地下書庫

『女薫の旅』 〜神崎京介〜

 地下書庫……ということはここで取り上げるのは何か?だいたい、「地下」と表現していると言う事は、取り扱うものがおのずと絞られます。『世界暗黒文学全集』?違います。ポルノでございます(爆)最近は品よく「官能小説」などと言っておりますが、どんなに品よく、格調高く言ったところでポルノでございます。エロ小説と私に言われないだけマシなもんでございます(傲慢笑)くだらないジョークはこの程度にして……、さてなぜポルノにまたハマったか?あえて理由は言いませんが、みんな平井和正が悪いんです(爆)「叔母・美脚の誘惑」じゃないんだから……。どういうことかは、e文庫にて『ABDUCTION〜拉致〜』を買って読んで戴ければ、わかるシステムになっております(苦笑)

 さて、あれからいろいろと買いましたが、だいたい好きなのは、思わず笑ってしまうものや心温まるもの(あるのか?)、あとなんだっけ?忘れちゃった(笑)ま、そういったものが好きだということでございます。
 そんな中で私が最も好きなのが、今回取り上げる、神崎京介の『女薫の旅』であります。2005年1月現在、第11巻『女薫の旅 秘に触れ』まで刊行され、150万部という驚異的(この手の小説にしては、ね)売り上げを記録しています。手にしたきっかけは書店の中を回っている時に、「あ、これカヴァーイラストがきれいだなぁ……」と思って、ま、すぐには買わなかったのですが、初めて見たときから3ヶ月かそこらで、あの頃は第9巻まで出ていたから、9巻すべて買いました……って、前にもこんな経験した気がするなぁと思ったら、平井和正にハマったときと一緒じゃないか!(笑)早い話が「ジャケ買い」であります。カヴァーイラストを描いているのは、野中昇という人ですが、この人が描く女性もすごく美しいのであります。インナーイラストが無いのが残念と言えば残念ですが、美しいカヴァーイラストがあるだけでも良しとすべきでしょう。
 さて、中身を語る前に神崎京介について簡単に経歴を。1959(昭和34)年、静岡県三島市に生まれ、大学卒業後、さまざまな紆余曲折(一時期、フランスで生活していたことも)を経て、1996(平成8)年、勝目梓の推薦で、書き下ろし長編ヴァイオレンス小説『無垢の狂気を喚び起こせ』(講談社)でデビュー。1998年4月、「週刊現代」で『女薫の旅』の連載を開始、たちまち読者の圧倒的支持を受けて人気作家へと駆け上ったのです。(『女薫の旅』は現在も「週刊現代」で連載中)その他、『女運』シリーズ(祥伝社)、『五欲の海』『五欲の海 乱舞編』(カッパ・ノベルス)などのポルノ小説(だから官能小説とは、オレは言わない!)に、『水の屍』、『ピュア』、『ハッピー』といったサイコ小説、はたまた『ジャン=ポール・ガゼーの日記』といった翻訳も手掛けています。でも近頃はポルノばっかりのような……?(爆)

 さて、あらすじですが、今回はあえてさらっと、書く程度に留めます。実際に読んで頂くとわかりますので。だいたいのところを記しますと…………、
 1974(昭和49)年(私の大好きな年・笑)の秋、伊豆・修善寺に住む中学3年生、山神大地は美貌の英語教師、島野先生に誘われ、魅力たっぷりのリードで初体験を味わうことにより、女性遍歴、つまり「女薫の旅」を始めることになります。第1巻は大地の中学卒業までの約半年間の性体験が描かれています。ちなみに、この第1巻は勝目梓が巻末で解説を記しております。

 ここからは私の感想なり、想いのたけを述べていきますが……、まずこの本自体についてですが、この『女薫の旅』に限らず、神崎京介の作品のほとんどに見られる傾向として、必ずプロローグを書いている事です。先にあげた『女運』シリーズや、『五欲の海』もそうですが、どの作品も必ずプロローグを書いてから本題に入っているのです。このこだわりに神崎京介の「様式美」を私は見てしまいます。プロローグを最初に添える事によって、作品それぞれの性格や本質、特徴と言ったものを表現しているように思えるのです。ただ淡々と話を進めるのではなく、プロローグを読者に意識させる事で物語に彩りをつけているような気がします。だから、単行本が出るたびに、どんなプロローグなのかを期待してしまったりします。
 で、中身ですが、だいたいにおいてポルノ小説は、どなたかが言うところの、末梢神経を刺激するのが目的なので(笑)、大抵表現が露骨に、直接的になり、卑俗になってしまいます。ところが、この作品はよくあるポルノ小説と違って、あまり露骨さ、もっと言うなら、キツさが無く、かといって、抽象的や観念的でもないのです。平明でわかりやすく、それでいて極端に末梢神経を刺激するような表現も抑えている。非常にバランスの取れた文体になっているのです。はっきりといってしまえば、この『女薫の旅』は非常に美しい物語なのです。それは倒錯的なものでも、無論歪んだものでもない、純粋に美しい物語なのです。美しいポルノなんてあるのか!?と、突っ込まれる方も多いと思いますし、私も以前はそう思っていましたが、この作品は別だと思いました。カヴァーイラスト同様、中身の物語も美しいです。カヴァーイラストの美しさと中身が一致しない事もありますが、この作品は素直に美しいと思います。
 伊豆の美しい情景に1974年当時の風俗・流行を織り交ぜながら、純粋な心を持つ大地の成長と純粋な大地に惹かれて交わりを求める女性たちの心象の描き方が非常に美しいこの作品を、私は「抒情派様式美ポルノ小説」と一人勝手に呼ぶことにしています。単なるポルノ小説にとどまらない、ペーソス溢れる素晴らしい作品でございます。平井和正の『ボヘミアンガラス・ストリート』が好きな人なら、この作品を読んでみてはいかがかと思います。ラヴ・ストーリーという面で見れば、結構通じるものがあると思いますので、興味を持たれた方は手にとってみてはどうでしょうか。(ヴァレーリエ)


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