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コロナ対策の法的工夫(別に公表する論文の要旨)

一  国家補償ではなく、支援を

1  国家補償の対象外

コロナ感染は地震・台風と同じ天災であるから、その防止は国民みんなの義務であり、国民の営業の自由・財産権の内在的制約の範囲内である。したがって、休業を要請されてやむなく従った場合でも、それが各人の義務の範囲内であるかぎり、本来は賠償・補償は認められない。

2 国家の支援

代わりに、原因が自然災害であれ、国民が苦境に陥った時に救済するのは国家の任務である。それは売上げや利益、給料を補填する、全損害を補填するというものではなく、倒産・破綻しないように支援することである。

(1)支援の範囲・仕方

支援は国家として、再起が必要な業種に重点をおくべきであるから、性風俗業者まで支援する必要もない。航空産業、旅行業者、ホテル・旅館、飲食店、農民・漁民などは早急に支援すべきである。

(2)失業対策

企業者が従業員を余ったとして解雇することには慎重であるべきで、「雇用調整助成金」を活用すべきである。

失業保険のないパート・派遣労働者を特に重点的に支援すべきである。

(3)家賃負担の軽減のあり方

家賃負担が重いので、自公政権は、半年3分の2、上限50万などで合意したと報道されている。

しかし、テナントは、家賃を払えなくても即刻追い出されるわけではない。この不況では、家主としても、家賃不払い者を追い出しても、代わりの入居は望めないから、景気が回復するまで家賃の支払いを猶予することにすることも少なくないだろうし、家主が家賃不払いを理由に賃貸借契約を解除するとしても、原因がコロナ苦境によるなら、裁判では認められないことが多いだろう。そうすると、家賃補助は、実質は借家人保護ではなく、家主保護になる。この苦境では、家主だけが減収なしというのは不公平である。

(4)  全国民へ一人10万円支給政策の愚

コロナ苦境で仕事がないため困っている国民を支援する必要がある。しかし、困らない人も含めて、全国民に一人10万円支給策が講じられた。

金のなる木があるわけでも、原油が湧き出るわけでもないこの国では、福祉国家の原理に沿って、生活に困った者にかぎり支給するべきであって、金もある者やコロナ苦境でも減収にならない者にも、12兆円もの赤字予算を組んで、公金をばらまく公益性はない。いずれ国民が負担するものなのである。本来違憲であろう。地方公共団体がこんな施策を講ずれば、公益性がない(地方自治法232条の2)ので、住民訴訟(地方自治法242条の2)で違法として知事、市町村長は賠償義務を負わされる。国にそういう訴訟制度(日弁連が提案する国民訴訟)がないことをいいことに、政府は無茶苦茶やっている。

生活に困ったという者の審査に時間がかかるといっても、失業したが、失業保険金は出ない、収入が激減したホームレスなどを基準に、ある程度の支援金(固定経費に多少の生活費)を支給することとすればよい。誤魔化し受給が増えるので、審査は簡単な代わりに、誤魔化しが露呈すれば倍額返還と決めればよかった。

会社員・公務員・年金生活者・生活保護受給者には一円たりとも支給する理由はない。使ってもらって、経済活性化に寄与するはずともいうが、貯金するのを止められない。

この10万円は非課税との方針らしいが、むしろ、減収にならないのに、受け取った者には100%課税すべきである。生活保護では、10万円を収入認定しないとの方針らしいが、普段、ちょっとでもバイト収入があると、不正受給だとして、保護費を減額しているのに、生活保護家庭が、コロナで減収になったわけでもないのに得するのは、無茶苦茶である。

これを差押禁止にすべきだとの意見もあるが、生活保護を超える金員だから、差押え禁止にする理由がない。又、民事執行法により66万円まで差押禁止となっているから、この10万円を特別に差押禁止にする理由もない。

むしろ、日本が巨額の借金のためにいわば倒産し、ハイパーインフレになって、国民が財産をすべて喪失する方がはるかに怖い。コロナでも減収にならない者にも支給するために12兆円もの支出を全政党賛成で決めたのであるから、国会議員は全員入れ替えるべきである。

