● 他人妻の憂い


【はじめに】

良人が見ている前で他人と交わる不貞・・・ 

魔性の興奮に胸を震わせながら、やがて、怒張しきったものが押し入ってくると、甘い悦びが兆してきて喘ぎの声を洩らす妻・・・


こんな妻の姿を密かに思い描くのは、私だけなのでしょうか?



私の名前は、小野まさお、 妻は理香・・ 二人とも職種こそ異なるものの、公に奉仕する仕事に就いています。



私に限って言えば、40歳の半ばを過ぎてからこのような禁断の世界にのめり込みました。

その後もその時の興奮が忘れられず、人知れずこっそりと淫らな行為を繰り返す私・・・



自然と、このようなことを意企する自分を卑下してしまいますが、自分のために一言弁明すれば・・・

セックスがとても大切な愛情表現であることは疑いないところですが、私の場合はちょっと変わっていて、

妻が他の男に抱かれている姿を見ることによって、一層 彼女への愛情が深まるのです。



世間の良識ある方は、禁忌の行為、人倫を踏み外した行為とその異常性を指摘されると思いますが、

妻を愛しているからこそ、他人に抱かれる彼女の姿を見てみたいと思ってしまうのです。



とにかく私にとっては、妻を私以外の他人に抱いてもらう行為は、この上ない喜びなのであり、妻に対する究極の愛情表現なのです。



あられもない姿を夫の目に晒し、その不貞を苛むように容赦なく貫く他人の勃起・・・

そのうち、官能の渦に身を委ね、愉悦の極みを迎えてしまう妻・・・



性癖が昂じて、理性が麻痺したような状態になっていることは間違いありませんが、

その魔性の快楽が忘れられず、続きを求めてしまう私・・・



今回もまた、私から誘いかけられるままに、妻が他人のものを受け入れた件を綴ります。






第一章 【馴染の居酒屋】

金木犀の甘い香りがそことも知らず漂い、庭先のいたる所でコスモスが薄ピンクの花を咲かせています。



こうして、季節がめぐってくると、時がゆるやかに流れていくのを実感し、以前に何事もなかったような気がしてきます。



あれ以来、妻の日常生活に変わりはありません。


めくるめく一夜が過ぎ去り、再び平穏な日常生活が戻ってくると、妻も安らぎを覚えるのでしょうか、

それなりに私との時間を楽しんでいるように見えます。



クリップボードに留められたレシピを見ながら、甲斐々しく台所で働くエプロン姿はいつもと同じですし、

週休日になると、人形教室と料理教室に通っていることも変わりありません。



しかし、人は「忙中、閑あり」の状態が一番良いのでしょう。

私のように、それが逆のような状態になると、ついつい良からぬことを考えてしまいます。



ある一定期間が過ぎると、あの時の興奮が蘇ってきて、その欲望を満足させてくれる処方箋が必要になってくるのです。

そして、その薬は私が服用するのではなく、妻に飲ませて・・ 薬効の程を確かめるのです。




この時から遡って、約二ケ月ほど前・・・ 

電車通りに面した居酒屋で、ママの久美子ちゃん、そして南さんと私の姿があります。



南さんとの情事は、「他人と朝を迎えた妻」に綴った通りですが、それから後も・・・

私と南さんの関係はますます親密になっていきました。



数奇なご縁で知り合い、そして、ただならぬ仲になった者どうしがどのような会話を交わしているのか、お聞きください。



「あの後、帰り際に妻が何か言っていませんでしたか?」



「何かって・・?」



「いや、あの・・・ 機会があったら、また逢いたいって・・」



「流石に、それはないでしょう。 もしそうなら、そろそろ貴方がその気配を感じ始める頃でしょうから。」



「そうですか。 でも、こうして貴方と話していると、『どうぞ、お好きなように・・』って、

言っても構わないような気がしてきますから不思議ですね。」



「いやいや、この次があるかどうか、それは貴方次第ですが、私の方から好んで手を出すつもりはありませんから・・・」



これまで、私しか知ることがなかったものを味わい、私が大切に温めてきたものを共有した男……

妻が密かに彼に思いを寄せていることも、それとなくわかっています。



先々のことはわかりませんが、多分、これからも妻を彼に抱いてもらうことがあるように思えます。



妻を仲立ちにして、のっぴきならぬ縁で結ばれてしまった男どうし、何か通い合うものがあります。



「何だか、楽しいことをなさったみたいですね。」



「う・・ん  ちょっとね。」



「南さんと、ただならぬ間柄になってしまったようですが、奥様が可愛そう・・ 」



「人が悪いなぁ、聞いていたんですか? 

でも、その分だけ、小野さんの愛情が深まるんだから・・ 奥さんだって幸せですよ。」



「まあ、南さんたらひどい・・ だから、名人芸をお持ちの方を相手に選んじゃダメなのに・・」

ママが、微笑みながら私に語りかけます。



流石にそれ以上のことは、ママに聞かれると差し障りがあるので、私たちはボックス席の片隅の方へ行って話を続けます。



「そろそろ、いつもの癖が疼いてくる頃じゃないですか? 小野さんの場合、お相手を探すのに色々と苦労するでしょう。

貴方のような社会的地位がおありの方が、ネットを使わずに好みの男性を見つけるとなると・・」



「そうですね。 レインボーフラッグのように、大っぴらにする訳にもいきませんしね。」



「何ですか、 それ・・・? 」



「“虹色の旗”のことですよ。 アメリカのある州では、この旗を公然と窓口に掲げて、レズやホモの正当性を主張しているんです。」



「本当ですか? でも、それとこれとは別でしょう。
 

夫婦間のタブーを破って、世間では許されないことを行う訳ですから・・ 

そんなこと、大っぴらにしたら、この辺りに住んでいけなくなりますよ。」



「そうですね。 南さんは、色々とその道に詳しいようですから、いい方法があったらまた教えてください。」



「手っ取り早いのは、デリヘル風に出張ホストなどを使うことですが・・ 」



「女性と肉体関係を結ぶだけでお金がもらえるなんて・・ 男性なら誰でも憧れる夢のような副業ですね。」



「いやいや、そうでもなさそうですよ。 ラブホテルへ行ってみたら、厚化粧をしたおばさんが現れたりして・・

小野さんの場合、奥様は太鼓判なんですが、ホストが余り若すぎても貴方が気に入らないでしょうしね。」



「よく、お見通しで・・・ 」



「それに何より、相手の男が、貴方に見られながらセックスすることを了承するかどうかが、ネックになりそうですね。」



「そうでしょうね。 私が逆の立場だったとしても、余り、歓迎はしませんから・・・ 」



「そう思うと、どれだけ奥さんに感謝しても、感謝し過ぎるってことはありませんよ。」



(そうかもしれない。 本来、受け入れられるはずがないことがここまでまかり通ってきたのだから・・・


でも、もっと遡って、私自身が、自分の心に憑りついた妄執を打ち消す意思の強さを持っていたならば・・・

そして、妻も断固として私の申し出を拒絶する身持ちの固さを持っていたならば・・・

このような道に足を踏み入れることもなかっただろう。


しかし、妻の身持ちのことを取り立てて、責める気はない。 

慎ましく、気品に満ちた良妻の貞操を“なし崩し”にしてしまったのは、私なのだから・・・)




