トヨタ生産方式

2.1. 生産管理講座 

   生産管理にかかわる重要項目について詳しく解説

   「トヨタ生産方式」「TMQ」「SQC」「シックスシグマ手法」 等々

 

2.2. トヨタ生産方式  

2.1. 儲けるIE

トヨタ生産方式は、1978年に当時トヨタ自動車の故大野耐一副社長(1912〜1990)が『トヨタ生産方式』という

本によって一部が公開された生産方式である。しかし、日本企業の業績の低下が激しくなっている最近の状況を打破

するために、トヨタ生産方式の全貌が明らかにされつつある。

トヨタ生産方式は、“儲けるIE”と呼ばれている。IEは単なる技法という面が強いが、トヨタ生産方式は

“儲ける”という意思の入ったものの見方・考え方である。トヨタ生産方式は単なるカンバン方式等の手法でなく、

社員の行動特性そのものである。  

同様のものとして本田技研には、本田宗一郎氏、藤沢武夫氏の言葉がある。『ものの見方・考え方』は直接教え込む

ことができない。技法としてのトヨタ生産方式の実践を通して、『ものの見方・考え方』を習得するしかない。

「時を知らせる」のがIEであり、「時計を作る」のがトヨタ生産方式と言える。トヨタ生産方式に共感して能動的に

仕事をおこなうことが重要であり、トヨタ自動車が終身雇用にこだわる理由もここにある。

自動車メーカーの生産方式研究の第一人者である東京大学経済学部教授の藤本隆宏は、トヨタ生産方式の指導者から

次のような話を聞かされた。

 「トヨタ生産方式の強みは何か。

初級者は、在庫が少ないことだと考える。

中級者は、問題を顕在化させ、生産性向上、品質向上を強制するメカニズムが含まれていることだという。 

上級者は、問題を顕在化して解決する作業を繰り返すうちに、問題がない状況が不安になって、みんなで一所

懸命問題を探し始めることだ」

藤本は言う。「何万もの社員が、いわば問題解決中毒になっているような状態。それがトヨタの凄みだ」

 

2.2. ムダの排除=5S

トヨタ生産方式の基本思想は「徹底したムダの排除(the absolute elimination of waste)」で、ムダの徹底的な

抽出が行われる。ただのムダの排除でなく、注文に応じて生産し、切れ目のない流れによる多品種少量生産の中で、

徹底したムダの排除をおこなうのである。トヨタ生産方式は漸進的なイノベーションと呼ばれている。

トヨタ生産方式では、ムダとは「付加価値を高めない、いろいろな現象や結果」をいい、7つのムダを定義して

いる。

  1. つくりすぎのムダ(Waste of overproduction)

  2. 手持ちのムダ(Wasteoftime on hand (waiting))

  3. 運搬のムダ(Waste in transportation)

  4. 加工そのもののムダ(Waste of processing itself)

  5. 在庫のムダ(Waste of stock on hand (inventory))

  6. 動作のムダ(Waste of movement)

  7. 不良つくるムダ(Waste of making defective products)

