業際問題(行政共助、定款の作成代理、法務省主導)の読み方

「業 際 問 題 を 切 る」

行政書士 宮原賢一

 

 

 

 昭和50年代当時の業法では、行政書士は「官公署へ提出する書類・権利義務・事実証明書類」であり、司法書士は「法務局・裁判所・検察庁へ提出する書類」であった。

ある時、帰化申請書類の作成は「行政書士の業務か司法書士の業務か」という問いに対し、自治省行政課長は「双方に属する。」と回答している文書(昭和37年 自治丁行29号)を読んだ。う〜ん・・読めば読むほど判らない???帰化申請書の提出先は?行政官公署たる法務省の長である法務大臣宛に申請するはずだ。そうすると、当然の帰結として行政書士の業務なのだが?実際の提出先(窓口)が地方法務局(おいおい経由機関のはずだろう。)だから、法務局に提出する書類とも看做せる。というのがいかにも波風を立てたくない役人の屁理屈と変なところで感心し、大笑いしたことがある。

 

1.訴訟合戦の結末

さて、昭和60年、埼玉の岡田弁護士が埼玉県司法書士会を相手取り「登記手続代理は司法書士の専権であり、弁護士といえども、偶々関与した事件に付随した登記以外は司法書士法違反である。」としたのは、弁護士に対する名誉毀損であり、業務妨害であるとして訴訟を起こしたのが埼玉訴訟である。

この時、日司連は「登記手続代理は司法書士の専権であり、弁護士といえども、偶々関与した事件に付随した登記以外は司法書士法違反である。」(昭和625月)とし、司法書士会を援護した。

一方、日弁連は「弁護士法第3条に定める法律事務として、訴訟事件その他の争訟に関連するか否かにかかわらず、当然に登記申請手続の代理を行うことができる」(日弁連総一第173号)

とした。

当時の朝日新聞は−弁護士と司法書士が登記事務で権益争い−と大々的に報じたが、この争いは弁護士側の勝訴で終った。

 

ところで、平成7年頃、福島県行政書士会所属の佐久間会員が、司法書士法違反で起訴されたのが所謂福島訴訟である。

事の発端は、司法書士会が例年行っている非司法書士実態調査で、佐久間行政書士が2年間に亘り、不動産・商業登記を十数件行ったのが発見され、司法書士会の警告文書にも拘らず、その後も登記申請の代理を行ったとされた司法書士法違反事件である。

連合会も福島会もこの件に関しては、無用の混乱を避けるため?に無視を決め込み、全国でも数十名の行政書士だけが、手弁当で支援した裁判であった。

これには前述した埼玉訴訟で名を馳せた岡田弁護士も訴訟代理人として参加したのだが、最高裁(平成122月)まで縺れたこの訴訟は、結局、敗北(罰金25万円)となった。

この訴訟の中で、佐久間会員は「付随行為論」(正当な業務に付随して業務を行う場合は、今後も司法書士法第19条違反とはならない。昭和29年 民事甲第1321号)等を主張して戦ったが、時節未だその時にあらずであった。

 

(最高裁判決から5年後の平成17年、日本行政書士会連合会は、規制改革民間開放推進室に対し、「商業・法人登記の行政書士等への開放」を要望した。再三に亘る要望を受け、法務省もその重い腰を上げ、平成1812月、商業登記の開放に関してのアンケート調査を実施した。19年の3月中には集計結果が出る。

 

平成7年、渦中の佐久間会員は、週間法律新聞3月号に興味のある記事を寄稿した。

−いわれなき司法書士会の告発、登記専権の誤った思い込み−続く次号は−クリーンハンズの原則違反、疑義ある司法書士業務の実態−

目を引いたのは「クリーンハンズの原則」(汚れた手の者は法の庇護に値しない。)であった。

ある意味気にかけていた訴訟のことでもあり、開示請求などを行って調べていく内に、面白いことに気付いた。

 

福島訴訟 平成9年の仙台高裁では「司法書士会による非司実態調査は、公共性の強い登記業務を円滑に遂行し、信頼性を高める等の公益目的のために充分な必要性と合理性がある。」と判示しているのだが・・・

この判決は、司法書士制度の維持拡充に力点が置かれ、登記の専門性・公共性・公益性から司法書士専権を導いているが、ならば、行政書士よりも能力の落ちる、登記の素人たる本人申請を可とし、行政書士の付随行為としての登記申請代理を禁止することは、そこに論理矛盾が生じてしまうことになる。

 

 

2.行政共助とは何か

更に、当時の地裁・高裁レベルでは、行政共助(無料閲覧行為)が個人情報の保護という法概念とは相容れない、対立する構図であることさえ持ち得なかったことが、この判決文からも容易に読み取れる。

平成16年度までは、法務省民事局民事第二課長名による非司法書士活動に関する実態調査は「依命通知」 (平成16810日)として、標記の件について、日本司法書士会連合会から別紙の通り協力方の要請がありましたので、事務に支障のない範囲でしかるべく取り計られたく通知します。・・として、不動産・商業登記法に定められた閲覧手数料を払うことなく登記申請書・付属書類の閲覧を許可していた。

 

(因みに、平成15年度の非司調査のための閲覧件数は、東京法務局管内では104,696件であり、京都司法書士会の非司調査のための閲覧件数は16年度27,468件、滋賀県司法書士会の同年の閲覧件数は、12,850件であった。これを全国ベースに換算すると、実に年間100万件を超える無料閲覧行為が法務省の「行政共助」の名の下に、全国の法務局・出張所で行われていたことになる。