しばらく空いた会話をつなぐように、南さんが私に尋ねます。



「ところで、ずっと前の話ですが、以前、私が紹介した寺村とはその後どうなっていますか?」



「いや、その節は、随分とお世話になりました。 その後のことは、どうもこうもなく、それっきりですが・・」



「奥さんは、その時、どんな風に思われたのでしょうね?」



「そんなこと、あからさまに私には言えないでしょう。 でも、何となく、妻とは肌が合わなかったようで・・ 」



「そうですか。 具合がよかったら、私じゃなくて彼が奥さんのお相手に選ばれているはずですよね。」

「貴方が求める条件に合いそうな奴が一人いるのですが、どうですか?」



「色々と持ち駒が豊富なようですが・・ どんな方ですか?」



「いやぁ、この道には私とよく似たような者がおりましてね。 私の方から、話をもちかけることはできますよ。

そんなにつき合いは深くないのですが、多分・・ あなたの申し出を断らないと思います。」



「どうして、そんなことまでわかるのですか。」



「小野さんも、そのうちわかってきますよ。 

よく似たことを経験していると、話の端々から何となくそんな匂いを感じるものです。」



そんな話を聞くと、この道に踏み込むきっかけとなった南さんとの馴れ初めを思い出します。



あの時、初めて・・・ 南さんを選んだ私の目に狂いはなかった。

そして、その時の経験を糧にその後も温泉場やスナックで何回か、見ず知らずの男性に妻を抱いてもらった。



「経験は、知恵の父」と言われるが、同じようなことを繰り返しているうちに、私も、段々とその“匂い”がわかるようになってきた。



同時に、妻も、狂おしい官能の記憶をひも解きながら、強かになってきた。 「記憶は、知恵の母」なのだ・・・



会話の合間に、そんな思いが頭を過るが、再び男どうしの会話が続いていきます。



「随分と、妻にご執心なようですね。 何だか、妻がいろんな男と経験を重ねることを願っておられるような・・・」



「いやっ、そんな訳じゃないのですが、貴方には色々とお世話になって・・・」



「私の方こそ、お蔭さまで色々と勉強させてもらいました。 

貴方を信用していない訳ではありませんが、こんなことは、余り間に人を挟むものじゃないって・・・ 」



「はは、まったくもってその通りです。 ご自分で苦労されて、男を漁るってのもいいじゃないですか?


奥さんのお相手は、私のように貴方に近い男ではなくて、馴染の薄い方の方が、格段に興奮しますからね。


今度、近々、某所でそのパーティがあるのですが・・ どうです? 一度、奥さん同伴で・・・」



「いやっ、せっかくのお申し出ですが、妻と話し合って、大勢の人と交わることはしないでおこうと決めてあるのです。」



「そうですか? まぁ、時が経てば、何かの弾みでそんな時がやってくるかもしれませんから、

また、よろしければ声をかけてください。」



こんな経緯を辿って、せっかくの南さんの申し出をお断わりして、妻のお相手を自分で探すことになりました。






第二章 【新たな出会い】

ネットや風俗店を使わないとなれば、これまでの経験からお相手が見つかる可能性が高いのは、

温泉場の宿泊客やスナックの常連客なのですが、そんなに足繁く通いつめる訳にもいきません。



個人的な伝手を使わないで、そして私たちの生活圏から程よい距離を置いた男を探し出すとなると、

南さんが言った「同類の輩は、話の端々からそんな匂いがする。」という言葉を頼りに目星をつけるしかありません。



(リスクが少なく、それでいて刺激的な興奮を求めているのだから、少々 時間がかかったり、気苦労があったりしても当然だろう。)




そんな風に腹を括って、周りの男を意識し始めてから二月ばかり経った頃、私の前にある男性が現れます。


私との接点は、妻に勧められて、週二回 通うようになったパワージム。



「そんなに、激しいエクササイズは後回しにして、初めは心臓から遠い方の筋トレから始められた方がいいんじゃないですか?」



「そんなものですか? 何しろ初心者でして・・ 少しでも効果的に筋力アップができたらと思って・・」



「私も最初のうちはそう考えていたのですが・・ 何も、ボディビルダーのような体になりたい訳ではないんでしょ?

普通に生活している一般人にとって、そんな過激な運動は必要ないと思いますよ。」



汗だくになってベンチプレスをしている私に気安く声をかけてくれたのは、40歳を少し過ぎた風に見える男性でした。



私よりは、トレーニングを積んだ期間が長いのでしょう。見事な逆三角形の上体から逞しい上腕筋が伸びています。



その男性の名は、朝岡 輝樹(仮名)  


トレーニングジムに通う時間帯が偶々私と同じだったこともあって、朝岡さんは、その後も未熟な私に色々とアドバイスをしてくれました。



足腰を強くするのに効果があるスクワットは、ダンベルなどのウェイトを持って激しく行なうこともできるが、

それよりも体重の負荷だけで、回数を多くしてゆっくり行なった方が効き目があること・・



筋肉は、練習することによって増強されるように思えるが、実際はそうではなく、

使うことによってある程度損傷し、次に同じ負荷が掛かっても耐えられるような修復機能をはたらかせること、など・・



話の内容から彼の知性を窺い知ることができますし、にっこりと笑いかけながら語りかけてくる彼の態度に、

私が好感をもったのは言うまでもありません。



そして、そのうち私たちは、エクササイズが終わった後に、一杯やって帰るような間柄になりました。



汗を流し終えた後は、それまで心の中に淀んでいた醜悪な妄想が霧散して、とても爽快な気分になります。



こんな風になると、ジムへ通うのがとても楽しくなってきます。

練習を始めてから一ケ月くらいは、そのことは、完全に頭の中から消え去っていました。



でも、ある日、いつものように練習を終えてから、隣どうし連れ立ってシャワーを浴びていた時、

偶然 彼の股間のものが目に入ってきたのです。



萎えているはずなのに、常人に比べ並外れた大きさの陰茎・・・ 

艶めかしい曲線を描いて形よく膨らんだ亀頭・・・



その先が、太腿の中ほどにまで届いており、私の目は、水滴を垂らしているものに釘付けになりました



こんな逸物を目にすると、もう堪りません。 それまで私の心に封印されていた淫靡な妄想が鎌首をもたげてきます。

当然のことながら、それが妻の体に押し入っていく場面を想像してしまうのです。



(今日は、思いがけず、惚れ惚れするようなものを見てしまった・・・ 

人品と言い、持ちものと言い、俺が探している男にぴったりじゃないか?)




それでも、一ケ月ほどはその妄想に蓋をし、逸る思いを抑えていましたが、

矢も楯もたまらなくなった私は、とうとう朝岡をまだ一度も訪れたことがない居酒屋に連れ出します。



南さんとの馴れ初めと同じように、お酒を酌み交わしながら、盛り上がってきたところで冗談半分に切り出すつもりです。




「ところで、朝岡さん、私みたいな暇人になると、どうしてもPCを弄ったり、
TVを見たりする機会が多くなってくるんですが、

今、BSじゃ、韓流ドラマが花盛りですよね。 あんなの、お好きですか?」



「お年寄りの方にファンが多いってことは知ってますけど・・ あんな恋愛や不倫ドラマに興味はありませんよ。」



「そうでしょうね。 ところで、今おっしゃった“不倫”というのは、女性はもちろんでしょうが、

男にとっても魅惑的な言葉だと思いませんか?


誰にも知られたくないことを、こっそり行うスリルと興奮・・・ 男なら誰でも、一度は経験してみたいと思うでしょう?」



「そりゃ、そんな機会があれば拒みはしませんが、相手がいることですしね・・・ 」



「どうですか? もし、朝岡さんさえよろしければ、私の家内と一度その関係を愉しんでみませんか?」



「えっ、藪から棒に・・ どうしたんですか? 急にそんなことを言われて・・・ 」



「いや、まだ、酔いが回ってきた訳ではありませんよ。 

実は、私には、妻を他の男に抱いてもらうことに興奮するという、妙な癖がありまして・・

恥ずかしい限りですが、こうしてお近づきになれたのも何かのご縁じゃないかと思って、腹を割ってお願いしているのです。」



「貴方からそんな話を持ちかけられるなんて思ってもみませんでしたよ。 余りにも唐突で、何て答えていいのか・・・」



「突拍子な申し出であることは、承知の上です。よく考えていただいて、お気に染まないなら、お断わりしていただいても結構なんです。


私の目利き違いじゃないと思いますが、貴方だったら私の願いを叶えてくれそうな気がして・・・」



暫くの間、じっとグラスを見つめながら考え込む朝岡・・・

(私より幾分、年下なので、これから彼のことを「朝岡」と呼ぶことにします。)



