6.ママとシンジおじさん
レンたち4人はチョコを作る前に昼食の用意をした。
この時代は殆ど電化が完了しており、ガスコンロがある家などは
逆にプレミアがついたりする(^ ^;
1.でレイがレンに火の事で注意したことからお分かりかもしれないが、
碇家には電気・ガスの両方がついている。
偶にやって来るユイはガスの方が良いらしいので、その為だ。
「アンタのとこも結構個性的よね。」
お昼ご飯のスパゲティを食べながら、
4人はアキの『トウジとヒカリのバレンタイン裏話』(※4.を参照)に耳を傾けていた。
「あはは、でもこれってミハルお姉から仕入れたモンなんです。
叩けば他にも出てくるかもしれませんよ。」
「ま、そんな話って親はどーしても言いたがらないのよねぇ。
子供としちゃあ、その辺りの面白い話が聞きたいってのにね〜。」
アスミの言葉にウンウンと頷く他4人。
「アタシもママやパパに聞きたい事が山ほどあるんだけどね。
キョウコおばーちゃんからは色々と聞けたんだけど
どうしても空白の時間が残っちゃって。」
心から残念そうに呟くアスミ。
ユイ・キョウコ・ナオコが補完されて戻ってきたのがゼーレエヴァ侵攻の3年後。
それ以降はそれぞれの子供たちの行く末を見守っている。
が、それ以前の過去、特に第三使徒襲来以後の出来事について事は
シンジたち両親はあまり話そうとしない。
子供達にとっては、両親たちが付き合い始めたその時期こそが興味津々なのだが・・・
≪2017年、2月14日≫
惣流=アスカ=ラングレーは、ブツブツと呟きながらNERV内の廊下を歩いていた。
手に持っているのは、例に漏れずチョコの入った白い箱。
勿論手作り(内9割は洞木製(汗))。
「(こ、これはレイにしかチョコレートを貰えないであろうシンジに
『義理』であげるものなのよ・・・そう、義理なのよ)」
と言いながら、何故か気合の篭った顔をしていたりする(^ ^;
図らずも一年弱に渡り同居していた上に、キスまでした間柄。
当時は素直な態度で接することが出来なかったが、憎からず思っていたこともまた事実。
ひょっとしたら好きだったのかもしれない。
情けない所ばかりではあったが、
ユニゾン訓練の際に飛び出した自分を迎えに来てくれたり
マグマの底へと落ちてゆくのを身を呈して救ってくれたり
時折見せるその強さは、あの頃から確かに存在していた。
ただそれに気づいたのはつい最近。
その頃アスカにとって彼は『ライバル』でしかなかったから。
そして既に彼の隣には、綾波レイがいる。
『失恋』とはまた違うだろうが、『惜しい事をしたかな』とは思う。
さらにこの頃のシンジは『綾波レイを一生護る』という信念を持ち、
以前とは桁違いに著しい精神的な成長を遂げている。
そんな相手に『義理』とは言え、チョコを渡すのである。
それなりに緊張するのも解らない話ではない。
とりあえずロビーで腰を落ち着け、シンジの到着をまっていると
見知った声が後ろの方から聞こえてきた。
「よ、アスカ。」
アスカは振り向き、相手を確認するとニコッと笑って挨拶する。
「あ、加持さん。こんにちは。」
後ろにいたのは加持リョウジだった。
加持リョウジ。
一時は死んだものだと思われ、王 大人も太鼓判を押した程だったが
なんと彼は生きていた。
いや、実際は怪我すらしていなかったのだが
第弐拾壱話で死んだような描写をされて出るに出られなくなったらしい(^ ^;
結果『王 大人の死亡確認は生きている証拠』を実証する事となってしまったが、
まぁそれは良いとして・・
リョウジはアスカの手元を覗き込んだ。
「ほほぅ、それはチョコレートの入った包みだな。」
「そ、そうですよ。」
僅かに口篭もるアスカを見て苦笑するリョウジ。
「ひょっとして俺にくれるのかな?」
「えっ、いや、その・・・あの・・・」
リョウジの問いに戸惑うアスカ。
「違うのかい?そりゃ残念。」
「すみません。」
「いやいや、気にする事じゃあないさ。」
頭を下げるアスカを制するリョウジ。
「でもアスカの手作りチョコを貰えるとは光栄だろうね。」
「え?」
誰に渡すか知っているかのような口ぶりにはっとなるアスカ。
「NERVの中で君が何かをあげる相手なんてそうはいないだろ?
手作りの物となっては尚更。」
「そう、ですよね・・・あはは。」
「・・加持さん。」
「ん、どうした?」
暫しの沈黙の後、口を開いたのはアスカだった。
「アタシ、今まで色んな恋をしてきたわ。
もち、加持さんも含めて。」
「そうだな。」
「でも年上の人は向こうの都合ばっか押し付けるし
同級生はバカばっかだし。」
「はは、それは手痛い。」
ため息混じりのアスカに居住まいの悪いリョウジ。
「でもシンジは違ったわ。
アタシの言うことは何でも聞いてくれた。
こき使っても怒ったりしなかった。」
「そうか。」
言葉少なく相槌を打つリョウジ。
「でもアタシは何にもしてやらなかった。
自分の事ばっかり押し付けて、アイツに甘えてばっかりで。
・・
シンジだってホントは一杯辛いこと抱え込んでたのに。」
この間中、アスカは手に持つ包みを見つめていた。
「さて、そろそろ俺は行くかな。」
そう言い、徐に立ち上がるリョウジ。
「アスカの待ち人も来たようだし。」
視線の先には碇シンジがこちらに歩いてきていた。
そして去り際にリョウジはアスカの耳元で囁いた。
「理想の相手が必ずしも運命の出会いという訳じゃあない。
今にきっと素敵な出会いがある筈さ。
それまでは、シンジ君に甘えても良いんじゃないかな。」
≪そして現在≫
レンたちの目の前にでんとおかれたチョコの山。
流石に100人前ともなると壮観なもので、
そがいかにも『義理』の空虚さや哀愁を漂わせていい感じ(^^;
「んじゃ、後は包んで出来上がりね。」
アスミはそう言い、セットに同封されていた
これまたシンプル極まりない色付きアルミを皆に配った。
「取り敢えずそれはホントに『義理』で配る用ね。
もっと凝ったやつをしたい人には各自で工夫するように。」
「「「「は〜い。」」」」
何時の間にか先生役になったアスミの声で
チョコ作りの後半が始まった。
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