本文へジャンプ         阿部泰隆の新規案件

違法行政と闘う

違法行政と戦う

阿部泰隆

 

弁護士・中央大学総合政策学部教授

 

著書に『行政法解釈学Ⅰ・Ⅱ』(有斐閣、2008年)、『対行政の企業法務戦略』(中央経済社、2007年)ほか多数(学術著書・論文紹介欄参照)

 

日本では、役人は立派で間違いがないという役人無謬論が支配的であった。たまに役所が間違えても、弁護士は無能で、裁判所もまともな判断をしてくれない。裁判は無駄で、泣く子と地頭には勝たれないのだから、政治家や天下り役人に取りなしてもらうのが適切な経営判断だ。こんなのが社会通念であったと思う。

しかし、これは皆間違いである。役人も人間だ、間違いがないわけがない。事実認定も法解釈もかなり怪しい。たとえば、消費者が騙されたと消費者センターに訴えると、役人は、クレーマー的な消費者の訴えを丸呑みし、まともな業者の言い分を無視して、思い込みで処分する。そんな痴漢えん罪と同じ構図の事件もある。本来、両方の言い分をきちんと聞き、矛盾点を客観的証拠に照らして吟味しなければならない。それどころか、役所は間違いと分かっても、認めずに組織をあげて徹底的に潰しにかかる。また、適法で社会的意義のあるマンションや廃棄物処理場、窯業用の粘土を採取するための保安林の指定解除でも、一部住民の反対に乗って、行政指導と称して、強引に押さえ込む。あるいは、違法処分をする。役所はしばしば組織的に違法行為をやっているのである。これを組織の病理という。

これはいわば行政えん罪である。これと戦うのは決して楽ではないが、最近は法的武器も結構整備されてきた。情報公開法、行政手続法、行政事件訴訟法が制定、改正され、行政不服審査法も改正予定である。他方、規制緩和で役所の力は落ちている。

役所のやることは正しいと思い込んでいる裁判官も少なくない。裁判官は弁護士と違って、選べないので苦労するが、それでも、事実と実定法の解釈をしっかりと示せば、理解されることが増えている。

したがって、筋の通ったことであれば、役所相手でも毅然として戦う方が正しい経営判断になることが少なくない。

もちろん、裁判前に、役所から無理な処分や勧告を受けないように、きちんと交渉し、さらに、行政調査、聴聞、不服審査などに臨むことが肝心である。弁護士は選べるのであるから、早い段階から、行政実体法をきちんと理論的に吟味して、役所に負けない理論構成のできる弁護士と相談するのが大切である。自前でやったり、専門性の低い「士「に頼んでいては、おろそかになり、裁判になっても種々不利になる。

私は、無数で密林のような行政実体法について共通の体系を作り、裁判で通用するような解釈論を構築するように努力し、これを行政えん罪対策に活用している。それは法治国家を充実させ、国民の権利を守るという私の学問の実践でもある。

弁護士増員で余ってしまった弁護士も、必修となった行政法の学力を生かして、ここに未開の巨大な司法市場があると認識して、進出してほしい。
Business
Law Journal  2009年4月号巻頭言、改訂20111220日)



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