このようなことは、自分なりに目星をつけ、ある程度の感触を得たつもりで誘いかけているのですが、

返答に要する時間がこれくらい長いとなると、これまでの経験上、大概はノーです。



そのうち、朝岡が顏を上げ、私の申し出に答えます。



「どうも、そんな風には見えないのですが・・・ 

お会いしてからそんなに長くないおつきあいなのに、よくそんなことまで私に打ち明けられますね。


そんなことされて、奥様のこと、不安にならないのですか?」



「そりゃ、私にも色々と不安はありますよ。 こんなこと、貴方に打ち明けない方がいいのでしょうが・・・

後で、その時、断っていただいた方がよかったと私が思うようになるかもしれません。 


男女のことは、先が見えませんから・・ 」



「・・・・」



「どうやら、ご無理を申し上げたみたいで・・ 

済みませんが、この話、お酒の所為だということにして、聞き流していただけませんか。」



「仮にですよ。 私が貴方の申し出をお受けするとして、そのことを奥様はご存知なのですか?」



「まだ、妻には話してはいませんが・・ 多分、貴方だったら、嫌とは言わないだろうと思います。」



「小野さんって、表面づらとはまた違った一面があるんですね。 

お会いしてから数ケ月程度の男に、よくそんなことまで打ち明けられると感心してしまいますよ。

私だったら、断られた時のことを思うと到底言えませんが・・・


でも、貴方が私を信頼してくださって、気恥ずかしいことを打ち明けてくれたことはわかります。

のですから、ストレートに言いましょう。 私だって男盛りです。そんなことを経験してみたい気持ちはあります。」



「朝岡さんにも、好みがおありでしょうから、今度、飲む時に理由をつけて妻を迎えに来させますから・・ 

“品定め”をしていただいて結構です。」



「いやいや、小野さんの奥様ですからきっと素敵な女性でしょう。 喜んで、お相手をさせていただきます。

それに、ここで私がお断りして・・ ずっと靄々したものを引き摺っていくってのも、お互い嫌でしょう?」



意中の男性からこのような回答をいただいたとなると、少なくとも1〜2ケ月後に、興奮の夜を迎えることは確実です。



水割りのグラスを傾けていると、脳裏に・・・

極限状態にまで勃起した怒張を秘芯に宛がわれながら、うっとりと目を細め、それによる貫きを待ち望む妻・・

射精の瞬間・・ 男の腰が沈むと、それに合わせるように自らの腰を浮き上がらせる妻・・


こんな妻の姿が思い浮かんでくると・・ 股間のものが、じわ〜と熟れてきます。






第三章 【官能の記憶】

果たして妻は、私が勝手に取り決めたことをすんなりと受け入れてくれるでしょうか?


これまで、そのことを妻に打ち明けた時、妻が言ったいろんな言葉が頭を過ります。



「あなた以外の男性が、私の体を通り過ぎていく度に、わたし達の約束が色あせてくるように思えるの。」



「もう、元に戻れないことも、急にストップできないことも、自分で分かっているの。

ここまで来たんでしょ? もう、あなたの申し出を断る理由なんてないわ。」



このようなことを始める前に、確かめ合ったこと・・「二人の約束」が根っこにあることは間違いないのですが・・

次第に変わっていく妻の様子を見ていると、固く誓ったはずの約束も線が細くなって、頼りないもののように思えてきます。



こんな風に思っているのは、私だけではないでしょう。


妻にしても、表向きは私の申し出に従順な風を装っていますが、

この前、夫という存在がない隣室で甘美なひと時を過ごしたばかりです。



私の目を気にせずに、思いっきり官能の世界に身を委ねたいと思っているのかもしれません。



(もしかして今となっては、互いに誓い合ったはずの約束までもが、心の重荷になってきているのでは・・?)



こんなことを思うと、男の印を目にして頬を赤く染めたり、愛撫を受けながら小さな喘ぎを洩らしていた頃が懐かしく思えてきます。



今のところ、私と話している最中に着信音が鳴り、アドレスを見て表情が一変するようなことはありませんし、

夕方以降、家を空けるようなこともありません。



妻が特定の男性と逢瀬を愉しんでいるような風は見られないのですが、

心の奥底では・・ 夫の愛を変わらぬものと信じながらも、それとこれとは別ものと割り切って、

意中の男性に体を預けて、再び、身を焦がすような体験をしてみたいと密かに願っているのかもしれない。



(もし、そうだとしたら・・ 恥態を晒す妻の傍で、交わりの一部始終を見届けている私は、何て罪なことをしているのだろう・・・)




ある夜、私は久しぶりに妻と臥所を共にします。

やはり、そのことを妻に打ち明けるのは、夫婦の営みを始める頃合いが良いのでしょう。



私は、その後 妻と南さんが逢瀬を重ねていないことがわかりきっているのに、わざとそのことを妻に尋ねます。



「南さんとのことが終わってしばらく経つけど、その後 彼に会ったことある?」



「どうして、そんなこと訊くの? わたしを見ていれば、わかるでしょ。 そんな訳ないじゃない?」



「ちょっと、聞きづらいんだけど・・・ おまえもたまには、今までお相手してもらった男性のことが思い浮かぶことあるんだろ?」



「また、悪い虫が騒ぎだしたのね。 それはわたしだって、女だもん。 時にはそんなこともあるわ。」



「へぇ〜 そう、 どんな時・・・?」



「あなたに抱かれて、目を閉じていると・・・ 時々、他の男の人の顔が思い浮かんでくることはあるわ・・・ 」



「そんなこと、初めて聞く話だな。 まぁ、俺にとっては、嬉しいことだけど・・・

それで、そのお相手のことなんだ。」



「もう、南さんは嫌よ。」



「二度も抱かれたのに、もう“お払い箱”ってことはないだろ? 」



「そうじゃないの・・・ だって、これから先、あんなことが続くと自分がどうなってしまうかわからなくなるもの。


そのまま、ずるずるいってしまいそうな自分が怖いの。 そんなわたしの気持ち、あなたにはわからないと思うけど・・・ 」



「よく似た思いは俺にもあるよ。おまえが他の男に抱かれる度に・・

嵌ってしまって、いつの日か離婚を迫られるのではと、不安に思うことがあるんだ。」



「離婚……? へぇ〜 そんなこと、考えてるんだ…… もし、もしもよ、わたしに誰か好きな男性ができたとして・・ 

その男性といっしょになりたいって言い出したらどうするの?


妙に落ち着いて、黙ってわたしを見送るの? それとも、取り乱して『そうしないでくれ!』って引き留めるの か な?」



「それは、そのようになった経緯によるけど・・・ 多分、引き留めると思う・・・」



「でも、そんなのって・・ 余りにも、自分がみじめったらしいと思わない?」



「仕様がないさ。こんなこと、始めたのは俺なんだから・・ それでいて、おまえに傍にほしいと思うのなら・・・」



「そうでしょ? やっぱり・・・ だから、無理を聞いてあげてるの。」 



「しかし、だな・・・ 俺達の約束があっても、体の相性ってものがあるだろ?

そのことが俺の頭から離れないのと同じように、馴染具合が抜群の男性だったら、それを我慢しているのは辛すぎるだろう?」



「そうね〜ぇ、もしもの話だけど・・ 私が誰かさんと深い関係になったら、わたしの方からきちんとあなたに言うわ。


しばらく、あなたのところへ帰らないって・・」



「それから、どうするんだ?」



「わかんない。だって、南さんにもわたしが知らないところ、いっぱいあるもの。 じっくり考えてから、結論出すと思う。」


   
「おい、おい、再婚の相手は南さんかよ? 今度のお相手は彼じゃないから心配しなくていいよ。

朝岡と言うんだ。 この前、車で迎えに来てくれた時、会っただろ?」



「あなたが、何時にも増して深酒した時でしょ? ジムで知り合った友達だと紹介してくれたけど・・ 

あの時、ちょっと変に思ったわ。」



「へぇ〜、どんな風に?」



「帰り際に、あなた、『つまらないやつですが、またよろしくお願いします。』って言ったの、覚えてる?

