日本海から立山日帰り

【登山日】H26.9.20
【コースタイム】
常願寺川河口(1:10)→アルペン村(2:12)→桂台(3:24)→称名滝P(3:58〜4:12)→八郎坂登山口(4:25)→弘法(5:40)→追分(6:29)→美松坂入口(6:58)→天狗平(7:55)→室堂(8:29)→雄山山頂着(9:54)
雄山山頂発(10:20)→室堂(11:25〜11:31)→天狗平(12:04)→美松坂入口(12:58)→追分(13:20)→弘法(14:04)→八郎坂登山口(14:59)→称名滝P(15:10〜15:16)→芦峅寺でパンク(15:40〜16:06)→常願寺川河口(17:08)

日本海から立山日帰りのコースは10年前に剱岳を日帰りした頃からの課題だった。しかし、登山の距離が非常に長いことから挑戦をためらっており、行けるチャンスも少ないから後回しにしていた。そして今年、金沢に転勤になってようやくチャンスを得て7月末に日本海から薬師岳日帰りを成功させた。次は立山しかないだろう・・・そう思って8月に立山に挑戦しようと思っていた。ところが、怪我をしたことと、天候不順によりチャンスを逸して9月も半ばを過ぎてしまった。あまり寒くなると難しくなるため、今年は無理かなと思っていたが、たまたまフリーになる土曜日が晴天の天気予報に変わった。これは行くしかないだろう。

 ただし正直迷っていた。前回の薬師岳から約2ヶ月経過し、体重も約2kg増加したし、トレーニングもまともにできていない。前の週にようやく500mほどの山に登れただけだ。体も前回より重くて切れがない。通勤時の駅までの自転車や職場の階段の上り下りの感触では自分の体調はイマイチだと感じていた。今の僕にはあの立山のロングコースに挑む体力はないのではないかと心配になり、弱気になっていた。しかし、今回のチャンスを逃せば来年までチャンスはないだろう。山頂にたどり着かなくても手前で引き返せるし、高原バスも利用できる。行ける所までいってやろうと思い直して急遽準備を進めた。

 前日に仕事を終えて帰宅後、レンタカーを借りて金沢を20時前に出発。常願寺川河口の駐車場に到着したのは21時過ぎだった。借りたのが軽自動車だったので狭かったけど、涼しかったせいか意外と眠ることができた。約3時間ほどの仮眠の後、0:30に起床。ヘッドランプを灯して準備する。1:00出発予定だったが、やや遅れて1:10に日本海をスタートした。



 今回の仕様は前回と同様で、BASSO Reef 2007モデルにシートポストキャリアを取り付けて、トレランシューズ等を入れたザックをくくり付けている。トレッキングポールはダウンチューブ両側に2本搭載。服装は上が吸水速乾性の半袖+長袖シャツ、下がレーパンというスタイル。さらに反射タスキをかけてリアはLEDを点滅させている。首からはヘッドランプをぶら下げてサイコンを照らしつつ、看板も照らせるようにした。

 常願寺川沿いに走っていく。前回から導入した新型ライトVOLT300は明るくて役に立った。深夜にも関わらず、意外とクルマが多くて驚く。さらに、いつものことであるが夜は山から風が吹き降ろすので、予想通り向かい風だった。長丁場なので無理のないペースで漕いでいく。岩峅寺を過ぎると向かい風もやんでくれて助かった。あるぺん村の最終コンビ二で食糧を買い込む。その先は意外と平坦な場所も多かったが、藤村橋を過ぎてからは本格的な登りとなった。ここからは街灯も皆無となり、曇天で月も出ていないためまさに真っ暗だった。桂台で小休止し、ゲート脇を通過して再スタート。ここからさらに勾配は強まり、10%超えの連続となった。称名滝P手前はさらにえげつない激坂となる。荷物が重くて体力的にも自信がないので、クルマが来ないことをいいことに、ジグザグ走行で足を労わった。

 3:58に称名滝Pに到着。最後の坂はきつかった・・・。ここからは自転車乗り入れ禁止なので、自転車はデポした。真っ暗な中でサポートタイツ+トレランシューズに履き替え、水を1.5Lほど給水して4:12に出発。まずは真っ暗な歩道を進んでいく。称名滝は見えないが、滝音は響いていた。飛竜橋を渡っていよいよ八郎坂に突入。このルートは北側の崖にあるせいか苔むした石が多く、夜露で濡れているため滑って歩きにくかった。腹が減ったので滝見展望台で小休止。薄明の中、滝のシルエットが浮かび上がってきた。その上には月と明けの明星が見えている。見たことのない角度からの滝の眺めが興味深い。やがて道は突然なだらかになり、台地の上に出たことを実感する。



 5:40にアルペンルートに合流。ここからは木道歩きとなる。まだバスが来ないのでアルペンルートを歩こうかと思ったが、足に優しい木道を選択した。バスの走っていない弘法平は静寂に包まれており、自分がこの広大な立山を独占しているかのような気がして嬉しかった。左手には大日岳、前方には天狗岳が見えているが、まだ立山本体は見えない。やがて追分の分岐に到着。木道が十字に交差しているのが珍しい。左折してアルペンルートに出る。ここからは車道を歩くことにした。静かな車道歩きもまたいいものだ。体は寒くはなかったが、気温は下がっているようで手が冷たくなってきたので、手袋を装着した。



弥陀ヶ原のバス停で小休止して、再び車道を少し歩き、美松坂へ突入する。ここは旧道だそうで、他のルートと比べるとやや荒れていたが、歩きにくいほどではなかった。最短ルートなので効率は良い。アルペンルートより標高の高い斜面をトラバースするため、眼下に高原バスの始発が上っていくのが見えた。このルートは動物の糞が多く、そのうち大きな黒い糞に出会った。もしかして、これは熊の糞ではないか?熊鈴をもってきて良かった。この熊の糞らしきものは3箇所もあり、ちょっとビビッた。









