春

         

    どこへいっても鳥がいた
         
    レンゲ草が震えてスミレの蕾が目にいたい
         
    ワラビが羽根をひろげ竹の子がすっくと伸び
      
    今年の春 この家の主人は病院にいる

         

    残された 果樹園では草が茂り
         
    一人息子がラジオを聞きながら梨の実をまざいていた
         
    顔をまっくろにしてはにかみ笑いをする彼は
            
    この春大学に行く予定だった

         

    気まぐれで暖かい春の日は
     
    茶の若葉宿り若者の弾くギターに流れる
         
    空にはカラスがカウカウと鳴き
         
    夜にはモロック(ふくろう)が鳴いた

         

    生暖かいモヤが地面をはい雑草が生い茂る春
         
    祖父は病床で風邪と仲良くなり
         
    気丈な 祖母は曲がった腰でくわを握っていた
                
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