平成15年度における東京法務局館内での非司法書士による商業・法人登記の割合は、行政書士10%(99件)、税理士28%、公認会計士33%、弁護士29%の合計1,257件であった。)

 

・・・ところが、法務省は平成17914日、手の平を返したように、こう述べている。

 

―(事務連絡)―

平成17914

民事局民事第二課

非司法書士活動に関する実態調査については、その実施のあり方、具体的な方法等につき現在検討中ですので、当課から連絡あるまで、各司法書士会からの調査依頼には応じないよう留意願います。・・としたのである。

 

これは、平成15年に公布された「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(施行17.04.01)」によるところが大きいと思われるが、それならば、法務を司る本家本元の法務省は、公布日以降の平成15年度、16年度も非司調査を中止させなければならなかったはずである。

何故なら、公布日と施行日との関係は、一般国民に対して周知徹底させるための猶予期間であり、この法律の公布直後の段階から、法務省の大臣官房長、法務省大臣官房秘書課長は、その保護のあり方に関する具体的な審議(平成15613日)に加わっており、この点からも、法務省は言い訳のできる立場にはないからである。

 

このようにして見てくると、各士業は、縦割り行政による馴れ合いと、その弊害(天下り先の確保等)の下で、何とも凄まじい縄張り争いの集団となり果ててしまったのか。

お題目では、各士業とも国民の権利を守り、国民の利益に資する。と言ったところで、所詮は、権益(テリトリー)争いに終始している商売人の姿を露呈している。

ただの一点、普通の商売人と違うところは、各士業共に、法が要求する限度の法的な素養を持つ資格者の集合体であり、そこには守秘義務が課され、罰則規定があるということだけだ。

 

 

3.定款の作成代理問題

 平成181月、石川のS行政書士から電話が入った。「宮原さん、見たか?」「何、何のこと?」「司法書士も定款作成代理ができると、法務省が通達を出した。」「えッ、本当、昭和29年の法務事務次官通達によると、司法書士は定款の作成は出来ない筈だが?」

 

よくよく見ると、その照会文の言い回しに、無い知恵を捻り出した跡が伺える。

 

「司法書士が作成代理人として、記名押印又は署名している定款が添付された登記申請の取扱いについて(照会)」18.01.18 東京法務局民事行政部長・・差し支えないと考えますが、いささか疑義がありますので・・なるほど、他の法律(弁護士法、行政書士法)に抵触すると考えたんだな。

「司法書士が定款の作成等を代理することについて(回答)」18.01.20 法務省民事局商事課長・・貴見のとおりと考えます。・・ウン?

 

回答を素直に解釈すると、定款は行政書士法に云う権利義務・事実証明書類なので、弁護士と行政書士の専管業務だが、(たまたま)行政書士法違反と知ってか知らずにか作成した司法書士が、(たまたま)その行為が、行政書士法違反になることを知らなかった公証人から認証を受け、(たまたま)その経緯を知らずに受理した登記官が、審査する場合の可否についての回答だった。

 

それにしても回答の標題が変だ。登記申請の受理過程での単なる処理問題を、司法書士が定款の作成代理が出来るという標題で回答している。

公証人役場も、その回答を受けて、司法書士が定款の作成代理が出来るようになったと、早速ホームページに掲載している。

 

彼等(法務省、司法書士会)は何を焦っているのだろう?

そうか、新会社法と電子公証への参入か。合点はいったものの、行政書士業務に位置づけられている定款の作成を、こうも易々とたかが一片の内部通達によって取込まれるのは納得がいかない。早速、個人的に法務省、公証人連合会宛に意見書を送り、併せて、法務局と法務省に情報の開示請求を行うことにした。

 

27126分、民事局商事課は、回答の標題に誤りがあったとして「司法書士が作成代理人として、記名押印又は署名している定款が添付された登記申請の取扱いに関する回答等の訂正について」とするFAX文書を各法務局宛に発信した。

 

31日、日本公証人連合会も「司法書士が、商業・法人登記の申請のため定款の作成代理をすることが、司法書士の業務に含まれることが明らかにされました。」旨お伝えしたところは、上記回答の趣旨とことなるものと考えられますので、この部分は撤回させていただきます。

なお、司法書士から、商業・法人登記の申請にあたり、司法書士が作成代理人として記名押印又は署名している定款の認証を求められた場合、他に法令違反等の事由がないときは、認証して差し支えないと考えられます。とのFAXを全国の公証人役場宛に送信したのだが・・・

 

@     他に法令違反等の事由が無いときは?

(定款を作成すること自体が、弁護士法・行政書士法違反だろう。だからこそ、些か疑義が・・と照会したんだろう。)

A     司法書士が記名押印した定款?

(公証人が、行政書士法違反を承知で認証しない限り、そんな定款は存在しえない。)

B     作成する(第1条の2)と罰則があり、代理人として作成すると罰則規定がない?

C     定款は登記申請の添付書類?

(定款の本質は、本店に永年保存すべき権利義務・事実証明書類で会社の憲法だ。登記に添付するのは謄本の方だろ。)

 

このように見てくると、そこには登記優先、登記終局という官僚的思想が強く反映されている。(例えば、売買契約書、売渡し証書等の売買の意思確定という実体の優先を無視し、登記の添付書類等と言い張っている。これも土地神話の亡霊か?尤も、証明情報の場合はニュアンスが異なるが・・・)

まぁ、仕方ないか、そもそも司法書士も公証人も法務省傘下だ。

「登記研究2月号」もそんな雰囲気がプンプンの内容だったな。

付随業務の範囲内で、お互いを認め合ったら、もっと自由闊達なサービス競争ができ、国民の利便に繋がるのになぁ〜・・・

19.02.25

宮原賢一