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平成5年8月3日

都道府県畜産主務部長 殿

農林水産省畜産局衛生課長

PRRSの衛生対策について

 PRRS(豚の生殖器・呼吸器症候群)については、先に国内飼養豚からの抗体証明事例を受け、PRRSの類似症例の調査等の実施について(平成5年5月7日付け衛生課長通知)により類似症例の発生状況の報告を求めるとともに病性鑑定材料の送付について依頼したところであるが、家畜衛生試験場における検査の結果、@PRRS抗体陽性豚が、既に昭和62年には国内に存在していたと考えられること、A感染豚の多くは顕著な病性を示すことなく不顕性に推移すると考えられるものの、農場によっては異常産、呼吸器症状を引き起こしていること等が明らかになった(別紙1)。
 ついては、PRRSの病性についてのこれまでの知見及び今回の抗体検査の結果等を踏まえ、当面、別紙2によりPRRSに対する衛生対策を講ずることとしたので、了知の上、家畜飼養者及び関係団体に対する衛生指導の徴底を図られたい。
 一方、PRRSについては、動物検疫の強化を図ることとし、輸出国の輸出検査及び輸入時の輸入検査における抗体検査の実施について関係国あて通知したことを申し添える。
 なお、都道府県における抗体検査の実施体制、方法等については、別途連絡する。

別紙1(省略)


別紙2

         PRRSの衛生対策について

 PRRSは、海外での発生例及び今回の国内調査例からみて、感染豚の多くは不顕性に推移する考えられるものの、農場によっては、異常産や呼吸器症状が見られるなど、その病性については必ずしも明確にされていない。したがって、PRRSについては、次により、引き続きウイルスの浸潤状況及び病性の把握を行う一方、養豚業者等に対し、飼養衛生管理対策の徹底による浸潤防止と発生にともなう損耗の防止について指導を行うものとする。

1 浸潤状況及び病性の把握
(1)抗体検査によるPRRSウイルスの浸潤状況の把握
 都道府県(以下「県」という。)は、県内の農場飼養豚について抗体検査を実施し、ウイルスの浸潤状況の把握に努める。
 なお、抗体検査の対象農場は、豚の流通、地理的条件等疫学的な考察を行った上で選択し、効率的な検査の実施に留意する。

(2)立入検査によるPRRSの病性の把握
 ア 県は、県内養豚業者及び獣医師に対し、PRRS及びPRRS類似疾病発生時の家畜保健衛生所への通報を指導する。

 イ 県は、類似疾病発生農場及び(1)でウイルスの浸潤が明らかになった地域に所在する農場を中心に立入検査を実施し、飼養豚の異常の有無、繁殖記録の聴取を行うとともに、必要に応じ病性鑑定を実施することによりPRRSの病性の把握に努める。

2 損耗防止対策の指導等
(1)県は、養豚業者に対し、PRRSの浸潤状況、病性等に関する情報の提供に努める。

(2)県は、養豚業者に対し、家畜防疫対策要講綱(平成4年6月19日付け4畜A第1067号)の別記3「種豚場等養豚施設における衛生対策指針」を基本に飼養衛生管理対策の徹底に努めるよう指導する。

(3)PRRSについては、根本的な治療法はなく対症療法が行われるが、県は養豚業者に対し、欧米において行われている発生時の損耗を最小限に止めるための次のような措置を参考に、発生時の損耗防止に努めるよう指導する。

 ア 異常産が見られた場合
(ア)生残産子については、@出生時及び4時間後の初乳の給与、A電解質液の投与、B血液凝固不全が見られるため、鉄剤注射は3日間、断尾は3〜5日間遅らせるとともに、犬歯の切除は行わない。

(イ)異常産が見られた母豚については、高エネルギー飼料を給与し、乳質の確保を行うとともに、感染免疫が成立する分娩(流産)後21日までの種付を中止する。

 イ 呼吸器症状が見られた場合
 2次感染菌に対応した抗菌性物質の投与を行う。

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(参考)

                   PRRSの概要

1 原 因
(1)トガウイルス科アルテリウイルス属のウイルス(分離地の地名からレリースタットウイルスとも呼ばれる。)

(2)ウイルスは、エンベロープを有する1本鎖RNAウイルスでビリオンの直径45〜55nm、正20面体のカプシドを作る。抗原性状は変異しやすく、アメリカ、ヨーロッパでの流行株では抗原性に差異がみられる。比較的抵抗性は弱く、消毒薬にも弱い。

2 疫 学
(1)ウイルスは、感染豚の呼気、鼻汁、唾液などに排せつされ接触、飛沫感染により同居豚に気道感染する。

(2)ウイルスは、感染豚のへん桃、肺で増殖し、肺では間質性肺炎を起こす。また、妊娠豚では血流を介し胎盤から胎児に感染する。

(3)感染豚は、10日程度で抗体が陽転し、少なくとも8週間(報告によっては99日間)感染源となりうるとされており、数か月から1年以上抗体が持続する。

(4)浸潤農場においては、新たに導入された豚の感染によりウイルスが長期間農場内に保有されるとされており、特に大規模蜜飼いの農場では豚相互問の感染の連続により環境中のウイルス濃度が上昇すると言われている。

(5)農場間の伝播は、主に感染豚の移動によるものであるが、欧米では低温高湿度となる冬季を中心に2〜3kmの距離での空気伝播も認められている。

3 症 状
(1)臨床症状は、成豚と子豚で異なり、飼養環境にも大きく影響され不顕性感染が多いとされているが、飼養環境が不良な農場においては、通常、以下のような症状が発生の初期段階に認められる。

(2)共通的な一般症状は、食欲不振、持続型の発熱、腹式呼吸(呼吸困難)、一部では器官端のチアノーゼ。

(3)妊娠豚では、妊娠6週間以上ものが流産、死産(一部ミイラ胎児の娩出)を起こす。

(4)種雄豚では、精液性状に異常を認めることがある。

(5)感染母豚から娩出された新生子豚には活力減退、股間き、下痢等が認められ二次感染も起こりやすい。

(6)離乳豚、肥育豚では、肺炎症状が主体となり、二次感染により増悪することが多い。

4 診 断
(1)診断には臨床症状に加え、ウイルス分離、血清診断(間接蛍光抗体法等)及び病理診断が実施される。

(2)ウイルス分離には、異常産の場合は、流産、死産胎児、子豚の場合は、鼻汁、咽喉頭ぬぐい液、血清等を用いる。培養細胞には、3〜5週齢の豚の肺胞マクロファージが用いられ、2〜3日でCPEが出現する。

(3)抗体検査は、IFA(間接蛍光抗体)法、IPMA(免疫ペルオキシダーセ単層分析)法、ELISA法等が検討されているが、抗原性状の多様性を考慮するとIFA法が利用しやすい。

5 予防、治療
 一般的なウイルス疾病の侵入防止対策、飼養管理の改善による発症防止対策、対症療法を中心とした治療が行われる。

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