『華麗なる一族』山崎豊子 - 花四季彩
■ふるさと・文学散歩

      『華麗なる一族』山崎豊子著

                野元 正

1.作家紹介(参考文献:新潮現代文学50等)

1)直木賞受賞まで

1)1924年11月、昆布商・父菊蔵、母ますの長女として大阪市に生まれた。小学校時代の恩師坂口利夫氏が国語教育の専門家だったことから、国語、作文の重点的な指導を受けた。

2)1941年(17才)大阪で最も古い歴史と英才教育で知られた私立校、相愛女学校を卒業した。同窓生にヴァイリン二スト辻久子、随筆家岡部伊都子がいる。このころはまだ小説家になりたいと思っていなかった。

3)1944年京都女子大国文科を卒業後、毎日新聞社大阪本社入社し、1945年学芸部副部長だった井上靖に新聞記者としての訓練を受けた。激務の新聞記者のかたわら、小説を書き続ける井上靖の真摯な姿に打たれ、小説を書いてみようという気になった。その後約10年、新聞記者をしながら、また結核とも闘いながら、小説を書き続けた。

4)1957年処女作『暖簾』を刊行。翌年中央公論に連載した『花のれん』で直木賞を受賞した。12月毎日新聞を退社して作家生活に入った。

2)作者の原風景

 作家山崎豊子は、大阪生まれの大阪育ちであり、大阪船場の商家で育った。

彼女の処女作であり、出世作である『暖簾』(文庫本)の(あとがき)で、“年に何回となく大阪と東京を往復しているけれど、東京で二、三日過ごすと、手や顔の毛穴がふさがったような気がする。もどってきて吹田あたりになって大阪の灯が見えると、全身の毛穴が開き快くなる。”「それほど大阪は、私にとって私の血液そのものなのです。大阪に生れ、大阪に育った私にとって、空気の密度にまで大阪を感じとることができるのです。そして、この大阪の街の中核をなすのは、古い暖簾をもつ船場の商人たちです」という。このことからも彼女の原風景は大阪、なかでも船場あたりであろう。初期の作品である『暖簾』『花のれん』『船場狂い』『へんねし』『しぶちん』『ぼんち』等はその系列といえよう。そして、戦後、ともすると衰退傾向で「儲けたらいい」ばっかりとみなされていた大阪人に暖かい目を向けている。大阪商人には金銭や打算を越えたど根性も人情も誇りもあるとその作品の中で叫んでいる。

 またこのような大阪商人もの? からの転機となり、社会的な大きな反響を呼び起こした『白い巨頭』もその舞台は大阪である。そして、『不毛地帯』の総合商社は紛れもなく大阪の大商社なのだ。

 そして、『華麗なる一族』も主な舞台は神戸・岡本であるが、全編に漂う雰囲気や感性は大阪そのものであるような気がしてならない。神戸、姫路、播磨、また京都は、どこかに大阪とは異質なものとして捉えられているように思えてならない。

3)作品の特色と系譜

 今までの山崎作品は幾つかの特色を持ち、また幾つかの系譜に分類できる。

新潮現代文学50『白い巨頭』の青地晨氏の(解説)を参考に私見を述べる。

1)特色

 (1)彼女の原風景である大阪、特に生まれ育った船場や大阪人の体臭を感じさせるど根性、深い人情、誇りを題材とし、大阪人を暖かく見ている。特にこの特色は前述の『暖簾』(文庫本)の(あとがき)で作者は述べている。「私はこの本の中で、私の理想の大阪商人を描いてみました。古くさいようで妙に新しい合理精神を持ち、ビジネス イズ ビジネスの合理精神かと思えば、飄々として俳味をもったユーモアがあり、そのユーモアの中に一流の哲学と勘をもっているというのが、大阪商人の風貌といえましょう」とその目は極めて暖かい。

 (2)「上昇志向や自己顕示欲の強烈な人間ドラマが生ぐさいまでに書きこまれ」ており、『白い巨塔』『華麗なる一族』など、主人公は悪人? というパターンがある。特にこの二作品における愛人の取り扱いは類似性がある。二人の主人公は難しい手術を完遂したときとか、際どい策謀を思いつき、罠をかけたときなど、生命や人間の尊厳に係わった後に激しく欲情している。

 (3)作品の多くは、社会の中の人間像を書いており、群れの中の人間がいかに行動するか冷徹な目で見ている。しかしそれでいて悪人に近い主人公に対する作者の結構暖かい目を感じる。これは作家の甘さというより大阪人の深い人情を私は感じるのだが、間違っているのだろうか?

