずれもダートであった。真っ暗なダートをヘッドランプの明かりを頼りに走るが、なんか気味が悪い。やがてだんだん明るくなってきたが、馬場島に近づくにつれて坂はきつくなり、最後の坂は泣きそうなほどきつかった。
 
 6時に馬場島着。もうすでにお腹いっぱいという感じである。キャンプ場で給水し、短パンを長ズボンにはきかえ、登山靴に履き替えて出発したのは6:20だった。登り始めからすでに足が重い。前途はとても長くてバテるのが心配だったから、とにかくいつも以上に小股で歩くことを心がける。さすがに日帰り登山としてはスタートが遅いため、誰にも会わない。いったん1050m付近の松尾平で道は平らとなるが、あとはひたすら単調な登りがこれでもかというくらい続いていく。標高差200m毎に設けられた看板により現在地を知ることができて、ずいぶん助けられた。休憩を入れて30分で200mを1ピッチとして、それを繰り返すことで標高を重ねていった。

 早月小屋に着いたのは10:00ちょうどであった。あ〜、やっと着いた!あ〜長かった!ここは標高2200m、馬場島からの標高差は1460m。普通の北アルプスのコースならもう山頂に立っているころだ。しかし、このコースはまだ山頂まで800mもある。とりあえず休憩だ。ガンバった自分へのご褒美に持ってきた味付ゆでたまごと、山小屋で買った100%のオレンジジュースを味わう。どちらもメチャメチャうまかった。元気を取り戻して出発。このあたりからだんだんガスってきて展望がなくなってきた。さすがに標高差800mもあるので、なかなか着かない。でも2400m付近からハイマツが出てきて、山頂が近くなったことを感じさせる。

  
(左)やっと着いた早月小屋   (右)2800m付近でガスが晴れた

 2800m地点にたどり着いたとき、突然ガスが晴れた。
「おおっ!」
目の前に剱岳の山頂が姿を現した。形は秀麗ではないが、岩だらけの山容はとても迫力がある。左手に連なる小窓の王もかっこいい。このあたりからは、意外に険しい道となる。手を使うような登りが続くが、単調な登りに飽きてきたので楽しい。

12:35、山頂に到着。ついに海抜0mから2998mまで登りきった。しかし、意外に感慨はなかった。これから続く長い下りを思うと、気は緩められない。残念ながら雲が多く、剱沢の一部が見えているほかはガスに覆われて立山さえ見えなかった。しばし休憩した後、新兵器「ひざかんたん」をテストしてみる。これはひざ専用にカットしたテーピングである。これを装着してヒザ痛対策もばっちりだ。

12:55、剱岳出発。手を使うような急坂は足の負担が減らせるし、何より楽しい。2800m地点からは比較的単調な下りとなる。途中で同じくらいのスピードで降りる人に道を譲ってもらったのだが、その人が追いかけてくるのでハイペースで下る羽目になってしまった。早月小屋で小休止をし、さらに延々と下っていく。このコースは全体的に急坂が多く、しかも上部では石のために、下部では巨木の根っこのために大きな段差があって歩きにくい。さらに下の方は黒土が多く、しかも前日の雨でぬかるんでいたので、その黒土が登山靴の裏にこびりつく。その状態で石や木に足を乗せると非常に滑りやすいので何回も転びそうになった。標高差400〜600m毎に小休止をしながら延々と降りる。そして、16:26、ついに馬場島に下山した。

 長かった・・・。自転車を「試練と憧れ」の石碑の前まで運んで記念撮影。まさに「試練」の山だった。登山靴を履き替え、短パンを履いていざ出発。さあ、あとは下るだけだ。下り坂で一気に加速する。自転車は下りが楽だという点が山登りと大きく違う。やがて滑川の街が近づいてきた。夕日に向かってひたすらペダルを漕ぐ。さすがに海が近づいてくると、感情が高ぶってきた。ああ、長い山行がやっと終わる・・・。

17:40、ついに日本海に到着。夕日はもう沈もうとしていた。
「ついにやり遂げた・・・。」
僕は達成感に浸りながら、沈みゆく夕日を眺めていた。
なお、自転車の登りの平均速度は14.1km/h、下りは31km/h、MAX54km/hであった。