その時、あっ、この言葉どこかで聞いたことある・・って、思ったの。」



「すごい記憶力の持ち主なんだな・・ それで、そのことだけど、おまえさえ嫌じゃなかったら・・・」



それから私は、パワージムで彼と出会った馴れ初めやその後親しくなった経緯などを妻に話しました。



「若い割に人情味があって、いい奴だよ。

それからさぁ〜、こんなこと、俺が勝手に仕向けたことで、言えた義理じゃないんだけど・・ 

彼の了承は、もうもらっているんだ。」



「こんなこと、いけないことだとわかっているのに・・ 強引すぎることもね・・・

でも、そんな風に言われて、あなたの申し出を断りきれない自分が嫌になるわ。」



「素敵な男性だよ。 人柄もいいし、体の方もジムで鍛えているだけあって、おまえをがっかりさせたりはしないよ。」



「それで・・・ この前みたいにあなたと別々になって、私が出かけていくの?」



「おまえを、“通い妻”にはしたくないんだ。 いつもと同じように、傍に居させてもらうよ。」



こうして、近からず遠からず、顔見知りではあるが、私たちと適度の距離を置いた魅力的な男性が、

妻と合歓のときを迎えることになりました。



男が惚れ惚れするような筋肉質の胸に顔を埋める妻・・

そして、あの逞しい腕で腰骨を引き寄せられ、並外れた剛茎による貫きを否応なく受け入れてしまう妻の姿が浮かんできます。






第四章 【甘い陶酔】

交わりの最後に、妻が言った言葉…… 「今夜のこと、記念にとっておきます。」 
それほど、妻にとっても印象深い体験だったのでしょう。



妻の言葉通り、その記念すべき日を書き留めておきます。

平成24年10月27日(土)  市内から1時間ばかり離れた某シティホテルの一室・・・



朝岡が妻の後ろに寄り添い、胸脇を潜らせた両手をたすき形にして、妻の乳房を抱きしめています。



「旦那さんを前にして、こんなこと・・ 奥さん、初めてじゃないんでしょう?」



「さぁ、どんな風に見えます? もし、そうだとしたら、そんな女はお嫌ですか?」



乳房を背後から抱きしめる朝岡の手に、そっと自分の手を重ね合わせながら、妻が答えます。



「いや、この前、貴女にお会いした時からずっと思っていたんです。 

もう、しばらくすると、貴方が身に着けているものを私の手で剥がす日が来るんだって・・・」



「でも、主人が傍にいること、気になるでしょ? 」



「実は、『不倫を愉しんでみませんか?』ってお誘いを受けた時、てっきり、奥さんと二人だけでと思っていたんですが、

後からご主人にお願いされて困っちゃいました。


でも、こんな素敵な女性を抱きしめていると、そんなこと、どうでもよかったように思えてきますよ。」



「まぁ〜 お上手・・・ でも、“見かけ倒し”ってこともありますわ。」



「そんなことありませんよ。 奥さんの方こそ、私に抱かれている姿をご主人の目に晒すなんて嫌じゃないですか?」



「そんな意地悪、おっしゃらないで。 今夜は、朝岡さんの好きになさってくださっていいですよ・・・」



「奥さんも、結果的にご主人の申し出を承知されたと言うことでしょうから、密かに心に思い描いていたものがあるでしょう。

今夜は、その思いを叶えてあげますからね。」



「そんな風におっしゃられると、ちょっと怖いわ。 期待外れになったらどうしようって・・・  」




傍で聞いていると、二人の会話が随分と長いように思えます。

でも、お互いのことをまだよく知らない男女が交わるような場合、限られた時間の中で、

その距離を幾分でも縮めたいと願うのは当然なのでしょう。



(無理もないだろう。この前、一度 顔を合わせたきりなのだから・・・

妻にしたって、朝岡の問いかけに妙にフイットしたように応えているのは、それだけ期待するところがあるのかもしれない。)



こんな会話を聞いていると、この前、妻が言っていた言葉を思い出します。



「その時ね・・ その男性がじっとわたしの目を見つめてくる時たまらないわ。

何だか、これから自分が淫らなことをされて、変わっていくんだって思うと胸がどきどきするの。」




そのうち、互いの気心が通い合ってきたのか、双方が待ち望んでいるひと時が訪れます。



自分の手が朝岡の腰に回って、自分の方へ抱き寄せていることにすら気づかない妻……


うっとりと目を閉じて、舌を絡み合わせていると、とろけるような感覚が全身に広がっていって、

ぼぉ〜っとしてくるのでしょう。



朝岡が、妻の耳元に口を当てて何かささやくと、羞恥で妻の頬が微かに染まっていきます。



何もされていないのに・・・ 多分、淫らなことを言われて、それだけで体が感じてしまうのでしょう。



そんな様子を見ていると、夫に見られて恥ずかしいという理性が、

男によってそそられる淫欲に完全に圧倒されてしまっていることがわかります。




柔らかに丸みをおびた乳房・・ 甘く蕩けるような唇・・

朝岡はそのすべてを堪能し尽くしてから、キャミソールの肩ひもを外していきました。



そして、後ろから妻の背中に寄り添った姿勢で、片方の手をスカートの中に滑り込ませていきます。



夫への不貞と官能への誘いの狭間で、中途半端に開かれた両腿を掻い潜った指先が、妻の敏感な部分を愛撫し始めます。



薄布に隠蔽され、私が窺い知ることができないスポットで、指戯が施されつつあるのでしょう、妻の体がびくんと震えます。



「あっ!あぁっ…… だめぇ〜っ!」



私以外の男の指先が潤った秘部を侵していることを想像すると、次第に興奮が高まってきて、

妻の短く切ない喘ぎが、その興奮に拍車をかけます。



(その指先は、私のとは異なって、男の本性を込めた特有のタッチで、妻の秘部を愛撫しているに違いない。)



狂おしげに体を捩る妻の姿態を見ていると、私の胸もどきどきしてきて・・・ 早くその先に進んでくれと願わずにはおられません。



こんな思いは、私より妻の方が数倍強いのでしょう。


朝岡が為すがまま、身を委ねていた妻でしたが、そのうち、自分からスカートのフックを外していきます。



すると、朝岡が妻の背を抱いてベッドに横たえ、添い寝するような形で向き合いながら、妻のショーツを下ろしていきました。



やや遠目ながらも、その下に連なる陰裂の在処を示すようにふっくらとした恥丘が露わになり、

朝岡が、膝を持ち上げて淫裂へ唇を這わせていくと、妻は堪えきれずに腰を捩らせます。



さらに、舌を滑らせながら、その上にのぞく珊瑚色の“つぼみ”を愛撫していくと、妻の顔が歪んできます。



「あぁぁ… そんなぁ…… そっ、そこは……… 」



女体の官能は、男のそれに数倍すると聞いたことがありますが、普段は慎ましく姿を隠しているそれも、

こんな風にされるとたまらないのでしょう。



「そんなこと、されちゃうと……… だめぇ……… 」



そう言いながらも、朝岡の頭を抑えつけ、襲ってくる快感を逃がさないようにしているようにさえ見える妻………



最も敏感な部分は大粒に膨れあがり、女体に官能の波を送り続けているのでしょう。

おとがいを見せながら大きく仰け反り、時おり、ピクン、ピクンと波打つ妻の姿がとても卑猥です。



「あぁ……… っ!」



そのうち急に、甲高い声が走り、妻の身体が大きく反り返った。



思わず目をやると、朝岡の手が女陰に伸びていて、秘芯を弄っている指先が目に入ってきます。


欲しくてたまらなかった場所に、朝岡の太い指が届いて・・ そこを何度も出し入れされる度に、妻の口から喘ぎが洩れてきます。



「あぁっ、うんっ、んん〜 んっ! あぁ…… 」



「奥さん、そろそろ欲しくなってきたんじゃないですか? いい感じになっていますよ。」



「はぁ…っ、そんな風にされると… もう、だめぇ…… い れ て…… 」



「すぐに、そうしてあげますから・・ 済みませんが、私のものもあなたと同じようにしてくれませんか?

