Gyoseishoshi Lawyer」考

―日弁連批判―

 

平成1925

行政書士 宮原賢一

 

 

本会では、平成12年秋の理事会で行政書士の英訳を「Gyoseishoshi Lawyer」と定め、翌年の会報132号から使用してきている。会報143号では山本、後藤両会員が行政書士の英訳についてのコラムを掲載していたが、これらに遅れること3年、連合会では16年度から「日本行政」で「Gyoseishoshi Lawyer」という名称を使用し始めた。

ところが昨年の1222日、日弁連が日行連発行のパンフレットの表記に噛み付いてきた?のである。

その趣旨は@Lawyerという英語表記を止めること。A法律家という表現を止めること。B代理権に関し誤解を与える表現を用いないこと。C会員に対する適切な指導を行うことの4点である。そこで今回は、この問題を私なりの解釈で読み解いてみたいと思う。但し、これには士業の職域に関する微妙な問題を含んでいるので、あくまでも、私の個人的な見解であることを前提にお読み頂きたい。        日行連の「Lawyer」に対する見解

 

1.           Lawyer

 

OXFORD英和辞典によると、Lawyer(法律家・弁護士・法律学者)、Solicitor(懇願者・勧誘員・事務弁護士・市町村の法務官)、BarristerUK 法廷弁護士・US 弁護士・法律家)、AttorneyUS 弁護士・法定(的)代理人)と訳されている。

Lawyerは狭義の意味では日弁連が指摘するように弁護士、法曹を指すが、広義においては広く法律家全般の総称にも使用されていることが、辞書の和訳や聴き取りからも知ることができる。(注1

 

日弁連の米語表記は、そのHP上ではJapan Federation of Bar Associations (米American Bar AssociationでありLawyer’s Associationとは表記されていない。(弁護士法はBar ActPracticing Attorney Lawと訳される。因みに、弁理士法はPatent Attorney Law)弁護士が90100万人近くいるといわれるアメリカでは一般的にAttorneyが広くLawyerの意に用いられているという。(注2

さて、この「Bar(棒)」とは法廷と傍聴席を仕切る柵のことであり、そこからBar=法廷=弁護士の職・弁護士団を意味するとされている。その権限を唯一絶対と信じている?訴訟代理人たる地位の弁護士にふさわしい表記である。

一方、英国では、弁護士はバリシター(法廷内活動弁護士約9,000人)とソリシター(法廷外活動弁護士約90,000人)に区分されるが、日本とアメリカにおいてはその区別はない。バリシター・ソリシターは英国の歴史が生んだ制度であり、ソリシターは民事、刑事、商事、家庭事件をデスクワークとして処理し、バリシターはソリシターを通して業務を受託している。このソリシターは、法廷での弁論を主とするバリシターの仕事と主従にあるものではなく、カバーする業務範囲も遥かに多い。(注3

 

最近、日司連(Japan Federation of shiho-shoshi Lawyer’s Associations)では司法書士の英語表記について、従来のJudicial Scrivenerから、英国流の「Solicitor」表記を用いることを決議した様である。(注4

現在、簡裁代理権のある認定司法書士は53%程度(18.12.31 9,930名)であるが、簡裁代理権の無い登記一筋の残り47%(8,800名)も含め、英語表記ではソリシターに統一したい意向(数式は53%=100%?)だそうである。

しかし、この外国語であるSolicitor表記を採用するのかしないのか、言い換えれば、Solicitor表記が司法書士全体の職能を正確に表現する英訳であるか否かも含めて、これもまた後述するように、司法書士(界)の任意であると言わなければならない。

 

さて、標題の行政書士の英訳は様々だが、主な例をあげると「Gyoseishoshi Lawyer(日行連)Administrative Lawyer(ウィキペディアWikipedia)」Administrative Scrivener(講談社 日本語大辞典)(法務省入国・在留の手引)Certified administrative procedurers specialistAdministrative Documentation LawyerPublic Notaryなどがある。つまり現状では、帯に短し襷に長し状態にあるということである。

この際、内閣官房、総務省等に対しては「Gyoseishoshi Lawyer」が日行連の正式見解だとして早急に手を打たないと、その英語訳がAdministrative Scrivenerなどと旧態依然とした直訳表記されてしまう恐れが多分にある。日本式役所流の直訳表記では、外国人にとっては行政書士という専門職の理解を助けるどころか、理解そのものを更に難しくしてしまう。何れにせよ、その国々によって言語・慣習・文化が互いに異なっている以上、職能について真に正確な英訳・和訳というものは存在しえないのである。