 (4)“作品の執筆に当たっては、事前に入念な調査や取材が行われ、作品に厚みをますとともに、重い現実感を作品にあたえている“ この入念で周到な調査や取材は核心まで到達しており、『続白い巨塔』の(あとがき)では取材のため膨大な時間とエネルギーを使った”と記している。山崎作品の大きな特色の1つは「調査や取材の土台の上に築かれた小説である」といえよう。

 (5)作品が“合理的精神や強い正義感が一本の太い線のように貫かれている。“強者のおごり、偽善、策謀、打算などに生理的怒りや嫌悪感を”強く作者は抱いている。そして“弱い人間や社会の下積みの人びとへの思いやりを感じる”

これはともすると人物の類型化といわゆる強きをくじき、弱気を助ける、という図式に陥りやすい。そして、山崎作品は一見そのような傾向にあるように見えるが、しかし山崎作品が多くの人の共感を呼んでいるのは、社会に対する怒りや正義感がわかりやすく提示され、読者の思いと一致するからであろう。また読者とは難しい。単なる善が悪に勝つ勧善懲悪小説では納得しないのだ。悪が栄え、善が滅ぶ方が真実に近いことを本能的に嗅ぎ分けている。『華麗なる一族』でも悪の上にさらなる悪が存在していることを暗示してこの小説は終わっている。

 (6)以上?から?をすべて統合して描かれた作品群が『仮装集団』『白い巨塔』『続白い巨塔』『華麗なる一族』『不毛地帯』『二つの祖国』『大地の子』『沈まぬ太陽』等である。

2)系譜

 (1)大阪商人もの編

 『暖簾』『花のれん』『船場狂い』『へんねし』『しぶちん』『ぼんち』等

 (2)女の生き方編

 『女の勲章』『女系家族』『花紋』等

 (3)社会派的長編(調査・取材編)

 仮装集団』『白い巨塔』『続白い巨塔』『華麗なる一族』『不毛地帯』『二つの祖  国』『大地の子』『沈まぬ太陽』等

 (4)その他(私小説的体験小説)

 『ムッシュ・クラタ』『死亡記事』等


4)社会的反響への対応と作品展開

 山崎豊子作品はその社会的反響が高いため、たとえば、『白い巨塔』を例にとれば、医師の良心を貫いた里見医師や解剖学の大河内教授を登場させ、作者としての見識を貫いたつもりだった。しかし、結果として医師側の敗訴という結末は、いろいろな立場の読者から「小説といえども、社会的反響を考えて、作者はもっと社会的責任をもった結末にすべきであった」との意見があったと『続白い巨塔』の(あとがき)で作者は述べている。その読者からの社会的反響に答えるため、彼女は『続白い巨塔』を書き、一審敗訴、二審勝訴という結果を導いて社会的反響に答えた。当時、医事裁判において“白い巨塔”という表題が示すように医師たちは自分の権威を守るためになかなか医師に不利になるような証言をしなかったという。そのため、裁判件数も少なく、かつ患者側の敗訴になる場合が多かった。このような状況の中、小説の世界とはいえ、簡単に患者側勝訴にもっていくわけにはいかなかったと思う。安易な結論や妥協は小説自体のリアリティをすべて嘘っぽくしてしまうからだ。それは綿密な調査、取材と真摯な問題解明の姿勢がなければ、読者の期待に耐えられない。

(1)この医学界の腐敗に鋭い検証を行った『白い巨塔』を契機として、この社会的反響に支えられて、

(2)『華麗なる一族』で銀行の恥部と国際的遅れを暴き、単行本帯から引用すると、「笑顔で体臭から預金を獲得し、裏では冷酷に産業界を支配する、不気味で巨大な権力機構《銀行》を徹底取材──企業の熾烈な戦場に交錯する人間の醜悪さと至純な心を描く」

(3)ついで『不毛地帯』で酷寒のシベリア抑留にふれ、防衛庁次期主力戦闘機決定過程における巨大商社の国際商戦に絡む黒い政治的利権の暗躍を世間が注目し出す前に白日の下に晒した。

(4)さらに『二つの祖国』で彼女が、「1978年秋、ハワイ州立大学客員教授に招聘された機会を生かし、講義の合間に、移民史、日系人収容所関係の基礎資料を勉強し、日系一世、二世の方々の体験談をきたことに」より、書かれたものだという。真珠湾、相手を殺さない語学兵、ヒロシマ、東京裁判など日系二世一家が戦争の嵐の中でいずれの国を祖国として生きていくべきか苦悩し、翻弄される姿を描いている。

(5)『大地の子』では取材から完成まで8年をかけ、困難な取材も「中国を美しく書かなくてもよい。ただそれが真実であるならば」という中国要人の理解を得てどうにか達成できた。敗戦直後に祖父と母を亡くし、父と妹と生き別れた日本人戦争孤児が中国人の教師に育てれ、文化大革命を背景に日本人故の苦難の道を歩み、やがて日中共同プロジェクト「宝華製鉄」の建設に参加し、製鉄所建設の協力で日本から派遣された実父と再会する。そして養父と実父のあいだで揺れ動く孤児の心が描かれている。

