平成20年3月30日

 

自動車保有関係手続のワンストップサービス(OSS)に関する意見書

京都府行政書士会

宮 原 賢 一

 

 

 国交省所管の自動車保有関係手続のアプレットを用いたワンストップサービス(OSS)は、平成17年12月に4府県で開始され、現在、10府県に拡大されましたが、平成19年10月現在の申請率は僅か0.58%の状態にあります。

この主要な原因は、住基カードの普及率が16万枚と低調なため、電子申請に必要な公的個人認証が使用できないからと言われており、2010年までに電子申請率が50%を超えない手続については、中止を含めて見直すとの政府決定がなされています。

このような状況を受け、国交省等が代替案として(3年後の申請率50%達成)考案したのが、19.11.26に開始された通称ハイブリッドOSSといわれる、紙の印鑑証明書と委任状の目視による本人確認(認証)を併用した電子申請です。

しかし、この似て非なる二つのOSSシステムには、個々の自動車ユーザーとその正当な代理人たる資格者(行政書士制度)を無視した、以下に述べるような欠陥が存在しています。

 

*両方式とも同じOSSのインターフェイスから入りますが、その内部のプログラム構成はかなり異なっていますので、理解を助けるために、本書では従来からの方式を「アプレットOSS」新たに追加された方式を「ハイブリッドOSS」と呼称します。なお、末尾には相違点と問題点が明確になるように図表を添付しています。

 

 

<問題の所在 その1>

ユーザーの代理人である行政書士が、正当な資格者として全く関与できない電子申請(アプレットOSS)システムであること。

 

最大の問題点は、国民(ユーザー)の代理人である行政書士の電子証明書が、アプレットを用いたOSS(17.12.26開始)では使用できないというシステム上に重大な欠陥があることです。

その他の国交省の電子申請手続(特殊車輌通行許可、宅建業許可等)では、行政書士の電子証明書がその開始当初から、PCの環境設定だけで使用可能ですが、自動車登録の手続きに関しては、国民側の代理人としてこのアプレットOSSに全く関与できない状態が、既に2年間もの間続いています。

 

法によって定められている正当な資格者が、国民の代理人として電子申請における法律行為に関与できないというシステムの構築と運用は、法治国家としての根本に係る問題点であることは論を待ちません。

この代理人としての行政書士の電子証明書が使用できないことに関し、昨年9月に質問書を提出しましたが、国交省の回答では「自動車登録は所有権の公証を行うものであり、厳格な権利関係の審査が必要であるため、現時点では、公的個人認証及び法人登記電子認証としている。」と回答したにも拘らず、昨年11月26日に開始されたハイブリッドOSSでは、運輸支局の自動車登録官によって、紙(印鑑証明書+委任状)の目視による本人認証を認容するという簡便な方式を採用しています。

 

*国交省における問題点は、プログラムの開発段階で行政書士の電子証明書を使用可能とするべく定義しなかった点であり、後日になってNTTデーターに使用の可否に関する実証実験(18.4月)をさせています。運用開始後に実験をしても、定義されていない資格の認証は当然不可とされるのは自明の理です。行政書士の電子証明書は16年2月から使用可能とされており、この時点でさえOSSの運用開始までは22ヶ月もの改修・改良の猶予期間があったわけです。

*国交省は利用者(行政書士・自販連)からの要望を取り入れて紙による認証方式(ハイブリッドOSS)も採用することとしたと述べていますが、そもそも、行政書士をこのOSSに関して全く利用することが出来ない状態にしながら、利用者と規定すること自体が間違いです。

 

*このハイブリッド方式では、OSS申請の段階で紙(印鑑証明書+委任状)+データーのCD-RWを運輸支局に提出し目視照合・確認を受け、OSSの完了後にも車検証やナンバーの受取と、代理人が最低二回は運輸支局に出向かなければ処理が完了しないという煩雑な手続きとなっています。

 

 

アプレットOSSは、国交省HP上にインターフェイスを置き、厳格に公的個人認証方式で運用しながら、そのOSS内の別プログラム(ハイブリッドOSS)から、代理人を限定した紙ベース併用での申請を可能とする二重方式の採用は、申請人とその代理人を徒に混乱させる元凶であり、その結果として、アプレットを用いたOSS(17.12.26開始)は、表面上ではそこ(国交省HPのワンストップサービス画面)にインターフェイスがあるが、実際の利用形態は別プログラム(大量一括申請用プログラム=ハイブリッドOSS)による申請となってしまい、アプレットOSSそのものは利用価値がなくなり消滅する運命となっています。