なぜなら、法治国家日本において、日本語によって制定された行政書士法による行政書士という職種は、そもそも欧米には存在しないからである。存在しないものは、理解を助けるイメージとして伝えるしか、その伝達手段を持たないことになる。

 

平成181213日「法令外国語訳推進のための基盤整備に関する関係省庁連絡会議」での決定とその影響からか、日本国法令の正確な英語表記に関し、最近は煩く言われるようになってきた。これがそもそもの発端かも知れないのだが・・・(注5

だが、内閣官房の法令翻訳データ(標準対訳辞書対応)の注記においても、「なお、これらの翻訳は公定訳ではありません。法的効力を有するのは日本語の法令自体であり、翻訳はあくまでその理解を助けるための参考資料です」・・・と正に的を射た注記がなされている。

These are unofficial translations. Only the original Japanese texts of the laws and regulations have legal effect, and the translations are to be used solely as reference material to aid in the understanding of Japanese laws and regulations


 これを我々行政書士に当てはめるなら、「行政書士」という日本語の正確な英語訳は今もって存在せず「行政書士」の職能を真に理解するためには、人種を問わず、日本語で書かれた行政書士法を読解するしかないのである。

「行政書士」「司法書士」「弁護士」は何処までいっても、日本語表記の「行政書士」「司法書士」「弁護士」でしか有りえず、その英訳について日弁連からクレームをつけられる様な筋合いのものではないということである。

私から言わせれば、弁護士は「Bengoshi Lawyer=弁護士という名の法律家」司法書士は「Shihoshoshi Lawyer=司法書士という名の法律家」行政書士はGyoseishoshi Lawyer=行政書士と言う名の法律家としか言いようがないのである(注6

 

つまり、「Gyoseishoshi Lawyer」という英語表記を使用するか否かは、単にその主体である行政書士(界)サイドの問題であり、そしてそれはなお、外国人が日本の行政書士制度を知る上での参考程度にしか過ぎず、それ以上でもそれ以下でもないのである。

 

これは一つの例だが、一年程前、知り合いの医者が「海外の銀行に口座を開きたいので、身分を証明して欲しい。」と言ってきたことがあった。私はその銀行に対し、認証者の署名は「Gyoseisyoshi Lawyer Kennichi MiyaharaOKか?」と確認を取ったところ、「その署名・押印(職印)で問題ない。」との返事であった。

認証者足りうる条件は、受入れ先の海外金融機関が決めることだが、日本国内で報酬を得てパスポートなどを含む公文書の認証、本人のサイン、住所証明など、私文書の認証を業として行えるのは弁護士行政書士しかいない。

そして、この例示の持つ重要性は、認証者としての「Gyoseisyoshi Lawyer」名を、海外の一流企業である当該銀行が認めたということにある。

 

2.           「法律家」

 

@「法律家」の定義については、狭義では法曹をいうが実際(広義)には、裁判所の書記官、税理士、弁理士、司法書士、行政書士等の法律実務を担ってきている専門職種をも包含しうる。(注7

 

A弁護士が大都会に集中する傾向があるため、地域によっては弁護士の役割を司法書士が担い、弁護士も司法書士もいない地域では行政書士が法的助言者として活動するという代替関係も見られる。(注8

 

B行政書士は、ある意味で最も日本人にはなじみの深い法律職業といってもよい。(注9

 

C守秘義務、罰則規定のある業法の下で法律事務に携わる士業は、全てが法律家であることを国(法務省令)が示している。(注10

 

金にならない小額案件にはあまり手を出さず、東京と大阪にその6割(23,000人中14,000人)以上が集中するという、ゼロワン地域を何十年にも亘って生み続けてきたのは、日本全国に遍く社会正義を実現するという崇高な目的をもった?ギルド精神に満ち溢れた弁護士達ではなかったのか。

司法制度改革による司法書士の簡裁代理権獲得・ロー弁大増員は、そのツケを払わされたということなのである。そして今なお、ゼロワン地域の解消へは道半ばである。(注11

その間、弁護士過疎地域の法的アドバイスの実務を担ってきたのは、我々行政書士である。(注12

何をもってして「法律家」と定義づけるかは、如何にしてその地域に密着し、市民から法的助言者・相談者として信頼されてきたのかというその士業のもつ歴史と、利用する国民サイドからの視点に拠らなければならないのであって、弁護士(界)からの指摘によるものではないことは明らかである。

 

3.           「弁護士法 第72条」

 

さて、もう一つ法律家を定義する上で避けて通れないのが、弁護士法第72条の解釈問題である。弁護士法第72条が禁止している法律事務を「事件(争訟)性のある法律事務」と解する事件性必要説と、「事件(争訟)性のない法律事務も含む」と解する事件性不要説の二説がある。