(6)また、菊池寛賞を受賞した『沈まぬ太陽』では、まず(アフリカ編)で日本のフラッグ・キャリアである大航空会社の組合委員長を勤めた主人公は、委員長辞任後、10年間に渡って外国僻地勤務を命ぜられる現代における流刑の徒を鮮烈に描いている。続く(御巣鷹山編)では帰国した現代の流刑の徒は遺族担当を命ぜられる。墜落したジャンボ機に何が起き、犠牲者や遺族の無念と慟哭が胸を打つ。そして(会長室編)は、御巣鷹山事故以後、経営刷新という理由で民間から来た会長と会長室部長に抜擢された流刑の徒の主人公が真に会社を憂い、体質改善を願う人々の戦いを描き、それと対比して利権をめぐる魑魅魍魎の暗躍を巧みに描いている。→この作品の発表による反応について


5)『華麗なる一族』が描かれた時代背景とその後

1)1958年(昭和33)?1961年(昭和36)岩戸景気

2)1961年(昭和36)7月日銀による金融引き締め

3)1965(昭和40)3月 山陽特殊製鋼倒産

4)『華麗なる一族』は1970年(昭和45)3月?1972年(昭和47)10月「週刊新潮」に連載。1973年(昭和48年)上・中・下三巻として新潮社から刊行された。

5)1970年(昭和45年)3月は3/14に「人類の進歩と調和」をテーマに

大阪・千里丘陵で日本万国博覧会が開催された。

6)1970年(昭和45)11月 三島由紀夫自衛隊市ヶ谷駐屯地に乱入し、割腹自殺する。

7)1971年(昭和46)イギリスのロールス・ロイス社倒産

8)1971年(昭和46)『アンアン』『ノンノ』発刊

9)1972年(昭和47)2月 浅間山荘事件起こる。

10)1972年(昭和47)9月 日中国交回復

11)1973年(昭和48)10月 神戸銀行と太陽銀行合併し、太陽神戸銀行となる。(本店は神戸)

12)1990年(平成2) 太陽神戸銀行と三井銀行が合併し、太陽神戸三井銀行(後にさくら銀行)となる。(本店は東京へ)

13)2001年(平成13) さくら銀行と住友銀行が合併し、三井住友銀行発足

6)『華麗なる一族』の会社等の想定

 作者は、『白い巨塔』の時の大きな社会的反響を考慮して、『華麗なる一族』は、単行本の帯に「この小説は特定のモデルはない。しかし、描かれているのは、まぎれもない“現代の真実である”である!」と記しているが、明らかにモデルはある。

1)銀行

・阪神銀行=神戸銀行 ・大同銀行=太陽銀行 ・三井銀行=第三銀行

・富国銀行=富士銀行 ・住友銀行=大友銀行 ・三菱銀行=五菱銀行

・大和銀行=五和銀行 ・東海銀行=中京銀行 ・協和銀行=平和銀行

・埼玉銀行=板東銀行 ・北海銀行=北海道拓殖銀行

・東京銀行=?    ・三和銀行=?

2)会社等

・阪神特殊製鋼=山陽特殊製鋼 ・帝国製鉄=新日本製鐵 等

3)合併経緯

・兵庫県内7銀行合併→1936年(昭和11)神戸銀行誕生+太陽銀行→1973.10太陽神戸銀行+三井銀行

 →1990.4太陽神戸三井銀行(後にさくら銀行)+住友銀行→2001.4三井住友銀行 

・兵庫銀行→破綻→1996.1みどり銀行→  1999.4みなと銀行 ・1949.9阪神銀行→1999.4 みなと銀行

・三和銀行+東海銀行→ 2002.1 UFJ銀行→東京三菱UFJ銀行

・大和銀行+あさひ銀行→  いそな銀行

・東京銀行+三菱銀行→東京三菱銀行→東京三菱UFJ銀行

・第一勧業銀行+富士銀行+日本興業銀行→2002.4みずほ銀行

2.『華麗なる一族』初 出 週刊誌連載小説

『華麗なる一族』は1970年(S453月?1972年(S4710月の27ヶ月に渡り、週刊新潮に連載された小説である。

3.テーマ

(1)銀行の恥部と国際的遅れを暴き、単行本帯から引用すると、「笑顔で大衆から預金を獲得し、裏では冷酷に産業界を支配する、不気味で巨大な権力機構《銀行》を徹底取材──企業の熾烈な戦場に交錯する人間の醜悪さと至純な心を描く」

(2)この小説は(1)が主要テーマであるが、人間のしあわせとは何か? も重要なテーマと思われる。巨大な権力は尊い個人の思いまで自覚しているか、していないか関係なく飲み込み、省みないで増殖していく。

 特に女のしあわせとは何か? を問いつつ、閨閥つくりや妻妾同居・妻妾同衾や出生疑惑などから生じた悲劇が鮮明に描かれている。

(3)そして、この小説は??のテーマがそれぞれ切り離されて独立したものでなく、それぞれ呼応し、翻弄される人間ドラマによって構成されていると言えよう。それは、『華麗なる一族』文庫本下巻“あとがき”は「“金融界の聖域”である銀行の取材は、覚悟していた以上に困難で、その閉鎖性は医学界よりさらに聖域であることを痛烈に感じた。

