● ワインレッドのセーター


【はじめに】

私の名前は、小野まさお、妻の名は理香。

街中をちょっと外れた田舎に、妻と二人だけで住んでいます。



仕事から帰ってくると、何の変哲もない日々の繰り返し・・・ いつもと変わらぬ毎日が淡々と流れていきます。



妻のことを、心より愛しているのに・・・

妻が、私ではない他の誰かとセックスをしている姿を見てみたいと思うようになったのは数年ほど前・・・



( 白い裸身を男の目に晒し、ほどなくなされる貫きを前に、うっとりと目を閉じる妻 ……


そのうち、甘い悦びが兆してくると、委細構わず 男の腰に手を回してしまう妻 …… )



こんな妄想に憑りつかれ、初めて 妻を他人に差し出したのは、ネットで申し込んだグループセックス・・・



見ず知らずの男の猛々しい強張りが私の目の前に誇示され、いよいよ、そのことが始まろうとする刹那、

妻は、縋りつくような眼差しで私を見つめてきたものです。



それから時が過ぎ、スワッピング、貸出しと、この道ならではのことを一通り経験してしまうと、

「 こんなこと、どうってこと ・・ 」と言わんばかりに、妻の目線が私から背けられることが多くなってきました。



そして、何だか近頃は、妻のこのような変容ぶりが自分にとって好ましいことのように思えてきたのです。


妻が変わるのと同じように、私の心持ちも変わっていくのでしょう。



今回もまた、 既に思考回路の一部に組み入れられてしまったような妄想のおもむくまま、

南さん夫婦と連れ立って“おしのび旅行”に出かけてしまいました。






第一章 【時の移ろい】

今年はそんなに降雪もありませんが、鉛色の空を見ながら家の中に逼塞していると、

靄々したものを 外に出てぱあっと発散したくなってきます。



そのうち、ふきのとうが芽を吹く新たな季節を迎えるでしょうが、

妻が他の男に抱かれながら喘ぐ様を見てみたいと願う私の欲望に変わりはありません。



私ではない他の誰かに抱かれ …… やがて、悦びが兆してくると官能の渦に呑み込まれ 我を忘れてしまう妻 ……



その姿を目にする欣幸のひと時が過ぎ去り、しばらく単調な毎日をおくっていると、

そのうち、以前にも増して疼くような欲望が兆してくるのです。



時が過ぎ、齢を重ねれば、この歪んだ性癖も治まるだろうと高をくくっていても、

一向にその兆しがないってことは、自分にその気がないこと以外の何物でもありません。



以前にも述べたように、このような常軌を逸したことを求めてしまう訳は、

多分、精力減退のことも影響しているのだろうと思いますが、自分が為し得ないことを他の男にしてもらって・・


妻が恍惚の悦びに溺れていく様を、しっかりこの目に焼きつけたいという欲望に起因しているのです。



そして、その欲望も、突き詰めてみれば ・・・

妻を辱め、虐げることによって、私自身にこれ以上は無いというほどの苦痛を与えてほしい ・・・

そして、その自虐的な性の甘苦しさに酔いしれたい ・・・ 


このような独りよがりな願望に端を発していることは疑いありません。



極端に言えば、妻を他の男に抱いてもらい、それまで温めてきたものが音を立てて崩れていく歓びを味わってみたい。

この一言に尽きるのです。



このような想いも手前味噌で言えば、妻への思いやりと言えないこともないのでしょうが、

一度ならず度々、度々私の求めに応えなければならない妻の側にすると、

そんな歪んだ夫婦愛もあり得ると理解してくれるでしょうか?



今もそうですが、これまで、ひたすら私に尽くしてきてくれた妻・・・


こんなことを始めるようになった原因は、もちろん私の独り善がりな欲望に端を発しているのですが、

妻の方も、変わりようがない平凡で単調な毎日の中で、一度くらいは刺激的な経験をしてみたいと思ったのかもしれません。



そして、夫が心の中で思い描いていたことが現実になってしまってからは、

ずっと罪の意識に苛まれ、陰ながら苦しんできたはずです。



とりわけ、彼女にとって不幸なことは、呵責の念に思い悩みながらも同じことを繰り返しているうちに、

性に対する自分の意識が変わることまでは予想できなかったことでしょう。



その変容ぶりを一言で表せば、恥じらいや慎ましさが薄らいでいって、

代わりに、匂うような色っぽさが濃くなってきたような・・・



その他に、割り切りや開き直り、強かさなど・・・ 

これはもう、感情や意識というより、ほとんど技能に近いものを身につけてきたような気がします。



でも、このように変わってしまったことは、私が願ったことに妻が従順に応えてくれた証であって、

それを責めることはできません。



どんなに彼女が変わったとしても、彼女の心を歪めてしまったのは私なのですから・・・



色々と思いあぐねることがありますが、しばらく退屈な毎日をおくっていると、

また、いつもの“渇き”を覚えてきます。



半年ほど前に、避妊具をつけずに射精される妻の姿を見て満足したはずなのに・・・

再び、妻が愛欲に溺れていく姿を見たいと思ってしまうのです。



段々と過激なことを求める一方で、この先どこに辿りつくのか不安になりますが、

それを自制する意思の強さが私にはないのでしょう。




今、迷っていること、それは ・・・ 南さん夫婦と連れ立って、不倫旅行に出かけようかということです。



「 どうですか? 今度、家内も加わって四人一緒にというのは? 

男二人に女一人というのも具合が悪いでしょうから ・・・ 」



私は、 南さんに、夫婦そろっての旅行を誘われているのです。


かなり以前から水を向けられていたこともありますが、私自身が、余り性技に自信を持てないこともあって、

これまでずっと 返事を濁し続けてきたのです。


しかし、こんなことは、いつまでも先延ばしにすることはできません。



南さんだって、私と同じ性癖の持ち主です。同好の者どうしが、一度 スワップの世界に足を踏み入れ、

お互いそんなに離れていない所に住んでいるとなると、その後どうなってしまうかわかりそうなものですが、

ひょっとして、もっと先のことまで期待しているのかもしれません。




いつものように夕食の後片付けが終わると、私は頃合いを見計らって妻に話しかけます。



「 去年の夏から、しばらく旅行に行ってないけど、最近、主婦の一人旅が人気あるの、知ってる ? 」



「 へ〜ぇ、そ〜う?  でも、わたしには向いてないみたい 」



「 どうして〜? 自分のしたいこと、好きなだけ楽しめるなんて最高じゃないか?

今年は雪が降りそうにもないし、ここら辺りでぶら〜っと一人旅ってのもいいだろう 」



「 それって、専業主婦の話でしょ?  わたし、仕事があるし ……

それに、あなた一人だけ放っぽり出して行く訳にもいかないでしょ? 」



「 女が一人 で温泉に浸かっていると、思わぬ出会いが待ってるかもしれないぞ。

家のことは心配しなくていいよ。 俺一人でも、十分やっていけるから・・・ 」



オウム返しに答えてしまった後で、その言葉がもつ意味に気づいてハッとします。


( これは、別れ際に言う言葉じゃないか? 

ひょっとして、妻が私の元を去って行くようなことにでもなったら、今と同じような言葉で見送るのか? )



しかし、いくらこのようなふしだらなことを続けているにせよ、

余り裕福だとも言えないまでも、並み以上に暮らしていける幸せや子ども達のことまで打ち捨てて、

妻が私の元を去って行くとは思えません。


一番心配なのは、職業的に自立していける力があるだけに、妻の我慢の糸が切れてしまうのではないかということです。



「 でもね、やっぱり、あなたを独りにしておくのは心配だわ。 

旅行していても、寝込んでいるんじゃないかとか、もしかして事故が起きたらとか 気になるし ……


それに、わたし達って結構、あっちこっち行っているでしょう? 」



「 そうだな。 それじゃ、もっとたくさん、連れ立って行くってのはどうだ? 」



「 あら、珍しいわね。 ここしばらく、そんなことなかったし ……  

何か、いい話でも舞い込んできたの? 」



「 実はな、南さんから誘われているんだ。 一度、夫婦そろって旅行してみないかって ・・・ 」



「 えっ… 」



「 見ず知らずの間柄じゃないだろ?

久しぶりに、気心が知れた男性に抱かれるのもいいリフレッシュになるだろ? 」



「 そんな他人の弱みにつけこむような言い方されると、『 あなた次第よ 』って言ってしまったこと 後悔するわ。

そう言えば、わたしが喜ぶとでも思っているの? 」



「 まぁ、そんなに目くじらをたてるなよ。 三度、四度は同じって言うから、別に構わないだろう? 」



「 ぅ〜ん、も〜う! 好き嫌いをとやかく言う間柄じゃないってこと、よく知ってるくせに …… 」



こんな風に答えるということは、私への手前、諸手を挙げて賛成という訳にはいかないが、

少なくとも、関心があることは確かだ。


それに、こんな僅かな時の間に半分乗り気になったところを見ると、密かに次の逢瀬を待ち望んでいるのかもしれない。



「 そんな間柄なのに、よく我慢できるな。 “それじゃ、明日の夜・・”って気にならないのか? 」



「 あなたの目を盗んで、わたしにこそこそしてほしいの? 

そんなことにでもなったら、もう 終わりでしょ? 」



「 そうだな。 それで旅行の話だけど、今度は南さんの奥さんも一緒に来るかも知れないんだ 」 



「 えぇ〜っ、 本当? それであなた、南さんの奥さんて、会ったことあるの? 」



「 今度、紹介するって言っていたから、近いうちに会うことになるだろう 」



「 でも、一緒に旅行に行くとなると、当然 …… なるようになってしまうんでしょ? だいじょうぶ? 」



「 些か、衰え気味で自信がないけどな 」



「 わたしが心配しているのは奥さんの方よ。 だって、南さんの奥さんにしても、あなたに会うの 初めてなんでしょ? 


旅行に行くのはいいけど、初対面の男性に抱かれるのって、凄く抵抗があるんじゃないかしら 」



「 おまえも最初のうちは、そうだったからな。 

まぁ、男女のことは人それぞれって言うからよくわからないが、賑やかでいいじゃないか? 」



「 でもね、わたし …… あなただったらいざしらず、わたしがセックスしてるの、 

知らない女性に見られるなんて …… 嫌だわ 」



( それは、そうだろう。 そもそも、夜の営みのことを房事というくらいだから、

昔からそのことは、閨室の奥深くでこっそりと為されてきたものであって、


異なるカップルどうし・・・ その様を他人に見られるなんてことは、

普通の人からすれば恥辱以外の何物でもないだろう )



「 なぁ、そろそろわかる頃だろ? これは男のエゴなんだけど・・・ 

おまえの恥ずかしい姿を見ると、今まで以上に愛おしくなってくるんだ 」



「 男の人は勝手な理屈をつけて都合のいいように言うけど、女の気持ちとなるとちょっと違うの。

同じ女性に見られるって、耐え難いことよ 」



「 相手が男でも女でも、見られるってことに変わりはないだろうが・・・ 」



「 あなたや南さんは、わたしのこと よく知ってるつもりかもしれないけど、体のことまではわからないわ。

でもね、同じ女性だとそれがわかるの 」



( それは、その通りだろう。 女性にしても、自分の体のことは心得ている。

交わりの最中の同性の姿を見て、自分の場合と比べながらその悦びの深さを推し量ることができるのだ )



「 それに、わたしもあなたが他の女の人とセックスしてるの 見たことがあるけど、

もう、あんな思いはうんざりよ 」



「 何だ、俺に対する嫉妬か? いつも、俺がいつもどんな気持ちでおまえの姿を見ているのか、

立場を変えてみるとよくわかると思うがな ・・・ 」



「 わたし、一度、経験してみてわかったの。 あなたのそんな姿を見ても、初めのうちは嫉妬なんて感じなかったわ。


でも、そのうち、初子さんの感じている声を聞いていたら、

『 んぅ〜ん、も〜う ……! この女性をこんなにしてしまって …… 』って、無性に腹が立ってきたわ 」



「 それも、お前が気づいてないだけで、嫉妬じゃないか?