日弁連は後者の事件性不要説を長らく支持し、今回の申し入れにおいてもそれを主張していることが窺えるが、この不要説は刑罰法規(二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金)である同規定を弁護士寄りに解釈することになるとして、現在では事件性必要説が多数派となってきており、3年前に法務省もこれを追認した。(注13

また学説においても事件性必要説が通説とされ、近時の法改正によって、第72条は「…ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」とされたのはご承知のとおりである。

事件性必要説によれば、弁護士以外の者が、相当程度に紛争性を帯びる具体的蓋然性のない事件(予見性)又は紛争性を帯びる場合でも、訴訟等と同程度に紛争が成熟していない法律事件(成熟性)を取り扱う場合には、直ちには弁護士法違反にならないことになる。(注14

その限りにおいて、他の資格者による法律事務の取扱いや代理行為も、合法となる(余地がある)ということである。

 

4.           「代 理 人」

 

行政書士法第1条の3第二項は「契約その他に関する書類を代理人として作成すること」としており、この足の裏から背中を掻くような解釈を巡っては、様々な見解がだされている。

1)当事者は相手と交渉して書類を作成できるから、代理人も書類を作るためには相手方と交渉して書類を作り、修正も出来るはずである。(「行政書士の未来像」阿部泰隆)

 

2)ここでいう「代理人とし」てとは、契約等についての代理人としてとの意であり、直接契約代理を行政書士の業務として位置付けるものではないが、行政書士が業務として契約代理を行いうるとの意味を含むものであると解される。(地方自治第646号)

 

3)相続人間に調停・訴訟の因をなす紛争状態があれば、行政書士は代理介入が出来ないが、助言説得を含めて、相続人間の合意形成をリードし、分割協議をまとめる代理行為は合法であると解される。(「行政書士法コンメンタール」兼子 仁)

 

我々が契約書、合意書、協議書を代理人として作成するということは、上記の見解からも明らかなように、当事者の間に入り、法的助言や説得も含め、双方の合意をリードし、それを受けて代理人として書面を作成する。・・・ということである。これには当然ながら「双方が合意した上での法的な助言を為しえる立会人」という地位と、もう一つ「双方代理」という法概念も内包している。(注15

 

何故なら、内容証明の場合は片面代理(依頼者Aの代理人として作成)であるが、契約書、合意書、協議書を代理人として作成するためには、必ずAとBの間、AとB,Cの間というように複数の当事者(双方)が必要だからである。紛争当事者の一方の代理人たる立場の弁護士や認定司法書士が逆立ちしても出来ないのがこの双方代理である。

これらを、民法上において原則禁止とされている双方代理が許容される程度の業務(例えば登記手続・自動車登録手続に見られるように、実体上、法律行為は完成(売買契約書・売渡証書・譲渡証明書)しており紛争性がない。あとは国家公簿に載せるだけなのだから)と見てしまうのか、又は、双方代理としての立場を最大限に活用するのかでは、結果は大きく違ってくる。

 

この場合においては、本稿にいう双方代理の意味を十分に理解し、業務を遂行することが必要となる。

@紛争状態に至っていない依頼者と相手方、または双方(AB)の同意があって初めて成立することであること。(注16

Aそこには必ず「中立性・職業倫理・利益相反」(例えば 行政書士法第9条)をどう処理するのかという問題が存在していること。

Bその場面に応じて、弁護士法第72条をどう解釈(例えば、法的助言や合意形成のリードと相対交渉の違い)するのかということ。

Cその結果として、双方が合意した内容を代理人として作成し書面に纏めること。

Dこれらを業として行う以上は、報酬はAから得るのか、Bから得るのか、双方からなのかという問題も含んでいるので、実際の実務においては、行政書士として細心の注意が必要であることは言うまでもない。

 

弁護士が自身に有利なように業法(第72条)を解釈するのは自由である。

ならば、行政書士も自身に有利なように業法を解釈する自由を保持しなければならない。

 

 

 

 

 

< 参 考 文 献 >

 

 

(1) LawyerLawに関係する人達みんなのことをいう。日本でいう弁護士はSolicitor(英)とAttorney(米)という。(イギリス人英会話講師 Rush.Lee

 

(注2Comprehensive JE Dictionary 旺文社

 

(注3)(行政書士の役割 P28 三木常照)

 

(注4)(第14回 日司連理事会 18.8.29

司法書士及び日本司法書士会連合会の新英語名については、下記の英語名を広く使用することの働きかけを、政府等関係諸機関に対し行うことを承認した。

司法書士  Solicitor、日本司法書士会連合会 Japan Federation of Solicitor Associations

 