小野さんから、大体のことは聞いていますので、手で結構です。」



妻がブリーフを下ろしていくと、臍に届かんばかりに反り返ったペニスが現れた。

シャワーを浴びる際に、その後も何回か彼のものを目にしたことがあるが、このような時のそれを見るのは初めてです。



私は、幾分遠慮がちに見ていた所から、妻が手にしているものがよく見える所に近寄ります。



欲情を込めた幾本もの筋を浮かべ、根元から屹立している茎は、シャワーを浴びている時に目にしたものの比ではありません。



更にその時より凄くなっていて、見事に区分けされた腹筋の下に息づく肉茎は、

樫棒のように勃起していて、赤銅色の光沢を放っています。



こんな並外れた剛棒を見ていると、およそ男の自負や意地なんてものは消し飛んでしまって・・・

到底、妻の不貞を責める気にはなれません。



「さぁ、程よくなってきましたから、アレを被せてください。」



朝岡がベッド脇に目をやると、妻はティッシュケースの傍に置かれた薄ピンク色の避妊具を取り出した。



そして、妻の細い指先が、薄いゴム膜を亀頭から茎の根元まで伸ばしていきます。


でも、伸ばした薄膜が茎の中途で目いっぱいになったのがわかると、妻の顔が火照ってきて、動悸が激しくなっていくのがわかります。



そんな妻の姿を見ていると、お尻の谷間のぷっくりした切れ込みが目に入ってきて・・・ 

ほどなく、そこに男の印を受け入れてしまうことを思うと、私の胸の動悸が次第に激しくなってきます。



(欲情の滾りを込めて、赤黒く怒張した肉茎…… 正直言って、ここまで凄いとは思わなかった。 


初めから知っておれば・・・ そして、男のものを生で感じられる交わりだったら、

妻も気が遠くなるほどの悦びに浸ることができるだろうに・・・)



互いの性器を晒け出し、薄膜を付けることなしに、本能のままに結ばれる二人の姿を想像する妖しい自分がいます。






第五章 【開かれた官能の扉】

互いにそのことを確かめ合う男女の睦言、十分すぎるほどの性戯が終わって・・

今から、私が念じてやまなかった妻と朝岡との性交が始まることを想うと、胸が震えてきます。



「さぁ、いいですか 奥さん? 挿れますよ。」



やがて、朝岡が妻の両脚の間に身体を滑り込ませ、その手で妻の両脚を抱え、グイと外に大きく押し開く。



「あっ、お願い、そっと… そっとよ…… 」



そして、二人の潤んだ瞳が合わさって、濡れたところに硬く反り返った勃起の先端が近づいていく。

ぬちゃっと、濡れ綻んだ淫肉に、亀頭の先端が押し当てられた。



「あっ、あぁぁ…… 」



未知の部分をいっぱい秘めた夫以外の男による貫きを前に、もう、それだけで感じてしまったのか・・・妻の口から甘い喘ぎが洩れ出ます。


そして、チラッと私の方へ目を向けます。



でも、私の方では、この前・・・ 妻が、私に目線を送ってきてくれたものの、つかの間の一瞥であったというわだかまりが心の中にあって、

きっと、彼女が期待していたような優しい眼差しじゃなかったのだろうと思い
ます。


すぐさま、妻の顏があらぬ方に背けられました。



うっとりとして眉を細める妻の表情には、夫のものとは異なる肉茎を受け入れることに慄く表情はすでに消えています。



(いよいよ挿ってくる…… そう思うだけで、おまえの股間が濡れて、膣奥が燃え上がってくるのだろ?)



妻が、朝岡の目を見つめながら頷くのを合図に、たくましい腰がゆっくりと前へ押し出されていくと・・

傘太の肉茎が、卑猥に開いた淫唇を割って、ゆっくりと呑み込まれていきます。



「あぁぁ… はいって、くるぅ……  んんっ、きっ…つい〜……!」



妻には、ずるっ、ずるつと、“ひだ”を押し分けながら挿ってくる肉茎の感触がわかるのでしょう。

その瞬間、顔が大きく仰け反り、苦痛と悦び混じりの喘ぎが半開きの口から洩れ出ます。



そして、肉棒のおよそ半分程が埋まった頃、私の方を見て呟いたのです。



「あぁ〜ん、入った…… ごめんなさい…… 」



こんな言葉を投げかけられても・・・ 妻の心の中には、既に、私の存在はないはずなのに・・・

その言葉の意味するところがわかりません。



(きっと、男の印を身に受けて、私のものとは余りにもかけ離れた量感に驚き・・

比べていたものを思いだし、ハッと一時的に人妻であることを思い出したのかもしれない。)



でも、その後すぐに、「はあぁっ…… 」という声を洩らし始め、当面のことに没頭していきました。




そのうち、朝岡は傍で見ている私に気を遣ってくれたのでしょう。


ぴったり重なり合っていた上体を起こすと、妻の両脚をやや持ち上げ、繋がり合っているところをよく見えるようにしてくれました。



こんな姿になると、深く繋がり合った男女の性器はもちろん、淫らな濡れ音まで聞こえてきます。



大きく割り開かれた左右の太もも・・ その中心に、根元まで埋まっていく肉棒・・

充分過ぎる硬度をもった肉茎が、ゆっくりと妻を貫いていきます。



「はぅっ…… あっ、あっ…! いいっ…… あぁぁっ……!」



臀部のたくましい筋肉を象徴するかのような野太い茎が、妻の膣を限界まで押し広げ、埋め込まれていきます。

すると妻は、その甘苦しい痛みをこらえきれないように眉根を寄せ、内に籠もった熱い息を吐き出します。



私はそんな妻の姿を眺めながら、想像を超えた大きさの陰茎が、妻の下半身に埋まり、

彼女を恍惚の表情へと変えていくことに、心の底から満足していました。



小さな喘ぎを洩らしながら、男の背中を抱きしめる白い手指・・

男の貫きを受けて、小刻みに揺れるふっくらとした乳房・・・



私は、女の悦びを全身で表す妻の妖艶な姿に酔いしれていました。

まるで、朝岡でなく、私がそのことを行っているかのように・・・




しばらく私は、呆けたように二人の姿に見入っていましたが・・・

猶も二人は潤んだ眼差しを交わし合いながら、合歓の限りを尽くしています。



目を細めながら、体から湧き出るものを噛みしめているかのような妻の表情から察すると、

当初の痛みはとっくに消えて、既に十分すぎる程の性の陶酔が兆しているのがわかります。



「小野さん、奥様のこんな姿を見ていると、もう嫉妬を通り越して・・・ 堪らなくなってきたんじゃないですか?

さぁ、奥さん。 疲れたでしょうから、少し休みましょう。」



交わりを中断した朝岡が、繋がったままの姿勢で、突然 私に話しかけてきました。



「どうです、小野さん? 貴方さえよろしければ、もっと興奮するようなことをしてみませんか?」



「“興奮するようなこと”って・・?」



「貴方も流石に、男のものを手にしたことはないでしょ? 私のものに、さわってもいいですよ。」



「どうも、言っていることが、よくわからないのですが・・・」



「男性なら誰でも、愛する女性が、自分の意思で男のものを受け入れる姿を見てみたいと思うじゃないですか?


もっと私の傍へきて、私のものを貴方の手で握って・・・ それを奥様が上から受け入れる姿を、近くから眺められてはどうですか?」



「えぇっ、本当にいいのですか? そんなことしても・・・ 」



「先ほどから、あなたがじっと黙っている姿を見て、気になっていたんです。


こんな男冥利につきる機会を私にくださったあなたが辛い思いをしているのに、 私だけが愉しんでいては申し訳ないって・・・


貴方だったら構いませんよ。 奥様さえよろしければ、介添えをしてあげてはどうですか?」



このようなことを、妻のお相手から言われたことは初めてです。

多分、朝岡にしても、初めて抱いた女性にそんな過激なことを強いるのは、初めてに違いありません。



無論、私に対する彼の好意であることはわかりますし、人それぞれセックスの流儀があることもわかっていますが・・・

それに加えて、自分が交わっている女性の伴侶が傍でじっと見守っているという空気の重さに耐え切れず、

彼を大胆にさせたのかもしれません。



「どう、理香・・?  朝岡さんが、そのように言っておられるけど・・ 」



「えっ、朝岡さん、お願い! それだけは止めて・・! 」



「奥さん、いいでしょ?  私も嫌われたくはないんですが、もう、火がついているんですから・・・

どんなことでも受け入れられそうじゃないですか?」



「いやっ、そんなの、恥ずかしすぎるわ・・・ ねっ、止めて・・・!」



「おまえも、朝岡さんの好意がわからないことはないだろ? こんな場面は、前にもあったはずだ。」



「あぁ… あなた、そんな前のことまで… ひどぃ…… 」



「こんなこともありえるって・・ 最初から、心に決めていたんじゃなかったのか?」



「だけど、あなたの前でそんなことするの、 耐えられないわ…… 」



「俺がおまえを愛する代わりに、おまえが悦びを求める女になりきるっていうのが約束だろ?」



「いやっ、こんな時に、そんな話 持ち出さないで!