また、同じ思いをさせることになるかもしれないが、南さんと一緒に遠出するのも悪くはないだろ? 」



「 わたし、今 すごく心配なことが一つあるの。 

何度もね、抱かれていると …… 何だか、いつも通りって感じになってきてるんじゃないかって … 」



「 いつも通りって? 持ち物の具合のことか? 」



「 そうじゃなくて、上手く言えないんだけど …… 

久しぶりに会ったはずなのに、何だかずっとその人と一緒だったような気がするの 」



「 ちょうど、俺が海外旅行から帰ってきた時のような感じか? 」



「 そ〜ぅ、何だか、そんな感じ …… 」



伏し目がちに呟く妻の姿に、妙な艶めかしさを覚えてしまう私 ・・・


でも、これくらいのことは、あれこれ思い悩みながらも私の申し出を受け入れてくれる妻に対する代償なのであって、

当初から、覚悟しなければならないことなのでしょう。



( そう思ってもいいんだ。 おまえが他の男に抱かれても、俺のところに戻って来てくれさえすれば ・・・


胸が押し潰されそうな思いをしながら、嫉妬の炎を燃やした分だけ、

これまで以上におまえを愛することができるのだから ・・・ )








第二章 【ワインレッドのセーター】

待ち合わせの場所は、町外れにある閑居な佇まいの料亭。 今日は、南さんの奥さんを紹介してもらう日です。



店員さんに案内されて奥まった座敷の襖を開けると、私を待ち受ける二人の姿がありました。



側に連れ添っている女性が、南さんの奥さんなのでしょう。


身長の方は、ほぼ 妻と同じくらい・・・ 

ワインレッドのセーターの襟元を飾るオフタートルがアクセントになっています。



「 こちらが、小野さん。 ここじゃないけど、よく別の店で一緒になるんだ 」


南さんが、私を紹介してくれます。



「 こんばんは … 妻の加奈子です。 いつも、主人がお世話になっています 」



大きい瞳と、にっこり微笑む口元がも魅力的です。



「まぁ、座られたらどうですか? 向かいの席が空いていますが、家内の隣にしますか? 」



「 また、そんな仕様もないことを ・・・ いやぁ、びっくりしましたよ。 

こう言っちゃ何ですけど、奥様がこんなに素敵な女性だったなんて 」



「 ほぉ〜 ? 席に着く間もなくお世辞ですか? まぁ、そんな風に言っていただくとこいつも嬉しいはずですが ・・・ 」 



「 奥さん ? いつもは男二人でつまらない話をしているのですが、

今日は奥様が一緒で、何だか テンションがあがりそうですよ 」



「 わたしもこんなお店に来るの、何ケ月ぶりかしら? 

『 一度、小野さんに会ってみないか?』って主人に強引に誘われて、今日はのこのこ ついてきたんです 」



「 そうですか? それじゃ、無理してもらったんだ。

せっかく、ご一緒させていただいたのですから、おいしいお酒の飲み方でも教えてあげましょうか? 」



「 まぁ、本当ですか? じゃ、早速 お願いしようかしら? 」



男女を問わず誰でも、時に、見かけを実体以上に良くしたいと思うことがあります。


こんな無理な印象操作は大概の場合、破たんを招くようですが、初対面の女性と待ち合わせをして、

その人が思った以上に綺麗な女性だったとなれば、少々、無理なことでもしたくなってきます。



「 人間の舌味というのは誰しも同じらしいですが、食体験によって変わってくるそうですよ。


ですから、お酒にしても甘いものが好きな人は“甘口”、

しょっぱいものが好きな人は“辛口”って傾向があるみたいですよ。


それに、アルコールの強い弱いは、半分は先天的なもの、もう半分は“慣れ”でしょうから 」



「 うふふ ・・ どうしても、家内にお酒を飲ませたいようですね。 でも、小野さんらしくていいですよ 」



「 そんな、笑ったりしちゃ失礼だわ。 ごめんなさい。 主人、いつもこんな調子で… 」



南さんにしてみれば、精一杯無理をしている私を見て、吹き出したいところなのでしょう。


夫の言葉を気にとめた奥さんが後を続けます。



「 ここ、お座敷ですから、お奨め通り 日本酒をいただきますわ 」



「 そうですか? なら、今の時季で言えば熱燗がいいでしょうから、甘口のそれにしましょうか? 」 



「 小野さんて 優しいんですね。 きっと、誰に対してもそうなんでしょうけど … 」



( 前々から、いつかはこんな日が来るかもしれないと思ってはいたが、そのうち旅行の話が切り出され、

事が上手く進めば 、この女性となるようになってしまうのだろう ・・・ )



「 でも、主人とそんなに気が合うとなると、たまには、わたしのことが話に出てくることもあるんでしょう? 」



「 そうですね。 話の合間に何度か、お聞きしたことはあります 」



「 主人、どんな風に言ってるんですか、わたしのこと? … 」



「 ご主人の言葉通りに言えば、『 家のことは任せっきりで、放ったらかしにしている割にはうるさく言われたことがないし、

何かと助かる 』って感謝していましたよ 」



「 まぁ、そんなはずはないと思いますが、それだけですか? 」



「 それに、旦那さんに芯から尽くすタイプだそうで、よくできた女房らしいですよ。 

でも、時々、それが息苦しくなることもあるって・・・ 」



「 小野さん、それくらいで止めておいてくださいよ。 

今日は、家内を紹介しようと思って連れてきただけなんですから。


ところで、今日は珍しいですね。 普段、女性に対して口数の少ない貴方がそんなに舌が回るなんて・・・

それで、どうだ ? 小野さんの印象は? 」



「 そんなこと、ご本人を前にして言えることじゃないでしょ? そのうち、ちゃんとお伝えするわ 」



この後もしばらく、目の前に並んでいる料理や互いの趣味のことなど、とりとめがない話が続きましたが、

私と加奈子さんが和気あふれる会話を交わしているのを、今日は南さんが所在なさそうに聞いています。



座椅子に背もたれながら、じっと二人の会話を聞いている様はこの前の私と同じで、

今日は、南さんが“ほってけぼり”にされる番なのかもしれません。



それまで、口数を控えていた南さんでしたが、二人の話が弾み過ぎるのに業を煮やしたのか、

突然、旅行の話を切り出しました。



「 実はな、加奈子 ・・・ 今度、『 四人で、旅行しないか? 』って、小野さんに誘いかけているんだ 」



「 え〜っ、そんなの、わたし 初耳よ。 四人ってことは小野さんの奥様もご一緒ってこと ? 」



「 もちろん、そうさ 」



「 だけど …… もし、わたしが嫌だって言ったら、どうするつもりなの? 」



「 どうもこうもないさ。 三人で行くことになるだろうな 」



「 まっ、わたしを置いてってこと? そんなにまでして、三人で出かけたいなんて…

ひょっとして、あなた、小野さんの奥さまに気があるの? 」



「 気があるどころか、俺の“お気に入り”さ。

あんな女性といつも一緒に暮らしている小野さんが羨ましいよ 」



こんな夫婦の会話を聞いていると、どうやら、南さんは、理香との密事を内緒にしていたように思えます。



しかし、急にこんな言葉を面と向かって言われると、加奈子さんの心中だって穏やかではないでしょう。



「今日はいつになく優しかったから、何だか怪しいなぁって思っていたけど ……

それで小野さんは、主人がそんな風に思っていること、知ってらっしゃるんでしょう ? 」



「 まぁ、それとなく、気づいてはいますが・・・ 」



「 何だか、意味深な言い方ですね。 だったら、その旅行の話、もっと聞かせてもらえます ? 」



「 なぁ、一緒に来いよ。 そうすれば、おまえの思っていることが取り越し苦労かどうかわかるから 」



「 でも、そうなると … 小野さんの奥さまはだいじょうぶなの? 」



「 それは、別に気にしなくていいですよ。 

うちの奴、理香っていうんですが、多分断らないと思いますから 」



「 まぁ、そんな風におっしゃられると、ますます気になりますわ。 

小野さんの奥さんてどんな方? 」



何杯目かのお猪口に口につけた加奈子さんが、幾分舌足らずな口調で訊いてきました。



加奈子さんにしてみれば、いくら夫の友人だとは言え、見知らずの男性を紹介されて、

男どうしの会話から夫の不倫の匂いを感じたとなれば、事の詳細を訊きたくなるのは当然でしょう。



( 南さんと妻との情事のことは余り大っぴらにはできないが、先々のこともあるし、

ここは程々に、二人の関係を匂わしておいた方が良さそうだ )



「 奥様と同じく、炊事、洗濯、アイロンかけまできちんとやってくれる ・・・ 

まぁ、それだけが取り柄の古女房ですよ 」



間髪を入れず、南さんが後を続けます。


「 すごく可愛いくて、おまえと違って色っぽい女性だよ 」



南さんの口から二度までもこんな言葉が出てしまうと、私が説明を求められているようなものです。



「 そんな素敵な奥さまと、主人も一緒になんて ・・・ 一体、どんな旅行なんですか? 」



「 いや、何もそんなに遠くへって話じゃないのですが、年度末になると忙しくなりそうだから、

一度、仲良し夫婦で連れ立って旅行してみないかって・・・ 」



「 そのお話、どうせ、主人の方が持ち出したんでしょう? 

でも、そのことを小野さんがきっぱり断らなかったところを見ると、奥さまは、主人の ……

“いい女性”ってことなんでしょう? 」 



こんな風に訊いてくるということは、きっと、旦那さんに尽くすタイプなのでしょう。


この辺りで、彼女が気を病んでいることを解消してあげた方が良さそうです。



( 今、彼女が気にかけているはずのこと・・・

第一に、初めて出会った男性の人柄の中に、抱かれても構わないと思えるような何かを発見できるかということ、


第二に、夫と肌を合わせたに違いない女のことだろう )



「 いやぁ、まいったな。 もう、何年ほど前かなぁ? 南さんに、初めてお会いしたのは・・?

その時、私の方から持ちかけて・・・ 」



「それで、主人と奥さま、何度ぐらいお会いしているんですか? 」



「そうですね。 私も交えて、二 〜 三度ぐらいかな? 」



「 ははは、加奈子、それくらいにしておけよ。 小野さんにそんなことまで言わせてしまって。

はっきり言うよ。 今まで黙っていたけど、おまえの想像通りだってことさ 」



「 そうなんだ。 やっぱり …… 」



「 一口で言えば、小野さん公認の割り切った関係ってところかな。 それに、そうなってしまった以上、

別に酒の肴って訳じゃないが、俺たち夫婦もよく似たことを愉しんでいるって言ってあるさ 」



「 …… じゃ、小野さんもわたし達のこと、ご存知なのね 」



加奈子さんの胸中を察するに ・・・ 

一緒に旅行に行き、間違いなく抱かれることになる相手に内緒事を知られてしまい、動揺しているのでしょう。



「 奥さん? 身勝手過ぎて理解してもらえないでしょうが、男の中には妻を他の男に抱かせて、

ますます愛しくなる変わり者もいるんですよ 」 



「 それは、わかっています。 それに、わたしもそんなことを責められるような立場じゃないってことも ・・・

ただ、わたしに黙ってというのが淋しいだけ …… 」



「 夫婦って、別に独占したい訳じゃないですが、多少はそんな気持ちがないとやっていけませんからね。


でも、余り相手を拘束し過ぎるのも考えものだって、この前ご主人から教わったばかりです 」



「 主人、どんなこと、言ったんですか? 」



「 私たち夫婦のことですけど、『 余り、奥さんに気を回し過ぎたり、買い被ったりすると、

返って気の毒ですよ 』って・・・ 」



「 まっ、自分のこと放っておいて、そんなこと言ったんですか? 」



「 上手に聞いてほしいんですけど、男ってのは 他愛もないもので、

妻によくしてもらっていることをわかっていながら、そんなことを求めたがるものなんです 」



こうして、私と南さんの奥さん・・ 加奈子さんとの顔合わせは終わった。


( どっちみち、夫婦そろって旅行に行くことになると思うが、

私の姿は、加奈子さんの目にどのように映ったのだろうか?


