本文へジャンプ          阿部泰隆の経歴

一般用医薬品ネット販売禁止違憲訴訟、最高裁勝訴 2013年1月11日

一般用医薬品インターネット販売禁止違憲訴訟最高裁平成25年1月11日判決へのコメント

 1  判決

判決自体は最高裁のHPにでている。

これは、郵便等販売(ネット販売)を規制する厚労省令が、「立法過程における議論をも斟酌しても」、法律の「諸規定の規定を見て」、新薬事法の委任の範囲を逸脱していると判断したものである。筆者の持論を弁護団会議でブラッシュアップしてもらったことが認められたのである。法律に「対面」と入れないで、内閣法制局と国会の審議をうまく迂回して、裁判となれば、国会での中途半端な議論が立法者意思だという、ごまかしがばれたのである。

ここで前提となっているのは、インターネットを通じた郵便等販売に対する需要は現実に相当程度存在していたこと、これを広範に制限することに反対する意見は消費者のみならず専門家等の間でも少なからず見られ、また政府部内―つまりは規制改革会議(これは福井秀夫教授のご尽力が特筆されるべきである)のことであろうが―にも対面販売に限定する理由は乏しいとの見解が根強く示されていたこと、他方、憲法22条の営業の中の保障は、狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由をも含むものであり、旧薬事法の下で違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は、郵便等販売を事業の柱としてきたものの職業活動の自由を相当程度制約するものであるということである。原告らの主張をうまく取り入れている。

   

2   原告の功労に報いよ

本件は原告二社のネット販売することができる地位確認判決であるので、その効力は原告にしか及ばないはずであるが、その理由中の判断である省令の違法無効は一般的なものであるので、原告以外の会社がネット販売に踏み切った時に薬事法違反として取り締まる事は不可能である。したがって原告以外に無数の会社が続々ネット販売に参入するであろう。

これでは原告は自らの地位を守るための戦いの成果をフリーライダーに横取りされる結果になる。

現実にも、原告は訴え提起時に他の会社を誘ったが、どこも負担と厚労省ににらまれるのをいやがり、訴えに参加しなかった。結果が出ればそれを横取りする不正義である。

法令の違法違憲を勝ち取った場合にはこのようなことがよく起きているが、それは社会公共のために寄与したものであるから、公益訴訟勝訴報奨金という制度を作って原告には相応の報奨金を与えるべきである(阿部『行政法解釈学Ⅱ』277頁)。あるいは、原告の勝訴をいわば特許権とみなし、少なくとも1年間は、原告にだけ郵便等販売を認めるとして、その功労に報いる制度を作るべきである。

 

   3 ネット販売と安全性

ネット販売の解禁については安全性の検証が大事だといった報道がたくさん流れている。安全性と利便性の調和といった言い方もなされている。薬害被害者の会はこれ以上薬害を出さないようにと、ネット販売禁止を主張している。しかしこれほどお門違いな主張はない。

この主張の前提には薬局販売の方が安全だ、ネット販売では安全性が保証されないという思い込みがある。

ネット販売を目の敵にしている厚労省なら、ネット販売に伴う副作用事例を血眼になって探すはずである。しかし、厚労省は、訴訟中そのような調査をする意思はないなどと強く主張していた。そのような調査をすれば、副作用事例が見つからず、規制する根拠がないことが天下に暴露されるので、調査しないと頑張ったものであろうが、それは立法事実なき規制であり、職業活動を規制する立法における憲法論としておよそ認められるものではない。

その後、厚労省の調査結果が明らかになったが、これによれば、薬局販売による副作用事例は相当数あったが、ネット販売よる副作用事例は見つかっていない。この3年余りでも離島居住者と継続使用者はネット販売の恩典を受けていたが、それに副作用があったらまさに人体実験そのものである。しかしそのような副作用見つからなかったのである。したがって、本来規制されるべきは、ネット販売ではなく薬局販売なのである。なお、ネット販売も、薬局を持っていなければできないので、インチキなネット販売がはびこればそれを取り締まれば済むことである。

そこまで言うと言い過ぎかもしれないが、いずれにしても薬局販売を許しつつ、ネット販売を禁止するほどの立法事実は何らない。

実際にも薬局で販売したからといって、対面で販売して、購入者だけではなく、家族など、現実に薬を使用する人が後の使用段階でそれをよく理解している事は非常に少なく、コンビニではもちろんまともな説明をしないで売っているし、特例販売においてはなんらの規制もなく売っている。しかも特定の地域だけで売れるはずが、全国紙に広告を出して、全国的に売っている。富山の薬売り(都会にもある.拙宅にも来た)などでもまともな説明はしていない。

ネット販売の方が薬局と異なり大きな倉庫から全国に発送できるので、品数が極めて豊富であって、顧客の利便性はきわめて大きい。都会なら、薬局はあるにしても、行く暇もない人も中にはいるし、薬局行っても必要な薬が手に入らないこともある。さらに東日本大震災で薬局が壊滅した地域では医薬品を入手するのに大変苦労して病状悪化させた人もたくさんいるはずである。この人たちにとっては、ネット販売が本来は命を救ったのである。厚労省は人の命を守る役所のはずが、自らの利権を守るために人の命を犠牲している役所なのである。