滑川駅で自転車をばらして電車で帰る。家に着いたのは23時半であった。おりしも阪神18年ぶりの優勝の日だった。


日本海に沈む夕日を眺めて達成感に浸る


日本海から剱岳日帰り2回目

【登山日】H16.9.18
【コース】日本海(4:22)→馬場島(6:45〜6:57)→早月小屋(10:33〜10:43)→山頂(12:37〜12:52)
    →早月小屋(14:11〜14:17)→馬場島(16:23〜16:35)→日本海(17:29)

 昨年の今ごろ行った日本海から剱岳日帰り山行は、非常に充実感のある印象に残る山行であった。しかし、タイム的にはまだ短縮できる手応えはあり、チャンスがあったらまた行きたいと思っていた。何よりあの感動をもう一度味わいたかったのだ。

 そしてそれから1年、予定の埋まらなかった連休がたまたまあった。剱に行くなら今しかないとは思ったが、行くべきかどうか迷っていた。というのは、最近仕事で睡眠不足で生活も不規則であり、体調がイマイチだったからだ。またトレーニングもほとんどできていないから体力的にも心配だった。今年の夏は7年連続で行っていたアルプス山行にも行けなかったし、ハードな山行はGW以来やっていなかった。心配になって4日前に近所の標高300mの山に登ったが、本番の1/10の標高なのでまったく自信にならない。また、ママチャリで通勤はしているものの、自転車での峠越えもしばらくやってない。それに、天気もあまり良くなさそうである。でも今しかチャンスはない。これを逃すと今年はもう行けないだろうし、行かなければ後悔するだろう。後悔するくらいなら・・・と思い立って急遽行くことにした。

 前日夕方仕事を終えると、猛ダッシュで帰宅して準備してすぐ駅に向かう。慌てて輪行して弁当を買い込み、電車に乗り込む。自転車の袋詰めに失敗して時間をロスしたため、危うく乗り遅れるところだったが、ギリギリセーフだった。
 滑川には23時過ぎに到着。自転車を組み立ててビジネスホテルにチェックインする。シャワーを浴びて0時ごろベッドに入ったが、なんとなく不安で寝付いたのは1時頃であった。

 3:45起床の予定だったが、3回目の目覚ましでようやくベッドから出られた。あわてて準備をしてチェックアウトし、いったん海まで戻る。まだ暗い日本海はとても静かだった。出発時刻は4:22。昨年より遅いスタートだ。さあ、行くか。

 馬場島までの道は2回目なのでよくわかっている。微風向かい風の中、足に負担をかけないように低めのギアでリズミカルに漕いで行く。途中2箇所ダートがあった。昨年から全く工事は進んでいないようだ。ダートは体力を消耗するし、乗り心地が悪いから嫌である。剱大橋を過ぎるとだんだん坂がきつくなってきた。途中何台もザックを積んだ車に抜かれる。彼らも早月尾根を登るのだろう。

 坂がきつくなってきたときに、ハプニングが発生した。なんと一番低いローギアが入らないのだ。リアディレーラーの調整がわるいらしい。止まってしばらく調整を試みたが治らない。今日はローギアを多用して足に負担をかけない方針だったが仕方ない、一個上のギアで頑張るしかない。最後の急坂はジグザグに登ることで足への負担を抑えて登りきった。

 馬場島には6:45に到着。給水して、短パンから長ズボンに履き替え、登山靴に履き替えて6:57出発。登山口でほかの登山者に話し掛けられたが、自転車で来て今から剱に登ると言うと驚いた顔をしていた。

 さて、今回は秘密兵器を用意した。去年使用したSUN TRACEのステッキと同じもの(デザインは少し違うが)をもう一つ買ってきてダブルステッキで登るのだ。これで登りのタイムを短縮する予定であった。実際に使って見ると、非常に効果的で、登り始めの急登もハイペースで登ることができた。これなら一気にタイムを短縮できそうだ。僕は調子に乗ってガンガン飛ばした。しかしこれが本日の失敗のもとだった。