この人と、セックスをする・・・ 多分、そんな思いが頭を過ったことだろうが、

余り 気乗りがしないのか、それとも、そうなっても構わないと思ったのか、それはよくわからない。


私の方は、無論、異存はない。

後は、南さんさえ奥さんを納得させれば、妻に念を押してその日を迎えるだけだ ・・・ )










第三章 【おしのび旅行】

加奈子さんとの出会いからしばらく経って、私たちは旅行の日を迎えます。


行程の詳細については、二人で綿密に打ち合わせるつもりでしたが、きっと私の方がまめなのでしょう。


「 どこでもいいですよ、温泉場であれば ・・ すべて、小野さんにお任せします 」


との南さんの言葉で、私が計画を立てることになりました。



思い出すのは二年前の冬、妻と二人で新穂高温泉へ出かけた時のことです。



( あの時は、露天風呂で出会った若い男に妻を抱いてもらった。

それは別にして、流石“温泉郷”と言うだけあって、あの辺りには色々といい温泉があった。


ここからそんなに離れている訳でもないし、夫婦そろってのんびりするにはもってこいの場所だ )



私が考え、南さんから“お墨付け”をもらった旅行プランを紹介します。


目的地は、飛騨高山から少し離れた平湯温泉。 宿泊は二泊。


行程の方は、一日目の午前十時頃に高山に到着、それから昼食までは四人そろって街巡りを楽しむ。



午後からは互いのパートナーを入れ替えて自由行動とし、

近場の見どころを回った後、適当な時間になったら安曇野方面に向かい、夕方頃に平湯温泉で落ち合う。



今回の旅行で最も大切なこと ・・・ 南さんが、妻にそうなってほしいと願っていることについては、

夕食後が終わってひと段落してからホテルの一室に集まり、互いの恥ずかしい姿を見せ合う。



それから朝までは、いつもとは違う夫婦になって一夜を過ごし、チェックアウトと共にお別れ ・・・


二日目は、元の夫婦に戻って旅行の続きを楽しむ。 

大体、こんなスケジュールです。



交通手段は、相乗りで出かけるという方法もありましたが、二日目のことを考えると、

分乗して出かけた方がいいだろうということになりました。



私たちの住んでいる所から高山までは、R158号線を経由して車でおよそ二時間半ほどの距離です。



ハンドルを握りながら、助手席に座った妻とあれこれ話を交わしますが、

もう以前のように、胸の高まりを無理に抑えながら、話題を別の方向にもっていくようなこともありません。



車から見える周りの景色や街並みの様子 ・・ そして、そこに暮らしている人々の生活のことなど・・・ 

ごく普通のことを、自然体で語り合えます。



今夜、行われる予定のことは、もう口に出さなくても大丈夫なのでしょう。

互いの腑に落ちているはずですから ・・・




そのうち、車が、休憩地点のドライブインに入ります。

すると、この時を待っていたとばかりに妻たちがテーブルで向かい合い、話し始めました。



待ち合わせの場所で四人が顔を合わせた時、妻たちも形ばかりの挨拶を交わしましたが、

今夜のことを思うと、それだけでは不十分のように思えるのでしょう。


膝をつき合わせてのお喋りが始まりました。



ここで、改めて、四人の関係を整理しておくと、極めて親密な間柄なのは南さんと私、そして妻の三人 。



加奈子さんに至っては、頼りになるのは夫の南さんだけで、理香にいたっては全くの初対面だ。



それとなく聞いていると、久しぶりの旅行なのに妻たちの頭からは家事のことが離れないのでしょうか、

話題が食べ物の話になっています。 きっと、理香が誘い込んだのでしょう。



「 もう少し行くと、朴葉みそが売っている所があるのよ。 

あれって、元々、麹味がまろやかなんだけど、お肉につけて食べるととってもおいしいの 」



「 “ほお葉”って、おにぎりなんかを包む大きい葉っぱでしょ? 

だったら、そのお味噌、焼き茄子や玉ねぎの薄切りに添えても合いそうね 」




「 帰ってから、“ほお葉”の上に野菜を載せて、味噌をつけて焼こうと思っているの。

それにしても、飛騨牛とセットにして売るなんて、よく考えてあるわね 」



「 きっと、私たちみたいなのがいいお客さんなんじゃない ? 」 



私と南さんは、そんなに話すこともないので、時おり妻たちの方を眺めながら、煙草を燻らせていました。




ドライブインでの休憩を挟んで高山に到着したのは、予定よりも早く、十時ちょっと前 ・・・ 

この後は、四人一緒に高山陣屋を見て回ることになっています。



高山陣屋は、江戸時代から現存する唯一の建屋らしいですが、

その上に悠然と広がった蒼い空を見ると、やっぱり、来てよかったなあと思います。 



冬の晴れ間にたまたま青空が顏を覗かせただけかもしれませんが、私たちの住んでいる所では、

こんな澄み切った空は望めないのです。


しばし、のんびりと、建物の中庭に面した部屋から外の景色を眺めていました。




“さんまち通り”をぶらついているうちに昼食の時間になり、適当な店に入る。


ちょうどお昼時で店内が混雑しており、店員さんの案内に従って近くのテーブルに二人ずつ腰掛けます。



「 この後、平湯温泉で落ち合うのは、五時ってことでしたね。

それまで別行動になる訳ですが、どこか、お目当ての場所があるんですか? 」


南さんが、私に尋ねてきました。



「 いや、思いつきに任せて 適当に回るつもりですが ・・・

何より、奥さんが行きたい所にしようと思っています 」




「 そうしますか? せめて、こんな時ぐらいは、女性の言うことを聞いてあげなくちゃね ・・・

私も、理香さんにナビしてもらいますよ 」



料理が運ばれてくるまでの間、手持ち無沙汰で 妻たちの方へ眼をやると、話に夢中になっていて・・・ 

どうやら、私たちのことが話題になっているようです。



「 小野さんて 優しそうで …  理香さん、おうちでも幸せなんでしょ? 」



「 優しいのは優しいんだけど …… いつ頃だったかな? 買い物のことで揉めたことがあるの。


『 お店の人に散々気を揉ませた挙句、何も買わないで出てくるのは悪いだろう? 』って言うの。


ほんとに見栄っ張りと言うか、若い女の子に勧められると、すぐ鼻の下を伸ばしちゃうんだから …… 」



「 わたしだって、『 あれっ、こんなはずではなかった 』って思うことがいっぱいありますわ 」

加奈子さんが後を続けます。



「 ある時ね、帰ってきたら、下駄箱の上に綺麗な鉢植えの花が置いてあったの。

気を利かしたつもりで、陽のあたる場所に置き換えたらしおれちゃって …… 


そしたら、『 誰が買ってきたのか、わかるだろ? 五千円もしたんだぞ! 』ですって … 」



「 でも、花が好きな人に、悪い人はいないって言いますわ。 ご主人、いい方なんですよ 」



「 本当にそうかしら? 

でも、『 どうして、俺の帰りを待ってからにしようって思わなかったのか? 』って、しつこいの。


元々、こだわるタイプなのは知っていたけど、『 もう、いい加減にしてっ! 』て、言いたくなるの わかるでしょ? 」



私と南さんは耳に入らない風を装いながら、店内のあちこちを眺めていました。

ともあれ、妻たちが仲良くなってくれるのは、私のみならず南さんにしても大歓迎でしょう。



「 南さん、どこから見ても、余り 細かいことに頓着しそうもない人に見えるんですが、そんな一面もあるんですか? 」



「 小野さんだって、時々そんな気持ちになることあるでしょ?

言いたいことを内でも外でも我慢していたら、気が滅入ってしまうじゃないですか? 」



「 よく、わかりますよ 」と私が相槌をうった後、南さんが声を落して話し始めました。



「 ところで小野さん、宿に着いたら ビデオをセットしておこうと思うんですがいいですか? 」



「 別に構いませんけど、奥さんの寝乱れた姿でも見たいんですか? 」



「 まぁ、それもありますけど、小野さんだって見たいでしょ?

万能スタンドを用意してきましたから、それぞれのベッドにね ・・・

後で、チップを交換して見るのも悪くないでしょ?」



「 彼女たちにばれたら、拙いんじゃないですか? 」



「 ばれないようにしようなんて思ってませんよ。 

うちのは前に何回か撮ったことがあるので大丈夫ですから、理香さんだけその場になって渋る訳にもいかないでしょう。

いろいろお世話になったせめてものお礼ですから ・・・ 」



それぞれ二組に分かれ、くだらない話を交えながらのランチタイム ・・

お腹がふくれ、ゆったりした気分で駐車場に向かう。 


この後 夕刻までは、加奈子さんと二人だけで過ごすことになります。



「 どうします? どこか、お目当ての場所があったら ・・・ 」



「 そうね、前から一度、合掌づくりの家を見たいと思っていたの。

ここから白川郷まで、大分かかるんですか? 」



「 そうですね。 方向的には逆ですから、此処に来る前だったらよかったんですが ・・・

ここからだと片道一時間半ほどかかりますから、ちょっと無理かもしれませんね。


代わりに、この近くに“飛騨の里”がありますよ。 そこも合掌づくりですから、そこにしましょうか? 」



高山市内から飛騨の里までは、車で20分ばかりの距離です。 

車を運転していると、青空に聳える北アルプスが見えてきて、凛とした雪嶺はため息が出るほどです。



“飛騨の里通り”・・・ 飛騨の里までつづく一本道のリゾートストリート。

季節は冬ですが、思った以上に観光客の姿があります。



時おり吹いてくる風が、頬にひんやりとします。

風になびく後れ毛がはっきり見える距離に並んで歩いていると、加奈子さんの香水の香りが漂ってくる。


( このまま、手を肩にかけようか? 今だったら、彼女は嫌と言わないだろう )


意を決して、彼女の肩に手を回す。



「 えっ ……? 」



一瞬、驚いたように、私の方を振り向く加奈子さん ・・・ 


それが、今夜、褥を共にする男から差し伸べられた、初めてのモーションだったからか、

それとも、道行く人々の目が気になったからかはわかりませんが、その瞬間、彼女の心が揺れ動いたように見えました。


やがて、肩越しに寄せられた手に、そっと自分の手を重ね合わせてくる・・・



「 ・・・ 奥さん? 」



「 奥さんなんて、呼ばないでください 」



「 じゃ、何て、呼べばいいんですか? 」



「 加奈子って、呼んで …… 」



「 何だか、それも言いづらいから、“加奈さん”て 呼ばせてもらおうかな。 

しばらく、このままでいいですか? 」



「 そうですか? このままですか?  見られますよ 」



本当に嫌な男だったら、元々、旅行になんて来るはずがないだろうが、

こうして、肩に回された手をそっと握り返してくるところを見ると、今夜のことも覚悟しているように思えます。



「 見られても構いませんよ。 これだけ、マフラーで口元を隠しているんですから。


でも、こんな風にしてもいいってことは、この前の私の印象、まぁまぁだったってことですか? 」



「 さぁ〜 あの時どんな風に思ったのか、もう、忘れてしまいましたわ 」



「 今頃は、向こうの方も同じように、連れ立って歩いているんでしょうね 」



「 そうね。 でも、せっかくですから、わたし達ものんびりしましょ? 」



私と顔を合わせずに、下を向きながらつぶやく加奈さん ・・・



次に行ったのは、飛騨高山美術館。

主に、ガラス工芸の作品が展示されていましたが、私が気に入ったのはルネ・ラリックの噴水。


パリのアーケードで設置されていたものが移設されてきたそうですが、ちゃんと10分おきに水が出ます。



「 ドームの天井から光が降ってきて、いいですね。 水が出たら、後ろ向きになってコインを投げてみましょうか? 」



「 うふっ、どんなこと、お願いするんですか? 」



「 また、貴女に逢わせてほしいってのはだめですか? 」



「 それじゃ、コインの数を二枚にしなくちゃ …  でも、願い事が叶うのは、若い人たちだけでしょ? 