やがて樹林が開けて突然、左前方に剱岳の雄姿が現れた。思わず「おおっ!」と声を上げる。何度見ても素晴らしい山だ。振り返ると鍬崎山の向こうに白山が見えている。樹林帯を抜けると天狗平山荘が見えた。チングルマの紅葉を楽しみながら山荘前に出ると、ここで初めて立山とご対面。おお〜!ここまで来たら雄山山頂まで行くしかないだろう。車道を渡ると整備された遊歩道となり、大日岳〜剱岳〜別山〜立山三山〜浄土山のパノラマに圧倒された。チングルマの群落も素晴らしく、こんな素晴らしい遊歩道を独り占めできることに幸福感を覚えた。





最後にひと登りして室堂に到着。ここで静寂は破れ、多くの人で賑わういつもの光景となった。水はまだ500mlほどしか消費していなかったし、食料も十分あったので、雄山の渋滞の影響を回避すべく、室堂ターミナルはスルーして先を急ぐ。僕は登りで足に負荷をかけると下りで膝を痛める体質なので、今回はダブルストックにするとともに、歩幅を狭めて膝の曲がりを極力少なくし、足に負担をかけないようにリズミカルに登っていった。いつもなら先行者をどんどん抜いていくのに、今日の登りは我ながら大人しかった。一ノ越で小休止しようかと思ったが、団体さんが出発しそうだったので休憩はやめてそのまま雄山の登りに突入。ペースを乱さないように淡々と登っていく。登るにつれて景色が変わっていくのが楽しい。風もなく、それほど寒くもないのでとても快適。





そしてついに頂上小屋に到着。ここまで来たら500円払って本当の山頂へ行かなければならないだろう。ラッキーなことに順番待ちせずに神社のある山頂に到着。時刻は9:54分、日本海から8時間44分、称名滝Pから5時間42分を要した。





山頂で写真を撮ってもらった後、眺めを楽しむ間もなくお祓いが始まったので神社前に座る。ちょうど後厄なので、こんなご利益ありそうな場所でお祓いしていただけるとはありがたいことだ。小屋の前まで降りて大休止。後立山から槍ヶ岳、黒部五郎岳、そして薬師岳などの素晴らしい景色を堪能しながら腹ごしらえする。実にいい気分だった。ザックの中を点検していると、なんと自転車用の空気ポンプが出てきた。サドルバッグに入らなかったのでザックに入れたのだが、忘れていた・・・。





足をマッサージしてアミノバイタルを飲んで10:20下山開始。膝痛の懸念がある僕としては、これからが正念場だ。いきなりの急坂。しかし、ダブルストックの使い方に慣れてきたのか、うまく手足を連動させながら滑らかに下ることができるようになってきた。膝も特に違和感を感じない。登りで足を労わった成果が出ているようだ。スピードよりも滑らかに下ることを意識して下っていく。やがて天候は回復してきて青空になってきた。振り返ると色彩を増した立山が綺麗だった。





室堂は観光客が大勢いて喧騒に包まれていた。下から持って上がった水を捨てて、冷たい水を補給する。バスターミナルから車道を歩けないかと思って下ってみたが、やはり外には出られないようになっていたので、もう一度上に上がって遊歩道から降りることにする。何度も後を振り返って、名残を惜しみながら歩いていった。





天狗平から再び美松坂に入っていくと、やがてガスに包まれた。弥陀ヶ原ホテル前で最後の腹ごしらえをして、追分からひたすら木道を黙々と歩いていく。そして最後の八郎坂の下りに入る。予想通り、滑りやすいので非常に気を使う登山道だった。でも朝は暗くてよく見えなかった滝が良く見えるのが嬉しい。最後は飛竜橋から観光客に混じって15:10に下山。


すぐに自転車モードに切り替えてわずか6分後に再スタートした。速かったのはサポートタイツをレーパンに履き替えなかったことと、ザックをキャリアにくくりつけずに背負ったまま下っためである。下りは急勾配なのでスピードがついつい出てしまう。やはりザックが重いままで下ハンドルを持つと背中や腰に負担がかかってしんどくなってきたので、途中で止まってザックをキャリアに固定することにした。

再スタートしてしばらく走った頃、ちょうど緩やかな坂を漕ぎながら下っている時だった。突然後ろから「バキバキ、ブシュー」と派手な音がして同時にパンクした。あちゃ〜と思って確認すると、キャリアへの固定が甘かったようでザックが右側にずり落ちて、ザックの紐がホイールに絡まっていた。幸いにもホイールは無事だったので、道端でパンク修理に入る。リアタイヤを外してみると、なんとバルブが折れていた。原因がわかったのでチューブの取り替え作業を開始。携帯ポンプで空気を入れているとで地元ローディーが停まり、心配して声をかけてくれた。ありがたいことです。パッキングしなおして再スタート。これで26分のロスとなった。



あとはひたすら海を目指すだけ。やはり今度は海風が吹いて向かい風になった。疲れてきたので速度は平地なのに20km/hまで落ちてしまった。やがて前方に海が見えてきた。そして17:08、ついに日本海ゴール。ヤッター!!出発から15時間58分(パンクを除くと15時間32分)の長旅だった。



常願寺川の河口に光る夕日を眺めながらしばし佇む。我ながらよく頑張った。今まで剱岳に始まり白馬岳、富士山、白山、妙高山、薬師岳と海抜0mからの山登りを行ってきたが、課題としていた山は一応一通り終わった。とりあえずこのスタイルの山行は一旦卒業かな・・・心地よい潮風に吹かれながら、僕はひとり達成感に浸っていた。

(ホームへ)