トヨタ生産方式のムダの範囲は、IEで考える範囲よりかなり大きく、本当に価値を生む作業(Vw)は2〜5%

程度と考えている。 それでなくてもトヨタ生産方式では「運搬」や「探すこと」はムダな作業と考えるが、

IEでは必要な作業と考えてしまう。そのため、カンバンや差立板によって、作業者が考えなくてもカンバンを

見れば、次に何を生産すべきかわかる仕組みになっている。トヨタ生産方式では「探したり」「迷ったり」しない

ように、情報がカンバンに付いて動く仕組みになっている。

※ 徹底したムダの排除をおこなうために、「見える管理」が重視されている。

※ ムダは見えなければ(認識されなければ)、削減することができない。そのために5Sが重視される。

 トヨタ生産方式は直接品質向上やコスト低減という成果(結果)を目的とせず、ムダの排除というプロセス重視の

考えを持っている。成果(結果)は運に左右される面が大きい。成果(結果)を重視すれば、成果が出ない時は運が悪い

ということで、最大の努力が引き出せない。その半面、ムダの排除という努力を基準に考えれば、成果が大きい時や

小さい時の変動はあっても、長期的にみれば最大の成果を引き出せる。

日本の商家には伝統的に地道にやるという良き伝統があった。この地道とは最大限の努力(プロセスの向上)をおこな

うということで、成果は景気の良し悪しや運によって左右されるので、一喜一憂しないというものである。この日本の

良き伝統を今に伝えているのが、トヨタ生産方式である。

仕事は人によって行われる。品質管理をおこなうのは人である。不良品を出すことはムダである。検査を強化すること

によっても、品質は確保できるが、コストがかかる。

トヨタ生産方式では人を育てることによって、源流で、不良品を出さない生産をおこなう。源流管理だから、品質

とコスト低減を両立できる

生産プロセスに品質の向上、つまり“品質はラインで作り込む”、言い換えれば、徹底したムダの排除を行っている。

 それも管理・監督職には革新を、一般社員には改善をと役割が分かれている。トヨタ生産方式はライン部門、

つまり生産する本人に改善の権限と義務を与える生産方式である。更に、1人でおこなうよりも、チームを組んだ

方が成果があがりやすいことをよく理解している。  

2.3. ジャスト・イン・タイムとムダの排除

 トヨタ生産方式の手法は、ジャスト・イン・タイム(just-in-time)と自働化(automation with a human

 touch)という2つの手法を基本にして発展した。しかし、トヨタ生産方式の本質は手法ではなく、基本の思想に

基づいたモノの見方や考え方である。
 トヨタ自動車ではジャスト・イン・タイム方式を、カンバン方式で具体化している。しかし、ジャスト・イン・

タイム=カンバン方式 ではない。他の業界では、ジャスト・イン・タイムをカンバン方式以外で実現しても、

それはトヨタ生産方式である。

 「ジャスト・イン・タイム」は豊田喜一郎氏が最初の発案者だと言われている。つまり、「ジャスト・イン・

タイム」のバックボーンとして、トヨタ自動車が第二次世界大戦後に在庫を抱え過ぎて倒産しかかった経験がある

と考えられる。この時、豊田喜一郎氏は社長を辞任し、その後しばらくして他界した。この経験によって、最後の後

工程を消費者と考え、売れた分だけ生産するというシステムを作り上げた。

 トヨタ生産方式は、どこまでも「消費者を第一」に考える、マーケット・インの思想によって貫かれたシステムで

あるという発想である。消費者を志向しながら、同時に利益を生み出すモノづくりを目指すのが、トヨタ生産方式

である。

ムダな在庫を持たない、ムダな経費をかけない、ムダな設備を持たないのである。キャッシュフロー経営やサプライ・

チェーン・マネジメント(SCM)に似た考え方を既に持っていたことになる。

 切れ目なくモノが流れるのを妨害している要因すべてムダである。このムダを取って、可能な限り速い

ペースで滞りなく流すところにトヨタ生産方式の特徴がある。 不確実性コストの増加の回避は、売れるか売れ

ないかわからないクルマは生産せず、売れるクルマのみ生産することである。将来、売れ残ったクルマを叩き売りする

コストを発生させないことである。それはクルマに限らず部品にもあてはまり、「必要なものを、必要なときに、

必要なだけ」という思想によく現されている。『生産量と必要数がイコールにならなければ絶対にいけない』のであ

る。『必要数』とは『売れ行き』のことである。すべて市場の動向からきまってくる。したがって生産現場にとって

『必要数』とは与えられることであり、勝手に数量を増減することができないことは明らかである。

 大量生産とスピードアップによる生産性向上よりも、1個流しや段取り時間の短縮によって切れ目なくモノが流れる

システムによる生産性の向上を図ったのである。

 