きっと、神様にも好き嫌いがあって、こんな不倫カップルの願い事なんて聞き入れてもらえませんわ 」



午後からの観光で一番 印象的だったのは、合掌集落飛騨の里 ・・・ 

合掌つくりの規模の大きさ、遠くに笠ヶ岳を望む北アルプスの眺望は、私たちのデートコースとしては最適でした。






第四章 【ふわふわのベッド】

私と加奈さんが平湯温泉に着いたのは、当初の予定通り、午後五時。 


ホテルのフロントで相方のことを尋ねると、「 もう、お着きですよ 」とのことでした。



( そうか、意外に早く着いたんだな。 夕食までは、まだしばらく時間がある。


この後、二人の部屋へ行って、昼から過ごしたひと時がどんな塩梅だったのか、

それとなく尋ねてみるのもおもしろそうだ )



「 加奈さん、向こうは一足先に着いているみたいですよ。 

先にお風呂にしますか ?  それとも、あっちの部屋へ行って夕食までしばらくくつろぎますか ?」



「 そうね。 それじゃ、ちょっとだけお邪魔してから、お風呂に行かせてもらおうかしら? 」



部屋の中に入ると、片肘をつきながらテレビを見ている浴衣姿の南さん ・・・

やや離れたところに理香がちょこんと座っています。



「 約束の時間通りになんて、流石に小野さんですね。 疲れたでしょう? まぁ、一休みされたら・・・ 」



「 何時ごろ、着いたのですか?  随分と早かったようで・・・ 」



「 三時半頃ですよ。 見て回ったのは鍾乳洞だけ。 その後すぐに、こちらへ向かいましたから 」



「 そんなに早く着いたとなると、時間を持て余したでしょう? 」



「 いや、それほどでもなかったですよ。 のんびり運転してきましたから 」



「 そうですか? ところでこの部屋素敵ですね。 ベッドが三つもあってゆったりしているじゃないですか? 」 



「 チェックインの時に無理言って、大きい部屋にしてもらったんです。

ベッドもふわふわしていて、とってもいい感じですよ。 早速、使わせてもらいましたから。

思ったより早く着いてしまって、そんなにすることもないし ・・・ 」



私は、思わずベッドに目を向けましたが、明らかに一つのベッドが乱れています。



次に、目をやったのは妻の顏 ・・・ 口元にはにかみを浮かべながら南さんの言葉を黙って聞き流しています。


思い立ったようにポットを手にしてお茶を入れようとしますが、困惑を隠しているのは明らかです。



男たちにとってはそんなことぐらい、その時が早まっただけでどうってことありませんが、女となると ・・・ 

部屋に入った途端に夫の口から思いがけない言葉を聞いた加奈子さんの心中が
穏やかであろうはずがありません。



だって、午後は新しいカップルどうし、楽しいひと時を過ごし、

そのことは夕食が終わって 一息ついてから愉しむ約束だったはずですから ・・・



「 悪いですけど、先にお風呂に行かせてもらいますわ。 どうぞ、ごゆっくり… 」



流石に、居たたまれないものを感じたのでしょう。

加奈子さんが胸の動揺を押し隠しながら、バッグを手にします。



「 ああ、そうしろよ。 ここ、穂高に近いだけあって 露天風呂からの眺めが最高だぞ。

これで、おまえも俺たちの関係、とくとわかっただろう? 」


部屋を出ていこうとする加奈さんに、南さんが意地悪く声をかけます。



「 悪いですね、小野さん。 うちの奴、余り この辺りのことに慣れてなくて・・・ 」



「 そんな無神経な言い方をされると、誰だって腹が立ちますよ。 

でも、恨みがましいことを言わずに『 お風呂に行ってくる 』なんて、可愛いじゃないですか? 」



「 小野さんの目にはそんな風に映るかもしれませんが、私が惹かれるのはこの女性ですよ 」


南さんが、目線を妻に移します。



「 ……… 」



その言葉に、じっと無言を通す理香 ・・・ 


こんな風に言われると、大概の場合は慌ててその言葉を打ち消そうとするものですが、

その言葉を投げかけた人が先程抱かれたばかりの男性となれば、


そして、胸の内を伝えるべき相手が、背徳の負い目を感じなければならない夫となれば、

言うべき言葉が見つからないのでしょう。



「 誰でも、隣の芝は青く見えるようですね。 私も同じでしたよ。

一緒に歩きながら『 今夜、この女性と ・・・ 』って思うと、胸がどきどきしてきましたから 」



「 そうですか。 きっと、うちのも同じでしょう。

風呂に行って、今夜、貴方の目に晒すところをしっかり磨いておきたいと思ったんじゃないですか?

あいつも、その辺りのことは心得ているでしょうから 」



南さんが、私の方を見ながらにやっと笑いました。



「 どうです、小野さん?  もう一風呂浴びてこようと思うんですが、一緒に行きませんか? 」 



「 やっぱり、奥さんのことが気になるんでしょう?  

今だったらまだ間に合いますよ。 向こうの部屋に行って謝ったら ・・・ 」



「 できる訳ないでしょう? そんなことしたら、この先ずっと下手に出なければなりませんよ。


・・・ で、小野さんは、もう少しここで理香さんとゆっくりされるんでしょう? 」



こんな風に、妻の名前をスラスラ口にされても、それが至極当たり前のことのように思えてしまいます。



「 まぁ、お風呂は後にでも入れるから、そうさせてもらえますか? 」



「 それがいいでしょう。 この後のこともありますしね 」



南さんが、互いを深く知り尽くしたような一瞥を妻に向けながら、部屋を出ていきました。



二人でソファに腰掛けると、何から先に話そうかどぎまぎして「 どうだった? 」って尋ねるのが精いっぱいです。



「 どうだったって、昼からのこと? 

今夜泊まる平湯温泉になるべく近い方がいいだろうということになって、鍾乳洞に行ってきたわ。


あそこのルート、結構 出口まで距離があって、その上、勾配がきつくて ……

外に出たら、もう、寒くて、寒くて …… すぐにでも温泉に浸かりたいって気分だったわ 」



「 それで、一緒にお風呂に入ったのか? 」



「 そ う … 」



「 体が温まったところで、一回戦を楽しんだって訳か? 」



「 だって、そうならない方がおかしいでしょ? 」



「 ふう〜ん、そうならない方がね・・・ 」



「 変な頷き方して ……  何が聞きたいの? 」



「 わかっているくせに。 どんな塩梅だったかってことさ 」



「 そんなこと… 露骨に聞くことじゃないし、聞くまでもないでしょ? 」



これでも妻に気を遣いながら訊いているつもりなのに、こんな言い方をされると胸にズキっとくるものがあります。



でも、妻がこのような返答をするのも自分で納得できます。


妻が南さんに抱かれる機会を積極的に提供し、彼女の心が彼に傾いていくように

煽り立てているのはこの私なのですから。



こんな風に仕向けているのも元をただせば、自分では為し得ないことを他人にしてもらって、

夫婦の愛情を より細やかなものにしたい・・・ こんな想いが私の心の底にあるのです。



とにかく、今の時点ではっきり言えることは、これまで夫婦として睦み合ってきた時間は長くても、

私は、南さんが妻を愛する程には、妻を愛せないということです。



「 それで、以前と比べてどうだった、南さん? 」



「 そうね。 ちっとも変わってなかったわ。 この前と同じように優しかったし … 」



「 そうか。 それじゃ、最後の方もこの前と同じだったって訳か? 」



「 また、そんなこと ……  それは違うわ。 だって、南さんが言うの。 

この後十頃になったらあっちと合流するので、その時までとっておきましょうって… 」



( 確かに、そのような話にはなっている。 でも、南さんが、避妊具なしでのセックスを先延ばしにしたということは、

この後、私と加奈子さんが加わってのセックスに期待するところが大きいのだろう )



一瞬、頭の中に、妻の秘口から垂れ落ちる白い滴りが頭を過って・・・

私はその光景を脳裏に思い浮かべながら目線を下に落とし、浴衣の下に隠された女の徴を幻視していました。



「 先程は、加奈さん、ちょっと可哀そうだったな。

旦那からあんなことを聞かされた加奈さんの気持ち、おまえもわからないでもないだろう? 」



「 そ〜ね。 でも、あんな風に言えるってことは、自分に自信があるからなんじゃない?

きっと、加奈子さんも、そんなところが頼もしく思えるんでしょ? 」



何度か抱かれていると、そんなことまでわかるようになるのでしょうか。

私たちとは大違いです。



( これまでに妻は都合三回、南さんと関係をもった。

妻にとって南さんがとても魅力的な男性で、体の相性もぴったりなのはわかってはいるが、

こんな風に答えるということは、彼の性格や人柄にまで心を惹かれてきているのかもしれない。


少なくとも この旅行中は、彼に尽くすことが自分の喜びのように思っているのだろう ・・・ )



「それで、あなた達の方はどうだったの? 

随分と加奈子さんと親しくなったみたいね。 名前の呼び方でわかるわ 」



「飛騨の里へ行ってきたよ。 あそこも歩くと、結構 距離があるんだ。

女性の肩を抱きながら歩くなんて久しぶりだったな 」 



「 そ〜う? ところで、あなた知ってる? 加奈子さん、とっても肌が綺麗よ。

きっと、あなたも夢中になるわ 」



「 私と同じよ ・・って、言いたいんだろ?

まぁ、それは、夕食の後 大分時間があるから、その間に確かめることにするか? 」



「 そうね。 この後、知らない人と急に… なんて、可哀そうでしょ? 