─略─しかしそうした取材の積み重ねによって、銀行と政、官界のこれまで窺い知ることの出来なかった結びつきとそこに介在する人間のドラマを観ることが出来た」として、人間の生き様すべてがテーマであることを暗示している。

4.テーマの今日性

 山崎豊子は『華麗なる一族』新潮文庫“あとがき”で「この小説に登場する銀行、官僚、政治家たちには、決して特定のモデルはない」と、また“帯”では「しかし、描かれているものは、まぎれもない“現代の真実”である!」と述べている。この小説は、約35年前に描かれたが、財政と金融の分離、権力機構の権力の分散、金融再編成、不良債権問題、外国競争力、日銀問題、銀行合併、銀行不祥事、構造改革など、2003年(H15)の現在でもどれ1つとっても色褪せていない。この小説のテーマは今日でもやはり探求しなければならないものであろう。そして、その課題はこの小説を読むことで思いつくことが出来る。このことは視点を変えると、ある意味で、日本がうち続く不況から脱出できないのは、35年前の課題を今日まで先送りしてきた結果だろうか。

5.梗 概

1)構 成

(1)“小が大を喰う”合併をめざした銀行合併劇

(2)自前銑鉄供給を夢見る高炉建設と戦後最大と言われた“山陽特殊製鋼の倒産”をモデルとした阪神特殊製鋼の倒産

(3)閨閥づくり(阪神特殊製鋼専務・長男鉄平と元通産大臣大川一郎の長女早苗、長女一子と大蔵官僚主計局次長美馬中、阪神銀行本店貸付課長・次男銀平と阪神銀行筆頭株主で大阪重工社長安田太左衛門の娘万樹子、次女二子と見合い相手佐橋総理大臣夫人の甥細川一也及び阪神特殊製鋼工場長の息子一之瀬四々彦)

(4)仮面の素顔、妻妾同居、妻妾同衾(万俵大介・万俵寧子・高須相子)

(5)出生の疑惑(祖父:万俵敬介・父:万俵大介・母:万俵寧子・子:万俵鉄平)

(6)華麗なる一族、その全盛と崩壊

2)あらまし

 冒頭は関西の財界で有名な阪神銀行頭取、万俵大介とその一族、すなわち華麗なる一族の新年恒例の晩餐から始まる。

「陽が傾き、潮が満ちはじめると、志摩半島の英虞湾に華麗な黄昏が訪れる。湾内の大小の島々が満潮に洗われ、遠く紀伊半島の稜線まで望まれる西空に、雲の厚さによって、オレンジ色の濃淡が描き出され、やがて真紅の夕陽が、僅か数分の間に落ちて行く。その一瞬、空一面が燃えたち、英虞湾の空と海とが溶け合うように炎の色に輝く。その中で海面に浮かんだ真珠筏がピアノ線のように銀色に燦き、湾内に波だちが拡がる。」

 万俵家は播州平野の大地主で、大介の父敬介は第一世界大戦に乗じて得た莫大な富を駆使して神戸に万俵船舶、万俵鉄工を起こし、船舶ブーム到来前夜に万俵鉄工を残して売り払い、万俵銀行を創立した。他にも万俵不動産、万俵倉庫、万俵商事を興した。さらに昭和9年には群小銀行を合併して、阪神銀行の礎を築いた。敬介の跡を継いだ大介は一介の地方銀行から全国第10位の都市銀行にし、万俵鉄工を阪神特殊製鋼に発展させた。

 さて、万俵家の食卓テーブルは家長大介の左側が妻の席であったが、妻寧子と表向き万俵家家庭教師の妾相子が一日交替で座ることになっていた。このしきたりは、テーブルの席順だけでなく広大な神戸、東灘区の天王山の麓にある万俵屋敷の中では、一日交替で大介の同衾の相手が変わる習わしでもあった。そればかりでなく、いつからか大介の寝室には3つのベッドが運び込まれ、獣のような妻妾同衾が行われていた。過去には、その屈辱に耐えられなくなった公家華族の嵯峨子爵出の寧子は実家にも帰ったが、妹の莫大な支度金で何とか体面を保って暮らす貧乏公家の長兄静麿の説得で仕方なく戻る。「そして二度目に妻妾同衾を求められた時、「夫婦の交わりは獣のようなものではございません」と激しく拒んだが、「お前の口からそんなことが云えるにか、そんなら離婚って貰おう、離婚されるだけの理由は身に覚えがあるだろう」と残忍な響きをもった声で突き放すように云われた。寧子はその夜、睡眠薬自殺を図った。」しかし致死量を誤り未遂に終わる。その後、寧子は諦めて耐え忍んで生きている。相子はそんな寧子を尻目に万俵家のしきりや閨閥づくりに生き甲斐を感じている。

