常駐の定義 平成19年5月7日 行政書士の「事務所での常駐」定義について 宮 原 賢 一 表題については、必須研修会用テキストにおいて「行政書士は事務所に常駐しなければならない」(P51)と記述してきたところですが、再度、行政書士の常駐性についての検討を行ったものです。 1.用語の援用について 一般的に「常駐」とは、本社(本店)等から命を受け、支社(支店・出張所・駐在所)等において通常勤務し、業務を遂行する態様を意味します。 「常勤」とは、勤務日において、その勤務時間が当該事業所において定められている従業者等が勤務すべき時間数に達していることを意味するとされています。 これらは何れも雇用と就業形態の側面から意味をもつ用語であり、個人事業主として位置づけられている個人行政書士の場合には合致しない面があります。 しかし、行政書士法第13条の14(社員の常駐)にこの用語が使用されていますので、整合性をとるためと用語の意味を分かりやすくするために、個人行政書士の場合でも、敢えて「常駐」という用語を援用しています。 <参考> 社員の常駐 行政書士法第13条の14、弁護士法第30条の16、司法書士法第39条、社会保険労務士法第25条の16などに常駐についての規定があります。 建設業法 第7条 国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が次に掲げる基準に適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならない。 一 法人である場合においてはその役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう。以下同じ。)のうち常勤であるものの一人が、個人である場合においてはその者又はその支配人のうち一人が次のいずれかに該当する者であること。 2.
常駐性から見た法改正の趣旨 従前の行政書士法施行規則(旧第3条)では「事務所以外の場所での業務の禁止」規定がありましたが、その後、法第1条の3に「代理権」等が規定されたことにより、事務所以外での業務の禁止という「代書的業務」から、事務所以外の場所での業務遂行権限(事務所以外での相談業務、申請手続の代理等)が明記されることとなりました。 これによって、事務所以外の場所での業務禁止条項はなくなりましたが、その業務の活動主体たる場所は、従来どおり、登録された行政書士事務所であることに変りはありませんし、この施行規則の改正によって常駐性が否定されたわけでもありません。 3.常駐性の根拠条文の解釈 <行政書士法第8条> 行政書士は、その業務を行うための事務所を設けなければならない。 2 行政書士は、前項の事務所を二以上設けてはならない。 この場合の行政書士の業務とは、行政書士法第1条の2,1条の3に規定された業務を指します。これに規定された業務が行政書士としての業務(その他、法定外業務なども含む)であり、これらを業として行うための場所(出張などの場合を除き、業務を反復継続して行う場所と見ることができる程度の執務状態とその物的空間を指します。)の意が、即ち、行政書士業務を行うための事務所設置=業務遂行上の拠点ということになります。 申請手続きの代理、申請取次、打合せ、相談業務、会務、研修等で事務所を空けて出張したり、病気治療などの場合を除いて、行政書士は事務所に常駐(常勤)する義務があることは「行政書士業務を行うための事務所設置」を規定するこの条文上から明らかです。 また「業務を行うために・・」ではなく「業務を行うための・・」との、積極規定となっていることにも留意すべきです。 <参考> 税理士法(事務所の設置) 社会保険労務士法(事務所) 第18条 他人の求めに応じ報酬を得て、第二条に規定する事務を業として行う社会保険労務士(社会保険労務士法人の社員を除く。以下「開業社会保険労務士」という。)は、その業務を行うための事務所を二以上設けてはならない。ただし、特に必要がある場合において厚生労働大臣の許可を受けたときは、この限りでない。 司法書士法 (事務所) <行政書士法第9条> 行政書士は、その業務に関する帳簿を備え、これに事件の名称、年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所氏名その他都道府県知事の定める事項を記載しなければならない。 <施行規則第11条> 行政書士は、日行連の会則の定めるところにより、業務上使用する職印を定めなければならない。 