優しくしてあげないと駄目よ 」



ちらりと私の方を見た妻の目が、その後、何か言いたそうに見えましたが、

彼女の口から出てきたのは、それだけでした。




夕食は、トリプルルームとは別の和室。 


自然と話は、お膳の前にある赤カブ、みず菜など地場産料理や今日のトリップコースのことになりますが、

加奈さんは、生返事で応えるばかりです。



南さんから、『 話好きで、よく気が回るやつだよ 』とは聞いていましたが、

自分が馴染薄の男性との距離を少しでも縮めようと躍起になっている時に、


夫の方がこれまでの関係を誇示するように、先に手を出してしまったのですから、塞ぎこみたくなるのも当然でしょう。



そんな加奈子さんを気遣って私も色々話しかけますが、顏の表情はどこか上の空・・・ 

返ってくるのはポツリ、ポツリの片言だけです。



南さんにしても、きっと内心は加奈さんに謝りたいと思っているのでしょうが、

夕食の席でも彼女を労わる優しい言葉はありませんでした。







第五章 【白 い 肌】

お風呂から戻り 窓を開けると、立春が過ぎたとは言え、ひんやりした山里の冷気が流れこんできます。



夕食の時もそうでしたが、部屋に引き上げてからも、余り場に馴染もうとしない加奈さん。



どうなってしまうか先が決まっていることを前にして、心の整理をしかねているように見えます。



人は一回 拗ねてしまうとどこかで元の状態に戻りたいと思っても、なかなかそのタイミングを見出しにくいものです。


ここは、彼女の心を解きほぐしてあげる時間が必要なのでしょう。



「 先ほど、あなたがお風呂に行く時、南さん、『 露天風呂からの眺めが最高だぞ 』って、意地悪したでしょ?

あんなに思ってもらえるなんて、幸せじゃないですか? 」



「 わたしには、そうは思えませんけど …… 」



「 あれは、貴女への思いの裏返しなんですよ。 私も、色々と妻を困らせるようなことをしてきましたから、

その気持ちがよくわかるんです 」



「 そうでしょうか? でも、そんな風に思えるのは、小野さんが優しいからでしょう? 」



「 優しいってのも考えもので、あれこれ気を遣いますから、どっしり構えたところがなくなってきますよ 」



「 でも、せっかく旅行に来たのに、あんな風に言わなくてもいいと思いません? 」



「 まぁ、あなた方のおうちのことはよくわかりませんが、思い起こせば一つや二つ、

ご舅さんと揉めたことぐらいあるでしょう?


きっとその時、南さん、貴女の肩をもってくれたんじゃないですか? 」



「 そんなの、ずっと昔のことで覚えていませんわ。

でも、主人のこと、小野さんの目にはそんな風に映るんですか? 」



「 一言で言えば、鷹揚で懐が広いって言うのかな? 決して、弱いところを突っつくようなタイプじゃありませんよ。

あなたにわざと意地悪して・・ 私に気を遣ったんですよ 」



「 ……… 」



「 だって、南さんが貴女にばかり気を遣って、隣にいる女性をぞんざいに扱っていたら、

そんなの見るの、貴女も嫌でしょ? 」



「 そうですね …  つまらないことで拗ねちゃってごめんなさい 」



こんな可愛い呟きを聞いていると、「 そろそろ、温めてあげましょうか? 」と言いたくなってきます。



( これまで、南さんは奥さんのことを、きっと、お互い様って割り切っているんじゃないかと

幾分、自嘲気味に言っていたが、そんなことはない。


これまでに何度か、夫以外の男に抱かれたことはあるのだろうが、経験となると多分、理香の方が上なのだろう )



さて、そろそろ・・ このまま何もせずに時を過ごし、急に恥態の限りを尽くす場面を迎えるなんて、

彼女にとっても耐え難いものがあるでしょう。



「 加奈さん、いいですか、抱いても? 」



「 ベッドに行きましょう 」



彼女の後ろに回り、浴衣の上から抱きしめる。 

私の求めに応えて、唇を合わせてくれる加奈さんの反応にホッとします。



「 貴女の肩を抱きながら歩いていた時から、ずっと想っていたんです。

この下に隠れているものを見てみたいって ・・・


これが、貴女ですか? すごく温かい。

おっぱい、見せてください。 すごい、艶々してる 」



「 あ ……っ … 」



舌を絡み合わせながら 乳房の突起を抓むように愛撫すると、加奈子さんがくすぐったそうに反応します。



「 感度がいいんですね。 ついでに、浴衣の下のものも脱いでしまいましょう。 

こんなに体が火照っているんですから・・・ 」



「 そうですね … 」加奈さんが、二つ返事で浴衣に手をかけていくと、

物音一つしない静寂の中で、妖しい人妻の肢体が露わになってきます。



妻のものとは違う手応え・・・ 妻が指摘した通り、ふっくらした柔肌が私の扇情を誘ってきます。



私は、乳房を揉むようにしながら、時おり乳首に舌を転がして加奈さんの反応を愉しんでいました。



「 いけないことを始めてもいいですか? さぁ、体の力を抜いて ・・・ 」



「 えぇ … でも、恥ずかしいわ …… 」



そのうち、口での愛撫が下半身の方に移っていくと、緊張のせいか 内腿の筋を強張らせる加奈さん ……



「 んっ …… あぁ …… くっ …! 」



舌先が珊瑚色のつぼみを弄んでいくと人妻の裸身がピクンと跳ねて、そのまま顔が後ろの方へ仰け反っていきます。



「 どうしました? 」



「 そんな風にすると …  だめぇ ……… 」



( これまで妻に対して、もっと剥きだしの姿を見てみたいと思っていたが、

私は今、自分の愛撫に身を委ねる人妻の姿を、もっと見てみたいと思っている。


こんな風に思うということは、彼女のことを好きになってしまったのだろうか? )



舌先の愛撫に体をくねらせる加奈子さんの姿を見ていると、そろそろ潮時なのでしょう。



「 体が欲しがっているように見えますが、いいですか? 」



「 待って … その前に、ちゃんとつけなきゃ…… 」



この後、加奈さんは私のものを口にしてくれましたが、このことについては余り触れたくありません。 


妻がそれをできないことが、私の心に影を落としているのです。



遡ってみれば、もうずっと昔 ・・・ 結婚してしばらく経った頃、妻にそのことを求めたものですが、


「 私が好きなら、できないことわかって 」、「 好きなら俺の気もち、わかるだろ? 」

と、平行線になったことを覚えています。



その時以来、セックスそのものは普通の夫婦となんら変わることなく睦み合ってきたのですが、

口淫のことだけは、「 どうせ、できないんだから ・・ 」と独りよがりな理屈をつけて

自分の心の中に封じ込んでしまったのです。



「 おかげで、具合がよくなってきたようですから ・・・ 」 



加奈さんにも、程なくその時を迎えることがわかるのでしょう。

ベッドに仰向けになると、ふっくらした恥丘が強調されてきます。



そこを頂点とする両脚の角度は、大きく拡げられている訳でもないし、

かと言って 、固く閉じられている風でもなく、実に微妙な開き具合だ。


股間に膝を割り込ませ、両脚をグイと外に大きく押し開く。



こんな時、いくらそのことを自分で納得したつもりでも、いざ、他人のものを受け入れる刹那になると、

それまでの覚悟と新たな戸惑いの狭間で心が揺れ動くのでしょう。


私を見上げる加奈さんの顏が、幾分 緊張しています。



「 今から、これが … わたしの中に …… 」 そう、思っているのかもしれなません。



私は、両脚の下腿部を左右に押しやり、挿入の位置を確かめる。



「 んっ …… あぁぁ …… 」



待ち望んでいたことが、うつつになる瞬間 ・・・

滾った茎が、熱いぬめりの中に ずるっと取り込まれていく感じが何とも心地よい ……



潤み具合を確かめながら、一旦、肉茎を引き抜き、再びゆっくり押し込む。



「 あぁ〜っ …… 」  加奈さんの最初の喘ぎが零れ出てくる。



「 きついってことはないと思いますが、だいじょうぶですか? 」



「 いぃです … そのままで …… 」



「 加奈さん、甘えん坊? すごくかわいいですよ 」



「 そんな、いゃ … あぁ、あぁぁ …… 」



「 今さら、嫌だってことはないでしょう?  どうしてほしいんですか? 」



「 んんっ … あぁ ……っ、 言えません。 そんなこと …… 」



加奈さんが、眉根にしわを寄せながら、横を向いて答えます。



欲望のおもむくまま、めちゃめちゃに突き上げたい気持ちを我慢し、大きなグラインドで抉っていく ・・・



そのうち、加奈さんが湧き上がってくるものを持て余すかのように、うねうねと腰を捩らせ始める。



こんな人妻の姿を見ていると、性技に余り自信を持てない私でも、

口から洩れる喘ぎがよがりに変わっていくのも、時間の問題のように思えます。



「 気持ちいいんですか、加奈さん? だったら、嬉しいですけど ・・・ 」



「 あぁぁ … そんなこと …… 」



「 言えないんでしょ? でも、加奈さんのここ、きゅっと締まってきますよ 」



「 いや、そんな…  あぁっ …… うぅっ …… 」



「 そんな可愛い声で泣かれるとたまりませんね。 しばらく、その声を聞かせてもらえますか? 」



加奈さんの甘い声に誘われるように、“ 柔ひだ ”に埋まったものを出し入れすると、

両手で私にしがみついてきます。



「 はっ、はぁっ ……  あっ、あぁっ …… 」



「 どうですか? 旦那さん以外の男に抱かれる感想は? ・・ 」



「 あっ、あぁぁっ …  いいです …… 」



加奈子さんが、うわ言のように呟きながら両肘を小さく胸元で合わせています。



身体の奥底からこみ上げてくる快感のうねりに、ついつい漏らしてしまう喘ぎ声 ・・・

こんな声を聞いていると、素敵な女性を我がものにした満足感でいっぱいになります。



今 少し・・・ 時に大きく抉るように抽送を繰り返していく。


すると、ぬめった淫肉が私のものを搾り取るように、そこだけが別の生き物のような動きを見せてくる。



そのうち、加奈さんの喘ぎが頻繁になってきて、腰の動きがせわしくなってきます。

どうやら、オーガズムを迎えるようです。



夫のものより数段見劣りするペニスでも、刺突の数を増やされると快感がせり上がってくるのか、

もっと、もっととばかりに肉茎を締めつけてきます。



私の方も、悦びに包まれている人妻の姿を見ていると堪えきれなくなってきて ・・・

限界が近づいてくるのがわかります。



これくらいの交わりの長さが、私にはお似あいなのでしょう。

加奈さんの両腿が乳房につくほどに折り敷くと、ひと際激しい抽送を送り込む。



「 あ、あぁっ… いきそうだ! 」



「 あぁ … あぁっ …… いってっ… ! 」


加奈さんの喉奥から悲鳴があがる。



私は、ひと際深く腰を沈め、それまで堪えていたものを思いっきり媚肉の中に注ぎ込んだ。



他人妻に施す射精・・・ それは、体の芯が痺れてしまいそうなくらい、甘くて熱い悦楽でした。






第六章 【蜜 の 味 】

自室に切り上げてからそれぞれのカップルがどのようなひと時を過ごしたのか、互いに知る由もありませんが、

約束の10時になって、四人が一室に集まります。 



「 うちのやつ、どうでしたか? この前、お会いした時から 心だけは決めていたように思いましたが ・・・ 」



「 こんなに素敵な奥さんと一緒に暮らしていながら、『 時々、息苦しくなる 』なんて贅沢ですよ。


先程は、そのようにしてあげましたけど、あんな鶯のような声で鳴かれるとたまりませんね 」



「 そうでしたか? どうだ、加奈子? 俺の目利き違いってことは無かっただろう? 