2.4. 後工程引取り方式
 例えば、自動車の組立ラインでは、各工程の組付け作業に必要な部品が、必要な時に、必要な量だけ、その工程に

到着しなければならないということであり部品の到着が早すぎても、遅すぎてもいけないのである。これをトヨタ

生産方式では、後工程が前工程から必要なものを引き取るという後工程引取り方式で実現した。

 後工程引取り方式はよく考えられた方式である。スペース節約のために引取り部品の置場は限られている。微妙の

タイミングで引き取るには後工程引取り方式の方が、前工程押し込み方式よりも優れている。更に、待ち時間が発生す

るのは自部門の戻った時であり、別の作業をおこなうことができる。しかし、前工程押し込み方式では、待ち時間は

そのままムダな時間になってしまう。

 後工程引取り方式の利点を持ってジャスト・イン・タイムを実現するための管理の道具が、『かんばん』である。

かんばんの一番の役割は生産・運搬の指示である。かんばんにとって重要な点は、情報の流れとモノの流れを

一致させることである。それも部品補充の情報が、コストをかけずにモノに付随して流れることである。コン

ピュータにかかる費用が劇的に低下した今、電子かんばんシステムに移行しても、かんばん本来の機能に変更はない。

 ここで組立ラインでは1台ずつ流れ生産をおこなっており、鋳造やプレスではロット生産をおこなっているから、同

期化を図るためには、段取り時間の短縮によりロットサイズを極力縮小することが必要である。一般に、段取り作業は

シングル段取りといって10分を切ることを目標としている。段取り時間の短縮は直接コスト削減を目標としているわ

けでなく、売れるペースで生産をおこなうためにネックとなる段取りコストの増大を減少させるためにある。

 トヨタでは、月次の生産計画を立案しており、月次生産予定として各工場や協力メーカーに伝達されるが、日々の各

工程への実際の生産指示は、最終組立ライン1箇所に伝えられ、他は順次工程が前工程から必要なものを必要な時に必

要な量だけ、かんばんを使って引き取ることによっておこなう。生産が当初の計画どおり進行することは実際にはな

い。日々の生産計画の微調整はかんばんでおこなっている。

 かんばんを円滑に運営するためには、生産の平準化(Production leveling)が前提条件となる。生産の平準

化とは、最終組立ラインが部品を前工程から引き取る際に、各部品の量と種類を平均化して消費するように、いろいろ

な車種を混流生産することである。ジャスト・イン・タイムが全社的に達成されれば、工場における余分な在庫は完

全に排除されることになる。在庫削減の本当の意味は、製造現場の問題点を顕在化させ、問題解決の改善活動

を通じて製造上のムダを排除し、製造コストを下げるには、人件費の削減が大切であり、少人化が重要であ

る。

 

2.5. 少人化
 少人化とは、同じ生産をおこなうために必要な作業者の人数を減らすことをいう。計算上0.1人とか0.5人減った

というのは少力化であって省人化ではない。少人化を達成するために、設備面では機械の工程別配置とU字型の

機械レイアウトを採用している。これによって需要量の増減に応じて投入する作業者数を増減し、サイクルタイム

調整する。また、作業面では、このような工程系列のなかで作業可能な多能工の育成を進めている。多能工が複数の機

械を取り扱う手順などを示したものが標準作業である。標準作業は、標準作業組合せ票と標準作業票にまとめられ

る。標準作業には、サイクルタイム、作業順序、仕掛品の標準手持ちが表示されている。ここでサイクルタイムとは、

各生産ラインが1つの部品(または製品)を何分何秒で作らなければならないかを示すものである。すなわち『サイ

クルタイム=1日の稼動時間/1日の需要量(生産必要数)』である。たとえば、需要量が増えた場合は、サイ

クルタイムを短縮しなければならない。標準作業は、現状の作業を見直すための手段でもあり、標準作業の改訂が常に

行われている。

 