(5)学生支援の仕方

学生のバイト口がなくなって、授業料を減免せよという声もある。授業をオンラインであれやっていれば授業料を徴収する理由はある。そこで、一律減免ではなく、生活困難な学生に与える授業料減免の枠を拡大し、生活支援策を講ずるのが妥当である。

(6) 持続化給付金の工夫

新型コロナの感染拡大の影響で売上げが前年から半減した中小企業などを対象に5月8日から「持続化給付金」の支給が始まった。

これは休業要請とは関係がないようであるが、休業要請を実効性あらしめるためには、単に減収ではなく、休業要請に応じてある程度の期間閉店したことを要件とするか、それを割増し事由とすべきであった。この給付金を含めて黒字になれば課税されるのは当然である。

 

二   規制のあり方

1  不確実性の中の予防原則による対処

いわゆる3密回避はイロハであるが、感染力には不明なところがありすぎるので、安全側に立った予防原則によるべきである。1密を基準とすべきである。

他方、経済活動の停滞も長期間継続すると国家が破綻して、破綻した企業や人々を救うことも不可能になり、国民の資産は消失し、病人続出以上の超大災害ともなる。そこで、いわゆる出口戦略で、医療機関が破綻しない程度に収めることができる範囲に新規感染者の増加を防止できれば、それに応じて、感染伝播の少ない活動から解禁していくしかないと思われる。

このような視点を考えると、行き過ぎに注意しながら、国家は感染防止のために必要な範囲では積極的に対応すべきであり、その範囲内であれば、休業させるなど種々の規制を行うべきである。今は必要な措置が足りないのと逆に過剰な面があると思う。

2   新型インフルエンザ特別措置法は比例原則に配慮

今行われているコロナ対策のための休業要請・指示は、新型コロナ対策特別措置法45条2,3項により行われている。

緊急事態宣言が発せられたら、何でもできるのではなく、感染防止のために必要な範囲という憲法原理による制限(比例原則)がある。しかし、そのことが忘れられ、過大な規制が行われている。

 3  業種毎で規制できる場合

今、接触防止のために行われている休業要請・指示は業種ごとであるが、それは適切なのか。バーとかスナック、映画館とかの興行場なら3蜜業種であるから、業種で規制することは許される。休業命令を出す制度を作るべきである。

 4  営業の仕方(業態)毎の規制とすべき

(1)マスク着用、手洗い、消毒する、距離をおくことが前提

しかし、多くの業種では、人相互の接触をコロナウイルスが伝播する範囲で避けるようにすることは可能であり、そうすれば営業をすべて禁止する理由は乏しい。つまり、業種ではなく、業態で決めるべきである。今は過剰反応が見られる。以下は、みんなマスク着用、手洗い、消毒する、距離をおく(いわゆるソーシャル・デイスタンス)ことを前提に考える。法律に入れるならば、感染防止のために必要な措置を要請・指示できるという規定がほしい。

(2) パチンコ店

問題となっているパチンコ店も、入場待ちで並んでいる人については、みんなマスク着用、3メートル離れる、入場制限の下に、パチンコ台は3つに一つだけ開ける。換気をよくする。パチンコの機械などを徹底消毒するなどをしても、なおコロナに感染するのか。

都内のパチンコ店が加入する東京都遊技業協同組合(都遊協)が営業を続ける店舗に対し、休業しない場合は組合から除名するとの最後通告を出したとのことで、行き過ぎではないのか。

 (3) 飲食店

飲食店も入場制限をし、大勢ではなく、少人数で席を離して食べるならば、禁止するほどではないのではないか。

今、時間制限を求めているが、営業時間内では伝播するので無意味である。むしろ、時間が長ければお客が分散するのに、時間制限をすると、かえって密集するのではないか。郵便局まで時間を短縮しているのは間違いだ。