 登山道は標高760mの馬場島からいきなりの急登となり、その後標高1000m付近でいったんなだらかになってからまた急登になるのだが、そこでバテてしまった。理由は単純である。体調的にも体力的にも調整不足なのに、調子に乗って飛ばしたからだった。昨年登れていることから過信があったのだろう。そんな僕を戒めるかのように剱岳は次々と容赦ない急登を用意してくる。こんなところでバテるとは、タイム短縮どころか登頂もおぼつかない。そこでペースを落として登ることにした。体調はいったん持ち直したものの、標高2000m付近でまたバテてしまった。そこで、こんなこともあろうかと持ってきたリポビタンDを飲む。少し元気になったが、早月小屋手前の急坂でまたもやバテ気味になりながら何とか小屋に到着する(10:33)。昨年はゆっくり登ったし、今年はダブルステッキを使ったから一気にタイムを短縮できるかと思ったが、結局4分しか短縮できなかった。

 小屋で今年もオレンジジュースを買って飲む。このオレンジジュースのおいしかったこと!疲れた体に酸っぱさが染みとおって少し元気を回復することができた。さあ、ここから800mUPだ。すっかり自信をなくした僕は、謙虚な気持ちで一歩一歩着実に登っていった。早月小屋まで秋山なのに20℃くらいあって暑かったのだが、ここから温度が下がって涼しくなったこともあり、着実に高度を稼いでいくことができた。紅葉はすでに始まっていてナナカマドも赤くなってきた。しかし、残念ながらガスってしまい、剱の姿は最後まで拝むことができなかた。

 12:37、ようやく山頂に到着。一時は辿りつけないのではないかと思ったが、結果的には昨年より速く登ることができた。多分ダブルステッキの効果だろう。天気は下り坂だったから、山頂で15分ほど滞在してすぐ下山する。2700m付近まではいいペースで降りてきたが、下りにダブルステッキを使い始めてからペースが上がらなくなった。どうもダブルステッキがうまく使えなくてなめらかに降りられない。いつもは歩幅を小さくしてなめらかに降りるよう心がけているのだが、どうもストックに頼ってしまい、足がうまく動かせないし、ブレーキがかかりすぎてしまう。そこで1800m地点からはステッキを1本にしたところ、いつもの調子が戻ってきたが、前回よりも下りのペースは遅くなった。さすがに足に疲労がたまってきたが、残りの標高差が減ってきたので頑張れた。

 16:23、ようやく馬場島に到着。あー疲れた。再び短パンに履き替えて出発。下りはさすがに気持ちがいい。ひたすら海を目指してペダルを漕ぐ。17:29、ついに日本海に到達した。前回ほどの感動はなかったし、夕日も見えなかったのだが、我ながらよく頑張った。足や腕はかなり疲労していたが、何ともいえない達成感があった。こんな気持ちにさせてくれた剱岳には感謝している。

 タイムは13時間7分。昨年よりも結果的に63分短縮できた。うち18分は休憩時間を短くしたことによるものなので、実際には45分の短縮である。しかし、反省すべきところもある。やはり山はなめてはいけない。翌日思いっきり筋肉痛になってしまった。もう30代だからいきなり無茶をしてはいけない。それなりの山に登るときにはしっかりとした準備が必要だと思った。

 なお、YASUHIRO氏の昨年のタイムは12時間33分。有名な氏のタイムにあと約30分までのところに迫ったことは自信になった。

(H16.9作成)

  

区間  2003.9   2004.9   その差 
日本海〜馬場島 2:30 2:23 ▲0:07
馬場島での休憩 0:20 0:12 ▲0:08
馬場島〜早月小屋    3:40 3:36 ▲0:04
早月小屋での休憩 0:10 0:10
早月小屋〜山頂 2:25 1:54 ▲0:31
山頂での休憩 0:20 0:15 ▲0:05
山頂〜早月小屋 1:22 1:19 ▲0:03
早月小屋での休憩 0:06 0:06
早月小屋〜馬場島 2:03 2:06 +0:03
馬場島での休憩 0:17 0:12 ▲0:05
馬場島〜日本海 0:57 0:54 ▲0:03
トータル 14:10 13:07 ▲63:00



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