2.6. カンバン方式
 カンバンは、トヨタ生産方式のジャスト・イン・タイム生産を実現する管理の道具である。これはスーパーマー

ケットからヒントを得て考え出されたものであると言われている。スーパーマーケットは、客にとって、必要とする

商品を、必要な時に、必要な量だけ買うことができる店である。生産現場においては、この考え方を利用して、前工程

(スーパーマーケット)へ後工程(客)は、必要な部品(商品)を必要な時に必要な量だけ引取り(買い)行く。

そして、前工程は引き取られた量だけ生産補充する。このように、カンバン方式は作り過ぎを防止しながら全体として

ジャスト・イン・タイムを実現する道具であるが、カンバン方式を実施するための前提条件には、次のようなものが

ある。

  1. 生産がある程度の量、長期的に保証されること。

  2. 生産を平準化すること。

  3. 工程の安定化、合理化すること。

  4. カンバンは微調整の手段に使用すること。

 カンバンを実際に運営していくためには、さらに細かい点の約束事を守ることが必要である。

  1. 添付されているカンバンは、最初の1個を使用したときに外され、所定のカンバン置場に入れる。

  2. 外れたカンバンは毎日きまった時刻に回収する。

  3. 在庫品は全て前工程のすぐあとに完成品としてストックするのを原則とする。

  4. 在庫品置場は部品1点ごとに置場を決め、部品供給をやりやすくする。

  5. 部品の取り出しは必ず先入先出(first in first out;FIFO)で行なう。

  6. 特急品はできあがりしだい届ける。

 カンバンは、その用途から生産指示のための「仕掛けカンバン(生産指示カンバン)」と、後工程から前工程への

部品の運搬指示に使われる「引取りかんばん」に大別される。仕掛けカンバンには、組み立てラインなどで使う通常の

「工程内カンバン」とプレスなどで使う「信号カンバン」がある。また、引取りカンバンには、社内の「工程間引取り

カンバン」と外注部品の「外注部品納入カンバン」がある。

 現在、電子カンバンの研究が行われている。カンバン方式のヒントになったスーパーマーケットでは、CRP(連続

自動補充)やCPFR(Collaborative Planning, Forcasting and Replenishment)が行われている。CRPは、小

売業とメーカー・卸との間で、小売業のPOSシステムを活用してセンター在庫・発注管理する方法である。CPFR

は小売業とベンダーが協働して需要予測を行いそれに基づき在庫管理おこなう、一層精緻化した手法である。

 連続自動補充方式は、カンバン方式が参照されたかもしれない。電子カンバン方式ではカンバンの返却を電送で送る

だけでなく、POSの代わりにALCの使用予定によって、部品納入時間を変更するようになるかもしれない。また、

自動車メーカーと部品メーカーが協働して自動車そのものの販売予測をすることはないだろうが、オプションの装着率

の予測をやるようになるかもしれない。

 トヨタ生産方式の本質は「流れをつくる」が基本であり、「多数台持ち」よりも「多工程持ち」の実現に

努めている。なるべく流れるようにつくるということである。それによって仕掛り在庫も削減できる。そのためには

1人の作業者が旋盤からフライス盤、ボール盤など、多くの仕事に対する能力が要求される。言い換えれば、このこと

「多能工」としての仕事が要求されることである。実際にフロー・ショップでの作業はチームを組んで行ってい

る。陸上競技のリレーには必ずバトン・タッチの区間がある。上手にバトン・タッチすると、4人が別々に走った記録

を合わせたよりも大分よい記録を出すことができる。仕事でも同じことで、4人なら4人、5人なら5人でやる場合

に、部品をバトンだと思って手渡しなさい。後の工程の人がもたついて遅れた場合には、その人の持ち分と思われる機

械の取り外しをやってやりなさい。そして、その人が正常の配置に戻ってきたら、すぐバトンを渡して自分のところへ

戻りなさい。このチーム・ワークのことを「助け合い運動」と呼んでいる。多工程持ちのフロー・ショップは少人

化につながる。大きな生産量を、いかに少ない人数でやるか。これを工数で考えると間違う。人間の数で考える。と

いうのは0.9人分の工数を減らしても、「少人化」にはならないからである。まず、作業改善、それから設備改善を

考える。作業改善だけで半分、あるいは3分の1になるはずである。ついで自働化なり設備改善をやることにする。繰

り返すが、作業改善と設備改善とを混同しないように注意していただきたい。最初から設備改善をやると、コスト

は安くならず、高くなるばかりと考えてよい。

ムダを徹底的に排除するための基本的な考えとして、次の2つがある。

  1. 能率の向上は、原価低減に結びついて始めて意味がある。そのためには、必要なものだけをいかに少ない人間で作り出すかが重要である。

  2. 能率を、1人ひとりの作業者、それが集まったライン、工場全体、それぞれの段階で能率向上がなされ、その上で全体として成果があがる見方で能率アップが図られなければならない。