またネットでは記録が残るので、問題があった時の追跡調査が容易である。乱用の可能性といえば、ネットに限らず、薬局販売でも医師の処方箋薬でも存在することである。それでもネットは乱用防止の対応している。まれに乱用があるからといって、それは自己責任であり、通常注意して使う者にとっては問題はないのであるから禁止する理由がない。そのような心配をして禁止するとすれば、果物ナイフでも、たまには人殺しに使われるので禁止すべきだということになる。酒も酔っぱらい運転があるから、酒の製造販売を禁止すべきだということになる。その暴論たるや明らかである。

しかし、この一審判決は、たまにあるかもしれない副作用を心配してネット販売を禁止したのである。これは単なる不安を根拠とするものである。仮にその立場に立つとしても、同じリスクでも回避できないなら不安でもある程度は規制できよう。たとえば低周波電磁波の公害、低レベル放射能の規制は、避けられない住民のために多少過大に規制できよう。しかし、ネットによる医薬品販売のリスクは、心配なら薬局で買えば良いのである。避けうるリスクである。しかも、薬事法36条の6第1項では、説明不要といえば説明なしで買えるのである。これはリスクを自ら受忍することを認めているものである。それなら、ネット販売を、買いたいという人の利便を犠牲にしてまで禁止する理由はない。

 

  裁判の審理の過程

最高裁は、本当に迅速であった。高裁判決は4月26日であったが、国の上告受理申立は7月、原告の答弁書提出が10月19日であった。それから2ヶ月で判断し、判決文を書いていたのである。

もっとも、先に、公法上の当事者訴訟における仮処分を申請し、高裁で却下されて、最高裁に特別抗告・許可抗告をしていたので、最高裁はこれに迅速に判断すべきであったが、なぜか判断できずに時間を経過したのであろう.本来は、直ちに仮処分を認めて、その次に本案判断をすべきではあった。

それはともかく、最高裁は本案においては迅速であり、感謝する。しかも、上告を門前払いにすれば済むところ、受理して、きちんと理由をつけて棄却しているのであるから、厚労省も納得せざるを得ないであろう。さらに、少数意見や補足意見が付くかと心配したが、それもなく、全員一致であった。高裁も、一審判決を逆転させたので感謝するが、その判断のために結審後1年もかかって、原告の経営を苦境に陥れたのは誠に残念である。もちろん、一審はなおさらである。

 

5  行政の無責任、損失補償の必要性

原告は、経営上大変な苦境に陥っている。つぶれるかもしれない。しかし、行政側は負けても、ああ、そうですかと対応すれば済む。役所はつぶれることがない。それどころか、違法行為にかかわった誰もが責任を負わない。これは不公平である。本来はこのように組織的に違法行為をした組織はいったん廃止すべきである。そうすれば、役所にも緊張感が走り、違法行為を防止するインセンティブが働く。

また、これは、本来無罪なのに起訴されて、最終的に無罪となった冤罪と同じである。原告の会社は、三年半販売禁止されたのであるから、会社として刑務所に収監され、今やっと釈放されたと同じである。筆者はこれを行政冤罪と称している。

刑事事件の冤罪なら、国家賠償訴訟を起こさなくても、刑事補償がなされる。行政冤罪についても、本来は損失補償すべきである。

さらに、本件では、厚労省は、内閣法制局迂回作戦からわかるように、違法とはわかっていたが、利権のために屁理屈をこねたのである。したがって、故意、少なくとも過失がある。国家賠償は当然成り立つ。

そのうえ、こうして、権力を行使して、違法行為を行って、善良な民間企業をつぶそうとした厚労省は職権乱用罪、業務妨害罪を犯したというべきである。

 

6  原告会社の対応

 原告会社は弁護士に任せたら、たいしたことをしないのではなく、土田綾子さんを法務室長に任命して、資料をきちんと発掘して、我々と議論した。関葉子弁護士も多忙の中よく頑張った。本件は営業の自由侵害の憲法論と、委任立法論なので、小生も専門ではあるが、小生の主張も、後藤社長を初め、関弁護士、土田法務室長外がブラッシュアップしてくれたものである。ケンコーコムは、年間売上げ減5億円でよく頑張ったものと思う。

 

7  その他

最高裁に正門から入るのは、長官などごく少数らしい。今回は、カメラが入るので、正門から胸を張ってカメラの放射線を浴びた。カメラなら、脇の門からでは最高裁も格好が付かないからであろう。小生は、そうした最高裁の外部への括弧付き姿勢の反射的利益により、これからもう一度入れるかどうか分からない、最高裁の正面玄関を通ったのである。

判決文にはわれわれ苦心の作である答弁書が綴っていない。上告受理申立て理由書だけが綴ってあるのは、不公平だと思う。





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