 (4) カラオケ店

カラオケ店では、大勢が密室で歌うので、3密の典型である(歌声喫茶も同じ)が、一人個室で歌うのは、問題はないのではないか。

 (5) 理髪店・美容室

理髪店や美容室は、密接であるが、それぞれマスクしていれば、それほどの感染可能性はないのではないか。ただ、散髪などは、緊急に必要なものではないので、1,2ヶ月は我慢してもらうというのも合理的な判断だろう。

3  外出自粛は「みだりに」という制限付きであることを没却

(1)法律の定め

新型インフルエンザ特別措置法45条は、「みだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことを要請することができる。」と定める。これが外出自粛要請の根拠であるが、人のほとんどいないところへの外出は「みだりに」には当たらないはずである。したがって、ジョギング、散歩、公園・海浜の散策、テニスを自粛させる理由がない。

今、やたらと外出自粛がいわれるが、政府も知事も、この条文に「みだりに」という言葉が入っていることを踏まえて、留保なしに外出自粛などと「みだりに」いうべきではない。

神戸市が森林植物園、須磨離宮公園まで閉鎖するのはどう考えても過剰反応である。

 湘南、和歌山、沖縄に来ないでというのは行き過ぎである。広い自然で遊ぶのだから、感染させる可能性は極度に低い。

 県外移動も自粛してといわれるが、県外移動ならなぜコロナが伝染するのか。県内でも人の移動によりコロナが伝染するかどうかに変わりはない。3密な接触を避ければよいだけである。

 (4) 最高裁・裁判所の期日取消しの行き過ぎ

最高裁は、5月6日までの期日を全部取り消した。しかし、重要な国家機能を長期間停止する理由があるのか。最高裁の法廷は広いから、入場制限をすればすむ。下級審でもどんどん期日を取り消している。5月末日までの期日も不要不急の業務と同じにされている。しかし、裁判は民事でも緊急のものも少なくない。刑事事件では、刑の確定が遅れるとそれだけ未決勾留期間が長引く。迅速な裁判を受ける権利を侵害し、被告人の人権を侵害している。

最高裁が自らの業務を不要不急と認めたのでなければよいが。

公開法廷でも人数制限をして、離れて座るようにし、なるべく短時間で終われば大丈夫ではないか。また、可能な範囲で電話会議などにすればすむので、期日延期は最後の手段とすべきである。

(5)説明不足

このような対応をしても、感染者が増えるのか(再生産率が1以上になるのか)、医療崩壊が起きるのか。その危険性があれば、上記の対応ももっと厳しくすべきではあろうが、その説明はない。

(6)医療機関などの感染防止を

むしろ、感染が病院や介護施設で発生していることが大きな問題である。これらの施設では感染者に長時間接触したなどという報道がなされる。なぜこんなに不注意なのか。

注意しているはずなのに、感染を防止できていない原因を解明して、早期に対策を講ずることが不可欠である。

(7) 国家賠償

過剰規制なら国家賠償の対象になりうるが、過剰規制により休業した商売でも、因果関係は不明であるし、持続化給付金や家賃補助などをもらっているならば、賠償するまでもない。

 

三  法制度のあり方

1  法的根拠なき自粛・休校要請の異常性と法整備の必要

首相が大規模イベントの自粛や学校の全国一斉休校を要請したのは2月24日、それから全国の知事から、緊急事態宣言や自粛要請がなされた。それには法的根拠がなかったのに、全国一斉にほぼ休校してしまった。

学校の休校はコロナが蔓延する可能性のある地域に限るべきで(新型インフルエンザ法でも後記のように地域指定する)、全国一斉休校は過剰な規制である。また、大学では、オンライン授業をしているところが多い。小中高校でも、戦後あったように、午前午後の二部授業にして、生徒は席を一つずつ空けるとか、一日おきに登校するとか、工夫次第では、休校を回避できることもある。各学校が丁寧に検討して判断すべきことであり、全国一斉休校は過剰反応である。

