5.チョコも良いけど・・・

セカンドインパクト




≪2001年、2月14日≫

「むぅ・・・」

この日ゲンドウはすこぶる機嫌が悪かった。

妻であるユイから貰うチョコが手作りのチョコではなく、市販の物だからという訳ではない。

ユイは今自分達の子供を身篭っている。

そんな彼女に無理してチョコを作ってもらう気はない。

これに関してはゲンドウの方から先に言っておいたのだ。

それどころか家事にも自ら進んで参加するほど・・・
(だったのだが、結局これは『しない方がマシ』だった(^ ^;)

よって現在二人は、実家である碇家で暮らしている。





「・・・(くそっ、何故今日に条約なんぞ結ぶのだ!)」

バレンタイン臨時休戦条約。

彼の機嫌が悪いのは、この調印式に彼も出席する事になったからである。

ゼーレに入信(^ ^;したゲンドウはその才覚を買われ、トントン拍子に出世した。

それはまぁ結構な話なのだが、そのお陰でユイと一緒にいる時間が減ってしまった。

なので折角のイベントもこうしてオジャンになる事もあったりするのだ。

「(今度からは他の者に行かせるように願い出てみるか。)」



この数年後、その役に冬月先生が選ばれることになる(^ ^;





その頃碇家では、ユイがお手伝いさんと一緒に朝ご飯を作っていた。

「お嬢様、ご気分は如何ですか?」

「えぇ、いたって元気よ♪」

「それは良う御座いました。」

自分の問いに元気に答えるユイにお手伝いさんもほっと一安心。

「私もそうだけど、この子も元気みたいね。」

そう言いながら腹部に手を置くユイ。



もうすっかり傍目にも解るほど大きくなった彼女のお腹。

その中にいる碇シンジは、後に波乱の人生の荒波に揉まれる事となるのだが・・・

それを知る者は、ここには誰もいない。

でもまぁ、今はそれでもいいのかもしれない。





もぐもぐもぐ

出来た食事を頂くユイとお手伝いさん。

「そう言えば、ゲンドウさんは今日もお仕事なのよね〜。」

向こう側でついているTVの画面には、件の調印式が映し出されている。

拍手喝采の中、各国の首脳が握手している。

焼き魚をつっつきながら少し残念がるユイに、お手伝いさんも苦笑する。

「お忙しい身の方ですからね。」



ゲンドウは実の所、昨日の深夜には家を出ていた。

ユイは既に眠っていたのでお手伝いさんが見送りに出たのだが・・

その時ゲンドウは少し涙目だったと言う(^ ^;

「ぷっ、泣いてたのあの人?

も〜、だから可愛いのよね〜☆」

きゃははと笑う碇ユイさん(2?歳)。

「そ、そうですね・・・あはは・・・」

(『可愛い』よりも『不気味』でしょう)と心の片隅で思ったお手伝いさん(^ ^;

確かに、普段『ふ、問題ない。』等と言っている男が
涙目でベソをかいている姿は、お世辞にも可愛いとは言い難い。





お手伝いさんは改めて、ユイの趣向が解らなくなった(笑)

「あ、そう言えば母さんは?」

「お母様は議会に出席なされる為に

朝早くお出かけになられましたよ。」

「そうなの?

・・・あ〜・・・そんな事言ってた気もする。」

お手伝いさんに言われ、朧げながら思い出すユイ。



今日は家長でありユイの母である『碇トキ』は
上記の条約以上に大事なゼーレの定例議会に参加している。

碇家と言うのは、代々から『そっち系』の宗派やら団体との関係も深く、
殊最近はゼーレとの繋がりが深くなっていた。

「じゃあ今日は二人ともいないの?」

「そう言うことになりますね。」

「え〜、つまらない〜」

不満たらたらのユイ。

ただでさえ余程のことが無い限り外出は厳禁。

警備の者にウインクしても通してくれない(^ ^;

『ユイの身に何かあったら即殲滅。』
と、ゲンドウがきつ〜く注意しているからだ。



しかしながら広い家とは言え、毎日同じ風景だと退屈にもなろうと言うもの。

(要するに遊び相手が欲しいわけよ<ユイ)

「あ、でも旦那様は夕方には帰ってこれるそうですよ。

先ほどお付の方から電話がありました。」

「ホント!?やった♪

折角用意した甲斐があったってもんね☆」

「はい?」

ユイの台詞の『用意』の意味を掴みかねるお手伝いさん。

「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、今日の用意も無駄に終わらないってコト。」





「えっと・・・あっ、なるほど。」

少し考え、ぽんと手を打つ。どうやら合点がいったようだ。

「そ。ゲンドウさんは『作らなくても良い』とは言ったけど
『作るな』とは言ってないからね。」

「ふふ、そうでしたね。」

ニッコリ笑うユイにお手伝いさんもにこやかに微笑んだ。










≪現在。≫

「・・・と、言ったこともあったのよねぇ。」

しみじみと司令席に座って思い出話を語るユイ。

隣りのナオコとモニター向こうのキョウコはお茶をすすりながらウンウンと頷いている。

「でも、今回ばかりはやっぱりダメね。

あの人のお陰で予定してた実験が幾つか飛んじゃったんだもの。」

『そりゃまぁそうだけどね・・・』

ユイの怒るのももっともだと思うキョウコは苦笑った。

『予備が出来たとでも思ったら?

どうせ使徒が来ちゃったら損害被るんだし。』

「う〜・・・」

死海文書により、どの位の周期で使徒がやって来るか解明されつつあるが(これはリツコのお手柄(^ ^ )、
前回のクリスマスの時のように急に襲来することも多々ある。

その為に予備の部品は確かに必要ではあるのだが・・・

「それより、旦那が生きてるのってユイだけなんだから
もっと大事にした方が良いんじゃない?」

「そうかなぁ。割と丁寧に扱ってるつもりなんだけどねぇ。」

すでにモノ扱いのゲンドウ(^ ^;



そんなこんなで、その後暫く奥方三人はバレンタイン談義に花を咲かすのであった。