 寧子には大介に嫁いできた頃、舅の敬介から迫られた苦い思い出があった。風呂場で敬介に襲われ、驚愕のため失神してしまい、舅に犯されたか曖昧なまま、その夜寧子は大介の狂ったような愛撫を受ける。そして寧子は妊娠し、長男鉄平を産む。鉄平は顔つきから動作まで何かにつけて舅似だった。大介は常にそのことにこだわり、鉄平を父の子と思っていた。阪神特殊製鋼高炉建設や融資における大介の鉄平に対する冷たい仕打ちは冷徹な銀行家として当然としながらも、このわだかまりを根拠としてこの小説は進行する。

 辛うじて都市銀行十位の阪神銀行は、国際競争力の強化と健全経営をめざして金融再編成の政策を強める大蔵省の主導でいずれどこかの上位銀行と合併を強いられる、と大介は日頃、思っていた。そうなる前に“小が大を喰う”合併を進めることが生き残るために必要だと考え行動する。自行の生き残りのために家族のしあわせも顧みず、相子に閨閥づくりを任せている。すでに阪神特殊製鋼専務・長男鉄平は元通産大臣大川一郎の長女早苗を娶り、長女一子は将来の次官候補と目される大蔵官僚主計局次長美馬中へ嫁がせている。大介はそんな閨閥を巧みに利用して大蔵官僚や永田大蔵大臣が目論む銀行合併の最新情報を入手して先を読む。最大手富国銀行が密かに阪神銀行を呑み込もうと、メインバンクとして育ててきた平和ハウスに公定歩合より低いレートの貸付をしたりして得体の知れない不気味な触手を出しつつあることも感じる。また太平スーパーの万俵商事への吸収や祖父似で自分の子どもではないと思い込む鉄平が実質上経営する阪神特殊製鋼へのメインバンクとしてあるまじき感情的な冷たい引き締めなど、阪神銀行が銀行合併で有利に働くよう自行の体力づくりに勤しむ。まず“小が大を喰う”合併先のターゲットとして大財閥系銀行として凋落著しい第三銀行を選ぶが、第三銀行が美馬中を介して阪神銀行側の永田大蔵大臣の政敵、田淵幹事長の政治資金源の1つと判明して断念する。

 一方、高須相子は寧子を抜きにして大介と閨房の中で相談して、これから展開される“小が大を喰う”合併劇でどうしても協力を必要とする阪神銀行筆頭株主で大阪重工社長安田太左衛門の娘万樹子と次男銀平とを舞子ヴィラで見合いさせ、政略結婚を進める。銀平は父大介と同じ慶応大学経済学部出身で阪神銀行本店貸付課長をしているが、仕事も対人関係も冷たくニヒルである。少年時代、母の自殺未遂に遭遇し、ゆがんだ性格が形成されたのではないか。しかしそんな銀平も母寧子にだけにはやさしい。“「別に、どうってことはない、兄さんの時と同じでしょう」/銀平は投げやるように云った。”と銀平は閨閥づくりにも自分の結婚にも興味を示さない。しかし、心の中は銀平と別れて絵を描きにパリに去った灘の酒造家の娘で清楚な小森章子の面影が哀しみと苦渋を伴って占めていた。

 長男鉄平は阪神特殊製鋼が材料の銑鉄供給を大手の帝国製鉄の都合で左右されずに特殊鋼の生産を行うことで、一貫生産によるコスト削減や販路の拡大により安定経営をめざして高炉建設に情熱を傾ける。

 高炉建設は父大介が指揮するメインバンクである阪神銀行や帝国製鉄の意向を窺い、高炉建設の認可権を握る通産省の同意をなかなか得られない。鉄平は高炉建設(800?の高炉1基、60tの転炉2基、圧延設備1基など)の建設を先行させる一方で、認可と資金250億円の調達に東奔西走する。高炉建設の認可は閨閥の元通産大臣大川一郎の口利きで下り、ようやく鍬入れ式に漕ぎつけた。

 しかし高炉建設を阻む台風の到来やアメリカン・ベアリング社の経営交替に伴う大量キャンセルによる資金繰りの悪化など難題は次つぎに押し寄せてきた。特に父大介の意向によるメインバンク・阪神銀行の貸し渋りは当初計画の250億円の7072億円から30%の65億円に抑えられ、大きな痛手となって鉄平を襲った。彼は次第にサブ銀行である大同銀行の日銀出身の三雲頭取への依頼を強める。三雲頭取は鉄平をよく理解してくれる知己だった。鉄平がマサチューセッツ工科大学へ留学していたとき、阪神銀行の支店がニューヨークにあったことから、日銀ニューヨーク事務所の三雲頭取と知り合い、人間的情緒を失いがちな海外生活の中で心のふれあいを育んだ仲だった。三雲は鉄平の理解者であり、また日銀出身の銀行家として大同銀行が何か企業を源から育てるような有意義な融資をすべきと考えていた。そんな矢先、綿貫専務に代表される大同銀行の生え抜きの反発は覚悟の上で、鉄平との個人的繋がりもさることながら折からの金融引き締めと大量キャンセルで資金繰りの危機に陥った阪神特殊製鋼に思い切った融資をし、育ててみたいと思った。