 トヨタ生産方式では、必要数だけしか造ってはいけないのである。生産性という数字を上げるだけのために、販売

見込みのない、必要ないモノを作ってはならないのである。「つくりすぎのムダ」は「つくりすぎを押さえる

働き」がないことから「目で見る管理」や「カンバン」方式に発展していった。

「カンバン」は常に必要とする品物とともに動くことによって、必要な作業であることの証明書になる。生産現場にお

ける一番のロスである「つくりすぎ」を「カンバン」によって事前に防止することができる。カンバン方式という

技法よりも、「必要数だけしか造ってはいけない」というジャスト・イン・タイムこそが重要である。将来、

カンバン方式を使用しなくなくなっても、ジャスト・イン・タイムの思想が生きている限り、トヨタ生産方式は健在で

ある。

 1人1人の作業者でみても、ライン全体でみても、本当に必要なものだけを仕事と考え、それ以外をムダと考える

ならば、次の関係式が成り立つ。

    現状の能力=仕事+ムダ(作業=働き+ムダ)

 ムダをゼロにして、必要な仕事の割合を100%に近づけていくことこそ、真の能率向上である。トヨタ生産方式

は、テイラーの科学的管理法、もしくはこれから発達したIEと比較されることが多い。

 テイラーは、言うまでもなく、能率を時間と動作の観点から捉えようとした元祖である。もし作業

を全体の流れに基づいて一度バラバラに分割し、のちにその各部分を部分ごとにほんとうに理想的な

形に修正し、ふたたびひとつの流れに統合することができさえすれば、その作業グループは、真に最

高の遂行能力をもつことになる。これが、テイラーの基本的主張である。(エクセレント・カンパニ

ー、p33)

 

2.7. 自働化(ニンベンの付いた「自働化」)