そんなことされて、わたしがどんな思いをするか、わからないあなたじゃないのに…… 」



「もう、誰に遠慮することもないんだ・・・ 

この前、言っていたじゃないか? 時々、そのこと思い出すって・・ 新たな一コマが増えるだろ? 」



「あぁ… もう、いいわ、好きにしてっ! あなたがそこまで言うのだったら…… 」



元より、得心した訳ではないが、二人の男性に押し切られ、やむなくそのことを受け入れさせられた妻・・・



仰向けに寝ている朝岡の傍に行って、間近で彼の印を目にすると、胸が震えるような興奮が襲ってきます。



劣情の全てを包み込んで怒張した勃起・・ その先端が、先程の性交の激しさを表すように赤黒く膨らんでいて、


その肉茎から伝わる熱い脈動と、棒のような手応え・・・

男が羨むような逸物を、我が手に握った時の興奮は忘れられません。




こんなことを私に勧めるのも、他人が羨むようなものを持っている男の自信の表れなのだろう・・・

複雑な思いもありますが、私の手は、朝岡が勧めるように彼の勃起の根元を握ります。



(ああ〜… 今 私が握っているこの勃起の根元まで、妻 自らの意思で、その秘口を沈めてしまうのか・・・

そして、こんな途方もないものが、膣奥深く抉っていったら・・?)



この上に跨って腰を振る妻を想像すると、茎を支える右手が震えてきます。



(その時、妻は、官能の虜になったように、ただひたすら快感を求めて腰を沈めていくのだろうか?

それとも、夫の前で両性の器が結ばれる生々しさに耐えられず、顏を背けてしまうのだろうか?


ともあれ、こんな野太いものを妻が咥え込む瞬間・・・

夫の手で支えられた他人の勃起の上に、腰を沈めていく時の妻の表情を見てみたい…… )



「さぁ、理香、朝岡さんというより、俺のたっての願いなんだ。 この上に、ゆっくりと腰を沈めていくんだ。」



「ああ… さっきより、また凄くなってる・・ こんなの怖いわ。」



開き直ったように、私と向き合いながら男の上に屈み込み、ゆっくりと真下に腰を下ろしていく妻・・・



これは、単なる性戯なんだと割り切ったつもりでいても、目の前に夫の顔があるのだから、どうしても不貞を意識する。

顔を背ければよさそうなものだが、これだけ夫が間近にいるとなるとそれも憚られる。


諸々の思いを振り払うように、妻は目を閉じて・・ 秘芯に宛がわれた肉棒の上にゆっくりと体重を乗せていった。



すると、長大な男根が、淫らに開いた女陰の谷間から懐深く呑み込まれていき・・・ 

徐々に腰を沈めると、根元を握っている右手の拳に、生温かいものが触れたのがわかります。



しばらく、じっと目を閉じていた妻でしたが、そのうちゆっくりと腰を上下させ始めました。



腰を下ろす度に、媚孔が怒張の洗礼を受けて私の手首に届きますが、

妻が、二人の男に同時に貫かれているような感覚に陥っているのかどうかはわかりません。



次第に、官能の炎に媚肉が溶かされていくのか、妻の喘ぎが一気に高まっていきます。



「あぁぁ…… いっ、いい─っ……」



「気持ちいいんですね。奥さん」



「は、い…… あぁ〜っ、いいです…… 」



「ご主人に見られても、もう何ともないでしょ?」



「あぁぁ…… そんなこと、言わないで…… もう、変になりそう…… 」



「見えるでしょ、奥さん? 繋がっているのが・・・」



「あぁ… もう、いや〜っ……」



「いやじゃ、ないですよ。 ほら、よく見て! 凄いのが、奥さんの中に入っていく…… 」



朝岡に言われ、妻が恐る恐るという風情で自分の股間に目を落とす。


もちろん、そんな姿を後ろから見ている私にも、傘太の肉茎が妻の膣奥深くまで“ずぶずぶ”と沈み込んでいく様子がよく見えます。



「あぁ〜っ、大きい… 大っきすぎるわ… あ、あうぅ…… でも、気持ちいぃ…… 」



私を避けるように目を合わさないでいるのは・・ 言ってしまった言葉にはもう恥ずかしさはないようですが、

流石に、私以外の男と繋がっている秘部を我が目で確かめる行為を、夫を前にして行ったことに羞恥を覚えているのでしょう。



そのうち、朝岡は、腹上で悦びに喘ぐ人妻の顔をもっと快感で歪ませたいという欲情に駆られたのでしょうか、

頭を振りながら喘ぐ妻を両腿の上に座らせ、下から激しく腰を突き入れ始めました。



傘張った肉茎が、妻の媚泥を無理矢理押し広げ、濡れた膣壁を削っていきます。



「やっ、いっ……ちゃう、 あぅ…… う、うごか、ないでえっ……!」



これまで自分で加減していた動きに嵐のような刺突が加わると、官能の波がにわかに高まって、一気に快感が押し広がっていくのでしょう。



朝岡が猶も激しく突き上げると、その刺突を避けるように腰を浮き上がらせますが、

否が応でも噴き上がってくる愉悦から逃れることができないことがわかると、

撓るように体を後ろに仰け反らせていきました。






第六章 【限りない悦び】

そのうち、朝岡は、ぐったりと後ろに倒れ込んだ妻の両脚を自分の肩に乗せると、

妻の体を∠の字のように押し曲げ、覆い被さっていきました。



私は、ごく間近で二人の交わりを見ているので・・

朝岡の肩に両脚を預け、太腿が自分の乳房に密着するほどに身体を押し曲げられた妻の淫部がよく見えます。



「きゃあぁ……! あっ、あ、深すぎ…  ああっ……す、すっごい…っ…… 」



ただでさえ大きなものが、体を屈曲することによって、一層 きつさを実感させられるのか、妻の口から悲鳴があがります。



朝岡は、淫孔から膣奥目指して、大きなストロークでゆっくりと肉茎を落としていきます。



「奥さん、すごいですね。 ほとんど入っちゃってるの、わかるでしょ?」



「あぁぁ〜っ…… も、もう無理よ… ああぁ…… 無理だわ…… 」



朝岡は、これ以上限界というところまで押し込むと、ゆっくりと動き始めました。

苦悶する妻の貌をながめて満足しているのでしょうか、抉り込むように媚肉を蹂躙していきます。



「いやぁ…… あ、あぁ…  お… おぉっきすぎる… 」



朝岡は、妻の悲鳴を無視するかのように、更にぐいぐいと肉茎を押し込んでいきます。



両脚を屈曲させられ、淫らに開いた女陰・・・ その上に覆いかぶさる男の股間・・・

硬く引き締まった睾丸に連なる勃起が、欲情を込めて女陰に突き込まれていきます。



二人の息遣いまでもが聞こえる至近距離から、愛する妻が、男が惚れ惚れするような剛茎で貫かれる様を目にする生々しさ・・・



もう、完全に、妻の不貞や自分の因業を煩う理性なんてものは麻痺してしまって、


(ああぁ…… そんなに大きいものを、すべて受け入れてしまって・・

そのうち、気が遠くなるほどの気持ちよさが押し寄せてくるはずだから、

その快感におまえが身悶えする姿を見せてくれ。)


と、願わずにはおれません。



朝岡が、肉棒を抜き差しする度に、きつく密着するかのように“ひだ”が絡んできて・・

突き込まれてずるっと引き込まれた淫肉が、抜かれる時は粘着性を持ってめくれ上がっていきます。



「あぁっ…… 気持ちいい…… はぁぁ… イッちゃいそう…… いいっ……!」



険悪とも思える眉根の“しわ”・・ 

短く切ない喘ぎとうっとりとした瞑目・・



こんな風に、ゆっくり引き抜き、間髪をいれず打ち込まれるリズムが一番感じるのでしょうか、

妻の口元が次第に半開きになってきて、熱い吐息が洩れ出てきます。



「さぁ、奥さん、随分とヨクなってきたようですから、挿っているところを、あなたの手で確かめてみませんか?」



「あぁっ…… そんなこと言われても、苦しすぎて〜…… 」



もう、妻の心の中には朝岡の申し出を拒むためらいはないのでしょう。 

「うん〜ん… どこ……?」 覚悟を決めたように、下腹部を伝ってその手を股間の下にもっていく・・



「小野さん、ついでですから、奥さんのもう片方の手を握ってあげてはどうですか?」



私は、こんな言葉を言われるまでもなく、

官能の波に身を任せ、男に言われたことを素直に行おうとする妻への愛しさがつのってきて・・ 妻の手を握り締めます。



「はあぁっ…… んくぅ〜…… おっ、おっきい〜っ…… 奥まで入ってる〜っ……!」



「そうか、 俺のものより、数倍 気持ちいいんだろ?」



「うん…… ごめんね。 すごくイイ…… ああっ…、 あなた、そんなに見ないでぇ…… 」



妻の手が、ひと際強く、私の手を握り返します。



交わりのホットスポットを、アップで目にする興奮・・・

窮屈に折り曲げられている体の狭間を通って、やっと指先を届かせた女陰に男の茎が緩やかに抜き差しされていて、

その抽送を確かめるように、妻の手が股間を這います。



(こんな窮屈な姿勢で、他の男のものを受け入れている最中に・・ 夫の手の温もりまで感じるのだから・・

魔性の感覚が作用して、妻の体は悦びの慄気まで感じているのだろう。


そのうち、この勃起の管を通って、私のものより数倍たくましい遺伝子をもった精液が、

膣奥に注ぎ込まれてしまうのだ……)