ちゃんと、『 最初の印象通りだった 』って伝えたか? 」



「 心配しなくてもいいわ。 ちゃんと、お伝えしたから …… 」



「 体で伝えたって訳か? どうやら、満更でもなかったような口ぶりだから、
これでおまえも落ち着いただろう。

それで、“ 中だし ”してもらったのか? 」



「 まぁ〜 いやらしい ……  感心するわ。 よく、理香さんの前でそんな言葉使えるって…


小野さん、あなたと違って紳士だから、『 約束だから … 』って、おっしゃったわ 」



悪びれた風がない夫の様子に心を決めたのか、今しがたのことを屈託なく夫に伝える加奈さん。



( 確かに、ゴムなしでの射精は控えたが、

それは先程妻から、南さんが『 愉しみは先にとっておきましょう 』と言ったのを聞いたからこそで、

仮に、南さんが先に生のセックスを愉しんでいたとなれば、私もどうなっていたかわからない )



「 これから、 お互い 恥ずかしいところを見せ合う訳だが、加奈子、だいじょうぶだろな? 」



「 その言葉は、理香さんに言ってあげたら? 」



「 おまえが、夕食の時から黙りこくっているから、心配してるんだ。

その場になって、急に変なこと言い出されるのは嫌だからな 」



「 まぁ、夫婦ですから・・・ どうしたって、相手のことは気になりますよ 」



「 確か、小野さん、前にもそんなことを言ってましたね。

妻を他の男に抱いてもらい ドキドキしながら、妻に対する自分の愛情の程を確かめたいって・・・ 」



「 そんなこと、急に言わないでくださいよ。

まぁ、確かにあの頃は、そんな風に自分に都合よく思っていましたけど ・・・ 」



「 でも、別にそんなことしないでも、たまに外食したり、一緒にゴルフに行ったりすれば、

確かめられるって思いません? 」



「 それは俺に対する皮肉か、加奈子?  おまえにその気がないから誘わないだけだろう? 」



「 いくら夫婦でも、相手の思いの深いところまではわからないことがあるんじゃないかしら?


だって、こんなことするんだから ……  要するに、わたし達ってみんな 自分本位なんだわ 」



三人のやり取りを聞いていた理香が、口を挟んできました。



確かに 男本位に考えれば、愛する妻を他人に抱かせるということは、渇いているものを満たしてほしい、


そして、私の場合は、自分では為し得ないことを 他の男に代わってしてほしいと願う

自己中心的な欲望以外の何物でもないでしょう。



しかしながら、理香が言うことも正しいように思えます。

この場に、女二人までもが顔を揃えているということは、それぞれがこれから始まることを納得し、

幾分の期待をもってこの場に臨んでいるのでしょうから。



「 さぁ、そろそろ、旅の思い出づくりを始めることにしますか? 」



もう、言葉はいらない。 後は 南さんの言葉通り、体を重ねて想いのほどを相手の体に刻み込むだけだ。



交わる場所は、私は南さんに勧められて、二台並んでいるベッドの一つ … 

南さんは、やや離れた所にあるベッドに妻を誘います。



これくらいに適度の距離があれば、相手カップルのことを変に意識しなくても済みますし、

加奈さんにしても、夫の目前で他の男に抱かれる自分の姿をまじまじと見られたくはないでしょう。



南さんが立ちあがり、ビデオの撮影モードのスイッチを入れます。

女たちが黙ってその動作を見過ごしているところを見ると、とやかく言うつもりもないのでしょう。



でも、お断りですが、理香はさておき、加奈さんの恥態までここに載せる訳にはいきません。




ベッドで抱き合っている私たちの耳に、早くも向こうから妻の甘い声が聞こえてきました。



「 ねぇ… もう、いいでしょ? … 」



「 よく、聞こえませんよ。 もっと大きな声で言わないと・・・ 」



「 う……ん、 はやく 脱がせて … 」



「 先ほどは、自分で脱いだじゃないですか? 向こうを意識しているんですか? 」



「 いや、意地悪 …… 」



「 あっちもまだみたいですから、もうちょっと愉しんでからにしましょう 」



何度か褥を共にして、互いの体を知り尽くした者どうしの会話・・・

こんな話は、とても私たちにはできないでしょう。 



それとなく見ていると、指先三寸で弄ばれているうちに体が昂ぶってくるのか、

妻が、南さんの愛撫を股間に受けながらもどかしそうにしています。



指が淫らに濡れた秘芯を弄ぶ度に、ため息混じりの喘ぎを洩らす妻 ……





ふと、挿入を待ち望むように股間を広げている妻の視線が、私の視線と出会いました。



一瞬、瞳孔が固まったように見えましたが、すぐさま、「 あっ、あぁぁ …… 」という喘ぎとともに、

その顏が背けられていきました。



「 ねぇ、小野さん? そんなに奥様の方ばかりちゃ いや … 」



ベッドで抱き合っている私の耳に加奈さんが囁いてきました。



「 隣のことは放っておいて、ね、わたし達も …… 」



“さんまち通り”でデートをしている時よりも幾分馴れ馴れしい調子で語りかけてくるのも、

夕食後に一度、肌を重ねたからなのでしょう。



浴衣の帯を解いていくと、先程 私の愛撫を受けた恥丘が露わになってきます。



「 こんなところ 撮られるのって、余り 好きじゃないんだけど…… ねっ、さっきと同じようにして … 」



「 その姿を、とっくりと旦那に見せつけてあげたいって訳ですか? 」



「 だって、向こうもあんな風にしているでしょ? 」



加奈さんの言葉に誘われるように、ぬめった淫裂に指を滑らせていく。



「 あぁぁ …… 」



一度、体を馴染ませてしまうと、男の愛撫が先程にも増して心地よく思えるのか、

もう今は・・ 夫を前にどのように取り繕おうか 迷っている風は見えず、加奈さんの口から喘ぎの声が洩れてくる。



「 気持ち、いいんですか? 」



「 ぇぇ …  とっても …… 」



「 私は、このままの姿勢でいますから、加奈さんから動いてくれませんか? 」



「 え…っ、わたしがですか … ? 」



私がこんなことを彼女に頼んだ理由は ・・・ 先程とは別の体位、騎上位で ・・・

私の上に跨って顏を歪める人妻の姿を見たかったからです。



「 頼みます。 しばらく、貴女の顏を眺めていたいんです 」



「 ん〜ん ?… でも、そんなの ……  

いいわ。 ちょっと恥ずかしいけどしてあげる… 」



私はベッドに仰向けになる。 加奈さんが自らの手で支点を握り、潤みにあてがう。

そして、私の胸に片手をつきながら、少しずつ腰を下ろしていきます。



「 んっ …… あ、あぁ ……っ! 」



女の淫口が私のものを咥え込み、ずるずると熱いぬめりの中に導いていく。

亀頭が、蕩けた媚泥に包まれていく感触がたまりません。



私の上に加奈さんが跨る格好で、二人が繋がった。



そのうち、加奈さんが欲望のおもむくまま、もっと深くと言わんばかりに腰を動かし始める ・・・



「 あっ、あぁぁ ……… 」



肉茎の全てをおさめきった人妻が、時おり、深い息をつきながら腰を上下させていきます。



初めのうちはそろそろと、そして馴染んでくると程よいリズムで、自分の中を抉っていく・・・



「 はあ…っ …… 」



私は、加奈子さんの動きに身を任せたままです。

目を瞑ったまま、満足げな顔で 自分だけの快感に浸る人妻 ……



仰向けになっている私の眼前に、加奈子さんの上体が揺らいでおり、

時々、両手で支えられた上半身が後ろに反り返ると、向こうの様子が見えてきます。



理香がベッドの上で両脚を広げ、その股間に南さんの膝が割って入っている。


どうやら、向こうは正常位で始めるようだ。

私の位置から眺めると、少しばかり距離はあるものの、ちょうど南さんと加奈子さん夫婦が背中合わせの位置になります。



私の方から見ても、南さんの陰嚢の下からチラチラ妻の淫裂が見えるくらいですから、

妻の濡れそぼった秘口が、南さんの目に晒されているのは間違いないでしょう。



南さんが肉茎の埋め先を確かめるように、固く張り詰めたものを秘芯の周りで転がしています。



( 性交時の男性器を目にする機会なんて、滅多にあるものじゃない。

自分のものとは明らかに違う、男が惚れ惚れするようなカリ太の肉茎・・・ 


あぁ ・・ あの猛々しいものが 理香の中に ・・・ )