トヨタ生産方式のもう1つの柱は「自働化」である。「自動化」ではないニンベンの付いた「自働化」である。

「自働化」は知恵を使って生産するという、日本の“ものづくり”の強さそのものを表している。

最近は機械が高性能・高速化しているので、何かちょっとした異常が起きた場合、例えば、機械の中に異材が混入

したり、スクラップつまりをして、設備や型が破損すると、何十、何百という不良の山を瞬く間に築いてしまう。

このような自動機械では、不良品の量産を防止することもできず、また機械の故障を自動的にチェックする働きも

組み込まれていない。自動織機は、経糸が1本でも切れたり、横糸がなくなったりした場合、すぐに機械が止まる

仕組みになっている。すなわち、「機械に善し悪しの判断をさせる装置」がビルド・インしてあるのである。

「ニンベンのある自動機械(automation with a human touch)」の意味は「人間の知恵を付加した機械」という。

例えば、「定位置停止方式」とか、「フルワーク・システム」とか、「バカヨケ」その他、もろもろの安全装置が

知恵として付加されている。

この自動機にニンベンをつけることは、管理という意味も大きく変えるのである。すなわち人は正常に機械が動いてい

るときはいらずに、異常でストップした時に初めてそこへ行けば良いからである。だから1人で何台もの機械がもてる

ようになり、工数低減が進み、生産効率は飛躍的に向上する。例えば、機械加工の工程において、縦に旋盤、フライス

盤、ボール盤といったように、生産の流れにそって、各々5台ずつ並んでいたとする。ここで1人の作業者が旋盤5台

扱うことを「多数台持ち」といい、このような職場の編成をジョブ・ショップという。それとは別に、1台の旋

盤、1台のフライス盤、1台のボール盤といったふうに1人の作業者が、多数の工程を担当することを「多工程持

ち」といい、このような職場の編成をフロー・ショップという。このように多数台持ちや多工程持ちを実現するに

は、機械が加工完了で止まるようになっていなければならないとか、異常が発生した時にそれを発見して安全の側にと

まらなければならないという要求が出てくる。

この自働化という考え方は、機械のみならず、手作業ラインまで拡大されている。ある手作業ラインで異常が発生し

た場合、作業者はストップボタンを押してラインを停止させることができる。ラインが停止すると『アンドン』と呼ば

れる表示板が点灯する。この表示板を見て管理者や監督者は異常を確認し、原因の対策をおこなう。ここで重要なこ

とは、二度と同じ異常が発生しないように真の原因をつかみ、徹底的な対策が施されることである。また、こ

のアンドンに代表されるように、生産状況の正常・異常が目で見て瞬間にわかるようにする方法を『目で見る管理』

という。かんばんや標準作業なども目で見る管理の方法である。従来の自働化は品質保証の手段であったが、生産

予定数量になったら停止するという機能も備わった。

「自働化」は単に「自動停止装置付き機械」ではなく、源流管理の考え方である。糸が切れる時はムダが始まる時、

作業者のムダが始まる時ストップボタンを押す。源流管理こそがコスト削減のキーポイントである。それゆえに

「目で見る管理」が重視される。

 もうひとつの本質は、人の作業と機械の作業を分け、機械でできる作業を人にはやらせず、機械でできない人が行わければならない仕事を担当させる。作業者にとって意味のないムダな作業を除くことは1人ひとりの働きがいを高める

ことに通じる。人ならではという能力を充分発揮させる仕組みとして、自働化は人にやさしいと言っている。

2.8. 作業標準
トヨタ生産方式では、標準作業や生産工程などを厳密に決めている。知識を重視し、改善のための前提になる、と考え

ているからである。作業標準書は知識を伝え、知識を劣化させない手段である。

作業標準は生産変動によって、作業者を異動しても直ぐに作業できることを目的として作成されるマニュアルとしての

機能を持ち、品質を保つ。トヨタ生産方式では、熟練度の低い新入り作業者について、「3日間で一人前にする」こと

が目標となっている。そのために、誰もが「目で見てわかる」作業標準でなければならない。大野耐一氏が作業標

準書の必要性を最も感じたのは、第二次世界大戦中に生産現場の熟練工たちが召集令状によって抜けていった時であった。熟練工たちはしだいに素人の男性や女性に変わっていったからであった。

 作業標準のもうひとつの役割として、改善を行う時のベースになるものである。標準作業が決っているから、改

善すべき点も見えてくる。上から言われた内容を黙々とやるだけでなく、たえず現場の人間は標準作業をモノサシ

に、自分で考え、自分で解決していける。

 作業標準を作成する過程は、次のようになっている。

  1. 実際の作業を標準作業として標準書を作成する。

  2. この標準作業に基づいて実際の作業を行う。

  3. この標準作業でやりにくい点や不具合を洗い出し、標準作業を訂正する。

  4. 1〜3の過程を繰り返して、標準作業を作成する。

作業標準書は現場で作業する人や作業を指導する指導者が責任を持つ必要があり、現場の人たちをまきこんだ改善が必

要となる。この過程は長年の経験によって行っている作業を暗黙知から形式知に転換すると同時に、作業改善を行う人

たちを教育する場でもある。

更に、生産体制を受注生産・小ロット生産に変えていくうえで、もう1つ変革すべき課題がある。限られた製品しかつくれないのではなく、新製品でも何でもすぐに作れるだけの多能工場でなければ、これからの時代は生き残っていけ

ない。

そういう意味で知識創造プロセスということができる。また、1個人ではわからなかった不具合や改善を盛り込めると

いう意味では、共創のプロセスでもある。

                                以上

 

以上の文章は、「生産管理講座」管理者様のご協力により、このHPの管理者の判断でポイントと思われる部分をまと

めて見ました。

詳しくお知りになりたい方は、下記URLにアクセスして全文をご確認ください。

 出典: 生産管理講座 トヨタ生産方式 より 引用  

  http://www1.harenet.ne.jp/~noriaki/link71-1.html