こんな生々しい光景を目にしていると流石に、男たちの欲望のおもむくまま、官能に身を任せている妻が可愛そうになってきます。



「さぁ、朝岡さんも、もうそろそろだろうから・・ お願いして、フィニッシュを迎えろよ。」



朝岡を見上げる妻の瞳がうっとりとしている。

私が手を除けると、朝岡の上体が、妻の両脚をさらに深く折り曲げるように前のめりに傾き、その律動に力がこもっていく。



「あぁぁっ…… いやあぁ……! イクっ、イクっ…… はぁぁ… イッちゃぅっ……!」



声を上げると、今まで篭っていた快感が一気に高まってくるのか、妻は今まで押さえ込んでいた分の快感を声で表す。



もう、媚肉は、あれほどに長大な男のものに馴染みきって、抜き差しされる度に愛液を溢れさせている。



このように、媚肉の中を鋭く抉るように犯され、屈辱と快感に塗れながら身悶えしている妻・・・

圧倒的な存在感を発揮する男根にくらくらしながら、身体の芯まで犯されているような気分になっているのだろう。



「ああぁ…… 朝岡さん、お願い… もう、出してぇ〜……!」



「でも、こんな窮屈な姿勢では奥さんも辛いでしょうから、もっと、楽な姿勢にしてあげますよ。」



妻の期待に反して、朝岡は許してくれなかった。

妻を解き放つと、交わりの始めのときと同じような姿勢になって、股間に勃起を突き入れていった。



今までとは違って、膣内をゆるやかに収縮させることが可能な体位になって・・

そのまま終わるはずの行為が新たに再開されると、妻は悲鳴を上げた。



「ああっ、こんな… こんなことって…… ああ…、いやぁぁ…… もういっちゃってるのにーっ……… 」



朝岡の肉棒が、妻の意識を根こそぎ持って行くような激しさで突き込まれ、妻を喜悦の淵へ引きずり込んでいきます。



(おまえの手には、先程 触れた私の手指の感触が残っているはずなのに・・)


どんなに「いけない」と思っていても、圧倒的な快感の前には、僅かばかりの背徳の意識なんて吹き飛んでしまって、

女体が求める淫欲に、完全に席巻されてしまっていることがわかります。



こんな狂おしい妻の姿を見ていると、今にも朝岡に・・・

『朝岡さん、ゴムを外してやってください。』と言いだしそうで、そんな自分を懸命に抑えます。



(あぁ…… もうすぐ妻は、朝岡の射精を深奥に浴びて、悦びに震えるんだ……)



男の責めを受け続け、絶頂に追いやられてしまったのか、妻が背筋をぐぐっと弓なりに反り返らせ、つま先を強張らせていきます。



「やっ、 ああっ…… いっ、いいっ…… あぁぁ……!」



妻がイッていることを身体で察知した朝岡は、女体の最深部にペニスを送り、更に激しく腰を前後に振っていきます。



そんな荒々しい抽送を受けると、妻の意識は喜悦の余り朦朧として、今にも消し飛んでしまいそうに見えますが、

荒々しく媚肉に打ち込まれる巨根の威力にまた覚醒させられるのでしょう。



「うんっ!、うっ、う……んっ、あうっ…、ううぅ〜ん……!」



官能を訴える声が頻繁にその口から溢れ出し、射精を促すかのように、しなやかな脚を朝岡に絡みつけていきます。



「はぁ、はぁっ、奥さん、よくここまでもちましたね。 私も、もう限界です。

今すぐ、熱いのを出しますから・・」



「あぁぁ… もう…… きて、きてぇ、 そこにいっぱい出してぇ〜……!」



妻は、射精してほしい場所を、正確に朝岡に伝えた。


今 この瞬間、妻は、例え如何なることを強いられたとしても、それに抗ったりはしないでしょう。 

心の底から男の射精を欲しているのです。



「思いっきり出しますよ、奥さん。 うう〜っ…… でっ、出る……!」



朝岡が、さらに十数回、ひと際激しく腰を突き入れると・・

その刹那、妻の裸身はぐぐっと弓なりに反り返り、喜悦の叫びが喉奥から絞り出されるように噴走った。



「ひぃっ、ああぁっ…… いっ、いくっ……  また、イッちゃうーっ……!」



茎の裏筋が特有の縮動を繰り返しているのを見ていると、男の精が膣奥まで送り込まれていくのがわかります。

根元まで埋まって。じっとその動きを止める男根…… 



(あ……ぁ、理香…… おまえはその奥に男のすべてを受け入れたのか?……)



時が止まったような沈黙の時が訪れると・・ 私の思いが、埋もれているものの先にまで飛んでいって・・

白濁の精に満たされた内奥のことまで思い描いてしまいます。



(あぁぁ…… この息詰まるような無呼吸状態で、なおも朝岡がじっと繋がったまま動かないでいるのは、

最後に残った精の一滴まで、妻の体に送り込もうとしているのか。



それとも、男だけに与えられた・・ 股間の持ち物が蕩けてしまうような媚肉の味わい・・  その極致感を堪能しているのか・・・



そして、理香・・・ おまえにしても、その熱い奔走りを身に受けて、

内奥を精液で満たされた絶妙の感覚に酔いしれているんだろ?)




そのうち、妻の体腔深く幾度も吐射を繰り返した勃起が、秘裂からずるりと抜け落ちると、

貫きの後も生々しい愉悦の痕跡が顕わになってきて・・・そこから白濁の精が零れ落ちてこないことだけが心残りです。




そのうち妻は、総身の力を使い果たしたのでしょうか、「はあぁ〜っ・・」と大きなため息を吐き、ぐったりとなっていきました。



二人は、交わりを終えた後も、固まったように愉悦の余韻に浸っています。



(なんだか訳がわからないうちに、膣奥がジワ〜ッと温かくなってきて・・・

その感覚が体中に広がっていくひと時をこの上なく幸せに思っているのだろう。)