 そんな大同銀行のメイン逆転という貸し越しに気づいた大介は、大同銀行を“小が大を喰う”銀行合併劇のターゲットとしてねらう思いが閃く。

「口ではそう頷いたが、大介を異様に興奮させているのは、─略─鉄平の言葉によって、電光石火、閃いた或る野望の政であった。鉄平から、大同銀行の三雲頭取の阪神特殊製鋼に対する融資方針が、頭取の生命を賭けるほど強いもので、それが生え抜きの綿貫専務の反発をかっていると聞いた時、大介は、もしや阪神特殊製鋼をトリックに使って、阪神銀行より上位の大同銀行を呑む方法がないかと、今の今まで考えだにしなかったことを思いついたのだった。」

 これを機にさらに三雲に阪神特殊製鋼融資を促すため、みせかけ融資を行う。それは大同銀行に阪神特殊製鋼へさらなる融資を引き出させ、その不良債権により相手の体力を衰えさせ、阪神銀行にとって有利な合併を進めようという戦略であった。大同銀行生え抜き綿貫専務に対しては合併後の副頭取のポストの念書と彼の娘婿のいるアサヒ石鹸への融資を決め、懐柔を図る。また大介は、合併までに都市銀行第10位の阪神銀行の預金高を1兆円の大台に乗せ、順位を一桁にするため、全行員にノルマを課した。

 銀平と万樹子は愛のない結婚するが、銀平は相変わらず毎晩バーを飲み歩くプレイ・ボーイの生活を続ける。広大な万俵家の屋敷で銀平を待つ万樹子の思いは次第に波立ち、乱れる。そんな中、万樹子は妊娠するが、銀平は子どもを堕せ、と言う。やがて万樹子は流産し、銀平の労りもない万俵家には自分の居場所もなく、実家へ帰る。しかし銀平は迎えに行かない。こうしてこの極めて不幸な結婚は終わる。

 次女二子は相子の閨閥づくりの一環として佐橋総理大臣夫人の甥細川一也を気が向かないのに無理矢理見合いし、婚約を強いられる。しかし二子は抵抗する。彼女の意中の人は阪神特殊製鋼工場長の息子一之瀬四々彦であった。彼女は四々彦との交際を続け、二人は互いの愛を確認する。二子は婚約解消を自ら直接婚約者一也に伝えた。また四々彦はピッツバーグにあるUSスチールの技術開発研究所へ就職することとなった。

 鉄平の高炉建設は若干の工程の遅れはあるものの進んでいた。

 しかし工事中の熱風炉が爆発し、4名の死者を出す大惨事になった。これは高炉の完成を半年遅らせることであり、鉄鋼不況が始まり、この半年の操業の遅れは決定的なダメージだった。鉄鋼不況は受注を減少させ、大量キャンセルがボディブローとなり、株価も低迷した阪神特殊製鋼の経営は急速に悪化していった。資金繰りに窮した阪神特殊製鋼はついに事務の手違いから不渡りとなりかけた。その噂は、瞬く間に「燎原の火の如く業界、金融界に拡がった。」

 その後、日銀特別融資などいろいろな善後策が検討されたが、ついに阪神特殊製鋼は経営不振で550億円にのぼる負債を抱えて倒産し、会社更生法の適用を申請した。阪神銀行の見せかけ融資を疑わず、メインバンクより貸し込んだ三雲頭取は責任を問われて大同銀行を去った。

 銀平はその三雲の信頼を裏切ったことを悔いて、祖父譲りの名猟銃ジェームス・パーディで壮絶な自殺をした。鉄平の血液型は、祖父と寧子からは考えられない大介の子を証明するB型だった。

「君、解らんかね、それは金融再編の火蓋を切るために、ともかく都市銀行同士の大型合併が必要だったからだ、春田君はその行政指導の大任を見事果たし、それを手土産に次官に昇進するのだよ。次期銀行局長たる者は、今日、発足した東洋銀行の合併後の体質改善を図り、名実ともにワールド・バンクたる銀行をつくることだ、そのためには東洋銀行を上位四行の一つと“再合併させることだ」

「さらに上位の五菱銀行との再合併を意図していたとは──、それではまさに、豚を太らせて喰え式のやり方以外の何もの出もない。さすがの美馬も身の毛がよだった。」

 阪神銀行と大同銀行の合併はなり、東洋銀行が発足した。しかし、すでに次の大型合併に向けて新たな企てが政財官の水面下で芽生え始めていた。大介は合併銀行(東洋銀行)の頭取となり、高須相子は彼の地位を脅かす存在となった。相子は1.000万円の手切れ金で大介の元を去ることになった。