 

*現状でも申請率が0.58%(19.10月現在)であり、しかも、その多くがディーラーの自社名義車輌であるという状況にあり、本来の意味でのユーザー申請率は、この何分の一にしか過ぎないというのが実情です。

 

*国交省の巧妙さは、アプレットOSSの崩壊を悟られないようインターフェイスはそのまま残し、実際は別プログラムであるハイブリッドOSSを一気に稼動させて、何とか申請率50%を達成しようとするところにあります。

 

 

<問題の所在 その2>

国交省は、電子申請(ハイブリッドOSS)におけるプログラム開発費用を、利用する側(ユーザーとその代理人である行政書士)の負担としていること。

 

本年11月開始の専用ハイブリッドOSS(紙による目視認証方式+大量一括申請)は、今のところ、自販連と行政書士だけが利用可能なシステムとされていますが、これを主導している国交省は、非常に重大な問題点を内包したままで見切り発車をしています。

これに関して国交省は、大量・一括申請を利用する者に利便を図ったシステムだから、その部分(プログラム開発とその費用)は利用する側が自由に仕組みを構築してください。・・・と巧妙に説明していますが、このシステムの最大の問題点は、国交省は送信プログラムを提供するだけで、残余のシステム構築(申請情報の収集とデーター化プログラム+電子署名の読込み・付加プログラム)費用(数千万円以上必要とも言われている。)は利用者側の負担とされていることです。

 

不思議なことに、国交省は「行政書士も利用可能です。」と盛んに謳っていますが、「電子申請体験フェアーのパンフ」「行政書士向けの説明会」でも、このOSSを利用するためのプログラム開発費用を負担する側と負担金額には全く触れようとはしていません。これを導入しようとすれば、国民とその代理人行政書士の負担額は莫大な金額になると言われており、事実上このハイブリッドOSSから行政書士は排除されてしまっています。

しかしながら、日本は法治国家です。このOSS手続を報酬を得て行える正当な代理人資格者は行政書士だけです(自販連は19条但書適用)から、これは国交省の費用負担によるOSSのシステム改良で対応しなければならないのが大原則です。

国民利便の増進・負担軽減と称して、申請者PCの環境設定だけで申請可能な現行のアプレットOSSシステムを構築したのは国交省であり、そのインターフェイスを含めたシステム全ての改修・改良は国交省の責任だからです。

本年11月に開始されたハイブリッドOSSは、国民(申請者)とその代理人(行政書士)に莫大なシステム費用を負担させた上で、初めてその使用を可能とするという方式の導入であり、錯綜した論理のすり替えに他なりません。

 

 

<問題の所在 その3>

ハイブリッドOSSは、ユーザー利便の増進と負担軽減に資する電子申請システムなのか甚だ疑問であること。

 

アプレットを用いたOSSにおいては、自動車販売店の代行手数料が従来比で約7,000円程度引き下げられましたので、ユーザー利便の増進と負担軽減に資する電子申請システムであると言える部分がありました。

一方、ハイブリッドOSSでは、その開発費用の按分負担(NEC製 Cert Worker等の導入費用)と手続き上からも運輸支局に2回出向く必要があること等から、再び、自動車登録手続の代行費用の負担増として、ユーザーに跳ね返ることがあるかもしれません。

行政書士の場合は、比較的安価にOSS手続が可能のはずなのですが、先の問題点でも指摘したように、事実上、この両方式のOSSに全く関与できない状況を、国交省によって恣意的に作り出されていると感じざるを得ません。

国民利便・負担軽減のためのOSSというこのシステムの本質からして見ると、国交省の施策はここへ来ても始めに50%有りきで、国民の視点からは随分とかけ離れてしまっています。

 

 

<要望事項 その1>

現行OSSの申請手続システムにおいて、申請者側はアプレット方式又はハイブ

リッド方式の選択性とし、その代理人資格として行政書士の電子証明書が、PCの環境設定だけで両方式において本年度中に使用可能となるよう、国交省の費用負担によってプログラムの改良をすべきであることを強く求めます。

 

これは、国策に基づいて行った国交省におけるシステム構築上の問題であり、申請者とその代理人に対して提供する義務のある「プログラムと電子署名」の問題です。

予算問題や大口申請者とその代理人(行政書士と自販連)に利便を図ることと引換えに、プログラム開発費用の負担を求める根拠は何処にもないはずです。

これらが解決されることによって、現在、自動車登録手続の分野を担っている行政書士が、個々ユーザーの代理人として一定の役目が果たせ、電子申請の申請率の向上にも寄与することが出来ることになります。