ベッドに身を横たえ、気怠そうに退廃的な美しさを漂わせる妻・・・



あまりの心地よさに意識が霞んでしまって、限りない悦びを与えてくれた男とこのままずっとくっついていたいと思っているに違いありません。



私は、そんなうっとりとした妻の顔を見ながら、心の底から満足していました。

妻が他人の貫きを受けて官能の虜になり、そして、完膚なきまでに他人のものにされた事実を心で噛みしめながら・・・






第七章 【他人妻の憂い】

やがて、沈黙の時が過ぎ去り、めくるめく興奮が冷めてくると、それぞれが自分の立場に戻っていきます。



「奥さん、貴女の裸が今も眩しいんですが、こんなに感じてくれて・・・ 本当に、男冥利に尽きます。


それに、小野さん、こんな機会を私に与えてくださってありがとうございました。

おかげさまで、十分すぎるほど愉しませていただきました。」



「いや、お礼を言わなければならないのは、私の方です。 妻を、心から可愛がっていただいて・・・

どうです? よろしければ、このまま、一緒に泊っていかれませんか?」



「いや、いや、流石にそれはできませんよ。 ご主人が傍にいらっしゃるのですから・・・


それに、奥様もそんなことは望んでいないでしょうし、初めから決めていました。 

このまま、部屋に引き取らせていただくって・・」



「理香、朝岡さんが、そう言っておられるのだけど、せめて、朝岡さんの部屋までお送りしたら・・?」



めくるめくひと時が過ぎてしまうと、また、いつもと同じ夫と二人きりの生活が待っていることを感じるのでしょうか、

妻は、素早くショーツを身につけながら、本来の人妻に立ち戻って答えます。



「はしたない姿をお見せしてしまいました。 でも、いっぱい愛してくださって・・・ 嬉しかったです。」



「私もこの日が来るのが待ち遠しかったのですが、今日は念願が叶って最高でした。」



「わたしもあなたにお会いして、一夜を過ごさせていただきましたこと、記念にとっておきますわ。」



「奥さん、誤解しないで聞いていただきたいんですけど、今夜は素敵だったですよ。」



「うふっ、本当にもう、自分にびっくりしてしまいました。 わたし、主人の前であんなこと、できるなんて・・・ 」



「ご主人が傍にいたからこそ、そんな風になれたのかも知れませんよ。」



「本当に、二人そろってお世話になりました。」



「まぁ、朝岡さん、妻とも仲良くなれたのですし・・ これに懲りずに、今まで通り普段着のおつき合いをお願いしますよ。」




身支度を整えた朝岡を、妻が送っていきましたが、部屋に戻るまでの時間が随分と長いように思えます。



この後、妻が戻ってくると、二人っきりになって、重苦しいひと時を共有することになるのはわかりきっています。



妻が射精を浴びて、交わりが終わったその当座こそは、うっとりとした妻の表情に心の底から満足していたのですが・・

狂おしいひと時が過ぎてしまえば・・・ 私の心の中に劣情の陰りが兆してきて、

それが言いようのないわだかまりとなって心の中に沈み込むのです。



こんな風に一人になってみると、数ケ月前、妻を男が待ち受けている部屋へ貸し出した翌朝のことを思い出します。



胸が震えるような嫉妬、疑念・猜疑を押し殺しながら、戸口に現れた妻に会った時の胸苦しさ・・・




その後、二十分近く経ってから、妻が部屋に帰ってきました。

部屋の戸口で、簡単なあいさつを交わしただけなら、それだけの時がかかるはずがありません。



朝岡の部屋の中に入ったことは容易に想像がつくのですが、私の求めに応えてくれた妻に対して、それを問い詰めたりすることはできません。



妻は、ベッドの脇に腰掛けると、肩を落としたまま口を閉ざしました。 

何かを言いたいはずなのに、ぴったりした言葉が見つからないのでしょう。



重苦しい雰囲気の中で、以前の二人に戻れる糸口になりそうな言葉を探しているのでしょう。



「理香… そんなに思いつめなくていいよ。 ありがとう… 俺の身勝手な願いを受け入れてくれて……」



短すぎる言葉ですが、私への愛ゆえに他人に体を開いた妻に対する愛おしさを表すには・・

そして、妻にこのようなことを強いた私の罪を償うには・・・ そんな言葉しか思い浮かんでこなかったのです。



「随分と、疲れただろ…  今夜はこのまま、傍にいてあげるから・・」



私はそう言うと、横寝になって妻の体を抱き寄せました。



私の目に恥態を晒しながら、男が望むままに抱かれた妻がとても愛おしく思え・・・

彼女が満ち足りた時を過ごしたことが、自分の喜びのように思えたのです。



「おまえが朝岡さんを見送っていって、一人になってからずっと想っていたんだ。

また、いつか、朝岡と、今夜と同じような日を迎えるかもしれないって・・・  もちろん、おまえの気持ち次第だけど・・・」



「わたしの姿・・ どんな風にあなたの目に映ったの?」



「とても淫らで、よかったよ… 」



彼女は気恥ずかしそうに、やっと口元に小さな笑みを浮かべました。



「これからもまた… こんな夜があってもいいか? 」



「わたし達の“約束通り”ってこと…? ねえ… あの時、わたしの手を握りながら辛くなかった?…」



「もう、頭が痺れてしまって・・ あんな嬌態を見ると、嫉妬を通り越して、辛いなんて気持ちはとっくになくなっていたよ。

俺が傍に居たからなお更かもしれないけど・・ おまえも凄く感じていたんじゃない?」



「うん…感じたよ、とっても…  頭が真っ白になるほど・・」



妻は、はにかむように小さな声で呟いた。



「理香…  それで、今後のことだけど・・ これからも俺の望みを受け入れてほしいんだ。 今まで以上に、もっともっと愛するから…… 」



「うふっ、先程 聞いた言葉と同じね。」



「先ほどって、朝岡を見送っていったときか?」



「そうよ・・・ お部屋に入って、ちょっとだけ話をしたの」



「それで、朝岡は何て言ったんだ?」



「あなたのことよ。 

『いくら、ご主人が持ちかけたとしても、これからもずっとその願いを受け入れていくつもりですか』

って、訊かれたとき、辛かったわ。」



「そうか・・・」



(妙に、親切心がある奴だからな。 でも、いくら、一夜を共にしたといっても、“人妻”であることはわかっているはずなのに・・・

これからも、妻との逢瀬を望んでいるのかもしれない。)



「朝岡も、おまえとあんな風に過ごして・・ 他人の妻は“蜜の味”って言うからな。 興奮しすぎたのさ。」



「そんなことない・・ 人妻に戻ったわたしに、気がつかないような男性じゃないわ。 

ベッドでも、色々と気を遣ってくれて、優しかったし・・・」



「それで、そんなこと訊かれて、おまえは何て答えたんだ?」



「だって、わたし、“人妻”ですから・・・ 今後のことは、主人次第です、って 答えたわ。」



「わざわざ、そんなことまで言わなくてもいいのに・・・」



「だって、あんな風にストレートに尋ねられると・・・ 

その問いかけに正直に答えてあげなきゃいけないって、あの時本当にそう思ったの。」



(まぁ、仕様がないか。 妻にしたって、部屋の中でもっと話したかったこともあっただろうし、朝岡に言えないこともあったはずだ。)



「それで、これからのこと・・ 本当に“俺次第”でいいんだな。」



「だって、最初の“約束”がそうだったでしょ? でも、何となく、朝岡さんを忘れられなくなりそう・・・」



妻は、思い悩むように、顏を伏せた。




この後、私たちは、そのまま朝を迎えた。 


精力の衰えのせいもあるでしょうが、私が欲しかったのは妻との交わりではなく、

寝物語の中で、妻の心の揺れを楽しみながら、私への愛を確かめたかったのかもしれません。



しかしながら、妻の悦びを自分のものとして満足できたはずなのに、何となく・・

言いようのないわだかまりが、心の底に淀んでいることに気づく私でした。






【おわりに】

このように、妻を他の男性に抱かせて・・ 狂おしい悦びに身をよじる妻の姿を眺めながら、たまらない興奮を覚える私・・

ひょっとして、私は「セックス依存症」なのかもしれません。



ウィキペデアによると、「セックス依存症」について、次のように書かれています。


○ 性的な興奮や刺激に溺れることが習慣化し、徐々に自己コントロールを失っていく。

○ 次第に、現在のことでは飽き足らず、もっと過激なことを求めていく。



妻が私の求めに応えてくれて、満足して終われるはずなのに・・

それでいて、“わだかまり”を含んだ胸の内なんて、その説明通り、『自己コントロールを失っている』としか言いようがありません。



妻と男との交わりを生で目にする嫉妬と興奮・・ 


その裏には、計り知れないほどの妻に対する愛おしさがあるのは確かなのですが・・

同時にまた、重なり合う二人を見ると、大変な喪失感を覚えてしまうのです。



朝岡が妻の中で果てた瞬間・・・ 恍惚の悦びに喘ぐ妻の表情を見ていると、

何だか、とても大切なものを失ったような気がしました。



この喪失感は多分・・ 妻の心と体が、私以外の男と完全に一つになってしまったことを知りながら、

以前と変わらぬ愛おしさで妻を愛し続けていくことの苦しさにつながっているのでしょう。



このような喪失感や苦しさが、妻に対する“わだかまり”となって私の心に陰を落とすのです。



そして、この“わだかまり”は、妻に対する所有意識と言うか、強い執着があるからこそ湧いてくることも、自分でよくわかっているのです。



このように、妻と他人との交わりが始まる前までは焦燥に苛まれ、

いざ、そのことが始まってしまうと、妻に対する嫉妬と興奮に溺れてしまう。 


そして、そのことが終わると、“わだかまり”と“不安”を覚えながらも、また、その続きを求めてしまう私です。 





―完―