「鉄平の葬儀後、早苗に子供たちを連れて帰って来るように云ったが、子供の学校の問題もあり、早苗は暫く東京の実家で子供を育てたいと云い、戻って来ない。そして隣接する銀平の南欧風の建物も、灯りこそ点いていたが、万樹子は離縁り、銀平も不在がちで冷え冷えとしたうそ寒さに包まれ、一万坪に及ぶ宏大な邸内が、俄かに荒涼とした死人の棲家のように思え、遠くでかすかに聞こえるもの音が、骨の鳴る音のように聞えた。」

そして、大介、寧子、相子だけの最後の晩餐が始まる。「人気のないがらんとしたダイニング・ルームには、曾て万俵家の華麗な一族が団欒したさざめきはなく、三人の使うナイフとフォークの音だけが、天井に音高く響いた。

6.モデルについて

 何回も書くが、山崎豊子は“あとがき”や“帯”で「この小説には特定のモデルはない。しかし、描かれているものは、まぎれもない“現代の真実”である!」という。だが、戦後最大の倒産といわれる山陽特殊製鋼の倒産や太陽神戸銀行合併劇などが頭に浮かぶ。私たちは少し夢の中を文学散歩してみたい。勝手にモデルを比定して読んでみよう。小説の世界が心の中で大きく拡がっていく気がする。

(1)(阪神銀行=神戸銀行+大同銀行=太陽銀行)??(東洋銀行=太陽神戸銀行)

 小説の中で多くの共通点を見つけることが出来る。この小説では太陽神戸銀行誕生までが語られ、その後の太陽神戸三井銀行の誕生も暗示されている。

(2)万俵邸と岡崎邸

 万俵大介は神戸銀行頭取岡崎忠氏に比定できようが、妻妾同居や妻妾同衾の事実は証明できない。

 小説では、万俵邸は東灘区岡本の天王山の麓にあったことになっているが、小説の中の描写は須磨区若木町の須磨離宮公園の分園である旧岡崎邸に似ている。分園は昭和48(1973)に神戸市が用地買収した元神戸銀行頭取の岡崎邸跡地の約5.2haである。

 岡崎邸跡地は、六甲山系から伸びる幾筋かの小さな尾根の突端に位置している小高い丘とその麓である。用地買収時における特筆すべきものとしては、現在の東門辺りが正門であった。そして門の左手に『若木荘』と名付けられた大正時代風の木造二階建ての館があった。これは惜しいことに阪神・淡路大震災で倒壊したため、撤去して今はない。現在の東門を入った右手、今の倉庫辺りに車庫があり、珍しいクラシックカーが何台か保存されていた。マーキュリーもあったかもしれないが、覚えていない。ロールス・ロイスがあったのは記憶している。また左手には、木造で軒下に赤い丸灯が点る戦前の請願巡査派出所があった。大樹の陰で陽の当たらない小屋から口ひげを生やし、サーベルを下げた巡査が「おい、こら!」と飛び出してきそうな気がした。この建物も残念なことに震災で倒壊した。本館への園路の中程に、現在もある石橋と池と滝口があった。そこから発した山の湧水を引いた流れは林間を下り、東門突き当たり広場の小さな池に注いでいる。紅葉のトンネルをさらに登ると、空襲にあったままの洋館が見えたように思う。外観は現在の鑑賞温室の外壁に似たレンガタイル張であったが、鑑賞温室建設に伴い、完全に取り壊された。また洋館の西側には、現存する日本家屋があった。これは庭とともに須磨離宮公園に引き継がれ、和室のまま茶室や集会所等として利用されている。この和室は当初の日本家屋を戦災で焼失した後、戦後に急いで普請されたらしい。戦火のためにもろくなった大灯籠や沓脱石も痛々しい。この本館の高台は海が展望できたようだ。しかし、今は阪神高速道路神戸線のため、海は見えにくい。洋館と日本館があった丘の頂(今の鑑賞温室と和室)の北側に、テニスコートや園遊会に使われた広場が今もある。その西側には今も当時のままに近い滝と池がある。さらに現在の花の庭園と園地管理ナーサリーステーションのある詰め所辺りには、専任の庭番がおり、広大な園地管理用のバックグランドとして温室等の施設があった。

 ところで、旧岡崎邸は山崎豊子の小説『華麗なる一族』のモデル地と噂されたこともあるが、昭和48410日、20日、30日と発売された上、中、下巻の帯(腰巻き)には『この小説は特定のモデルはない。しかし描かれているものはまぎれもない"現代の真実"である!』と、あくまでもフィクションであるとしている。分園を散策するにあたって少し想像を膨らませてみたい。この小説は近年、不祥事の多い銀行問題を鋭く浮き彫りにした名作と思う。小説では阪神銀行(旧神戸銀行か?)頭取万俵大介の邸宅は阪急岡本駅の山手、天王山にあったとされている。しかし西洋館と日本館の対、門から本館までかかる時間、途中の石橋、林間の流れなど、邸宅の描写は分園の情景になんとなく似ているような気がする。また万俵大介は本館に妻寧子と愛人相子と妻妾同居の生活を営んでいる設定になっている。そこで岡崎邸跡地の本館と東門横の若木荘との二つの建物の位置関係がやはり淫らな思いを想起させる。