こんなことを思い始めると、私の腹上で腰を振っている加奈さんの動きが他所事のように思えてきます。



転瞬、妻の股間に突き立てようとしている南さんがこちらを振り返り、にやっと笑いかけてきました。



しかし、その笑みが、私の腹上で腰を振っている妻に対する妬みなのか、

それとも、「 妻をよろしく頼む 」という私への合図なのか、よくわかりません。



意地悪く解釈すれば、こちらも十分愉しませてもらいますよという暗黙の了承を求めているようにも思えてしまう。



そのうち、卑猥な感触を楽しんでいた南さんの手指が動いて、私が何度か目にした怒張の先が、

妻の淫裂に押し当てられる。



「 あっ、 あぁ …… 入っ た …… 」



瞬間、怒張の先がずぶりと妻の性器を貫き、妻がその侵入を確かめ終えた声をあげる。






やがて、こんな野太いものによる抽送が始まってしまうと女なら誰しも、

その甘美さにのめり込んでいってしまう ・・・



「 ふぅぅ …  あぁ…  いぃ…わ … 」



「 早からそんなに感じてしまったら、体がもちませんよ 」



そう言いながら、南さんは妻の両脚を大きく拡げ、ゆっくり腰を沈ませる。



「 あぅ…っ!… 」



グイと一突きされた妻が悲鳴をあげる。

更に、 南さんがぐぐ〜っと腰を押しつける。



南さんが、逞しい肉茎を妻の開き切った女体の中心に埋め込み、動き始めました。



「 あぁっ!…… あっ… あっ、ぁっ …… 」



快感の空白を惜しむように、短い喘ぎを繰り返す理香 ……






蕩けそうなほどの快感を味わいながらも、後、数センチ …… 

もう少しだけ、強張りが侵入してくる快感が欲しくて妻が目を閉じる ……



私との間では決して得られない、他の男によってのみ与えられる悦楽 ・・・

夫の前で 並外れた肉茎に貫かれる禁断の交わりは、例えようもないほど気持ちがいいものなのだろう ・・・






第七章 【交わりの様を他人に】

乳房を揺らしながら、腰だけを上下に躍らせる人妻 ……


時おり、向こうの様子を眺めながら気もそぞろになっている私を知ってか知らずか、

加奈さんが気持ちよさそうに腰を揺らしています。



「 あぁ … 気持ちいぃ …… 小野さんは ど〜う?… 」



「 こんな風に、人妻にされるがままってのも いいですね 」



「 そんな風に言ってもらえると嬉しいわ。 ねっ、今度は小野さんが …… 」



起き上がって膝の上に加奈子さんを抱え上げると、白い乳房が顔の辺りに迫ってきます。


下から突き上げると、その動きに合わせるようにリズミカルに腰を下ろす人妻 ・・・



「 あん、あん、ぁ…あん、いいわぁ … すっごく いい …… 」



そのうち、喘ぎが頻繁になってくると腕が首に巻きついてきて、

撓れかかるように一体感を求めてくる姿がたまりません。



「 さぁ、よくなってきたところで、今度は別の姿勢で愉しみましょうか 」



先程の交わりに続いて二度目となると、まだ行っていない体位を選びたくなってきます。


加奈子さんを膝から下ろすと、ベッドに四つ這いにさせ、お尻を引き寄せる。



数回、抽送を行うと、私が細腰を掴んでいなくても、その続きをせがむように加奈さんの腰が追いかけてきます。 



「 加奈さん? この腰の動き、いいですね。 大分、年期が入っているように見えますが ・・ 」



「 ん〜んっ、あぁぁ …… そんなこと …… 」



「 だって、相当経験しないと、こんな風には動きませんよ 」



「 んっ、あぁ …… 」



その時、私たちの会話を小耳に挟んだ南さんが、加奈さんの方を振り返って言葉を投げかけてきました。



「 正直に言ってあげたらどうだ?  結構、しましたって・・・ 」



「 あぁ … そんな …… 」



その言葉はきっと、自分の素性を暴いた夫の無神経さに対するささやかな抗議なのでしょうが、


こんな言葉を聞くと、余りの具合の良さに・・・

他人が越えてはならない夫婦の領域に踏み込んでしまったことを後悔します。



私は、申し分けない気持ちを抽送に込めながら、奥深いところへ送り込んでいく ・・・



「 こんな風にされると、気持ちいいんですか? 」



「 ぅん〜ん…  あぁ …… そのまま … 」



夫の無慈悲な一言で開き直ってしまうと背徳の怯えが消え、より甘美さが増してくるのか、

腰だけをそのままに、頭を床に沈ませる加奈さん。



「 ねっ、ちょっと見たら? すごいわ、加奈子さん。 

あんなに感じてしまって …… 」



褥こそ別にしていますが、横寝の姿勢になっているとこちらの様子が丸見えなのか、

同じ女の嬌声が気になった理香が南さんに声をかけます。



「 どうやら、夢中になっているようだな。 旅行に来てよかっただろ? 」



チラっとこちらを見やった南さんが、そのままじっと熱い目線を注いでいます。



おそらく、他人のものを受け入れ、隣で喘いでいる妻の姿に言い知れぬ嫉妬を覚えているのでしょうが、

こんな妻の姿を見ている南さんもまた、女が放つ妖しい魅力に惹きつけられていることは疑いありません。



私にしても、普段 妻の生々しい交わりを見ている者が逆に見られる側に回る・・・ 何だか、妙な感じです。



私が抱いているコンプレクスのせいなのでしょうが、人妻を意のままにしていることを誇るような気にもなれませんし、

かといって、南さん程には相方を悦ばせてあげられないことを恥じるような気持ちもありません。


妙にくすぐったいような気持ちになって、私はしばらく動きを止めていました。



「 ねっ、あっちのことは放っておいて、わたし達も …… 」



私の放漫な動きに気づいた加奈さんが、幾分、恨みがましい目つきで私を見つめてきました。


快感のせり上がりを期待していたのに、水を差されたのですから当然でしょう。



「ごめんなさい 。 つい、見とれてしまって ・・・」



謝りながら、先程より幾分 激し目の抽送を行っていく ・・・

すると、新たな刺激を送り込まれた加奈さんの上体が再びくねり出し、私の動きに合わせてきます。



引き寄せる細腰がこんな動きを見せてくると、堪えていたものが一気に高まってきます。



「 加奈さん、そろそろなんですけど、ゴムつけますか? 」



「 だいじょうぶよ  ちゃんと準備 してあるから … 」



「 まだ、ご主人の了解、いただいていないんですが・・・ 」



「 いいの …… 」



「 本当にいいんですね 」



自分が放ったこの言葉が、やがて妻が南さんの精を直に受け入れても構わないことを、

自分に言い聞かせる言葉であることもよくわかっています。



交わりの姿勢を正常位に戻して、射精に至るべく一気に激しいスラストに移る。


男に身を委ね、律動のすべてを受け入れる加奈さん ……



「 あぁ、出そうだ! …… 」



「 あぁぁ … わたしも、いっしょに …… 」



人妻が、密やかな喘ぎ声を放ち、 射精の瞬間を迎えます。


私は、奥深いところまで一気に貫いて欲望の精を吐き出した。



加奈さんにも、膣奥に熱いものが弾けるのがわかるのか、膣内がぴくぴくと痙攣していて、

何だか、埋まっているものが奥へ引きずり込まれていくような感じです。



やがて、埋没していたものがそろそろと引き抜かれていくと、

加奈さんの体から力が抜け落ち、白い裸身がベッドに横たわる ・・・



しばらく、じっと抱き合っていましたが、隣から絶え間なく聞こえる甘美な喘ぎに誘われるように、

ふらふらと立ち上がり、ベッドへ歩む私たち ・・・




先程から聞こえていた淫声がさらに情感を増して、切羽づまったものになりつつあります。



喘ぎが絶え間なく洩れ出るのも当然で、気がつかないうちに南さんが妻をお腹の上に乗せ、

交わりの様が先程よりも激しいものになっています。



これまで何度も目にしてきた光景だ。 

必然、両脚の角度が拡がって、大きな怒張が潤んだ女陰にすっぽりと呑みこまれていく様子がよく見える。



南さんの上に跨ったまま、時おり 体を後ろに仰け反らせる妻 ・・・


何か 支えになるようなものを求めようとするその仕草を見れば、

自分が今どれほどの悦びの最中にあるのか、自分にそれを刻みつけてくれる男にしっかりわかってほしいと、

訴えているようにも見える。



( 馴染親しんできた男の味だ。 

これまでの経験から、この後 それが我が身にもたらしてくれる悦びの程がよくわかるのだろう ・・・


あの時 経験した、意識が霞んでしまうほどの高みに連れていってほしいのだ・・・ )



そうこうしているうちにスラストが激しさを増してきて、南さんが淫芽を揉みながら下から剛茎を突き上げていく・・・



「 あっ、あぁぁ ……  そ、そんなの、だめ……っ! 」



たまらず妻が後ろに倒れ込もうとしますが、男の動きから逃れることはできません。



否応なく、せり上がってくる甘美な快感 …… 

体の奥が蕩けそうになった妻が、絶頂に届いた幸せを大きな叫びで伝えます。



「 あっ、あぁぁ…… だめ……ぇ  いっちゃう …… 」





このような歓極まった声を聞いていると、今 自分がどういう状態なのか、

その様を誰が見ているのか、そんなことはどうでもいいように思っているようだ。



多分、同じ女性に見られていることも忘れているにちがいない。

ただ、ひたすら・・ 男が腰を動かす度に押し寄せる快感だけが欲しいのだ。



「 理香さん、こんな風になるってことは、よっぽど気持ちいいのね 」



その声に、ハッとなった妻が私たちの方を見ます。



「 ねっ、理香さん、気持ちいいんでしょ? 」 



「 ああぁ ……  加奈子さん、そんなに見ないで … 」



「 気にしなくていいのよ。 私も、そうだったんだから。 主人のがいいのね 」



「 ごめんなさい。 でも、我慢できないの。 あっ、あぁぁ …… 」



「 そのままでいいのよ。 我慢なんかしなくても ……  



( 交わりの様を他人に …… ましてや、出会ったばかりの同性に見られる恥ずかしさ ……


男のものを受け入れている様を、その味を知り尽くしている女に見られることによって、

背筋がゾクゾクするような、なんとも言えない妖しい興奮が身体中を駆け巡っているのだろう )



「 こんな理香さん 見てると、小野さんもたまらないでしょ? 

記念に、あそこのカメラで撮っといてあげるね 」



「 どうだ? 久しぶりにこんな様を目にして、俺が夢中になる訳 よくわかっただろう 」



「 何だか、相性 ぴったりって感じね。 

言われるまでもなく、わたしより理香さんの方がお気に入りなんだって、よ〜く わかったわ 」



「 何を今さら、おまえも愉しんだくせに・・ とにかく、後でとやかく言われるの 嫌だからな 」



「 そんなこと言ってないで、もっと“いい女性”を悦ばせてあげたら? 」



「 自分だけイッて、高みの見物か? まぁ、いいだろう。 これから、この女性の可愛さがよくわかるから ・・・ 」



どうやら、他人と交わる妻の姿に嫉妬するのは、私だけではないようです。


加奈さんの言葉に勇んだ南さんが、妻を正常位の姿勢に戻し、

雄の本能をむき出しにした逸物を妻の膣奥深く打ち込んでいく ・・・



「 んくぅっ ……  いっ、いっ、いっ、 あぁ…っ、だめ〜ぇ …… おかしくなる〜ぅ! 」



深く、一突きされる度に女体が肉の悦びを刻まれ、蕩けるような甘苦しさが湧いてくる ……


段々とストロークの幅が大きくなると、顔を左右に打ち振り、悲鳴に近い声で喘ぎ始める。



「 あっ、あぁぁ ……  また、イっちゃう ……! 」



「 こっちも、もうすぐだ ・・ ! 」



私たちの眼前で、二人が極みに達する声が絡み合います。

見ている間にも 妻の顏の表情がうっとりとしてきて、受精を待ち望む牝の表情を呈している。





しかし、妻の願いを無視した刺突が凄まじくなると、眉根のしわが深くなってきて、

半開きの口元から苦悶に満ちた荒い息が噴き出る ・・・



最早ここに至っては、開き切った体ができることと言えば イクことだけなのだ。


男の貫きにすべてを委ね、自分の体を放り出している妻の姿を見れば、どうやら 悦びの限界を超えてしまって…… 

射精のことすら、もうどうでもいいように思っているように見える。



私は、妻へのたまらない愛おしさを感じながら、蟲惑的な女の姿に見とれていました。



そのうち、南さんの腰の動きが 次第に速まっていく。 明らかに、男が精を放つ直前の動きです。



今、この時、懊悩の快楽が続くためなら、妻はどんなことでも厭わないでしょう。

南さんに抱え上げられ 宙に浮いている足指の甲が反り返り、喉奥から射精を求める悲鳴があがる。



「 ああぁ …… あぁっー !  もう、出して、出してぇ―っ! 」



妻の悲鳴を終わりまで聞き届けることなく、南さんが思いっきり腰を突出し、

茎の根元を妻の股間にぴったりと密着させた。



「 あっ、あぁぁ ……っ! 」





心を通わせる男の奔走りを膣奥に感じながら、悦びの声を放つ妻 ……


絶頂に昇りつめた直後の体が、ぴくぴく震えている。







第八章 【“おしのび旅行”の二日目】

この後、私と加奈さんは自室に戻った。

しばらく戯言を交わしているうちに会話も途切れ途切れになり、やがて互いの気息も治まっていきました。



窓際が明るくなってきて隣に目を向けると、隣にいるはずの加奈さんの姿が見えません。


時計の針を見ると、まだ、朝の六時ちょっと前です。



( お風呂に行って、昨夜の痕跡をさっぱり洗い流そうとしているのだろうか? )



普段と違う寝覚めの後、そんなことを思いながらしばらくうとうとしていると、

加奈さんが静かにドアを開け、部屋に戻ってきた。



「 お風呂に行っていたんですか。 よかったでしょう? “旅風呂は三度”って言いますから 」



「 えぇ …… 」



昨夜のことが頭にあるのでしょうか、気恥ずかし気に俯いて 私と顏を合わせようとしません。



( この後、朝食が終われば、旅行に出かける前と同じ・・ いつもの夫婦に戻っていくだけだ。


初めて、私と情を交わした加奈さんの思いの程はわからないが、今一度、

彼女の気持ちを確かめてみようか ・・・ )



「 朝食が終わったら、いつもの夫婦に戻るっていう約束でしたが、このままお別れってのも、

何だか淋しいような気がするのですが ・・・ 」



「 そうですね … 」



「 加奈さんさえよろしければ、まだ、時間がありますよ 」



「 ん〜ん … でも …… 」



「 でも、何ですか? 」



「 同じ女ですもの。 奥さまのことも気になりますわ。 

理香さん、昨夜はあんなに乱れて、旅行中の素振りからは想像もできませんでしたわ 」



「 そんな風に見えましたか? 」



「 あの時、奥さまの姿を見ながら思ったの。 すべて忘れてなんて言うけど、そんなことできっこないって… 」



「 まぁ、お互い様だと 割り切っているとは思うんですが・・・ 」



「 だって、あんなに感じてしまうってことは、ご主人のことが忘れられない証拠でしょ?