本条は、適正な業務遂行義務(行政書士法第10条)から見た、帳簿類や職印の恒常保管施設(逆に言えば、業務遂行上の唯一の拠点の証となります。)としての位置づけであり、また知事の立入検査時の対象でもあり、当該行政書士にとっては適正な業務遂行の証拠物ともなります。 <行政書士法第10条の2> 行政書士は、その事務所の見やすい場所に、その業務に関し受ける報酬の額を掲示しなければならない。 <本会会則第52条> 同様規定あり 行政書士法第1条の2には、他人の依頼を受け報酬を得て・・・ことを業とする。と規定されています。 この「他人の依頼を受ける」ことと「報酬を得て」は、行政書士業務を取扱う上での前提となる必須条件です。 他人の依頼を受け、業務を行う場所としての事務所に、報酬額の掲示をすることは、行政書士法第10条(行政書士の責務)、第11条(依頼に応ずる義務)第12条(秘密を守る義務)と相まって、行政書士の業務遂行をこの前提条件に合致させる意味において、重要な要素となります。 <行政書士法第13条> 行政書士は、その所属する行政書士会及び日本行政書士会連合会の会則を守らなければならない。 会則の目的欄(第3条、第4条)には、行政書士の品位保持、権利擁護、業務の改善進歩のために会員に対し、指導及び連絡することがその主たる目的として明記されています。 この指導・連絡等を有効に機能させる(指導・連絡権の有効な行使)ための宛先が、即ち「行政書士業務を行うために設けた登録された事務所」宛ということになります。そして、その対象者が当該会員であり、ここでも常駐性が問われないとすると、権利や義務の行使に関して、不測の損害(期限の利益など)をもたらす結果となります。 行政書士会側からすると、会費の納入通知、催告の通知、総会の通知、研修の通知、処分の通知等があり、いずれの場合にも期限を付しています。 <綱紀事案> 日本行政 2007.1月号 P42 行政書士業務を行うための事務所を設けていない。又、依頼人及び愛知県行政書士会との連絡手段を確保していないため、戒告処分とした例がある。 4.
「非行政書士行為の温床排除」としての常駐性 二以上の事務所の禁止(法第8条の2)、他人による業務取扱いの禁止(規則第4条)、名義貸等の禁止(連合会会則第61条、本会会則第47条)、補助者への指導・監督義務(会則第49条)などが考えられます。 雇用行政書士、名義貸し等の問題は古くて新しい問題です。 こういった非行政書士行為の温床排除という面からも行政書士の「常駐」を捉えることが必要であり、行政書士法人の支店に、当該府県の社員たる行政書士を何故常駐させなければならないのかを考えれば、自ずと結論が導き出されます。このことは、個人行政書士の場合であっても全く同様です。 <参考>東京高裁50.1.30 裁決取消請求事件(弁護士が二以上の地域で執務した等の案件で、弁護士会が登録換えの進達拒絶をした事件) 5.「常駐」の定義について 1〜4項の分析から、業務の態様から見た常駐の基本根拠条文は、行政書士法第8条となり、物・空間としての主たる執務場所として捉えた場合に、その業務態様を補強する条文が第8条の2以下の条文(本稿掲載以外にも補強条文は多数ありますが割愛しています。)となることが分かります。 本稿にいう「行政書士の(事務所における)常駐」とは、前述したように、行政書士法人の社員を指すだけではなく、個人会員にあっては、法第8条の制定趣旨から当然の適用と考えることができます。 これらの検討結果を纏めると「個人行政書士の(事務所における)常駐」とは、以下のように記述することになります。
5. 参考条文 <行政書士法> 行政書士法第6条・・・・(氏名・事務所など)登録を受けなければならない。 行政書士法第8条・・・・業務を行うための事務所を設けなければならない。 行政書士法第8条第2項・事務所を二以上設けてはならない。 行政書士法第10条の2・・事務所に報酬の額を掲示しなければならない。 行政書士法第11条・・・・正当な理由なく依頼を拒むことができない。 行政書士法第13条・・・・行政書士は会則を守らなければならない。 行政書士法第13条の14・・会員である社員を常駐させなければならない。 行政書士法第13条の22・・知事は行政書士事務所に立入り検査することができる。 <行政書士法施行規則> 施行規則第2条の14・・・事務所に表札の掲示義務 施行規則第3条・・・・・事務所に報酬の額の掲示 施行規則第4条・・・・・他人による業務取扱いの禁止 施行規則第5条・・・・・補助者をおくことができる その他 |