(3)阪神特殊製鋼と山陽特殊製鋼

 戦後最大の倒産と言われる山陽特殊製鋼の倒産は、他の小説でも描かれている。清水一行著『殺人念書』もそうだ。この小説では山陽特殊製鋼は南海特殊鋼として姫路に本社(現実と同じ)があり、市場占有を高めようとしている帝国製鉄(現新日鐵)に狙われている企業として描かれている。『華麗なる一族』では本社を神戸市灘区灘浜とし、同じように近くに帝国製鉄があるとしている。

 ちなみに新日本製鐵株式会社は、再建を果たした山陽特殊製鋼に対する持ち株率は13.92%であり、他を圧している。こうして弱き者は強き者に吸収されていった。

7.地名風景等

・志摩半島の英虞湾 ・姫路の播州平野 ・神戸元町栄町通り ・阪急岡本天王山の丘

・三木の広野ゴルフ倶楽部 ・ファウン・グレートデン ・阪神電車西宮東駅

・神戸港に臨んだ灘浜臨海工業地帯 ・帝国製鉄尼崎製鉄所 ・猪名川のクレー射撃場

・洋蘭の温室 ・東京麹町の行邸 ・丸の内の阪神銀行東京支店 ・ホテル・オークラ

・新橋の料亭『金田中』 ・世田谷成城町の美馬家 ・オリエンタルホテル 

・中突堤のポートタワー ・トーアロードから海岸通(p155) ・摩耶山?

・三ノ宮センター街のドンク ・大阪船場 ・山芦屋 ・元有栖川宮邸の舞子ヴィラ

・海岸通りのバー ・六甲カントリークラブ ・灘の酒造家 ・ホテル・ニュージャパン

・東京駅から見える八重洲ビル ・麻布六本木二丁目の料亭 ・大阪ロイヤルホテル

・帝国ホテル ・新大坂ホテル ・シュライン・ロード(行者道) ・六甲の山荘

・弁慶橋の小料理屋『染八』 ・錦鯉『墨流し』“将軍”の黒い影 ・神戸港の夜景

・心斎橋の美容院 ・千里ニュータウンの弟が棲む高層アパート ・神戸銀行会館

・京都御所の建礼門 ・葵祭 ・六甲山表ドライブ・ウエイ ・六甲山ホテル

・蛍が池 ・池田市 ・石屋川 ・小金井ゴルフクラブ ・多紀連山 ・英国大使館

・鎌倉 ・姫路の名刹、亀山御坊 ・築地本願寺 ・ブルゴーニュの辛口ワイン

・大蔵省 ・新橋の待合『たがわ』 ・大阪新町の待合『つる乃家』 ・南京町

・岸田劉生の「麗子像」 ・ビュフェの絵 ・神楽坂芸者 ・渋谷松濤町 ・家島群島

・播磨灘 ・明石駅前 ・有馬温泉 ・乃木神社 ・茗荷谷 ・日劇前の『花くま』

・京都嵯峨の『吉兆』 ・南禅寺の『織宝苑』 ・修学院 ・北小路室町の嵯峨家

・嵯峨野の厭離庵 ・石清水八幡宮 ・日本銀行 ・大阪証券取引所 ・大阪北浜

・生田神社から回教寺院 ・新聞会館 ・琵琶湖 ・鴨川三条大橋よりの『京清水』

・神楽坂の料亭『わかもと』 ・銀座『和光』 ・薄暮の皇居の掘 ・芦屋川

・大手町にある経団連ビル ・永田町の総理官邸 ・フラワーロード ・塩屋の夜の海

・東京虎ノ門 ・箱根外輪山(御殿場) ・芦ノ湖(スカイライン) ・神戸地方裁判所

・玉川上水 ・丹波篠山の赤柴山 ・羽田空港 ・伊丹空港 ・赤坂ナイトクラブ

8.経済小説の読み方

 経済小説は作家が入念な取材を基本に想像力により構築された世界である。虚実を織り交ぜていながら、真実に迫るリアリティーはすごい。新聞や雑誌からは推測できない真実に近い流れを経済小説の中から我々は嗅ぎ出す。企業は情報公開が進んでいないし、アメリカで連続して起こっている大型倒産が示すように資料の行間からだけでは私たちはもう何も読みとれなくなっている。何も知らされなかった、知らなかった時代に書かれた『華麗なる一族』を読んで、今、この小説が書かれた後、何が起こったかを考えれば、経済小説の読み方の方向が自ずと見えてくる。この経済小説がすべてをほぼ正確に予言していたことが分かる。