こうした法的根拠なき、しかも、過剰な首相の要請で国中が右倣えするとは、法治国家で異常である。緊急であり従う義務のない要請とはいえ、このようなことをやっていれば、いつの間にか法治国家は崩壊する。

今回は、新型インフルエンザ等対策特別措置法のなかに新型コロナが入っていなかったので、法3月に改正がなされた。しかし、特措法の中に、新型の感染症については政令で指定するという条文を作っておけば、迅速に行えたのである。

そして、緊急事態宣言は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)32条に基づくことになった。

 2  憲法改正による緊急事態条項は不要

緊急事態では大幅な私権制限が必要だ、外出制限などを罰則付きの法律で規定するべきで、さらには、都市閉鎖(ロックダウン)なども必要だ。諸外国の憲法には緊急事態条項があるという議論がなされている。しかし、現行憲法の下でも、本当に必要な範囲では人権制限はできることであり、憲法改正は不要である。むしろ、法律をきめ細かく整備することを優先すべきである。憲法に緊急事態条項を入れれば、外出制限、交通遮断、店舗閉鎖、都市遮断(ロックダウン)などについて、先に述べたような配慮をせずに、無茶苦茶に(過大に)行われる可能性が高くなる。国によっては外出許可制をおき、無許可外出を処罰するとして、警察官が取り締まっている。「おいこら警察の時代に逆戻りする」。

 3 行政指導・公表、行政処分、刑事罰、給付金の活用の仕方

 (1)首相の要請は法律がないので、行政指導である。しかし、行政指導では従わなかった者が得するのでかえって不公平であり、きちんとしたルールを法定することによって、みんなに遵守させるということを考えなければならない。

 (2) 特措法で知事が行う要請に応じなくても制裁がなく、指示に続いて公表がなされる。公表には情報提供と制裁の側面があるが、この公表は村八分にして従わせようという制裁のつもりである。しかし、公表されても、営業していることが天下にますます知られ、顧客が来るだけであるから、制裁にはならない。要請に応じない方が得である。制裁的公表の制度が場違いにおかれているのである。

 (3)コロナ対策の基本は、3密どころか1密を防ぐような営業形態・行動形態である。そこで、それを著しく逸脱するならば、その違反には、営業停止命令、さらに処罰制度をおくかという問題がある。

罰則を適用するには法的に明確で、かつ処罰するに値するものでなければならないし、裁判所も検察・警察も崩壊しない範囲でなければならない。そうすると、処罰規定をおくのは相当に悪質で危険性が高いものに絞らざるを得ない。 

 (4)むしろ、コロナの影響で売上げが減少した事業者に給付する「持続化給付金」の対象から要請に応じない事業者を除く方が簡単に従ってもらえる。事前手続や刑事罰といった面倒なこともない。普通の行政処分とか刑事罰という制度が機能しない代わりに、給付金という制度はきわめて有効である。 

 4  給付金の法的根拠を作れ

 特措法では、休業の要請・指示などだけが規定され、補償の規定はない(融資の規定があるだけである。60条)が、新型インフルエンザ法の中に支援制度を規定しておけば、ある程度安心してもらえる。

 

 四  政府の出口戦略

 政府は、56日に、緊急事態宣言を1か月程度延長するとともに、感染防止策をとったうえで、社会活動を徐々に再開する出口戦略をとるようである。

 最初から過剰規制にならないようにこの方針をとるべきだったのである。

 そして、ルールを明確に定め、それを守った業者に手当金を支給して、ルールを違法などと主張して、ルールを守らない、裁判を起こすということを防ぐのが合理的な手法である。

政府は都道府県単位で考えているが、同じ都道府県内でも市町村内でも、全く事情が違う。3密が発生しやすい地域に限って規制すべきである。

その後、感染者が減少してきているので、休業していた業種も再開を始めている。そうすると、巨額の支援金も必要なくなるかもしれない。あるいは感染第2次流行で資金がショートするかもしれない。その見通しをつけた長期的視点から支援計画を立てるべきである。






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