小野さんだからこそ、どんな恥ずかしい姿を見られても構わないって思ったんじゃないかしら? 」



「 そう言う加奈さんだって、同じでしたよ 」



「 そうですね… 」



「 私にもわかりましたよ。 南さん、あんな風に強がり言ってましたけど、

内心は貴女のことがすごく気になっているんだって 」



「 それに、自分が嫌になりそうなの …  」



「 よく、わかりませんが ・・・ 」



「 昨晩、わたし、主人の前で駄々をこねたでしょ? 

そんな態度を見せながらわたしも同じことをすると、もう、これから主人に何も言えなくなりますわ 」



「 やっぱり、今朝は止めておきましょうか。 こんなこと、迷いがあったらしっくりいかないでしょうから。

また、次の機会を待つことにしますよ 」



「 ごめんなさい。 いい場所があるんでしょう? また、そこでご相談されたら?…… 」



( こんな風に言うということは、この先、私たちにどのような展開が待ち受けているかはわからないが、

少なくとも、男たちの交誼が続く限り、再び、同じような日を迎える可能性があるということだ )



その後、私たちは下へ降りて行ってバイキングの朝食をとりました。



食事の合間に短い会話が交わされますが、四人とも 流石に昨夜のことを口にする勇気はなく、

何事も無かったかのように振る舞います。



話が弾むという雰囲気に程遠いのも、昨夜、それぞれが連れ沿いの艶めかしい姿を見てしまったからでしょう。



私自身が、妻に見られていたかと思うと気まずい感じがするくらいですから、妻たちにしてみれば猶更でしょう。



そんな中でも、南さんと妻は、目線で思いを通じ合えるようです。


やっぱり、何度も肌を寄せ合った間柄というのは、一度だけのそれに比べると、
格段に違うのでしょう。



温泉泊まりの気怠さを引き摺りながら、ロビーでコーヒーを啜る四人連れ ・・・

この後は、それぞれ元の夫婦に戻って、二日目の旅行を楽しむことになっています。



「 これで、お別れですか。 昨夜は色々と・・・ ありがとうございました 」

私が、加奈さんに声をかけます。



「 いいえ、こちらこそ …… おかげ様で、楽しい旅行になりましたわ。

理香さんにもお礼を言わなきゃ …  主人がお世話になって …… 」



「 まぁ、お礼を言わなければならないのはこちらですわ。

どうやら、うちのも加奈子さんのことが忘れなれくなったみたいですから … 」



「 そうでしょうか? だったら、嬉しいですけど …… 」


加奈さんの顔が、僅かにほころぶ。



こんな会話を最後に、私たちは別々のマイカーに乗り込みました。




この後は、妻と二人で昨日と逆コースを回り、もう一泊する予定です。


いくつかの観光スポットを巡りましたが、

覚えているのは、日本でも珍しい二階建てロープウェイに乗ったことぐらい ・・・



助手席に妻を乗せ、ドライブを楽しみながらも、胸の底には何か重苦しいものがあります。



お互い、昨夜の狂おしい場面が胸に引っかかっていて、変にそれを意識する余り、

思っていることを上手く伝え合うことができないのです。



“おしどり夫婦”を気取って街中を歩いている間も、私たちが昨夜のことを口にすることはありませんでした。




その日の夜、妻がそっと布団に滑り込んでくると、私は思いっきり妻を抱きしめました。

妻の方も、それに応えてくれます。



今夜の妻はいつもとは明らかに違う感じで、こんな風に武者ぶりついてくるなんてことは久しくなかったことです。



夫の前で他人と情交した妻にとって、夫がそのことを口にしなかった時間はとても辛い時間だったのかも知れません。



しばらくじっと抱き合っていると、甘い香水の香りが漂ってきます。


「 この匂いで、南さんを虜にしたって訳か?」



「 いつもと同じよ。 いい匂いでしょ ? 」



「 南さんも以前と同じ匂いを嗅げて満足しただろう。

おまえも当分、南さんの匂いが忘れられないだろうが、いい匂いだったのか ? 」



「 いくら何でも そうだったとは言えないでしょ? でも、嫌な匂いじゃなかったわ 」



体の匂いについては、自分が持っているDNAと正反対のDNAをもつものに惹かれると言うから、

妻がそんな風に思うということは、遺伝上の交配条件が合っているのだ。


体の相性がぴったりなのも、何だか わかるような気がする。



ぽっと小さな嫉妬の火が点くと、一緒に歩いている間は控えていた言葉が自然と口から出てきます。



「 昨夜は、すごかったな 」



「 そ〜う? あなたも加奈子さんに夢中だったわ。 久しぶりよ。 あなたのあんな姿見たの … 」



「 そうだったな。 あんな風に可愛い声で鳴かれると、また、これからもって思ってしまうのはおまえも同じだろ? 」



「 いいじゃない? それで …… 」



昨夜以来、ずっと心の底に残っていた靄々したものが少しずつ薄らいできたのか、

それとも、これから始まる夫との営みを密なものにしたいのか、それはよくわかりませんが、


今夜の妻は私の言葉をはぐらかすことをせず、ストレートに応えてくれます。



妻の体を引き寄せると、彼女の胸が大きく波打っている感触が伝わってくる。



その大きな息遣いが表すもの・・ それは、瞼を閉じれば自然と蘇ってくる昨夜の光景なのでしょうか?


それとも、他の男に抱かれたすぐ後に、再び 別の男に抱かれる異様な興奮なのでしょうか?



少なくとも、思いを寄せた男が去って、否応なく夫との現実に戻ってしまう空しさではないような気がします。



私は、執拗に愛撫を重ねながら妻の体の変化を探り、心持ちを確かめていきます。



「 それで、当然、今朝もしたんだろ? 」



「 う ん… 」



妻が、短く答えます。



こんな返答をぽつりと呟かれると、きっと、私がそのことを加奈子さんにもちかけ、

やんわりと断られたことも影響しているのでしょうが、やりきれないものがあります。



彼女の拒絶が、別室で過ごしている同じ人妻への思いやりからきていることは、他ならぬ私がよく知っています。


なのに、南さんの申し出をすんなりと受け入れた理香・・・



すると、次に訊きたくなるのは、私たちが引き上げてから妻が南さんと二人っきりで過ごした時間のことです。



「 それで、二日間で、何回したんだ ? 」



「 終わった後、いつもそのこと訊くのね。 そんなこと訊いてほしくないんだけど、言わなくちゃいけないの ? 」



「 都合の悪いことでも、隠し事をしないって約束だっただろう?  言えよ 」



「 う〜ん …… 四回よ… 」



三回までは計算できるが四回となると ・・・ あの後、私たちが部屋を出てから朝方までにもう一度交わったことになる。

助手席で、気怠さを引き摺りながらぼ〜っとしていたのも頷ける ・・・



複雑な思いはありますが、それを胸奥に閉って妻の上に覆い被さります。


亀頭が膣口を拡げると、加奈さんの時と同じようにずるっと引きこまれる感触があり、

熱いぬめりが私を満たしてくれる。



更に奥を求めて茎をすべらせていく・・・ すると、妻の手が私のお尻に回ってきます。



私は両手で上体を支えながら、緩やかな動きを刻んでいく・・・


でも、昨夜のことが意識の底にあるせいか、加奈さんと交わした程は口から睦言が出てきません。



( 夫に求められるままに、悦びを求める女になりきってあげたのに、

そのことが終わったら、夫の心の底に嫉妬の灰汁が溜まっている なんて…… )



もし、妻が私の心の内を覗いたなら、やりきれない気持ちになるしょう。


そんなことを思いながら動きを激しくしていくと、背中に回った妻の腕に力がこもってきます。



そのうちに、妻が叫ぶ。



「 あぁぁ…、 あなた… きて、もっときて〜 ! 」



こんな風に叫ぶということは、明け方の交わりに比べ、量感と迫力に乏しい私のものに

物足りなさを感じているのでしょうが、


朝方抱かれた同じ日に、再び別の男に抱かれる興奮が妻を淫らに変えていきます。



「 ねぇ、もう、ちょっと奥の方まで …  あぁ … そ う …… 」



今、スラストされている感覚が、昨夜と同じものに変わっていくことを願って妻が腰を振る・・・


やがて、交りを終えた夫婦の大きな息遣いが部屋の中に漂います。



“おしのび旅行”の二日目・・・ その夜の交わりは、これまでにないほど激しいものでした。



終わった後、妻に対するたまらないほどの愛おしさを覚えましたが、

今で思えば、その夜の交わりは男の本能に根差すものではなく、

妻の所有権をその体にしっかり刻み込むための行為だったように思えます。



果たして、妻の方もこのような夫の歪んだ愛を理解し、生活を共にする幸せを感じてくれたのでしょうか?






【終わりに】

妻と褥を共にする回数がめっきり減り、反比例するかのように妻の男性経験が増えてくると、

こんなことを始めた最初の頃が懐かしくなってきます。



最初のうちは、妻の方も「 約束… ちゃんと守ってね 」と、私の心が離れないように念を押したり、


千々に乱れがちな心に不安を覚え、「 わたしの心をしっかりつなぎ留めていて… 」と、

縋りついてきたものです。



私の方も、妻が嫌がるようなこと・・・ 

例えば、アブノーマルな性戯を強いたり、卑猥な言葉を使ったりすることは避けてきました。


それに、妻が男のものを口にできない理由も、敢えて尋ねようとはしませんでした。



でも、こんな風に自分の心に何らかの縛りをかけてしまうと ・・・

「 ジェンダーを尊重して、性に関するプライベートな部分やお互いに差し障りがあるところには触れないでおこう 」

というスタンスが固まってしまいます。



その結果、微妙にずれがちな互いの想いを修復する必要性が生まれてきて、

これまで私たちはお互いを気遣い、思いやりながら「夫婦の日常」を保ってきたのです。



しかし最近、禁断の行為にすっかり慣れきってしまうと、それまで大切にしてきたことが

綻んできたような気がします。



「 他人の愛撫に身を委ね、淫らな姿を見せても、互いに交わした“約束”を守ろうとしているだけなんだ… 」


と努めて楽天的に考えようとしても、エスカレートする一方の自分の姿を見れば、

南さんのみならず、妻の男性関係がこの先どのように転んでいくのか、その先が読めなくなってきます。



こんなこと、言わずもがなのことですが、妻が他の男に抱かれて得るものは、

他人に体を開く背徳の甘さと意識がどこかへ消し飛ぶような官能の悦び……


そして、私が得るものは、大切なものを汚され 失ってしまう ・・・屈辱と自虐の歓びなのです。



この先ずっとそんなものを求め続ければ、そんな日は迎えたくはありませんが 、

いつの日か、腰を据えて話さなければならない日がやってくるのかもしれません。



( そのうち、最も大切な“約束のピース”までも剥がれ落ちて、別模様の新たなピースが

妻の懐深くしまい込まれるのではないか? )


と思うことがしばしばです。



しかし、ここまできてしまうと、歯止めをかけるのは もう無理なような気がします。



仮に、私が今までと比べようがない孤独な毎日をおくることになったとしても、

それは、それで仕方がない・・・  


こんな風に、腹を括っている昨今です。





−完−