(注5)―法令外国語訳・平成21年度以降の推進体制の在り方について― 平成181213日法令外国語訳推進のための基盤整備に関する関係省庁連絡会議 (参照)

 

(注6外国法事務弁護士の外国語訳はどうかと言われましても、先ほど申しましたようにまだ定訳を定めておるわけではございませんが、さしあたりこの名前が日本のみならず外国においても定着していかなければならないものだと私は思いますので、そういった意味では、今考えますればGAIKOKUHO JIMU BENGOSHIというローマ字によって表示することになるのじゃなかろうかと思います。(第104国会法務委員会 井嶋政府委員)

 

(注7「現代法律百科大事典」第7巻 ぎょうせい刊

 

(注8)日本評論社 「現代司法」第4版 P95

 

(注9)日本評論社 「現代司法」第4版P143

 

(注10法務省令第16号(法別表第一の二の表の法律・会計業務の項の下欄に掲げる活動)

申請人が弁護士、司法書士、土地家屋調査士、外国法事務弁護士、公認会計士、外国公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士又は行政書士としての業務に従事すること。

 

(注11平成18年 弁護士が全くいない地域5カ所弁護士が1人しかいない地域34カ所 弁護士過疎地域96カ所(日弁連HPより)

 

(注12)現在の行政書士数は39,000人で、全国の市町村に広く存在している。なお、2014年の弁護士数は現在の2倍の40,000人になると見込まれている。そして、2040年には100,000人を超え、人口1,070人に付き1人の弁護士となる。

 

 

(注13)「グループ企業間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条の関係について」法務省H15.12

 

1.(省略)

.報酬を得る目的

法第72条本文の「報酬を得る目的」にいう「報酬」には現金に限らず、物品や供応を受けることも含まれ、額の多寡は問わず、第三者から受け取る場合も含まれる。

他方,実質的に無償委任といえる場合であれば、特別に要した実費を受領しても、報酬とは言えないと思われる。

この「実費」にはコピー代等が含まれ得るが、人件費のように、当該事務のため特別に費やされたと言えないものは、報酬と評価されることが多いと考えられる。

.法律事件

法第72条本文の「その他一般の法律事件」について、いわゆる「事件性不要説」と「事件性必要説」とが対立しているが、事件性必要説が相当と考える。

 

(注14

(1)事件性必要説に立つ裁判例〈札幌地判昭和45・4・24判タ251305頁〉同裁判例は、法律事件に該当するためには、同列に列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いがあり、あるいは疑義を有するものであること、いいかえれば「事件」というにふさわしい程度に争いが成熟したものであることを要する、としている。

 

(2)事件性不要説に立つ裁判例〈大阪高判昭和43219高刑集21巻1号80頁〉 同裁判例は、3条と72条とについて、「その内容は全く同一であり、72条本文で非弁護士が取り扱うことを禁止されている事項は、弁護士の職務に属するもの全てに亘る」としている。

 

3.立法例(サービサー法)

 

(1)   サービサー法上の「法律事件」「法律事務」の解釈

 

サービサー法の第2条第2項で規定する「法律事件」、「法律事務」は、弁護士法第72条に規定するそれらと同義です。

「法律事件」とは、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、または、新たな権利義務関係の発生する案件をいい、「法律事務」とは、弁護士法第72条に規定する「鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務」と同義であって、法律事件について法律上の効果を発生、変更する事項の処理のみでなく、口頭で合意された事項を契約書にする行為のように、厳格な意味では、法律上の効果を新たに発生・変更するものではないものの、法律上の効果を保全・明確化する事項の処理も含まれると考えられます。判例上、法律事務に該当するとされたものとして、債権取立ての委任を受けてなす請求、弁済の受領、債務の免除行為をなすことなどがあります。(参考判例:東京高判昭和39929日高刑集176597頁等)

 

(2)   弁護士法違反の判断基準(事件性) 弁護士法に違反するか否かは、事件性(紛争性)のある債権について法律事務に当たる方法により回収を業として行っているものであるかどうかによって判断されるところであり、仮にそのような業務を行っているのであれば、業態名にかかわらず弁護士法違反となり得ます。

(出典:法務省債権回収監督室編『Q&A サービサー法』)以上、特許庁HP 資料室より

 

(注15)本稿にいう「双方代理」とは、法的助言を含め、双方の合意形成に至る過程をリードし、その結果を受けて、代理人として協議書等の書類を作成する行政書士の地位との意である。

 

(注16)例えばAの依頼を受け、その後Bの同意を得て双方の合意形成をリードする場合と、ABが帯同して相談に訪れた場合の異同のこと。

 

(文責)宮原賢一