 

 

<要望事項 その2>

新たなハイブリッドOSS方式では、事前に運輸支局へ申請者の印鑑証明と委任状を提出することとなっていますが、これに「自動車保管場所証明書」の提出を加えることをOSS関係省に提案します。

印鑑証明と委任状に「自動車保管場所証明書」の提出を1枚加えることは、運輸支局においての確認作業(認証)の負担となることは考えられず、同時に警察署における保管場所標章の交付事務も完了できるので、OSSによって従来以上に輻輳している事務の負担軽減にも繋がります。

また、車庫証明申請(通知申請)についての補正等による申請の遅滞、それに伴う登録日の不確定要素の発生、地図の添付における著作権法に抵触する疑義といった事態も無くなり、ユーザーの利便性の向上という観点からも合理的であるとおもわれるからです。

 

OSSによって申請される車庫証明の通知申請では、所在図・使用権限疎明書面をスキャナーで読込み警察署に送信しますが、所在図については「市販の住宅地図、インターネット上の地図」を利用することが現状での大勢です。著作権保護の観点からも、そのような著作権法上問題となる恐れのある地図を、警察署がOSS申請時の添付ファイルとして自動受理システムによって処理することは避けるべきです。

 

使用権限疎明書面(使用承諾書)に関しても、スキャナー読込み時での改竄(改竄した書面をコピーしてスキャナーで読み込むこと等を指します。)の恐れが無しとはいえません。

特にガレージの契約書等を使用権限疎明書面として利用する場合では、契約書は民々間の書類であり、口座番号や金額などが明記されていることもあることから、警察署がOSS申請時の添付ファイルとして自動受理システムによって処理することは、同じく避けるべきです。

 

OSS申請において、車庫証明添付書類をスキャナーで読込み、添付ファイルとして送信し、それを警察署が自動受理することは、警察行政の「証明事務」であるという点から、原本の信憑性の推定責任・原本確認行為の不存在という観点からもなお更に慎重であるべきです。

 

 

 

 

現行のアプレットを用いたOSSとハイブリッドOSSの相違点

 

 

現行のアプレットOSS

 

 

新たなハイブリッドOSS

開始日とOSSの存続期間

 

17.12.26に開始され、今後も利用可能の予定ではある。

19.11.26に開始された紙併用の新システムで、別プログラムで動作する。

OSSを利用できる者の範囲

 

公的個人認証・商業登記に基礎をおく法人認証の証明書所持者

行政書士と自販連の代理申請だけに限定されている。(原則は大量・一括申請者用)

 

代理人の範囲

 

公的個人認証・商業登記に基礎をおく法人認証の証明書所持者

 

行政書士と自販連だけに限定

行政書士電子証明書の利用可否

 

不可

 

 

可能

プログラム・インターフェイスの仕様等

プログラムは、国交省が提供している。

送信プログラムは国交省が提供。「データー集積」「電子署名」用のプログラム費用は利用する側が負担。

プログラム開発費用の見込額

 

利用者はPCの環境設定だけで使用開始できる。

 

その開発費用は、数千万円以上必要ともいわれている。

プログラムを開発した会社

 

 

NTTデーター

 

NEC

プログラムへの対応状況

 

申請者向けに対応済。代理人向けには一部(行政書士向け)未対応

NECが自販連向けに開発。自販連は既に対応済。行政書士は未対応

 

使用ソフト・機器

 

PC・スキャナー・ICカードリーダー・Acrobat・電子署名ソフト等

PC・スキャナー・ICカードリーダー・Acrobat・電子署名ソフト等

 

利用可能時間帯

24時間365日だが、利用率低迷のため、来年度から夜間中止の予定がある。

事前提出物は、運輸支局の開庁時間帯内に限って可能である。(現状は午前9時から午後4時まで)

事前に提出する必要がある物

 

 

なし

申請者の印鑑証明

申請者の委任状

申請データーを集積したCD-RW

 

事前提出場所

 

 

なし

 

管轄運輸支局

申請後の受取が必要な証明物

 

車庫ステッカー(管轄警察署)・車検証・ナンバー(運輸支局)・封印等

車庫ステッカー(管轄警察署)・車検証・ナンバー(運輸支局)・封印等

 

国民の負担額

 

 

比較的安価に利用できる。

 

負担増の可能性がある。